乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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仮初の婚約者生活 2

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あれから半月、剣術の稽古はさせて貰えず、代わりに毎日一日中ダンスやら礼儀作法やらの特訓だった。

生まれてこのかた、高いヒールでドレスの裾を捌くなどの芸をした事が無かった私は、それはそれは夢でうなされるほど苦痛な日々だった。

毎日ヒールの高い靴を穿かされ続け、その度に靴擦れで出来た瘡蓋が剥げてしまい痛みに耐えることの繰り返しだ。

淑女ってある意味女優さんだね。

痛みに耐えながら優雅に笑うーなんて。

私もお金貰えるなら頑張っても良いかな、あーいや、やっぱりいいや。

お腹減っているのに、お肉を小さく切ってひと口食べてお腹いっぱいですーなんてやってられるか。

運命よ、早く私を解放しておくれーとほほ。



今日も朝からマイヤー先生のご指導の下、ワルツの復習に励んでいた。

と、そこへ、もうお馴染みとなった左眼の疼きと共にジークさんがホールに入って来た。



「どうだ、多少は形になったか?」



ダンスなんて嫌いだ。

前世ではパーティーで一度だけ踊ったこともあったが、周りからは箒が床を掃いているみたいと揶揄された。

そんな箒オンナが2週やそこらで優雅に踊れる訳なかろうに。

ジークさんの頭に噛みつきたい誘惑に駆られる。

だが、マイヤー先生の視線が後ろから突き刺さり、ぐっと堪えてにっこり微笑みで返す。



「そろそろパートナーと合わせた練習を始めた方が良いと思いますわ」



マイヤー先生の言葉に、私は貼り付けた笑みのまま固まった。

それを聞いたジークさんは、嫌がらせの機会は逃さないとばかりに口角を上げて笑った。



「では、ご令嬢、一曲お相手をして頂けますか?」



腹黒美人は意地悪な笑みを浮かべながら、優雅に腰を屈め片手を差し出した。

私は振り返って、後ろで微笑むマイヤー先生に懇願の眼差しを向けてみた。



「お嬢さま、腰が引けておりますわよ。さっ、背筋を真っ直ぐになさいませ」



うへ。

もう少し上達してからとか言って欲しかったのですけど・・・涙。

了承したわけでも無いのに左手をぐいーっと引っ張られ、ジークさんにホールの真ん中まで引っ立てられた。

曲が始まると同時にジークさんにホールドされる。

私が左へ動こうとすると、私の腰に置いた手を反対に押しやりながらジークさんは片眉を上げて睨みつけてきた。



「逆だ」



うひ。

怖い怖い怖い。

ジークさんの後ろに真っ黒なオーラが見える。



「お嬢さま、もう少し楽しそうなお顔を」



引き攣った顔の私にマイヤー先生の激が飛ぶ。

だが、絶対零度の視線の中、楽しそうに出来る訳が無い。

蛇に睨まれた蛙よろしく、私は顔も身体も凍えて動けなくなってきた。

今まで何度も同じ目つきで凄まれてきたけれど、その時は舐められてたまるかと自身を鼓舞してきた。

が、これだけ密着してジークさんの体温や息遣いが嫌でも伝わる距離で、その美人顔に凄まれると色々な意味で動悸がしてくる。



「ルナ、顔を上げろ」



いや、無理ですってば。

ささやかな抵抗とばかりに、ジークさんの言葉を無視してやる。

視線をジークさんのシャツの胸ボタン一点に集中させていると、腰をぐいっと引き寄せられ背中を後ろに倒されてしまった。

うげ、腰が折れるーっ泣。

私に覆い被さるように身体を倒したジークさんは、私の目をじっと覗き込んできた。



「俺を見ろ」

「怖いからヤですっ」



反射的に答えてしまった。

曲が流れているのも構わず、そのままの姿勢でお互い固まってしまう。

うぐ。

この体勢で止まるのって、嫌がらせの何物でもないですね・・・、ぐるじいー!



「殿下も、もう少し和やかなお顔でエスコートして差し上げて下さいませ」



不憫に思ってくれたのか、マイヤー先生の気遣う声がした。

ジークさんは私の身体を引き上げて真っ直ぐ立たせると、溜息を我慢しつつ口を開いた。



「来週末、皇城で夜会がある。行きたくは無いが皇帝から直々の招待だ。お前が見たいと仰せだ」



ええーっ!!

やだやだやだーっ!



「あの、他の方と参加して、って言うのはダメですか?」

「婚約者を連れて来いとの命だ」

「ジークさんを笑い者にするという魂胆なのでは?」

「ルナが完璧に振る舞えば笑い者にはなるまい」

「いや、だからそれが無理だから他の方に・・・」



ジークさんは私の肩に乱暴に手を置くと、黄金の瞳を眇めて言った。



「ルナ、お前がやるんだ」



だから、その眼が怖いんですーっ泣。 

マイヤー先生に視線を向けて助けを求める。



「殿下、お嬢さまが怯えていらっしゃいます。婚約者さまに対しては、もう少し紳士的に接して下さいませ」



よくぞ言って下さいました、マイヤー先生。

私がうんうん頷くと、ジークさんは鼻で笑った。



「図太いくせに今更怖気付くお前でもあるまい。来週末までに仕上げておく事だ」



吐き捨てるようにそう言うと、ジークさんは不機嫌もあらわにダンスホールを後にした。

思わず涙目でマイヤー先生を見る。



「それではお嬢さま、もう少し気合を入れてお稽古を再開しましょう」



先生は淑女らしからぬ大きな溜息一つ吐いた後、不出来な私の指導を再開した。

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