乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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〜 ジーク編 4 〜

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「私が居ます!同じ運命ではないですよ!」

酒で少し上気した顔を赤らめて、娘は言った。

俺の側に置くが目的の偽装婚約。
渋々ながらも合意した娘がそう言うとは思っていなかった。
いや、期待していなかった。
期待は裏切られる事を学んでいたからだ。


だが・・・。
『選ばれし者』、その存在かも知れないと思った時、俺は期待した。
自身が救われるかも知れないと。
その者の命と引き換えに、自身が助かるかも知れないと。

その存在が女であろうと誰であろうと関係無かった。
ただ、闇魔法が使える、俺の守護者ガーディアンでありさえすれば、後は些末事だった。

一々説明する手間も無意味だと考えていた。
遡竜の儀が行えるのは年に一度、帝都の花祭りと重なる始祖竜が時闇の空間に渡った日だ。
その日に竜眼持ちヴァルテンだと確認出来なければ、次は来年まで待たねばならない。

来年、俺は正気を保っているのだろうか・・・?

これは焦りだ。
自身が思っていた以上に、俺は生に執着していたのだと思い知らされる。
運命に、竜毒に、嘲笑われている。
同じ運命を持つ者の死を目の当たりにしながらも、尚、生にしがみ付くのかと。
そんな不甲斐無い姿の自分と、ならば何故生まれて来たのかと、その意味を見出そうとする自分が、日々葛藤を繰り返している。

そんな中で、竜眼持ちヴァルテンの存在に俺は浮き足立っていた。
事を急ぐあまり、娘へ配慮しようなどと考えもしなかった。
何の説明も無くひとり立たされた娘は、酷く怯えていた。
その姿を見てさえも、湧き上がったのは同情では無く苛立ちだった。

光と風に煽られながら、必死で立ち続けたルナ。
痛みなのか、苦しみなのか、顔を歪めながらも紅の瞳を見開き、光の渦に両手を伸ばすその姿に俺は魅入っていた。
光が収束した後、床に倒れた彼女は蒼白で全く動かなかった。
抱き上げた身体は、あまりにも細く小さかった。
怒ったり、笑ったり、表情豊かな瞳は血の気の引いた瞼で閉じられ見ることが出来ない。
その瞳が、もう二度と俺に向けられることが無くなる・・・。

身体の奥から寒気と吐き気がした。
・・これは不快感では無い。
そう、これは恐怖だ。


ベッドでぐったりするルナを、どうすることも出来ずに見ていた。
触れれば額は熱く、呼吸も浅かった。
こんな時、何をすれば良いのかさえも知らない。
これほど自身が無力だと思わなかった。
一度意識が戻った彼女は、俺の顔を見ようとはしなかった。
口から零れた謝罪は虚しく聞こえた。
思い通りに動けないにも関わらず、全身で彼女は俺を拒絶していた。
それが、思いのほか俺の胸を抉った。



時間とともに少しづつ起き上がることが出来るようになったルナ。
使用人から毎日の状態を聞いてはいたが、会いに行くことは出来なかった。
会えば拒絶される、その事実に足が遠のいた。

俺はこんなにも憶病だったのか?

テラスで倒れたと聞き急いで駆けつけると、ベッドの上のルナは左眼を金色に光らせて俺を挑むように睨んでいた。
濃い黄金の瞳を怒りで滾らせる彼女に、それ以上足を踏み出せなかった。

俺と同じ深い金の色。

それが、こんなにも惹きつけられるものだったとは。

子供のように華奢な外見に反して冷静な視線の彼女は、凛としていて年齢よりも歳上に見えた。
話をするうちに、ルナは俺を挑発してきた。
男の俺に力比べを挑んでくる、その無鉄砲ぶりが正にこの娘だと愉快に思う。
驚いた事に、闇魔法だけでなく光魔法まで操る姿に、何故か俺は誇らしくなった。

大人びた視線を向ける一方で、怒って駄々を捏ねる子供のような顔を見せる。
光のように眩く変わる姿に目が離せない。
ルナの中の生命力が溢れているようだ。
その煌めきに手を伸ばす。
側にあって欲しいと願う、渇望に似た思い。

『私のお陰で、ジークさんの人生が面白くなってきたでしょう?』

ああ、その通りだと思う。

互いに軽口をたたく、それすらも楽しい。
ただ竜毒に、運命に抗う日々。
そんな味気ない俺の人生が、今、色づき始めた。
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