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竜牙剣 1
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ルナと屋敷に戻って4日、また直ぐ神殿に来る事になろうとは。
ーー竜牙剣。
竜族の子孫を守るために、始祖竜が遺した牙と伝えられている。
だが、知っている事と言えばそれだけだ。
見た事もなければ、それが本当に存在する物なのかも知らない。
ただの伝承に過ぎない、そう思っていた。
だが、ルナは竜眼で竜牙剣らしき物を先読みした。
ドラゴンの俺にとって脅威となる出来事なのか?
どうやってライマーはその存在を知った?
関わっていたとされる奴に尋問すべく牢に出向くと、奴は既に脱獄していた。
厳しい警備網を掻い潜っての脱獄に違和感を覚える。
手引きした者がいるのだろうが、時期といいタイミングが良すぎる。
まるで、こちらの動向を読んでいるかのようだ。
内通者がいるのか?
訪問許可を受けバラ―を待つ間、大神殿の応接室で側近3名に囲まれながら思案する。
「殿下、ゼインからの伝煌鳥です」
治安部隊副官の一人ゼインを帝都に残し、事の詳細を調べさせている。
もう一人の副官であるラドニアンが、伝煌鳥を手に応接室に入って来た。
宛先となる人物に触れなければ伝煌鳥は開かない。
ラドから伝煌鳥を受け取り頭を指で撫でると、伝煌鳥はゆっくり翼を広げ火の鳥の如く煌めき出した。
火の揺らぎの中にゼインが現れる。
「殿下にご報告申し上げます。ライマーは過去に何度か第一皇子宮に足を運んでいます。特に、ここ半年はかなりの蜜月の様子で、その証拠に奴の懐事情も豊かになっているようです」
第一皇子は金を餌にライマーを使って策を弄している訳か。
「一つ気になるのが、奴が今回の討伐隊に参加する前に、半年だけですが皇室親衛隊に所属していた点です。ご存知のように、親衛隊は皇帝陛下直属の花形部隊。下積みを経て入隊までに最低でも3年はかかる筈が、言ってしまえばあの程度の凡庸な輩が半年だけでも所属していたとは、背後に何かあるとしか思えません。引き続き調査しご報告いたします」
ゼインが頭を下げると伝煌鳥は羽根を震わせ、その名の通り光の残滓を煌めかせながら消えていった。
他の部隊では無く、わざわざ皇室親衛隊に籍を置いたその意図は何か?
皇帝の動向に併せ護衛の任に当たる親衛隊。
奴が所属していたとされるこの半年間、皇帝の動きはどうだったか?
年に一度のターバルナ大神殿への参拝だけだ。
何かを見落としているような・・・?
その時、バラーの入室が告げられ扉が開いた。
「急な要件とはどうしたのだ?」
ソファーに座るなり険しい顔でバラ―が聞いて来た。
人払いをし、室内はバラーとふたりだけになった。
「竜牙剣について聞きたい。神殿に存在するのか?」
単刀直入に問う。
すると、バラ―の顔つきは益々厳めしいものに変わっていった。
バラ―は一旦ソファーに深く座り直すと、逆に俺に質問をしてきた。
「どこまで知っておる?」
「何も」
俺は一度目を伏せて、もう一度バラ―に視線を合わせた。
「だが、ルナの竜眼が、竜牙剣が神殿から持ち去られたのを見たのだ」
バラ―は無表情だ。
彼の言葉を待っていると、バラ―は声を落として口を開いた。
「既に持ち去られてしまった。行方は知れていない」
俺は肩眉を上げて無言で説明を要求した。
「あれの存在を知る者は、この世に儂と皇帝しかおらん。それまでは東の小神殿ウォドラに安置しておった。宝物箱に封印を施し、鍵は2つ、儂と皇帝のみが持つ。神殿の者も、誰一人として中身を見ることも知ることも叶わなかった。だが、半年前に賊が押し入り、神官を殺して剣を奪った」
封印に鍵。
然も、鍵はバラ―と皇帝だけが持っている。
ならば、どちらかが漏洩したという事では無いのか?
「儂のもつ鍵はこれだ」
バラ―は首に掛かる銀色の首飾りを懐から引っ張り出した。
ヘッドの部分が楕円の形をしており、幾何学模様が彫り込まれた一見すると装飾品のようで鍵には見えない。
「鍵は持ち主である儂か皇帝でなければ作動しない」
「貴方でなければ、皇帝が関与していると言うのか?」
「分からぬ。だが、事の次第を皇帝に報告すると、この件に関しては皇室側で捜査すると告げられた。神殿側にも咎めは無かった。表立ってあれが件の剣とは明らかに出来ぬ為の処置かも知れぬが、・・・腑に落ちん」
おかしい。
治安部を統括する俺に、一切の情報が無い。
竜牙剣とは分からずとも、神殿での殺人・盗難の案件が俺に報告が無いことはまず有り得ない。
つまりは、意図的に情報を制限しているという事だ。
一体、何者が?
「皇帝は鍵について何も言っていないのか?」
「儂の前で自らの鍵を翳して見せた」
「偽物の可能性は?」
「分からぬ。・・・其方、疑っているのか?」
誰を?という言葉は聞かずとも分かる。
「そもそも、どれ程の物なのか、全く分からない。あれが何なのか、貴方は知っているのか?」
それ程、秘匿せねばならないものなのか?
バラ―は射貫くような視線で俺を見据えた。
「竜の牙は竜族を守るために遺された始祖竜の牙とされている・・・この意味が分かるか?」
「・・・怨嗟竜を葬ることが出来るということか?」
「そうだ。竜毒で冒された人族が怨嗟竜となり果てれば、被害は竜族にも及ぶ。それを案じて創られた、謂わば怨嗟竜殺しの刃だ」
敵は、怨嗟竜となった俺を葬る目的で剣を盗んだという事か。
「聖剣と違い、何故ここまで秘匿する必要があった?」
「怨嗟竜となれど、本来はルシュカン族であり身内だ。其方も習ったであろう?850年以上もの昔に、皇帝グラークが唯一竜化することが叶ったルシュカン族であった事を」
皇帝グラークはドラゴンの姿で隣国に圧力をかけ、治世を平定していたとされる。
「史実では賢帝とされている彼こそが、怨嗟竜となった皇帝だった」
バケモノを戴く国とする訳にいかず、事実を曲げて歴史を造くる・・・この国お決まりのやり方だ。
「怨嗟竜となった彼を戻すことが出来たのが竜牙剣だ。稀なことに、彼の最年少の弟が闇魔法使いだった。牙の剣を振るったのは彼の末弟皇子だったという」
「・・・皇帝は戻ったと?」
「人族の心が戻ったが、その姿は消滅したと伝えられている」
「剣を振るった皇子はどうなった?」
「その場で自害したと言う。・・・恐らく、尊敬する兄を自らが葬った罪と、それまで迫害し殺害してきた闇魔法使いが自分自身でもあったという事実に耐えられなかったのだろう」
どこまでも利己的な連中だ。
自身の手で葬ってきた、何の咎も無い闇魔法使いたちに対する哀悼の念は無いのか?
希少な闇魔法使いを今でこそ本来の意味で保護しているが、世が世なら、ルナにも触手が伸びていたかも知れない。
考えただけで怒りが滾ってくる。
「闇魔法使いを邪悪な竜族の手先と虐げてきたルシュカン族は、彼ら闇の力に救われた。その事実を明らかにする事で起こる反発を恐れ、皇室は竜牙剣と共に真実を隠蔽してきた」
同じ闇魔法使いの末路を知れば、ルナは何と言うだろうか?
悲しむだろうが、それでも皇帝や大神官相手に怒鳴り散らすに違いない。
元気の良いルナの姿を思い浮かべると、先程感じた怒りの波も穏やかなものに変わっていく。
「貴方以外に、この話を知る者は?」
「皇帝だけだ」
「第一皇子が知っている可能性は?」
「無くはなかろう。だがどうやって?」
「・・・分からない。ただ、内通者がいる可能性はある。皇帝の側近であれば情報を得る事も出来るだろう。あとは、皇帝と第一皇子が共闘している可能性か?」
「二人して其方を陥れようと言うのか?難儀なことだな」
「怨嗟竜となれば国も亡びる。国を思えば親子で結託することもあり得るかもな」
嫌な予感がする。
何かを見落としているような・・・。
「いずれにせよ、皇帝にも話を聞く必要がある」
同じ竜の血を引く男。
強い魔力は感じられないが、存在が底知れぬ深い何かを秘めている。
「皇帝には気を付けるのだ。元は時の皇太子の弟であったが、兄を失い自身が皇太子となって彼は変わった」
バラーも皇帝の深淵さに気付いているのか?
「兄の皇太子は竜の魔力が強まり、長じてから神殿に送られた。その地位も剥奪されてな」
聞いた事はある。
皇帝アルスランドは竜の魔力が弱かった為、皇帝の座につく事が出来たのだと。
「幼い頃のアルスランドはよくこの神殿に来ておった。兄とその婚約者であった娘と3人、仲睦まじく過ごしておった」
慕っていた兄を失ったが故に、深い闇を纏う事があるのだろうか?
「愛する者を失えば人は変わる」
バラーの眼は力強く向けられているが、その瞳には大きな悲しみが湛えられている事を知っている。
自身の息子をその手で葬った、その悲しみが。
「其方はあの剣を手に入れるつもりか?」
「怨嗟竜を葬る力があるのならば、少なくとも奴らに渡すのは得策ではない」
「放っておけ。あの剣には、最早その様な力など無い」
どういう意味だ?
「力があろうが無かろうが、闇魔法使いに危害を企てる輩の口実になる物であれば放っておくわけにはいかない」
「ジーク」
席を立とうとした俺の名を、久しぶりにバラ―が呼んだ。
何か言いにくいことを伝えたい時、彼は俺の名を呼んで覚悟とやらをいつも聞いてくる。
「あの娘を失っても、生きていく覚悟があるのか?」
俺はバラ―に向けた瞳を見開いて固まった。
「守護者であるルナは、其方を生かす為、簡単に命を差し出すだろう。それが竜眼持ちに刻まれた運命だからだ」
ああ、本能で理解する。
ーー選ばれし者。
ルナが俺の為に自身の命すら投げ出すであろう事を。
だが、ルナはその運命にも抗おうとするだろう。
私は簡単じゃない・・・如何にもルナが叫びそうな言葉だ。
ルナの不満そうな顔を想像して笑みが零れる。
「そんな覚悟など持ち合わせてはいない」
竜族と人族、両の血を引いて俺は生きていく。
そして、
「俺はルナと生きると決めた。幸い、俺の求める女はドラゴン好きだ。ジークの俺よりドラゴンが好きなルナと共に、この血を受け継いでいく」
俺の言葉を受けて、今度はバラーが目を見開いて固まった。
次の瞬間、部屋中にバラーの笑い声が響き渡った。
「初めて見る顔だ。今の其方は生きる事を、殊の外、楽しんでいるのだな」
バラーの声色は、幼い子供に聞かせるような穏やかなものだった。
「真っ直ぐで潔ぎ良い娘だ。其方の全てを持って慈しんでやるが良い」
「ああ、心得た」
バラーの気遣いが少し面映い。
この腕に抱きしめた柔らかなルナの感触を思い出す。
また狼狽て逃げ出そうとするだろうか?
次はどうやって捕まえておこう?
そんな浮かれた俺の頭に、ギルアドの悲痛な叫び声が響いた。
『ご主人さま!ルナが連れ去られちゃったよ!!』
全身の血の気が引いていく。
・・・俺は何処までも馬鹿だ。
何故気付かなかった?
始祖竜が竜族の為に残した牙、
怨嗟竜となったルシュカン族の脅威から竜族を守るための牙、
闇魔法使いでしか操ることが出来ない・・・。
その剣を手に入れた敵が、次にとる行動など決まっているではないか。
竜牙剣を使うことの出来る者、ルナを手に入れることだ!
ーー竜牙剣。
竜族の子孫を守るために、始祖竜が遺した牙と伝えられている。
だが、知っている事と言えばそれだけだ。
見た事もなければ、それが本当に存在する物なのかも知らない。
ただの伝承に過ぎない、そう思っていた。
だが、ルナは竜眼で竜牙剣らしき物を先読みした。
ドラゴンの俺にとって脅威となる出来事なのか?
どうやってライマーはその存在を知った?
関わっていたとされる奴に尋問すべく牢に出向くと、奴は既に脱獄していた。
厳しい警備網を掻い潜っての脱獄に違和感を覚える。
手引きした者がいるのだろうが、時期といいタイミングが良すぎる。
まるで、こちらの動向を読んでいるかのようだ。
内通者がいるのか?
訪問許可を受けバラ―を待つ間、大神殿の応接室で側近3名に囲まれながら思案する。
「殿下、ゼインからの伝煌鳥です」
治安部隊副官の一人ゼインを帝都に残し、事の詳細を調べさせている。
もう一人の副官であるラドニアンが、伝煌鳥を手に応接室に入って来た。
宛先となる人物に触れなければ伝煌鳥は開かない。
ラドから伝煌鳥を受け取り頭を指で撫でると、伝煌鳥はゆっくり翼を広げ火の鳥の如く煌めき出した。
火の揺らぎの中にゼインが現れる。
「殿下にご報告申し上げます。ライマーは過去に何度か第一皇子宮に足を運んでいます。特に、ここ半年はかなりの蜜月の様子で、その証拠に奴の懐事情も豊かになっているようです」
第一皇子は金を餌にライマーを使って策を弄している訳か。
「一つ気になるのが、奴が今回の討伐隊に参加する前に、半年だけですが皇室親衛隊に所属していた点です。ご存知のように、親衛隊は皇帝陛下直属の花形部隊。下積みを経て入隊までに最低でも3年はかかる筈が、言ってしまえばあの程度の凡庸な輩が半年だけでも所属していたとは、背後に何かあるとしか思えません。引き続き調査しご報告いたします」
ゼインが頭を下げると伝煌鳥は羽根を震わせ、その名の通り光の残滓を煌めかせながら消えていった。
他の部隊では無く、わざわざ皇室親衛隊に籍を置いたその意図は何か?
皇帝の動向に併せ護衛の任に当たる親衛隊。
奴が所属していたとされるこの半年間、皇帝の動きはどうだったか?
年に一度のターバルナ大神殿への参拝だけだ。
何かを見落としているような・・・?
その時、バラーの入室が告げられ扉が開いた。
「急な要件とはどうしたのだ?」
ソファーに座るなり険しい顔でバラ―が聞いて来た。
人払いをし、室内はバラーとふたりだけになった。
「竜牙剣について聞きたい。神殿に存在するのか?」
単刀直入に問う。
すると、バラ―の顔つきは益々厳めしいものに変わっていった。
バラ―は一旦ソファーに深く座り直すと、逆に俺に質問をしてきた。
「どこまで知っておる?」
「何も」
俺は一度目を伏せて、もう一度バラ―に視線を合わせた。
「だが、ルナの竜眼が、竜牙剣が神殿から持ち去られたのを見たのだ」
バラ―は無表情だ。
彼の言葉を待っていると、バラ―は声を落として口を開いた。
「既に持ち去られてしまった。行方は知れていない」
俺は肩眉を上げて無言で説明を要求した。
「あれの存在を知る者は、この世に儂と皇帝しかおらん。それまでは東の小神殿ウォドラに安置しておった。宝物箱に封印を施し、鍵は2つ、儂と皇帝のみが持つ。神殿の者も、誰一人として中身を見ることも知ることも叶わなかった。だが、半年前に賊が押し入り、神官を殺して剣を奪った」
封印に鍵。
然も、鍵はバラ―と皇帝だけが持っている。
ならば、どちらかが漏洩したという事では無いのか?
「儂のもつ鍵はこれだ」
バラ―は首に掛かる銀色の首飾りを懐から引っ張り出した。
ヘッドの部分が楕円の形をしており、幾何学模様が彫り込まれた一見すると装飾品のようで鍵には見えない。
「鍵は持ち主である儂か皇帝でなければ作動しない」
「貴方でなければ、皇帝が関与していると言うのか?」
「分からぬ。だが、事の次第を皇帝に報告すると、この件に関しては皇室側で捜査すると告げられた。神殿側にも咎めは無かった。表立ってあれが件の剣とは明らかに出来ぬ為の処置かも知れぬが、・・・腑に落ちん」
おかしい。
治安部を統括する俺に、一切の情報が無い。
竜牙剣とは分からずとも、神殿での殺人・盗難の案件が俺に報告が無いことはまず有り得ない。
つまりは、意図的に情報を制限しているという事だ。
一体、何者が?
「皇帝は鍵について何も言っていないのか?」
「儂の前で自らの鍵を翳して見せた」
「偽物の可能性は?」
「分からぬ。・・・其方、疑っているのか?」
誰を?という言葉は聞かずとも分かる。
「そもそも、どれ程の物なのか、全く分からない。あれが何なのか、貴方は知っているのか?」
それ程、秘匿せねばならないものなのか?
バラ―は射貫くような視線で俺を見据えた。
「竜の牙は竜族を守るために遺された始祖竜の牙とされている・・・この意味が分かるか?」
「・・・怨嗟竜を葬ることが出来るということか?」
「そうだ。竜毒で冒された人族が怨嗟竜となり果てれば、被害は竜族にも及ぶ。それを案じて創られた、謂わば怨嗟竜殺しの刃だ」
敵は、怨嗟竜となった俺を葬る目的で剣を盗んだという事か。
「聖剣と違い、何故ここまで秘匿する必要があった?」
「怨嗟竜となれど、本来はルシュカン族であり身内だ。其方も習ったであろう?850年以上もの昔に、皇帝グラークが唯一竜化することが叶ったルシュカン族であった事を」
皇帝グラークはドラゴンの姿で隣国に圧力をかけ、治世を平定していたとされる。
「史実では賢帝とされている彼こそが、怨嗟竜となった皇帝だった」
バケモノを戴く国とする訳にいかず、事実を曲げて歴史を造くる・・・この国お決まりのやり方だ。
「怨嗟竜となった彼を戻すことが出来たのが竜牙剣だ。稀なことに、彼の最年少の弟が闇魔法使いだった。牙の剣を振るったのは彼の末弟皇子だったという」
「・・・皇帝は戻ったと?」
「人族の心が戻ったが、その姿は消滅したと伝えられている」
「剣を振るった皇子はどうなった?」
「その場で自害したと言う。・・・恐らく、尊敬する兄を自らが葬った罪と、それまで迫害し殺害してきた闇魔法使いが自分自身でもあったという事実に耐えられなかったのだろう」
どこまでも利己的な連中だ。
自身の手で葬ってきた、何の咎も無い闇魔法使いたちに対する哀悼の念は無いのか?
希少な闇魔法使いを今でこそ本来の意味で保護しているが、世が世なら、ルナにも触手が伸びていたかも知れない。
考えただけで怒りが滾ってくる。
「闇魔法使いを邪悪な竜族の手先と虐げてきたルシュカン族は、彼ら闇の力に救われた。その事実を明らかにする事で起こる反発を恐れ、皇室は竜牙剣と共に真実を隠蔽してきた」
同じ闇魔法使いの末路を知れば、ルナは何と言うだろうか?
悲しむだろうが、それでも皇帝や大神官相手に怒鳴り散らすに違いない。
元気の良いルナの姿を思い浮かべると、先程感じた怒りの波も穏やかなものに変わっていく。
「貴方以外に、この話を知る者は?」
「皇帝だけだ」
「第一皇子が知っている可能性は?」
「無くはなかろう。だがどうやって?」
「・・・分からない。ただ、内通者がいる可能性はある。皇帝の側近であれば情報を得る事も出来るだろう。あとは、皇帝と第一皇子が共闘している可能性か?」
「二人して其方を陥れようと言うのか?難儀なことだな」
「怨嗟竜となれば国も亡びる。国を思えば親子で結託することもあり得るかもな」
嫌な予感がする。
何かを見落としているような・・・。
「いずれにせよ、皇帝にも話を聞く必要がある」
同じ竜の血を引く男。
強い魔力は感じられないが、存在が底知れぬ深い何かを秘めている。
「皇帝には気を付けるのだ。元は時の皇太子の弟であったが、兄を失い自身が皇太子となって彼は変わった」
バラーも皇帝の深淵さに気付いているのか?
「兄の皇太子は竜の魔力が強まり、長じてから神殿に送られた。その地位も剥奪されてな」
聞いた事はある。
皇帝アルスランドは竜の魔力が弱かった為、皇帝の座につく事が出来たのだと。
「幼い頃のアルスランドはよくこの神殿に来ておった。兄とその婚約者であった娘と3人、仲睦まじく過ごしておった」
慕っていた兄を失ったが故に、深い闇を纏う事があるのだろうか?
「愛する者を失えば人は変わる」
バラーの眼は力強く向けられているが、その瞳には大きな悲しみが湛えられている事を知っている。
自身の息子をその手で葬った、その悲しみが。
「其方はあの剣を手に入れるつもりか?」
「怨嗟竜を葬る力があるのならば、少なくとも奴らに渡すのは得策ではない」
「放っておけ。あの剣には、最早その様な力など無い」
どういう意味だ?
「力があろうが無かろうが、闇魔法使いに危害を企てる輩の口実になる物であれば放っておくわけにはいかない」
「ジーク」
席を立とうとした俺の名を、久しぶりにバラ―が呼んだ。
何か言いにくいことを伝えたい時、彼は俺の名を呼んで覚悟とやらをいつも聞いてくる。
「あの娘を失っても、生きていく覚悟があるのか?」
俺はバラ―に向けた瞳を見開いて固まった。
「守護者であるルナは、其方を生かす為、簡単に命を差し出すだろう。それが竜眼持ちに刻まれた運命だからだ」
ああ、本能で理解する。
ーー選ばれし者。
ルナが俺の為に自身の命すら投げ出すであろう事を。
だが、ルナはその運命にも抗おうとするだろう。
私は簡単じゃない・・・如何にもルナが叫びそうな言葉だ。
ルナの不満そうな顔を想像して笑みが零れる。
「そんな覚悟など持ち合わせてはいない」
竜族と人族、両の血を引いて俺は生きていく。
そして、
「俺はルナと生きると決めた。幸い、俺の求める女はドラゴン好きだ。ジークの俺よりドラゴンが好きなルナと共に、この血を受け継いでいく」
俺の言葉を受けて、今度はバラーが目を見開いて固まった。
次の瞬間、部屋中にバラーの笑い声が響き渡った。
「初めて見る顔だ。今の其方は生きる事を、殊の外、楽しんでいるのだな」
バラーの声色は、幼い子供に聞かせるような穏やかなものだった。
「真っ直ぐで潔ぎ良い娘だ。其方の全てを持って慈しんでやるが良い」
「ああ、心得た」
バラーの気遣いが少し面映い。
この腕に抱きしめた柔らかなルナの感触を思い出す。
また狼狽て逃げ出そうとするだろうか?
次はどうやって捕まえておこう?
そんな浮かれた俺の頭に、ギルアドの悲痛な叫び声が響いた。
『ご主人さま!ルナが連れ去られちゃったよ!!』
全身の血の気が引いていく。
・・・俺は何処までも馬鹿だ。
何故気付かなかった?
始祖竜が竜族の為に残した牙、
怨嗟竜となったルシュカン族の脅威から竜族を守るための牙、
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