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竜牙剣 2
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・・・水の流れる音がする。
水と湿った土に埃の混ざった匂いが鼻につく。
どれだけ眠っていたのだろう?
瞼が重くて開けられない。
板のようなものが当たっていて顔が痛い。
うつ伏せに転がっている様だ。
身体を起こしたくて手をつこうとしたのだが、後ろ手に縛られていて身体を起こす事が儘ならない。
念話でクロに話しかけようとしたが、右薬指には指輪の感覚が無い。
どうやら抜き取られているらしい。
うーん、またもや良くないシチュエーションだ。
以前、妖術師に引っ張られた時と同じ様に、何処か辺鄙なところに飛ばされたのか?
そして、今回は縛り上げられている。
重い瞼を上げて少しずつ焦点を合わせる。
薄暗い空間に人影が見えてきた。
2人?
いや、3人か?
私がもぞもぞ動いたのに気が付いたのか、人影のひとつから声がした。
「ようやく気が付いたか」
聞き覚えのある声だ。
瞬時に不快な記憶が蘇る。
あー、この上から目線な物言いといい、やはりヤツか。
声の主は私の視線の先で椅子に座り、肘置きについた手に顔を預けていた。
「騒ぎ立てても無駄だ。此処は人里離れ隠された場所だからな」
そう言ってニヤリと笑う顔は、真さに悪党と呼ぶに相応しい。
第一皇子は椅子から立ち上がり、私の元まで来ると膝をついて私の髪を乱暴に掴んだ。
「あの時、人の好意を無駄にしていなければ、今頃暖かい場所で美味いメシでも食えていただろうに」
髪を掴み上げられた私の顔にヤツの生臭い息がかかり、一瞬にして吐き気を催してしまった。
思わずむせて咳き込んでいると、馬鹿皇子は嫌そうな顰め面をして投げ捨てる様に私の頭を床に打ちつけた。
っ痛ってーな!!!怒!
身体が怠くて思うように受け身も取れない。
頭の痛みと共にクラクラして焦点が合いにくい。
馬鹿皇子のクスクス笑う声が聞こえてくる。
「安心しろ。直ぐには殺さない。奴に思い知らせてからだ」
また乱暴に髪の毛ごと顔を上げさせられた。
「お前にはこれを使ってもらう」
馬鹿皇子は、懐から柄の付いた白い牙の様な剣を私の目の前に翳した。
ああ、あの時、予知夢?で見た剣だ。
「こいつで奴を殺せ。そうすれば命は助けてやろう」
お決まりの悪党ワードに、こんな状況にも関わらず笑いたくなってくる。
流石はヒロイン、肝の座った自分だと感心してしまう。
お陰で冷静になってきた。
此処にはどうやら男が3人。
辺りに護衛の様な人の気配は無い。
馬鹿皇子のすぐ脇には、あのホクロ男が立っている。
何で此処にいるんだ?
牢屋に居たんじゃなかったのか?
そして問題は、少し離れて窓側に腕を組んで立つフードの男。
頭がすっぽり隠れる程フードを深く被った姿と言えば、妖術師のトレードマークだ。
この前会ったヤツは、クロの餌になった筈。
新手の妖術師か?
コイツの手引きでホクロ男が脱獄したのか?
「おい、聞いているのか?!」
ゲス皇子は掴み上げた私の髪を乱暴に振り、更に顔を近付けてきた。
またもや臭い息を吹きかけられ、冷静であった筈の私は瞬時に沸騰し、掴まれた髪の毛など気にもせず後ろに無理矢理のけ反った。
こんのぉーっ!
その反動でヤツの頭に思いっきり頭突きをかます。
鈍い音がして、馬鹿皇子は額を押さえながら呻き声を上げてよろけた。
「そこまでだ」
私の首に剣先が突き付けられ、ホクロ男が冷たい視線で見下ろしていた。
「このっ・・・!」
額を押さえながら馬鹿皇子は眼をギラギラさせて、私に向かって手を振り上げた。
乾いた音と共に左頬に痛みが走る。
口の中で粘膜が裂けて血の味がした。
けれども私は睨んだ視線を逸らさなかった。
女に手を挙げるなんて、何処までもゲスな野郎だ。
こんなゲスが美少女令嬢さんの相手なんて、親でなくとも絶対許さん!
ゲス皇子はまたまた私の髪の毛を掴み上げ、狂気の混じった顔で怒鳴り出した。
「お前はこいつであのクソ野郎を殺すんだ!!」
もう皇子の振る舞いもあったものでは無い。
コイツ、狂ってる。
何故、ここまでこの男は追い詰められているのだろう?
ああ、そうか。
決してジークさんには敵わないと分かっているのだろう。
己の力量を知りながら、見ぬふりをして足掻いているのか。
可哀想な男だ。
「何故私なのですか?」
私は賭けに出た。
情報量が少な過ぎて先の見通しが立てられない。
だから、今ある情報で目の前にある物を一々吟味して潰していくしかない。
要はジークさんを消し去る可能性のある物を排除すればいい。
ジークさんにとって脅威か否か、それだけだ。
そして、目の前に翳された竜牙剣は脅威だ。
『もし、ジークバルトに害成すものが現れたら、其方はどうする?』
あの時、皇帝が口にした言葉が甦る。
「こいつ竜牙剣は闇魔法使いにしか反応しない。お前が適役なのだ」
馬鹿皇子はホクロ男に指示をして私の戒めを解いた。
私は痺れた指先を摩りながら馬鹿皇子を睨んだ。
「どうやって使うのです?」
「簡単だ。奴に突き刺せば良い」
「第三皇子殿下は強靭です。こんな物で倒せる程柔なお方ではございません」
私の言葉に再び馬鹿皇子はキレた。
「うるさい!つべこべ言わず、言われた通りにやれ!!」
ゲス皇子は私のドレスの胸元を掴むと、血走った眼を剥きながら私に怒鳴り散らした。
悪党は何処までも悪党なんだな。
私はゲス皇子から剣を引ったくった。
重さや感触を確かめながら、剣の様にあつらえられた牙を繁々と眺める。
「太古の昔、竜族が狂った自らの血筋を断つ為の剣として鍛えられた物だ」
ほうほう、思ったより軽い。
竜の牙に無理矢理柄をくっつけた手作り感満載の品だ。
「怨嗟竜となった竜を葬る事の出来る唯一無二の剣だ」
確かに先が尖っているので、人に刺したら死ぬかも知れない。
けれどもドラゴンさんに刺したところで、刀身が短いから致命傷になるのか甚だ疑問だ。
こんな物で、あの頑強な黒竜さんに傷さえ負わせられる代物になり得るのかも怪しい。
「闇魔法使いが持つとその威力を発動するという」
一応、闇魔法使いの端くれだが、こいつを持っても何も感じない。
いや、感じる事はある。
そう、前世で何処か海外旅行に行った先の屋台で売っている、安っぽい土産の置物に近い感覚だ。
「さあ、お前の闇魔法使いとしての力を見せてみろ!」
何だかアホがひとりで盛り上がっているところ申し訳ないのだが、子供のオモチャみたいなコレに何にも感じ無いんですケド・・・?
目の前で大盛り上がりの馬鹿皇子に白い眼を向けた。
興奮するアホ皇子を一瞥して大きく長い溜息をついた後、私は両掌に牙の剣を乗せた。
「この国の男は、皆んな揃って根拠の無い夢を見がちなんですね」
馬鹿皇子に向かってそう言うと、私は両掌に光魔法を募らせた。
あの時、私は皇帝に誓ったのだ。
ジークさんに仇名すものは全力で排除すると。
うぉりゃっ!
両掌の牙に魔力を集中させ、一点入魂、牙を粉々に粉砕した。
砕けた牙は私の掌からゴトゴト音を立て、破片となって床に落ちた。
あー、スッキリした、笑。
「なっ!!」
晴れやかな私とは違い、焦った馬鹿皇子はそれ以上言葉を作れないでいた。
奴は唖然とそれまで剣があった筈の私の手元を、目が飛び出るほど凝視している。
「何も感じません。こんな物に全てを賭けていたんですか?貴方たち、何処までもおめでたい人たちですね」
嘲笑うように悪女よろしくニヤッと腫れた口角を上げて、馬鹿皇子に吐き捨てるように言ってやる。
「お前っ、よくも・・・!」
馬鹿皇子が顔を真っ赤にして怒鳴ったが後の祭り。
ヤツが頼りにしていた竜牙剣はもうこの世には無いのだ。
私は涼しい顔でアホ皇子を鼻先で笑ってやった。
すると、それまで沈黙していた窓際に居た妖術師が大声で笑い出した。
「こいつは傑作だ。事もあろうに、あの剣を、選りにも選って闇魔法使い自らが破壊するとはな」
おや?
この人、馬鹿皇子の部下じゃ無いのか?
「このっ・・・!」
ぶるぶると音を立てて怒りに震える馬鹿皇子は、眼をギラギラさせて私に向かって再び手を振り上げた。
何処までも余裕の無い男だな。
こんなヤツが皇帝になったら、間違いなくこの国は滅びる。
そんな事を考えながら呑気にぶたれるのを待っていたが、いつまで経ってもヤツの手は私の頬に降って来なかった。
「おい、癇癪はよせ」
窓際で腕を組んでいた筈の妖術師が、いつの間にか馬鹿皇子の腕を掴んで捻り上げていた。
「離せっ!」
皇子の怒鳴り声に、私の首にあった剣先が離れ、ホクロ男は馬鹿皇子の援護に妖術師へ剣を構えようとした。
「おっと、動くなよ」
妖術師は皇子の腕を捻り上げている手とは逆の、鉤爪の付いた手を皇子の首に突き付けた。
おやおや?
仲間割れですか?
「此奴は俺の獲物だ。勝手をされては困る」
顔の見えないフードの奥で、唸る様な低い声に嘲笑が入り混じっている。
本能で、この男が一番危険なヤツだと悟る。
獲物認定された私は、妖術師の視線を感じ身震いした。
「くっ!」
歯軋りする馬鹿皇子の腕を離すと、妖術師は床に転がされている私の元に屈み込んだ。
「悪戯が過ぎると、二度とドラゴンの皇子サマに会えずに死んじゃうよ?」
妖術師はそう言って、私のこめかみを鉤爪で撫でた。
「貴方はそこの馬鹿皇子の仲間では無いの?」
何度も脅されたから、恐怖心は既に失せた。
恐れを知らない私は、つい口汚く聞いてしまった。
私の言葉に反応して当の馬鹿皇子が後ろでまた怒鳴っているが、妖術師が振り返ると悔しそうに口を噤んだ。
「無能な主を持つと苦労が絶えん。俺の主がまだマシで喜ばしい限りだ」
「貴方の主?」
私は眉間に皺を寄せて返した。
「こんなクズでは無いがな」
「やってる事はクズでしょうに」
余裕の妖術師を前に強気に出てみる。
だが、彼は私の挑発も意に介さず飄々と返してきた。
「無能な人族には分かるまい」
「貴方の主さんは、さぞ崇高な望みがあるのね」
少しでも精神的ダメージを与えたくて妖術師を焚き付けてみる。
「愚かな人族には到底理解できん」
「貴方は理解が出来るの?」
「必要無い」
?
コイツ自身は何がしたいんだ?
「お前を喰らいさえすれば、後はどうでもいい」
うげー。
やっぱりコイツが一番ゲスだった。
「下手したら貴方も死ぬのよ?」
私はカマをかけてみた。
どうやら馬鹿皇子とは目的が違うようだ。
馬鹿皇子は、怨嗟竜化したジークさんを私の手で葬るという筋書きで私を攫った。
上手くいかなきゃ、世界の終わりに巻き込まれて自分たちも滅びるのだ。
既に、頼みの竜の牙は無い。
だが、この妖術師とその親分はどうするつもりなのか?
私の問いに妖術師は大笑いした。
「それこそ主の望みだろう。天地開闢。こいつらクズ諸共全てを無に、その為に全てを賭しておられる」
?
コイツの意図が読めない。
主に敬意があるものの、理解する意志はないと言う。
或いは、自分の目的の為に主を利用しているのか。
「お前が自ら自分の役割を放棄する様は見物だったな」
役割?
そんなモノの為に生きてるんじゃない!
駒扱いされた言葉に、私はまたもやキレてしまった。
「貴方こそ、ご主人様の餌が無いと生きられないワンコなんでしょうに」
次の瞬間、妖術師は私の頭を思い切り床に踏みつけた。
痛ったーいっ!!
自分が壊して粉々になった竜の牙が顔に食い込む。
足裏でぐりぐりと頭を踏み躙られる度に、食い込んだ牙の破片で顔から血が滲む。
乙女ゲーの筈なのに、リアルに暴力受けてますけど?
最近の乙女ゲーはブラックな展開が流行りなのか?
「口の聞き方には気を付けろよ。お前こそが餌に過ぎないのだからな」
んだとーっ!怒!
そう怒鳴りたかったのだが何故か身体が冷えてきて、急速に意識が遠のき始めた。
マズイな。
もしや、これが死ぬという事なのか?
この世界に生まれて、まだ何も成していない。
勝手にヒロインと思っていたが、実はヒーローを助けるモブだったのか?
うーん、まあ、それも意味があった命なのかな?
ジークさん、ドラゴンさん、ごめんなさい。
もう少しお役に立ちたかったけれど、今はこれが限界です。
幽霊になれたら、また頑張って協力します、涙。
意識を失いながら私が勝手に今世に別れを告げる中、ドレスの襟元に隠れて、バラーさまから預かった竜の牙のお守りが仄かな光を放ち出していた。
水と湿った土に埃の混ざった匂いが鼻につく。
どれだけ眠っていたのだろう?
瞼が重くて開けられない。
板のようなものが当たっていて顔が痛い。
うつ伏せに転がっている様だ。
身体を起こしたくて手をつこうとしたのだが、後ろ手に縛られていて身体を起こす事が儘ならない。
念話でクロに話しかけようとしたが、右薬指には指輪の感覚が無い。
どうやら抜き取られているらしい。
うーん、またもや良くないシチュエーションだ。
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そして、今回は縛り上げられている。
重い瞼を上げて少しずつ焦点を合わせる。
薄暗い空間に人影が見えてきた。
2人?
いや、3人か?
私がもぞもぞ動いたのに気が付いたのか、人影のひとつから声がした。
「ようやく気が付いたか」
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瞬時に不快な記憶が蘇る。
あー、この上から目線な物言いといい、やはりヤツか。
声の主は私の視線の先で椅子に座り、肘置きについた手に顔を預けていた。
「騒ぎ立てても無駄だ。此処は人里離れ隠された場所だからな」
そう言ってニヤリと笑う顔は、真さに悪党と呼ぶに相応しい。
第一皇子は椅子から立ち上がり、私の元まで来ると膝をついて私の髪を乱暴に掴んだ。
「あの時、人の好意を無駄にしていなければ、今頃暖かい場所で美味いメシでも食えていただろうに」
髪を掴み上げられた私の顔にヤツの生臭い息がかかり、一瞬にして吐き気を催してしまった。
思わずむせて咳き込んでいると、馬鹿皇子は嫌そうな顰め面をして投げ捨てる様に私の頭を床に打ちつけた。
っ痛ってーな!!!怒!
身体が怠くて思うように受け身も取れない。
頭の痛みと共にクラクラして焦点が合いにくい。
馬鹿皇子のクスクス笑う声が聞こえてくる。
「安心しろ。直ぐには殺さない。奴に思い知らせてからだ」
また乱暴に髪の毛ごと顔を上げさせられた。
「お前にはこれを使ってもらう」
馬鹿皇子は、懐から柄の付いた白い牙の様な剣を私の目の前に翳した。
ああ、あの時、予知夢?で見た剣だ。
「こいつで奴を殺せ。そうすれば命は助けてやろう」
お決まりの悪党ワードに、こんな状況にも関わらず笑いたくなってくる。
流石はヒロイン、肝の座った自分だと感心してしまう。
お陰で冷静になってきた。
此処にはどうやら男が3人。
辺りに護衛の様な人の気配は無い。
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何で此処にいるんだ?
牢屋に居たんじゃなかったのか?
そして問題は、少し離れて窓側に腕を組んで立つフードの男。
頭がすっぽり隠れる程フードを深く被った姿と言えば、妖術師のトレードマークだ。
この前会ったヤツは、クロの餌になった筈。
新手の妖術師か?
コイツの手引きでホクロ男が脱獄したのか?
「おい、聞いているのか?!」
ゲス皇子は掴み上げた私の髪を乱暴に振り、更に顔を近付けてきた。
またもや臭い息を吹きかけられ、冷静であった筈の私は瞬時に沸騰し、掴まれた髪の毛など気にもせず後ろに無理矢理のけ反った。
こんのぉーっ!
その反動でヤツの頭に思いっきり頭突きをかます。
鈍い音がして、馬鹿皇子は額を押さえながら呻き声を上げてよろけた。
「そこまでだ」
私の首に剣先が突き付けられ、ホクロ男が冷たい視線で見下ろしていた。
「このっ・・・!」
額を押さえながら馬鹿皇子は眼をギラギラさせて、私に向かって手を振り上げた。
乾いた音と共に左頬に痛みが走る。
口の中で粘膜が裂けて血の味がした。
けれども私は睨んだ視線を逸らさなかった。
女に手を挙げるなんて、何処までもゲスな野郎だ。
こんなゲスが美少女令嬢さんの相手なんて、親でなくとも絶対許さん!
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「お前はこいつであのクソ野郎を殺すんだ!!」
もう皇子の振る舞いもあったものでは無い。
コイツ、狂ってる。
何故、ここまでこの男は追い詰められているのだろう?
ああ、そうか。
決してジークさんには敵わないと分かっているのだろう。
己の力量を知りながら、見ぬふりをして足掻いているのか。
可哀想な男だ。
「何故私なのですか?」
私は賭けに出た。
情報量が少な過ぎて先の見通しが立てられない。
だから、今ある情報で目の前にある物を一々吟味して潰していくしかない。
要はジークさんを消し去る可能性のある物を排除すればいい。
ジークさんにとって脅威か否か、それだけだ。
そして、目の前に翳された竜牙剣は脅威だ。
『もし、ジークバルトに害成すものが現れたら、其方はどうする?』
あの時、皇帝が口にした言葉が甦る。
「こいつ竜牙剣は闇魔法使いにしか反応しない。お前が適役なのだ」
馬鹿皇子はホクロ男に指示をして私の戒めを解いた。
私は痺れた指先を摩りながら馬鹿皇子を睨んだ。
「どうやって使うのです?」
「簡単だ。奴に突き刺せば良い」
「第三皇子殿下は強靭です。こんな物で倒せる程柔なお方ではございません」
私の言葉に再び馬鹿皇子はキレた。
「うるさい!つべこべ言わず、言われた通りにやれ!!」
ゲス皇子は私のドレスの胸元を掴むと、血走った眼を剥きながら私に怒鳴り散らした。
悪党は何処までも悪党なんだな。
私はゲス皇子から剣を引ったくった。
重さや感触を確かめながら、剣の様にあつらえられた牙を繁々と眺める。
「太古の昔、竜族が狂った自らの血筋を断つ為の剣として鍛えられた物だ」
ほうほう、思ったより軽い。
竜の牙に無理矢理柄をくっつけた手作り感満載の品だ。
「怨嗟竜となった竜を葬る事の出来る唯一無二の剣だ」
確かに先が尖っているので、人に刺したら死ぬかも知れない。
けれどもドラゴンさんに刺したところで、刀身が短いから致命傷になるのか甚だ疑問だ。
こんな物で、あの頑強な黒竜さんに傷さえ負わせられる代物になり得るのかも怪しい。
「闇魔法使いが持つとその威力を発動するという」
一応、闇魔法使いの端くれだが、こいつを持っても何も感じない。
いや、感じる事はある。
そう、前世で何処か海外旅行に行った先の屋台で売っている、安っぽい土産の置物に近い感覚だ。
「さあ、お前の闇魔法使いとしての力を見せてみろ!」
何だかアホがひとりで盛り上がっているところ申し訳ないのだが、子供のオモチャみたいなコレに何にも感じ無いんですケド・・・?
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興奮するアホ皇子を一瞥して大きく長い溜息をついた後、私は両掌に牙の剣を乗せた。
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あの時、私は皇帝に誓ったのだ。
ジークさんに仇名すものは全力で排除すると。
うぉりゃっ!
両掌の牙に魔力を集中させ、一点入魂、牙を粉々に粉砕した。
砕けた牙は私の掌からゴトゴト音を立て、破片となって床に落ちた。
あー、スッキリした、笑。
「なっ!!」
晴れやかな私とは違い、焦った馬鹿皇子はそれ以上言葉を作れないでいた。
奴は唖然とそれまで剣があった筈の私の手元を、目が飛び出るほど凝視している。
「何も感じません。こんな物に全てを賭けていたんですか?貴方たち、何処までもおめでたい人たちですね」
嘲笑うように悪女よろしくニヤッと腫れた口角を上げて、馬鹿皇子に吐き捨てるように言ってやる。
「お前っ、よくも・・・!」
馬鹿皇子が顔を真っ赤にして怒鳴ったが後の祭り。
ヤツが頼りにしていた竜牙剣はもうこの世には無いのだ。
私は涼しい顔でアホ皇子を鼻先で笑ってやった。
すると、それまで沈黙していた窓際に居た妖術師が大声で笑い出した。
「こいつは傑作だ。事もあろうに、あの剣を、選りにも選って闇魔法使い自らが破壊するとはな」
おや?
この人、馬鹿皇子の部下じゃ無いのか?
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ぶるぶると音を立てて怒りに震える馬鹿皇子は、眼をギラギラさせて私に向かって再び手を振り上げた。
何処までも余裕の無い男だな。
こんなヤツが皇帝になったら、間違いなくこの国は滅びる。
そんな事を考えながら呑気にぶたれるのを待っていたが、いつまで経ってもヤツの手は私の頬に降って来なかった。
「おい、癇癪はよせ」
窓際で腕を組んでいた筈の妖術師が、いつの間にか馬鹿皇子の腕を掴んで捻り上げていた。
「離せっ!」
皇子の怒鳴り声に、私の首にあった剣先が離れ、ホクロ男は馬鹿皇子の援護に妖術師へ剣を構えようとした。
「おっと、動くなよ」
妖術師は皇子の腕を捻り上げている手とは逆の、鉤爪の付いた手を皇子の首に突き付けた。
おやおや?
仲間割れですか?
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顔の見えないフードの奥で、唸る様な低い声に嘲笑が入り混じっている。
本能で、この男が一番危険なヤツだと悟る。
獲物認定された私は、妖術師の視線を感じ身震いした。
「くっ!」
歯軋りする馬鹿皇子の腕を離すと、妖術師は床に転がされている私の元に屈み込んだ。
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「貴方はそこの馬鹿皇子の仲間では無いの?」
何度も脅されたから、恐怖心は既に失せた。
恐れを知らない私は、つい口汚く聞いてしまった。
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「貴方の主?」
私は眉間に皺を寄せて返した。
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「やってる事はクズでしょうに」
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だが、彼は私の挑発も意に介さず飄々と返してきた。
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「貴方は理解が出来るの?」
「必要無い」
?
コイツ自身は何がしたいんだ?
「お前を喰らいさえすれば、後はどうでもいい」
うげー。
やっぱりコイツが一番ゲスだった。
「下手したら貴方も死ぬのよ?」
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どうやら馬鹿皇子とは目的が違うようだ。
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上手くいかなきゃ、世界の終わりに巻き込まれて自分たちも滅びるのだ。
既に、頼みの竜の牙は無い。
だが、この妖術師とその親分はどうするつもりなのか?
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「それこそ主の望みだろう。天地開闢。こいつらクズ諸共全てを無に、その為に全てを賭しておられる」
?
コイツの意図が読めない。
主に敬意があるものの、理解する意志はないと言う。
或いは、自分の目的の為に主を利用しているのか。
「お前が自ら自分の役割を放棄する様は見物だったな」
役割?
そんなモノの為に生きてるんじゃない!
駒扱いされた言葉に、私はまたもやキレてしまった。
「貴方こそ、ご主人様の餌が無いと生きられないワンコなんでしょうに」
次の瞬間、妖術師は私の頭を思い切り床に踏みつけた。
痛ったーいっ!!
自分が壊して粉々になった竜の牙が顔に食い込む。
足裏でぐりぐりと頭を踏み躙られる度に、食い込んだ牙の破片で顔から血が滲む。
乙女ゲーの筈なのに、リアルに暴力受けてますけど?
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んだとーっ!怒!
そう怒鳴りたかったのだが何故か身体が冷えてきて、急速に意識が遠のき始めた。
マズイな。
もしや、これが死ぬという事なのか?
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うーん、まあ、それも意味があった命なのかな?
ジークさん、ドラゴンさん、ごめんなさい。
もう少しお役に立ちたかったけれど、今はこれが限界です。
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