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不思議黒豹だったクロちゃん
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月も高く昇った深夜、黒豹と化したクロと共に私は魔族討伐の地ガレオンに向かっていた。
助けが必要なら使えとジークさんが貸してくれた指輪は、クロが指輪の精よろしく出てくる魔道具だった。
しかも、黒豹姿で。
そう言えば、この指輪をしてからクロの声を聞くことが出来るようになったっけ。
クロのおかげで刺客の妖術師を退けたのがお昼過ぎ。
クロと一緒に空間転移する前に、どうやら妖術師に割って入られたようで、ジークさんが向かったガレオンとは真反対の辺境地コルドの森に引っ張られてしまった。
帝国の北に位置するガレオンは8割が岩山で占められ、帝国が誇る魔鉱石算出量屈指の都市だ。
帝都から馬で2日もあれば到着するが、妖術師と一悶着あったコルドからの移動となると一週間はかかる。
クロの空間転移ならばジークさんの元へひとっ飛びの筈なのだが、コルドからガレオンまでの間に空間転移の障壁となる建物が存在するらしくそこを通り過ぎないことには徒歩で行くしかないのだそう。
しかし、足も短く体力の無い私では、ひと月かかってもジークさんに会えないだろう。
なので、ここは黒豹クロちゃんの出番です。
どうやって移動しているのかと言うと、ズバリ、巨大なクロの背中に乗せて貰っているのだ。
豹は毛足が短いのでモッフモフーという訳では無いが、なかなかに座り心地は良い・・・但し、走らなければだが。
現在、物凄い勢いでクロはかっ飛ばしてくれているので、私は風の抵抗を抑える為に身体を前傾にして、更に振り落とされないように短い毛にしがみついている。
先程の戦いの後で心身共にヘトヘトだが、何時までもこんな森の奥で死亡フラグを振っている訳にはいかない。
第二、第三の妖術師を送り込まれたら、それこそ堪ったものでは無い。
「クロは魔獣なの?」
『そうだよ』
「いつからジークさんの元に居るの?」
『ご主人さまが生まれた時からだよ』
「え?そんな時からジークさんを知っているんだ」
ジークさんの赤ん坊の頃ってどんなだったのかな?
「ジークさんは小さい時、どんな子だったの?」
『ご主人さまに聞くと良いよ』
むっ。
いくつまでオネショしていたとか、ジークさんの恥ずかしい黒歴史をこっそり教えて貰おうと思ったのに残念だ。
クロは忠誠心の熱い子なのね。
「クロはジークさんが好きなのね」
私の言葉に嬉しそうなクロは、更に跳ねるように加速した。
『うん、ご主人さまが大好きだよ。だからルナにも好きになって欲しいな』
うーん、ちっとも笑わないし嫌味しか言わないし優しくないしワンマンだし人の言うことに耳を貸さないし色々大事なことは教えてくれないしー。
『ルナ?何の呪文を唱えてるの?』
「ジークさんの良いところを挙げることが難しいという呪文」
『ルナも長く一緒に居れば分かるよ』
「いや、長く一緒に居たくないのだけど?」
そんな会話も楽しいのか、クロの跳躍は軽快だ。
「クロは妖術師が好物なの?」
ジークさんについての話題は一旦保留だ。
クロの生態について聞いておこう。
『うん!アイツらの頭は美味しいんだよ』
「え?味とかするの?」
『絶妙な塩加減と独特な風味があるんだよ』
「ははは・・・、他にクロは何を食べるのかなー?」
私は引き攣りながら質問を続けた。
『人族の頭は美味しくないから、お腹が空いてどうしようも無い時以外は食べないよ』
「?妖術師は人族じゃないの?」
『アイツらは闇の吹き溜まりみたいなものから生まれた土人形だよ』
そっかー。
クロの好物がニンゲンでなくて良かったー。
でも、お腹が空いているクロには近付かないほうが懸命だ。
それこそ非常食になってしまう、汗。
「そう言えば顔を見たこと無いのだけれど、妖術師って顔はあるの?」
『黒い目玉が二つくっついた土だったとしか覚えてないなー。皆んな食べちゃうから』
「でも意思はあるよね?話しかけて来たし」
『誰かのお使いだよ』
「ふーん?私を抹殺するのに全てを賭けるあの方って人かな?」
私とジークさんを消したい人って、あの馬鹿皇子か?
『妖術師を作り出せるのはルシュカン皇族くらいだよ』
「じゃあ、やっぱりあの馬鹿皇子?」
『馬鹿皇子?』
「第一皇子じゃないの?」
『アイツにそんな力は無いよ』
「え?なら他に誰がいるの?まさか皇帝?」
『どうかなー。まあ、皇族は全員ご主人さまの敵だと考えていた方が良いと思うよ』
血の繋がった家族も、誰も彼も、ジークさんの敵なのか。
生まれてこれまで、ずっと生死の狭間で生きて来たのかな。
あんな風に誰も信じていない、全身刃物みたいにならなければ生きられなかったのか。
私なんかに同情されたところで、きっとジークさんは詰まらなそうな顔をするんだろうけど。
一緒に居られる時間は、きっと長く無い。
その短い時間、ちょっとでも楽しいと感じて貰えたら良いなあと思う。
『もう直ぐターバルナ領に入るよ。ここの神殿を過ぎたらご主人さまの元へひとっ飛び出来るよ』
ジークさんが育ったというターバルナ大神殿。
帝都より南にあるこの神殿は大きな魔力が磁場のように渦巻いているらしく、時空移動の障壁となっているのだとか。
「何処か宿で休もうか?」
コルドからここまで、夜通し走ってくれているクロも疲れているだろう。
『僕は大丈夫だよ。怪我もしているし、ルナは少し休む?』
うーん、眠ってしまったら丸一日起きない自信がある。
だが一方で、心身共に疲れている今、竜毒さんにせがまれても生命力のお裾分けは難しい。
「私が休んでいる間にジークさんに何かあっても困るしなー」
『僕が見張っているよ』
こんなに離れているのに、クロはジークさんの異変が分かるのかな?
「クロも竜眼持ちなの?」
『違うよ。僕はご主人さまから生まれた従魔だから、ご主人さまと繋がる事が出来るんだよ』
え?!
それならもう、私が妖術師と戦った事とかここに来ている事とか、ジークさんは分かっちゃってるの?
「・・・もしかして、ジークさん、もう・・・?」
『うん!もう知ってるよ。カンカンに怒ってるよ』
ひーっ!!
怒鳴られる以外にもぶっ飛ばされる覚悟があった筈なのに、気付いたらその覚悟も何処かに置いて来てしまったようだ。
もしや、これも死亡フラグなのか?
ヒーローに消されるヒロインも、きっとバッドエンドならあり得るだろう。
このまま寝落ちしたフリしてやり過ごせないものか。
しかし、ここで一日休んでは、ジークさんの怒りを益々増幅させそうだ。
疲れ切った見窄らしいヒロインを演じてみよう。
少しは不憫に思ってくれるかも知れない。
そんな僅かな望みも打ち砕かれるであろう事は分かっちゃいるが、私は逃避せずにいられなかった。
助けが必要なら使えとジークさんが貸してくれた指輪は、クロが指輪の精よろしく出てくる魔道具だった。
しかも、黒豹姿で。
そう言えば、この指輪をしてからクロの声を聞くことが出来るようになったっけ。
クロのおかげで刺客の妖術師を退けたのがお昼過ぎ。
クロと一緒に空間転移する前に、どうやら妖術師に割って入られたようで、ジークさんが向かったガレオンとは真反対の辺境地コルドの森に引っ張られてしまった。
帝国の北に位置するガレオンは8割が岩山で占められ、帝国が誇る魔鉱石算出量屈指の都市だ。
帝都から馬で2日もあれば到着するが、妖術師と一悶着あったコルドからの移動となると一週間はかかる。
クロの空間転移ならばジークさんの元へひとっ飛びの筈なのだが、コルドからガレオンまでの間に空間転移の障壁となる建物が存在するらしくそこを通り過ぎないことには徒歩で行くしかないのだそう。
しかし、足も短く体力の無い私では、ひと月かかってもジークさんに会えないだろう。
なので、ここは黒豹クロちゃんの出番です。
どうやって移動しているのかと言うと、ズバリ、巨大なクロの背中に乗せて貰っているのだ。
豹は毛足が短いのでモッフモフーという訳では無いが、なかなかに座り心地は良い・・・但し、走らなければだが。
現在、物凄い勢いでクロはかっ飛ばしてくれているので、私は風の抵抗を抑える為に身体を前傾にして、更に振り落とされないように短い毛にしがみついている。
先程の戦いの後で心身共にヘトヘトだが、何時までもこんな森の奥で死亡フラグを振っている訳にはいかない。
第二、第三の妖術師を送り込まれたら、それこそ堪ったものでは無い。
「クロは魔獣なの?」
『そうだよ』
「いつからジークさんの元に居るの?」
『ご主人さまが生まれた時からだよ』
「え?そんな時からジークさんを知っているんだ」
ジークさんの赤ん坊の頃ってどんなだったのかな?
「ジークさんは小さい時、どんな子だったの?」
『ご主人さまに聞くと良いよ』
むっ。
いくつまでオネショしていたとか、ジークさんの恥ずかしい黒歴史をこっそり教えて貰おうと思ったのに残念だ。
クロは忠誠心の熱い子なのね。
「クロはジークさんが好きなのね」
私の言葉に嬉しそうなクロは、更に跳ねるように加速した。
『うん、ご主人さまが大好きだよ。だからルナにも好きになって欲しいな』
うーん、ちっとも笑わないし嫌味しか言わないし優しくないしワンマンだし人の言うことに耳を貸さないし色々大事なことは教えてくれないしー。
『ルナ?何の呪文を唱えてるの?』
「ジークさんの良いところを挙げることが難しいという呪文」
『ルナも長く一緒に居れば分かるよ』
「いや、長く一緒に居たくないのだけど?」
そんな会話も楽しいのか、クロの跳躍は軽快だ。
「クロは妖術師が好物なの?」
ジークさんについての話題は一旦保留だ。
クロの生態について聞いておこう。
『うん!アイツらの頭は美味しいんだよ』
「え?味とかするの?」
『絶妙な塩加減と独特な風味があるんだよ』
「ははは・・・、他にクロは何を食べるのかなー?」
私は引き攣りながら質問を続けた。
『人族の頭は美味しくないから、お腹が空いてどうしようも無い時以外は食べないよ』
「?妖術師は人族じゃないの?」
『アイツらは闇の吹き溜まりみたいなものから生まれた土人形だよ』
そっかー。
クロの好物がニンゲンでなくて良かったー。
でも、お腹が空いているクロには近付かないほうが懸命だ。
それこそ非常食になってしまう、汗。
「そう言えば顔を見たこと無いのだけれど、妖術師って顔はあるの?」
『黒い目玉が二つくっついた土だったとしか覚えてないなー。皆んな食べちゃうから』
「でも意思はあるよね?話しかけて来たし」
『誰かのお使いだよ』
「ふーん?私を抹殺するのに全てを賭けるあの方って人かな?」
私とジークさんを消したい人って、あの馬鹿皇子か?
『妖術師を作り出せるのはルシュカン皇族くらいだよ』
「じゃあ、やっぱりあの馬鹿皇子?」
『馬鹿皇子?』
「第一皇子じゃないの?」
『アイツにそんな力は無いよ』
「え?なら他に誰がいるの?まさか皇帝?」
『どうかなー。まあ、皇族は全員ご主人さまの敵だと考えていた方が良いと思うよ』
血の繋がった家族も、誰も彼も、ジークさんの敵なのか。
生まれてこれまで、ずっと生死の狭間で生きて来たのかな。
あんな風に誰も信じていない、全身刃物みたいにならなければ生きられなかったのか。
私なんかに同情されたところで、きっとジークさんは詰まらなそうな顔をするんだろうけど。
一緒に居られる時間は、きっと長く無い。
その短い時間、ちょっとでも楽しいと感じて貰えたら良いなあと思う。
『もう直ぐターバルナ領に入るよ。ここの神殿を過ぎたらご主人さまの元へひとっ飛び出来るよ』
ジークさんが育ったというターバルナ大神殿。
帝都より南にあるこの神殿は大きな魔力が磁場のように渦巻いているらしく、時空移動の障壁となっているのだとか。
「何処か宿で休もうか?」
コルドからここまで、夜通し走ってくれているクロも疲れているだろう。
『僕は大丈夫だよ。怪我もしているし、ルナは少し休む?』
うーん、眠ってしまったら丸一日起きない自信がある。
だが一方で、心身共に疲れている今、竜毒さんにせがまれても生命力のお裾分けは難しい。
「私が休んでいる間にジークさんに何かあっても困るしなー」
『僕が見張っているよ』
こんなに離れているのに、クロはジークさんの異変が分かるのかな?
「クロも竜眼持ちなの?」
『違うよ。僕はご主人さまから生まれた従魔だから、ご主人さまと繋がる事が出来るんだよ』
え?!
それならもう、私が妖術師と戦った事とかここに来ている事とか、ジークさんは分かっちゃってるの?
「・・・もしかして、ジークさん、もう・・・?」
『うん!もう知ってるよ。カンカンに怒ってるよ』
ひーっ!!
怒鳴られる以外にもぶっ飛ばされる覚悟があった筈なのに、気付いたらその覚悟も何処かに置いて来てしまったようだ。
もしや、これも死亡フラグなのか?
ヒーローに消されるヒロインも、きっとバッドエンドならあり得るだろう。
このまま寝落ちしたフリしてやり過ごせないものか。
しかし、ここで一日休んでは、ジークさんの怒りを益々増幅させそうだ。
疲れ切った見窄らしいヒロインを演じてみよう。
少しは不憫に思ってくれるかも知れない。
そんな僅かな望みも打ち砕かれるであろう事は分かっちゃいるが、私は逃避せずにいられなかった。
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