乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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竜の守りが見せた夢 3

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剣の切先を皮膚に感じたが、力一杯刺したというのに痛くも痒くもない。
それどころか、温かくて心地良い・・・?

剣を握っていた指先から全身へと、温かい光が広がっていくかのようだ。
ただ、眼を開けて周りを確かめたいのに、自分の力で瞼を開く事が出来ない。
耳を澄ますと、遠くから微かな音が聞こえてくる・・・?

『・・・ならば、・・・ことが叶う・・・』

!?
この声は?
あの時、光の渦で会った始祖竜さん?!

『・・・竜牙剣をお前の魂に突き刺せ。さすれば・・・』

遠くにあった声が次第に大きくなり、光も膨れ上がって自分を包み込んでいるようだ。
それと同時にふわふわしていた心許ない自分の存在が、地に足を付けて立っている確かな自分として感じられてきた。

広がった光が弾けたと思った瞬間、両眼を見開く事が出来るようになった。
見ると握っていた筈の剣は消え、更には目の前に広がっていた炎と闇の空間も消滅して森の中に立っていた。
風に揺れた髪の毛が顔にかかる。
ふと、その髪が見慣れたピンクブロンドである事に気が付いた。
自分の手でペタペタ顔や身体を触ってみる。
おお!
まさしくルナだ!

『戻った!!』

叫んだ私と眼が合ったのは、私の前に座り込んでいた驚愕顔のイケメン皇太子だった。
口を開けて私を凝視している。
イケメンもその呆け顔じゃあイケて無い、笑。
はっとして、足元を見るとルーネリアが草叢に倒れていた。

『ルーネリアさん、しっかりしてください!』


慌てて屈んで抱き起す。
息はあるが蒼白で、身体を揺すってみるが目覚める気配が無い。
我に返った皇太子が彼女を抱きかかえた。

『リア!!起きてくれ!ルーネリア!』

皇太子の声にルーネリアの眉が僅かに寄せられた。
皇太子とふたり息を吐き、少しだけ安堵する。

『それが本来の君の姿なのだね?』

苦笑いしながら皇太子が私を見た。
彼は疲れた顔で笑っているが、どこか吹っ切れたような空気を纏っていた。

『改めて、初めまして。私は・・・』

自分の名を口にしようとして考える。
私って、今この時代に居たらダメなんじゃ?

『どうかしたのかい?』
『私はここに居てはならない人間だと思うのです。ですから、名乗る事はご容赦くださいませ』

皇太子は一度眼を見開いてからフッと笑った。

『そうだな、こんな深夜のこんな森の中で、元皇太子が秘宝の剣を盗み出し女性と密会していたと知られるのは、君にとって醜聞でしかないな』

え?
元皇太子?

『然も、盗んだ竜牙剣は目の前で消えてしまった』

あれ?
ホントだ?

『あ、すみません、私が使ってしまいました・・・』

自分の為に使い、果てに消滅させてしまったらしい、あは。
まあ、ルーネリアから離れるにはこの方法しかなかったと云うことで勘弁願いたい、汗。

『君は死んでルーネリアに入ったと言っていたが、見る限り死んでいるようには見えないけれど?』
『うーん、私にも良く分かりません。彼女の中で目覚める前は、妖術師に顔をふんず蹴られていたので』

イケメンさんは片眉を上げた。

『妖術師?』
『はい、拉致されて殺された?殺されかけた?のかな?』
『何故そんな事に巻き込まれたんだい?』

うーむ。
言うべきか、言わざるべきか?
まあ、皇太子もこのままでは盗人扱いでお尋ね者になってしまうのだから、せめて私の秘密を話してチャラにしてもらおう。

『私、闇魔法使いなので』

私の言葉に皇太子は視線を鋭くした。

『ここに、この時代に何しに来たのだ?』
『貴方も私を殺したいのですか?』

互いに睨み合う。
深夜の森の中、虫の鳴き声だけが響く。
そうして、先に口を開いたのは皇太子だった。

『私に恨みを晴らそうとやって来たのか?』
『恨み?』
『帝国は続く2000年以上の歴史の中で、君たち闇魔法使いを斬殺してきた。その報復を願っているのではないのか?』

先程までの砕けた調子は影を潜め、彼の口調は厳しいものだった。

『そんなものに興味はありません。それよりも、助けたい人がいるのです』

じっと彼と視線を合わせる。
皇太子は詰めていた息を吐いて目元を緩めた。

『そうか、では、その人を守るために君はここに来たのだね?』

優しい口調に戻った彼はそう言うと、腕の中で眠るルーネリアに視線を向けた。

『私にもそう思う時があった、ほんの少し前は。それなのに、今はどうだ。気が付けば竜の魔力に怯え、大切なルーネリアをこんな運命に巻き込んでしまっている』

皇太子は泣きそうに顔を歪めた。

『いつ果てるとも分からないこの身で、廃嫡されて尚、本来は手放すべきと分かっていながら愛しい者に縋り付く私は、自分でも吐き気がする程浅ましい。それでも・・・』

願わずにはいられないのだろう。
愛しい女性ルーネリアとの人生を。
それのどこが浅ましいと云うのか?
彼にそう思わせている竜の魔力、竜毒さんに段々腹が立ってきた。
そこに居るであろう竜毒さん2号を睨みつけようと、皇太子の胸元を眇めた眼で見た。
が、先程まで赤黒く見えた小さな塊が見当たらない。

あれ?
どこに隠れてるんだ?

私はムッとして皇太子の胸倉を掴んだ。

『ちょっと!竜毒さん?!どこに隠れてるんですか?話の続きをしましょうよ!』

怒鳴って呼びかけるも返事が無い。

むう?
逃げたのか?
おや?
逃げる??
どうやって?
皇太子の身体から逃げ出したのか??
それってナイスなのではっ??

私は胸倉を掴んだまま、驚き固まる皇太子の顔と胸に視線を往復させた。
やはり居ない、見当たらない。
一体どこへ消えたのか?
すると、何やらひょこひょこ動く小物体を自分の頭の上に感じた。
皇太子の上着を離し手を頭にやると、何だか薄ら冷たく濡れている小さなものが触れる。
感触は気持ち悪いのだが、見えないのは余計に気持ちが悪い。
歯を食いしばり、思い切ってそいつを鷲掴みして眼の前に持ってきた。
恐る恐る掌をひろげると、そこには赤黒い不気味な色調のカエルが居た。

うへっ。
キモい・・・泣。

黄金の瞳のカエルは私と眼が合うと、一声、ゲコっと鳴いた。
その瞬間、頭の中に声が響いた。

『お前!どう云う了見で、我をこんな惨めな生き物の中に閉じ込めたのだ?!』

へっ?
竜毒さん2号の声?

掌を眼の高さに持ち上げ、ちょこんと座る不気味色のカエルと視線を合わせる。

『この仕打ちは許さんぞ!おのれっ!!』

そう言うと、金眼を眇めたカエルさんは私の眉間に飛び蹴りを喰らわせた。

あてっ?
・・・痛くない、笑。

『あの、竜毒さんですか?』

見事な?飛び蹴りの後、私の掌に見事に着地しふんぞり返るカエルさんを眺める。

『お前、知っていてやっているのだな?』
『いやいや、知りませんでしたよ?天下の竜毒さんが、こんな小さなカエルさんに身を窶していらっしゃるだなんて』
『お前が我をここに閉じ込めたのだろうが』
『へ?どうやって?』
『それは我が聞きたい事だ!!』

ふむ。
良く分からないけれど、竜毒さん2号と一緒に居た空間でこの身に竜牙剣を突き刺したら、どう言う訳か竜毒さん2号も道連れにして共に身体を顕現させたらしい。

皇太子を振り返る。
戸惑っている顔をしてはいるが、顔色は良いんじゃないか?

『殿下、体調はいかがです?』
『?特に、は・・・?』

じっと彼の瞳を覗き込む。
私の意図が分かったのか、彼の緑の瞳が大きく広がった。

『軽い・・・、身体が、軽い?』

彼は自分の手を胸に当てて驚いた様子で私を見た。

『竜の魔力を感じない。一体・・・?』
『貴方を脅かす竜の魔力は身体から出て行きました。もう、貴方は普通の人間ですよ』

暫し視線を合わせていると、その大きな緑の眼からポロポロと美しい涙がこぼれ落ちて来た。

『・・・本当に?』
『良かったですね。これでルーネリアさんと共に人生を楽しめますね』

その言葉に、皇太子はルーネリアを掻き抱くと声を上げて泣き出した。
震える彼を見ていると、眼の奥が熱くなってくる。
呪いが解けたら、ジークさんもこうして泣いたりするのかな?
眼に盛り上がりそうなものを抑えようと、歯を食いしばった。

諦めない。
ジークさんの元に戻るんだ。
ジークさんの身体から竜毒さん1号を追い出してやる!
カエルさんなんて可愛らしいものに閉じ込めてなんかやらない。
蟻んことか毛虫とかに突っ込んでやる!
・・・但し、今のところ、やり方とか原理とか分からないけど。
こうしては居られない。
戻る方法を考えねば。

私は立ち上がると、掌のカエルさんに聞いてみた。

『竜毒さん、元の時代に戻る方法を教えてください』
『知る訳なかろう』

竜毒カエルさんは不貞腐れたようにそっぽを向いた。
むう。
教えぬ気か?
ならば首でも閉めれば白状するのか?

『もう行くのかい?』

涙に濡れたイケメン顔を上げて皇太子が聞いてきた。

『はい。殿下を戻せたので、きっと私の助けたい人も戻せると思うのです』
『君の助けたい人も、私と同じ呪いを受けた者なのだね?』

未来に何か支障が起きてはいけない。
そう思って彼の言葉に返事をしなかった。

『殿下も、ここにいつまでも居てはなりません』
『そうだな、剣を盗んだとして投獄されては、君から貰った大切な命を無駄にしてしまう』

イケメンさんは涙を拭いながら悪戯っぽく笑った。

『・・・申し訳ございません』
『いや、謝らないでくれ。君があの剣を使ってくれたお陰で、私はこうして呪いから解放されたんだ』
『それでも、剣の行方が分からなければ、殿下が処罰されてしまいます』
『ああ、逸そこの国から消えてしまうのもいいかも知れないな』

え?
不穏な一言に片眉を上げた私に、皇太子は眉尻を下げた。

『いや、死にはしないよ。切望していた生きる道が目の前に開けたんだ。誓って、この命を大事にするよ、愛するルーネリアと共に』

視線を抱いているルーネリアに移し、黒く艶やかな彼女の髪を愛おしそうに撫でた。
その姿が、以前、頭を撫でてくれたジークさんと重なる。

・・・苦しい。
ああ、そうか。
私、ジークさんの事が好きなんだ・・・。
会えない事が、彼の優しい仕草を思い出す事が、こんなに苦しいなんて。

愛しい人を想い浮かべていると、胸元のペンダントが仄かに光出した。
首から外して掌に落とす。
それまで掌に居た竜毒カエルさんが、慌てて私の頭に飛び乗った。
今度はジークさんに呼ばれている気がする。

竜の牙のお守りが明滅し出した。
何だかお別れを告げられているような、そんな光り方だ。
理由など無いけれど、このお守りはこの時代に残していった方が良い気がした。
私はペンダントを皇太子の首にかけると、竜の牙を両手で握り込んだ。

『そろそろお別れの時間みたいです。どうかルーネリアさんと健やかにお過ごしください』

皇太子は少し寂しそうな顔をした。

『リアに君を紹介出来なくて残念だ。どうか、君も大切な人と末永く共に歩める事を祈っているよ』
『ありがとうございます』

掌のお守りの光が強くなり、周りの景色が白く薄れていく。
次第に目の前の皇太子の姿も光に包まれ始めた。

ありがとう、竜のお守りさん。
私をこの時代に連れて来てくれて。

『殿下、最後のお願いです。このお守りをバラーさまにお返しください』

力あるお守りだったら返すと約束した。
未来のバラーさまでは無く、過去のバラーさまに返したところで彼自身は何の事だか分からないだろうけれど。
子供扱いされた事への意趣返しだ。
大いに悩ませてやる、笑。
私の言葉に、薄れゆく皇太子は一瞬驚いた様子だったが笑って頷いてくれた。

『それと、バラーさまにお伝えください。私、覚悟って言葉大嫌いですって』

私も笑ってそう言ったが、皇太子に聞こえたのかどうか、彼の姿は真っ白な光の中に溶けて見えなくなっていた。
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