乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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囚われの毒ちゃんと私

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暫し温かな光に包まれ心地良くなった私は、強い眠気を感じた。
誰かの話し声が聞こえる。
男の人の声だ。
・・・ジークさんの声じゃない。
誰?

重い瞼を頑張って上げてみるが焦点が合わない。
揺れる視界の中、声の主は私の身体を仰向けにして顔を覗き込んできた。

青い瞳と艶やかな長い黒髪。
あれ?

「ルー・・・ネリ、ア・・・?」

私の囁きに青い瞳が細められたが、それ以上は意識を保てずに全てが闇に包まれていった。





フッと瞼が軽くなり目を開けると、視界に広がる辺りは灰色だった。
薄暗く外の光は感じられない。
ベッドに仰向けになって寝ていたようだ。
ゆっくり起き上がり、まず自分を確認する。
肩にかかる髪の色はピンクブロンドだ。
両手で顔をペチペチ触る。
この感触はルナだ。
良かった、夢から覚めたんだー。
うん?
夢だったのかな?
皇太子や竜牙剣は・・・?

胸元にある竜の牙のお守りを触る、と、あれ?無い!?
その代わり、何やらひんやりして柔らかいものが触れる。

何だコレ?

ドレスの胸元に手を突っ込んで掴んでみる。
うっ、このねっとりした感触は・・・汗。

ゲコ。

『お前!苦しいぞ!離せ!』

頭に響く竜毒さん2号の声。
思わず更に力を入れて握り込んだ。

「淑女ののドレスの中で何してるんですか?」

私は唸るように低い声で凄んだ。
コイツは変態竜毒カエルなのか?
であれば、躾が必要だ。
縛り上げて何処かに逆さ吊りにしてやる、怒。

『おい、止めろ!苦しいじゃないか!我を殺す気か?』
「これしきの事で竜毒さんを殺せるんですか?」
『仕方無かろう!妖魔術師が居たのだ!奴から身を隠すにはここしかなかったのだ!』

妖魔術師?

私は握った手を開いて竜毒カエルさんと眼の高さを合わせた。

「妖魔術師って何ですか?」
『闇魔法使いを喰らった妖術師の事だ』
「喰らう?」
『妖術師は闇魔法使いの眼を喰うことで妖魔術師となり、闇魔法を使い熟すようになるのだ』

げっ!
早速、死亡フラグが刺さってるっ、泣!

ベッドの上で胡座をかいて考える。
カエルとなった竜毒さん2号がここに居る。
と言う事は、ここは過去の続きなのか?
周りをキョロキョロ見回してみる。
灰色空間は何処かの小さなお家みたいだが、扉がひとつあるだけで窓がない。
一面灰色の壁、前世で言うコンクリートの箱の中に居るみたいで圧迫感が強い。

「竜毒さん2号カエルさん、ここは何処ですか?私、まだ過去に居るんですか?」
『何だ、その呼び名は?!』
「長いですよね?面倒なので毒ちゃんにしましょう」
『おい、ヒトの話を聞け!』
「毒ちゃんは人だったんですか?」
『お前なあ、』
「お前じゃありません、ルナです。今度、お前って言ったら毒ちゃんと言えども叩き潰します」
『・・・』

竜毒さん2号改め、毒ちゃんは静かになった。

「で、ここは何処ですか?」
『我もお前の服の中に居たから良く分からん』
「・・・?」
『ルナのドレスに隠れていたから分からん!』

私が指の関節をパキパキ鳴らすと、毒ちゃんは慌てて言い直した。
毒ちゃんも甘やかされた男の子なのか?

『妖魔術師と黒髪の男がおま・・・、ルナをここまで連れて来た』
「過去ではないって事ですか?」
『少なくとも、我が居た時代では無かろうよ』

ふむ。
では、第一皇子に拉致された場所に戻って来て、また何処かに移されたって事か?
にしても、窓も無いからここが何処だか見当もつかない。
ベッドを降りて、部屋唯一の外界に通じるであろう扉に向かう。
だが、扉にはノブが無かった。
これ、絶対外へ出さんぞーと言う意気込みを感じますね。
もう、悪意としか言いようがない・・・トホホ。

「毒ちゃん、ここからどうやったら出られますかね?」
『分からん』
「大いなる竜族の知識で何とかして下さい」
『おま・・・、ゲコ、ゲコ、この身体でどうしろと?』
「ドラゴンさんにでもなればここから出られるって事ですか?」
『無理だろうよ。この空間は魔障壁で出来ている』

私は左掌に光魔法を発動させようとしたが、何も起きない。
まるで魔法の扱い方を忘れてしまったみたいな、自分の身体の魔力をまるで感じられないのだ。

え?
マジですか、汗?

『だから言ったであろう?』

焦った私は、何だか得意気な言い方をする毒ちゃんにムカついて、彼の短い首を鷲掴みにした。

「どういう事ですかっ?!もう二度と魔法が使えないって事ですか?!」
『お、おい、苦し・・・』

おっと、つい力を入れて短い毒ちゃんの首を折ってしまうところでした、てへ。

「あは、ごめんなさい。つい、興奮しちゃいました。で、魔障壁って何ですか?」
『おま・・・、ゲコゲコ、ルナは知らない事だらけだな』

バキッと指の関節を鳴らすと、毒ちゃんはベッドの隅に飛び乗り枕の影に身を隠した。
私がベッドの枕を乱暴に掴んで脇に放り投げると、毒ちゃんは短い手足で飛び跳ね逃げようとした。
両手で生け捕りにすると金眼に向かって目を眇める。

「それで、魔障壁って何です?」
『あらゆる魔力を吸収する鉱石で出来た空間だ。帝国内では神殿にあるとされているが、魔鉱石の採掘場で有名なガレオンにもあるだろう』

ここは何処かの神殿なのか?

「どうやって脱出すればいいんですか?」
『その昔、帝国が闇魔法使いを連れ去り、殺すその日まで閉じ込めていた、謂わば魔法使い殺しの監獄がこの魔障壁だ。逃れる術は無かろうよ』

え?
マジですか、涙?

「何か名案を思いつかないと、毒ちゃんもここでカエルの干物になりますよ?」
『そもそも、ルナが魔力を奪って我をこの身体カエルに閉じ込めたであろう!どうにかしろと言うならば、先に我の魔力を返せ!!』
「私、毒ちゃんの魔力なんて奪ってませんよ?」
『自覚なさ過ぎだろう!』
「どんな原理で毒ちゃんの魔力を奪えるんですか?」
『竜牙剣でお前自身の身体を貫いた時、ルナの魂に剣の力が届いたのだ』

・・・だから?
意味分からん。
お前と言った毒ちゃんを掴む両手に力を込める。

『待て!聞け!まったく、気の短い娘だ。・・・あの時、ルナは何を望んだのだ?』

私の望んだ事?
うーん?
ルーネリアさんの身体から出たい、そんでもって、皇太子にくっついている竜毒さん2号を私にくっつけたい・・・だったかな?
でも、竜毒さんの魔力を横取りしようとは思わなかったぞ?

「皇太子の身体から私の身体へ、竜毒さん2号を移しちゃおうとかは思いましたけど?」
『何て事を願ってくれたんだ!』


何怒っているんだい、竜毒さん2号、いや、毒ちゃん?
私がキョトンとしていると、毒ちゃんは怒りも露わに喚き出した、が、ちびっこカエルなので全く迫力が無い、笑。

『古からの契約を、お前は始祖竜の力をもって改変してしまったのだ!』
「へえ、そうですか。やれば出来るんですね、私って」

さすがヒロイン!
万歳チート!
この調子で、ジークさんの竜毒さんもその辺の虫にでも突っ込んでポイ捨てだ、笑。

『馬鹿者!』

ニヤけて緩んだ私の両手から逃げ出し、毒ちゃんは私の頭の上に飛び乗った。
短い手足で頭の上をペチペチ飛び跳ねて猛抗議してきた。

『やった事の意味が分かっているのか?お前自身が、竜の呪いを受ける事になるのだぞ!?』
「生命力を毒ちゃんに吸われて竜の魔力をもらい受ける、という呪いですよね?」
『竜の血を引いてもいないお前に、そんな生命力も、器としての身体も無いのだぞ?耐えられず直ぐに死んでしまうのだぞ?』

憤慨している毒ちゃんをもう一度鷲掴みして睨みつけた。

「ほう、やれるものならやってみてください。今の毒ちゃんに、私の生命力を吸うことが出来るのならね?」

そもそもカエル化した毒ちゃんから、全く魔力を感じない。
まあ、この魔障壁に捕らわれているせいかもしれないが。
であれば尚の事、今ここで毒ちゃんに害される危険はないだろう。
ホレ、竜毒さんのお家芸?を見せてもらおうじゃあないか。

『お、お前、意地悪だな・・・』
「さて、問題です。本日何回、毒ちゃんは私に向かってお前と言いましたかね?」

私は左手で毒ちゃんの身体を掴んだまま灰色の壁に固定し、右手で拳を握った。
私、本来、左利きですが、毒ちゃんは小さいのでサービスとして非力な右拳で殴って差し上げます、笑。

『わ、待ってくれ!分かった、もう言わない!ルナ、悪かった、勘弁してくれ!!』
「私、約束は守る主義です。お前って言ったら殴ると約束したでしょう?」
『それは一方的であって約束じゃない、宣言と言うんだ!』
「はい、どちらにしろ女に二言はありません」

小さな身体を壁に押し付け、毒ちゃんの顔面に向け拳を繰り出した。
だが、優しい私は毒ちゃんの顔の前で、拳を寸止めしてあげた。

「これで、もう『お前』と言う単語は毒ちゃんから消滅しましたね?」

私はにっこり笑い、指で毒ちゃんの狭い額を弾いた。
毒ちゃんは腰を抜かしたのか、私の掌の中でぐったりしてしまった。

「私の命の心配をしてくれるなんて、毒ちゃんは優しいカエルさんですね。というか、私が死んだら永遠に毒ちゃんはカエルさんのままって事ですかね?」
『そう思うなら簡単に死ぬな!』

私の掌で直ぐに起き上がった毒ちゃんは、金眼を向けて怒鳴ってきた。
ちびっこカエルがぴょんぴょん跳ねながら怒る様子も可愛らしい。
死亡フラグばかりのこの世界で、生きてくれと励まされるのは嬉しいものだ。

「もちろんです。まず、ここを無事に脱出してから毒ちゃんを戻す方法を考えましょう」

自分が外に出る事が出来ないのなら、誰かに来てもらう事は出来ないのか?
壁や扉を散々殴るとか、音を出すとか、騒ぐとか?
そもそも、この壁や扉を素手で壊すことは出来ないだろうか?

うるりゃあーっ!

ドレスを託し上げて扉に思いっきり蹴りを入れてみる。

うへ。
ただ、足が痛いだけでびくともしなければ、音も出ない。

『おい、何をやっている?』
「頑強な城も針の穴ほどの綻びから崩れるものです」
『その調子では1000年かかっても無理だろうよ』
「音や振動が外に伝わって、誰かに気付いて貰えたりしませんかね?」
『ここは亜空間だ。何処かの建物と物理的に接しているわけではない。連続性を持たないただの空間が浮いているだけだ』

八方塞がりとはこの事か?
がっくり項垂れる私の頭に毒ちゃんがまた飛び乗った。
頭の上で、何やらスンスン言っている。

『先ほども思ったのだが、竜の匂いがする』
「は?」
『ルナの頭から我とは違う竜の匂いがする』

毒ちゃんはカエルであって、最早、竜では無いけどね。

「毒ちゃんの竜の匂いって?」
『我はずっと弱虫ジェスリード皇太子と共に居たから、奴と同じ匂いを持っている。ルナも竜族の血を持つ奴と一緒に居たのか?』

自分で自分の匂いを嗅いでみるが、さっぱり分からん。
竜の血族と言えば、皇帝やバラーさま、第一馬鹿皇子だが、長く側に居たのはやっぱりジークさんだ。
ジークさんの匂いかな?

「私からする竜の匂いってどんな匂いですか?」
『ああ、こいつから匂うのか』

毒ちゃんは、私の頭のてっぺんに留まっている髪留めを短い手足でペシペシ叩いた。

こいつ髪留めから強い竜の匂いがする』

私は頭に手をやって髪留めを外した。
両の掌の上に髪留めを置いて眺めていると、毒ちゃんも掌に飛び乗ってきた。

「ジークさんが触れた髪留めです」

ジークさんの瞳の色と同じ黄金色の石が施されている。
彼が出かける前に嬉しそうに触ってくれた。
自分と同じ色だって。
あの時は、こんな風に離れ離れになるなんて思っていなかった。
こんな所に閉じ込められて、私、死んじゃうのかな?
もう、ジークさんに会えないのかな?

過去に渡る直前、もう死ぬのかと思った時、それでも良いかと覚悟した。
いや、覚悟じゃない、分かってなかっただけだ。
こんなにも、ジークさんが恋しいと。

眼の奥がツンとして眼の縁に温かいものが盛り上がってくる。
嫌だな、こんな所で泣きたくないよ。

そこにジークさんの温もりを探して、私は髪留めに口付けた。

また頭を撫でて欲しい。
会いたいな、ジークさん・・・。

その瞬間、髪留めの石にバリッと電気のような強いエネルギーが集中し、一気に白い光が放たれた。
温かい光に魅入っていると、左眼がチカチカし出した。

ああ、ジークさんが近くに居ると感じる、懐かしい左眼の疼きだ。

「・・・ジークさん?」

目の前の光の中に、側に居て欲しい人の名を呼んでみる。
すると、それに応えるように光は揺らいだ。

『ルナ?!』

それは身体の芯に響く、今一番に聴きたかった声だった。
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