81 / 96
皇帝の最後
しおりを挟む
赤黒い靄が晴れ、目の前には黄金色の眼を持つあの黒竜さんの漆黒のお顔があった。
凛とした美しい黒竜さんの瞳を覗き込む。
「ジークさん?」
『・・・痛むか?』
気遣うジークさんの声に安堵する。
私は黒竜さんの鼻に抱き着いた。
ああ、やっとジークさんに会えた。
良かった。
ちゃんと心があるジークさんだ。
「大丈夫です。ジークさんは大丈夫でしたか?辛そうにしていたけれど・・・?」
黒竜さんの鼻を撫でながら、金眼に視線を合わせる。
『大丈夫だ。・・・よく頑張ったな』
そう言って黒竜さんは眼を伏せた。
優しい言葉に泣きそうになる。
うん、がんばった。
何度も死にかけたけど、今、私、ちゃんと生きてる。
生きて、こうしてジークさんと再会できたよ。
始祖竜さん、ありがとう、願いを聞いてくれて。
黒竜さんの鼻に頬を擦り寄せると、グルグルと喉を鳴らす音が聞こえた。
ジークさんも安心してくれたのかな?
良かった、良かった、・・・?
・・・!!
いや、ぜんっぜん良くなかった、汗!
敵はまだ居るのだ。
こんなに寛いでいる場合では無い。
私は慌てて黒竜さんの指の隙間から下を覗き込んだ。
黒竜さんの足元で、首を無くした妖魔術師の身体を踏みつける銀狼さんがこちらを見上げていた。
『ルナ!大丈夫か?!』
??!
この声は・・・!
「毒ちゃん?!毒ちゃんなのっ?」
私の声に、銀狼さんは遠吠えで応えた。
『カエルの身体が事切れる直前、温かな闇の魔力に包まれるのを感じた。気付いたらこの身体に入っていたのだ』
毒ちゃんが生きていてくれた!
良かった、本当に良かったよ、・・・まだ敵は残っているけれど、泣。
『魔獣の本能で、この妖魔術師の首を喰らったが、我はあまり好きになれん味だ』
銀狼さんの眉間に皺が寄って、何か歯に挟まっているのか口を開けて顔を左右にイヤイヤ振っている。
不味いながらも毒ちゃんが食べてくれたお陰で、妖魔術師は今度こそ動かなくなった。
「毒ちゃんが助けてくれたから私、生きてるよ!ありがとう、毒ちゃん」
銀狼さんへ手を振ろうとして黒竜さんの指から乗り出したその時、テラス席から不気味な笑い声が広場に響いてきた。
「良くやったジークバルトよ!そうだ、これを待っていたのだ!そう、この時を!」
ひとり大笑いする皇帝を、私は黒竜さんの掌の上に座って白い目で眺めた。
もしかして、この人、この黒竜さんが怨嗟竜だと思っているのか?
「さあ、ジークよ、思うがままにこの世を蹂躙するが良い!お前の望む世界の終焉を見せてやるのだ!」
そう言えば、第一皇子も一人で盛り上がっていた。
独りよがりなのは皇族の血筋か?
寡黙なジークさんはもちろん違うけれど。
私は黒竜さんの顔を見上げた。
「ジークさん、あの人、どうしよう・・・?」
殴れば元に戻るものなのか?
黒竜さんは大きなお顔で大きな溜息を吐いた。
『救いようが無いな・・・。あのまま野放しにも出来まい』
「私が殴って来ましょうか?」
『いや、また魔眼を使ってくると面倒だ』
「ジークさんが手を挙げる程の価値も無いヤツです。私が殴って気絶させます」
ジークさんの親と知りつつも、これまでの仕打ちに業腹ものの私は殴る気満々だ。
黒竜さんの金眼が穏やかに私を見下ろす。
『大丈夫だ』
そう言って私を銀狼さんの傍らにそっと下すと、黒竜さんはテラス席の皇帝に向き直った。
広場を震わす咆哮を一度轟かせると、翼を羽ばたかせ黒竜さんは目の高さに居る皇帝の元に飛んだ。
強風に煽られ腕で顔を覆う皇帝を鷲掴みにした黒竜さんは、私たちの居る舞台までまた戻って来た。
「何をしている?!早くこの娘を殺さぬか!」
皇帝の言葉に黒竜さんの黄金眼が鋭く光った。
「ぐはっ!!」
黒竜さんが鷲掴みしている手に力を込めると、皇帝は悲鳴を上げて口から血を吐いた。
黒竜さんの頭上に赤黒い靄が渦巻き始める。
大丈夫、ジークさんは変わったりしない。
大丈夫。
『黙れ』
黒竜さんはそう言うと皇帝を自身の足元に放った。
かなりの高さから落下した皇帝は、骨の折れる鈍い音をさせて背中を舞台に打ちつけた。
「ぐうっ・・・」
苦しそうに喘ぐ声が聞こえるが、同情なんてしてやらない。
実の息子にして来た仕打ちや、毒ちゃんや銀狼さん、私にした事をチャラにしてやるには全く足りてない。
『愚かな男だ。死にたければ一人で逝くがいい。他のどんな存在も道連れにする事は許さん』
黒竜さん、いや、ジークさんが静かに怒りを滾らせた。
「・・・うぐっ、お前、は、なぜ狂わず、に居られ、るのか?」
痛みで顔を顰めながら皇帝が口を開いた。
『生憎、俺はお前と違ってこの世に恨みなど無いからな』
ジークさんの言葉に奴は表情が抜け落ちた顔で固まった。
ジークさんは無言で見下ろしている。
ゆっくり舞台から身体を起こした皇帝は、俯いたまま何かブツブツ言い始めた。
瞳は真っ黒で焦点が合わず、どこを見ているのか分からない。
すると、舞台袖の出入り口から大勢の声や軍靴の音が聞こえて来た。
振り向くと、剣や槍を手にした兵士の方々が、広場に隊列を組んで入って来るのが見えた。
うっ。
目の前には巨大な黒竜、そして銀の魔獣と共に立つ私の前に跪く皇帝。
こんな光景を見たら、帝国兵士の皆さんは私たちを、皇帝を襲っている慮外者と思うだろう。
私は無意識のうちに銀狼さんとなった毒ちゃんの後ろに隠れた。
『ルナ、大丈夫だ』
私の考えが分かったのか、ジークさんが少し可笑しそうに言った。
「閣下!ご無事ですか?!」
兵士の中からジークさんの副官ゼインさんが声を上げた。
黒竜さんとなったジークさんの足元に走り出ると、ゼインさんは一度頭を垂れてから顔を上げた。
『ご苦労。早かったな』
「デンゼルが口を割らなかった為、早々に禁呪を使い奴の行動歴から此処を割り出しました。お叱りは後に」
そう言ってゼインさんはまた頭を下げた。
『いや、寧ろ手柄だ。礼を言う』
ジークさんは愉快そうな声音だ。
「ヴェルツ嬢もご無事で何よりです」
すぐ傍にいる私に向き直り、ゼインさんは労いの声を掛けてくれた。
「ローウッドさまを始め、騎士の皆さま方がいらして下さって心強い限りですわ」
にっこり笑ってそう言うと、ゼインさんも私に向かって笑顔を返して来た。
「ヴェルツ嬢とは戦場でお会いする事が多いですな。どのような出で立ちであっても、ご令嬢は本当にお美しい」
眼からは血の混じった涙が流れ、顔は血と泥で汚れ、腕は血の滲む鉤爪の痕があり、ドレスは裂けて髪はボサボサ。
今の私のみすぼらしさと言ったら、とても世間の皆さまにお見せ出来るものではない。
この出で立ちのどの辺りが美しいのか?
こんなのが第三皇子の婚約者だと知ったら、兵士の皆さんは卒倒してしまうだろう、泣。
『ゼイン、揶揄うな』
「冗談ではありませんぞ。我ら武人の守り神、戦女神と崇められている事実を知らぬのは、ご当人と閣下だけです」
ジークさんが金眼を眇めて竜の姿で低く唸るも、ゼインさんは全く意に介する事なく笑っている。
夜会で見たふたりのやり取りを思い出して笑みが溢れる。
『ルナ!』
毒ちゃんの叫び声と共に、私の顔に影が掛かった。
ハッとして視線を移すと、跪いていた筈の皇帝が自身の腰に履いていた剣を抜いて私に飛びかかって来ていた。
奴の口元には理解できない悦びと、その真っ黒な瞳には狂気が踊っていた。
直ぐ隣りのゼインさんが反応するよりも早く、ジークさんの咆哮と共に、銀狼さんとなった毒ちゃんがその鉤爪で皇帝の身体を引き裂いた。
物凄い速さで飛んで来たジークさんの手に、私は攫われるように保護された。
皇帝は胸元の深く裂かれた傷から大量の血を流し、舞台上の首無し妖魔術師の身体の横に仰向けに倒れた。
「・・・す、べて、を、・・・壊し・・・」
言葉を言い終える前に、ゴボゴボと夥しい血を口から吐き、空を仰いだ黒い瞳は濁っていった。
そうして皇帝は、とうとう動かなくなった。
暫し、居合わせた者全てが、物音を立てず微動だにしなかった。
・・・おわった?
ほっと安堵の溜息と共に、兵士の皆さんから歓声が湧き起こってきた。
広場全体が歓喜で包まれる。
『ルナ、怪我は無いか?』
「大丈夫です。・・・これで、終わったのですかね?」
ジークさんの大きな掌から金眼を見上げる。
その瞳は複雑そうな色をしていた。
『そうだな・・・』
舞台の上に降り立ったジークさんは、血の海の中、倒れている自分の父親の姿を見て掠れた声で呟いた。
ジークさんの口から父親の話は聞いた事が無い。
複雑な親子関係だ。
だからこそ、今、思う事があるのだろう。
こんな終わり方で良かったのか、とか。
もっと互いの事を話せば良かったのか、とか。
憂いを帯びたジークさんの金眼を見ていると、この終わり方に感慨も何も無い、虚しさだけが感じられた。
凛とした美しい黒竜さんの瞳を覗き込む。
「ジークさん?」
『・・・痛むか?』
気遣うジークさんの声に安堵する。
私は黒竜さんの鼻に抱き着いた。
ああ、やっとジークさんに会えた。
良かった。
ちゃんと心があるジークさんだ。
「大丈夫です。ジークさんは大丈夫でしたか?辛そうにしていたけれど・・・?」
黒竜さんの鼻を撫でながら、金眼に視線を合わせる。
『大丈夫だ。・・・よく頑張ったな』
そう言って黒竜さんは眼を伏せた。
優しい言葉に泣きそうになる。
うん、がんばった。
何度も死にかけたけど、今、私、ちゃんと生きてる。
生きて、こうしてジークさんと再会できたよ。
始祖竜さん、ありがとう、願いを聞いてくれて。
黒竜さんの鼻に頬を擦り寄せると、グルグルと喉を鳴らす音が聞こえた。
ジークさんも安心してくれたのかな?
良かった、良かった、・・・?
・・・!!
いや、ぜんっぜん良くなかった、汗!
敵はまだ居るのだ。
こんなに寛いでいる場合では無い。
私は慌てて黒竜さんの指の隙間から下を覗き込んだ。
黒竜さんの足元で、首を無くした妖魔術師の身体を踏みつける銀狼さんがこちらを見上げていた。
『ルナ!大丈夫か?!』
??!
この声は・・・!
「毒ちゃん?!毒ちゃんなのっ?」
私の声に、銀狼さんは遠吠えで応えた。
『カエルの身体が事切れる直前、温かな闇の魔力に包まれるのを感じた。気付いたらこの身体に入っていたのだ』
毒ちゃんが生きていてくれた!
良かった、本当に良かったよ、・・・まだ敵は残っているけれど、泣。
『魔獣の本能で、この妖魔術師の首を喰らったが、我はあまり好きになれん味だ』
銀狼さんの眉間に皺が寄って、何か歯に挟まっているのか口を開けて顔を左右にイヤイヤ振っている。
不味いながらも毒ちゃんが食べてくれたお陰で、妖魔術師は今度こそ動かなくなった。
「毒ちゃんが助けてくれたから私、生きてるよ!ありがとう、毒ちゃん」
銀狼さんへ手を振ろうとして黒竜さんの指から乗り出したその時、テラス席から不気味な笑い声が広場に響いてきた。
「良くやったジークバルトよ!そうだ、これを待っていたのだ!そう、この時を!」
ひとり大笑いする皇帝を、私は黒竜さんの掌の上に座って白い目で眺めた。
もしかして、この人、この黒竜さんが怨嗟竜だと思っているのか?
「さあ、ジークよ、思うがままにこの世を蹂躙するが良い!お前の望む世界の終焉を見せてやるのだ!」
そう言えば、第一皇子も一人で盛り上がっていた。
独りよがりなのは皇族の血筋か?
寡黙なジークさんはもちろん違うけれど。
私は黒竜さんの顔を見上げた。
「ジークさん、あの人、どうしよう・・・?」
殴れば元に戻るものなのか?
黒竜さんは大きなお顔で大きな溜息を吐いた。
『救いようが無いな・・・。あのまま野放しにも出来まい』
「私が殴って来ましょうか?」
『いや、また魔眼を使ってくると面倒だ』
「ジークさんが手を挙げる程の価値も無いヤツです。私が殴って気絶させます」
ジークさんの親と知りつつも、これまでの仕打ちに業腹ものの私は殴る気満々だ。
黒竜さんの金眼が穏やかに私を見下ろす。
『大丈夫だ』
そう言って私を銀狼さんの傍らにそっと下すと、黒竜さんはテラス席の皇帝に向き直った。
広場を震わす咆哮を一度轟かせると、翼を羽ばたかせ黒竜さんは目の高さに居る皇帝の元に飛んだ。
強風に煽られ腕で顔を覆う皇帝を鷲掴みにした黒竜さんは、私たちの居る舞台までまた戻って来た。
「何をしている?!早くこの娘を殺さぬか!」
皇帝の言葉に黒竜さんの黄金眼が鋭く光った。
「ぐはっ!!」
黒竜さんが鷲掴みしている手に力を込めると、皇帝は悲鳴を上げて口から血を吐いた。
黒竜さんの頭上に赤黒い靄が渦巻き始める。
大丈夫、ジークさんは変わったりしない。
大丈夫。
『黙れ』
黒竜さんはそう言うと皇帝を自身の足元に放った。
かなりの高さから落下した皇帝は、骨の折れる鈍い音をさせて背中を舞台に打ちつけた。
「ぐうっ・・・」
苦しそうに喘ぐ声が聞こえるが、同情なんてしてやらない。
実の息子にして来た仕打ちや、毒ちゃんや銀狼さん、私にした事をチャラにしてやるには全く足りてない。
『愚かな男だ。死にたければ一人で逝くがいい。他のどんな存在も道連れにする事は許さん』
黒竜さん、いや、ジークさんが静かに怒りを滾らせた。
「・・・うぐっ、お前、は、なぜ狂わず、に居られ、るのか?」
痛みで顔を顰めながら皇帝が口を開いた。
『生憎、俺はお前と違ってこの世に恨みなど無いからな』
ジークさんの言葉に奴は表情が抜け落ちた顔で固まった。
ジークさんは無言で見下ろしている。
ゆっくり舞台から身体を起こした皇帝は、俯いたまま何かブツブツ言い始めた。
瞳は真っ黒で焦点が合わず、どこを見ているのか分からない。
すると、舞台袖の出入り口から大勢の声や軍靴の音が聞こえて来た。
振り向くと、剣や槍を手にした兵士の方々が、広場に隊列を組んで入って来るのが見えた。
うっ。
目の前には巨大な黒竜、そして銀の魔獣と共に立つ私の前に跪く皇帝。
こんな光景を見たら、帝国兵士の皆さんは私たちを、皇帝を襲っている慮外者と思うだろう。
私は無意識のうちに銀狼さんとなった毒ちゃんの後ろに隠れた。
『ルナ、大丈夫だ』
私の考えが分かったのか、ジークさんが少し可笑しそうに言った。
「閣下!ご無事ですか?!」
兵士の中からジークさんの副官ゼインさんが声を上げた。
黒竜さんとなったジークさんの足元に走り出ると、ゼインさんは一度頭を垂れてから顔を上げた。
『ご苦労。早かったな』
「デンゼルが口を割らなかった為、早々に禁呪を使い奴の行動歴から此処を割り出しました。お叱りは後に」
そう言ってゼインさんはまた頭を下げた。
『いや、寧ろ手柄だ。礼を言う』
ジークさんは愉快そうな声音だ。
「ヴェルツ嬢もご無事で何よりです」
すぐ傍にいる私に向き直り、ゼインさんは労いの声を掛けてくれた。
「ローウッドさまを始め、騎士の皆さま方がいらして下さって心強い限りですわ」
にっこり笑ってそう言うと、ゼインさんも私に向かって笑顔を返して来た。
「ヴェルツ嬢とは戦場でお会いする事が多いですな。どのような出で立ちであっても、ご令嬢は本当にお美しい」
眼からは血の混じった涙が流れ、顔は血と泥で汚れ、腕は血の滲む鉤爪の痕があり、ドレスは裂けて髪はボサボサ。
今の私のみすぼらしさと言ったら、とても世間の皆さまにお見せ出来るものではない。
この出で立ちのどの辺りが美しいのか?
こんなのが第三皇子の婚約者だと知ったら、兵士の皆さんは卒倒してしまうだろう、泣。
『ゼイン、揶揄うな』
「冗談ではありませんぞ。我ら武人の守り神、戦女神と崇められている事実を知らぬのは、ご当人と閣下だけです」
ジークさんが金眼を眇めて竜の姿で低く唸るも、ゼインさんは全く意に介する事なく笑っている。
夜会で見たふたりのやり取りを思い出して笑みが溢れる。
『ルナ!』
毒ちゃんの叫び声と共に、私の顔に影が掛かった。
ハッとして視線を移すと、跪いていた筈の皇帝が自身の腰に履いていた剣を抜いて私に飛びかかって来ていた。
奴の口元には理解できない悦びと、その真っ黒な瞳には狂気が踊っていた。
直ぐ隣りのゼインさんが反応するよりも早く、ジークさんの咆哮と共に、銀狼さんとなった毒ちゃんがその鉤爪で皇帝の身体を引き裂いた。
物凄い速さで飛んで来たジークさんの手に、私は攫われるように保護された。
皇帝は胸元の深く裂かれた傷から大量の血を流し、舞台上の首無し妖魔術師の身体の横に仰向けに倒れた。
「・・・す、べて、を、・・・壊し・・・」
言葉を言い終える前に、ゴボゴボと夥しい血を口から吐き、空を仰いだ黒い瞳は濁っていった。
そうして皇帝は、とうとう動かなくなった。
暫し、居合わせた者全てが、物音を立てず微動だにしなかった。
・・・おわった?
ほっと安堵の溜息と共に、兵士の皆さんから歓声が湧き起こってきた。
広場全体が歓喜で包まれる。
『ルナ、怪我は無いか?』
「大丈夫です。・・・これで、終わったのですかね?」
ジークさんの大きな掌から金眼を見上げる。
その瞳は複雑そうな色をしていた。
『そうだな・・・』
舞台の上に降り立ったジークさんは、血の海の中、倒れている自分の父親の姿を見て掠れた声で呟いた。
ジークさんの口から父親の話は聞いた事が無い。
複雑な親子関係だ。
だからこそ、今、思う事があるのだろう。
こんな終わり方で良かったのか、とか。
もっと互いの事を話せば良かったのか、とか。
憂いを帯びたジークさんの金眼を見ていると、この終わり方に感慨も何も無い、虚しさだけが感じられた。
1
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる