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怨嗟竜誕生
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「遺体を運び出せ」
ゼインさんに指示された兵士さん達が、6人がかりで血塗れの皇帝の身体を取り囲んだ。
大きなジークさんの掌から、じっとその光景を眺める。
黒い大判の布を何処からか持って来た兵士さんが、瞼の閉じ切っていない皇帝の顔にかけた。
布で覆われたその姿は、それが皇帝かどうかも分からなくなった。
いつ迄も眺めてはいられない。
私は運ばれる皇帝だった男の姿から視線を外した。
まさに、その時だった。
「うわああぁ!た、助けてくれーっ!!」
悲鳴が上がった方へ皆が振り返ると、兵士さんの1人が赤黒い蛸足に身体を羽交い締めにされていた。
蛸足を辿ると死んだ筈の妖魔術師の腹へと続き、引き摺られた兵士さんを見て皆恐怖で絶句した。
首の無い妖魔術師の腹に鋭利な牙を剥く大きな獣の口が出現し、兵士さんの頭を噛み砕き始めたのだ。
コイツ、死んで無い?!
『総員退避!!』
ジークさんの怒声と咆哮が重なった。
「騒ぐな!全員隊列を維持しながら退避しろっ!!」
皇帝の遺体をその場に残し、ゼインさんの指示に従い兵士さん達は舞台袖まで退いた。
妖魔術師はやはり不死者だったのか?
顔の無い妖魔術師の蛸足が蠢き、布の掛けられた皇帝の遺体に辿り着くと勢い良く飛び付いた。
黒い布の下で、骨まで噛み切っている様な不気味な音がする。
このままにしてはマズイ!
『ルナ、止せ!』
本能的に思った私は、ジークさんが止めるのも聞かず、光魔法を募らせ皇帝の亡骸を貪る妖魔術師目掛けて光り玉を投げつけた。
けれども、奴に届く前に、突然現れた黒雲の様な繭に妖魔術師は覆われ、光り玉は弾かれて霧散してしまった。
『・・・不味いな』
銀狼の毒ちゃんが呟いた。
黒い繭は雷を纏い、その頭上にも黒い雷雲を呼び寄せていた。
何が起こるのか分からないが、嫌な予感しかしない。
『総員建物から離れろ!!』
ジークさんの叫び声に続き、兵士さんの脱出をゼインさんが誘導する。
『ゼイン!ルナを連れて退避しろ!』
「はっ!」
「嫌です!!」
ゼインさんの返事と私の返事が重なった。
『ルナ!我儘は許さん!一刻を争う。言う通りにするんだ!』
「い・や・で・す!偶には私の言う事も聞いて!」
ジークさんは一度だって、最初から私の言う事なんか聞いた事ないじゃないか!
黄金の瞳で睨んでくるジークさんに、私も負けじと睨み返す。
強風が吹き付ける中、巨大な竜のジークさんと掌の上の蟻んこレベルの小っぽけな私で睨めっこだ。
簡単に折れてなんかやるもんか。
見た目に小っぽけでも、竜の守護者である私は彼にとって絶対に必要な筈なんだ。
後悔したくない。
だから、ジークさんと共に居る。
最後まで。
ふたり睨み合いの中、笑い出したのはゼインさんだった。
「私は命が惜しいので早々に退散します。後はお二人で心置きなく話し合って下さい」
そう言って暴風の中、ゼインさんは大笑いしながら広場の出口に姿を消した。
『ルナ・・・』
「私を怒らせる気ですか?」
そんな事したら、即婚約解消だ。
私の言葉にジークさんは大きな瞼を閉じた。
『ルナ、約束してくれ、危ない事はしないと』
「無理です。諦めて下さい」
私はジークさんの申し出に否を即答した。
その言葉を予想していただろうジークさんは、竜のお顔で器用に苦笑いした。
『ならば、全てが終わったら、俺の願いを一つ叶えて欲しい』
綺麗な金眼を見開いて私の眼を覗き込んで来る。
金の瞳の中に、幾つもの煌めきが見えるようだ。
頑として譲らない私に、何かひとつでも譲歩させたいのだろう。
全てが片付いて互いに命の安全が得られるなら、ひとつくらい願いを叶えてあげるなんて大した事では無い。
「交渉成立ですね」
にっこり笑ってジークさんに向かい拳を上げた。
それを見たジークさんがニヤリと笑った気がした。
バチバチと空気の爆ぜる音が続き、妖魔術師を覆う黒い繭はその大きさを増していった。
ジークさんが緩く握ってくれている掌の中で、私は身を縮めて事の成り行きを見守った。
台風並みの爆風が、広場の壁をメリメリと軋ませ抉り取っていく。
黒竜さんの身体に何か大きな物が当たったのか、私を守ってくれている手にも振動が伝わって来た。
『ジークさん、大丈夫?!』
『俺は大丈夫だ。じっとしていろ』
咄嗟に念話で呼びかけると、ジークさんは宥める様に答えてくれた。
そうだ!
毒ちゃんは?!
『毒ちゃん!どこ?!』
念話で叫ぶと、直ぐに返事が返って来た。
『ルナ、我は此処だ!自分の身を守れ!』
ジークさんの手に守られ眼を細めながらは辺りを見回す。
強風に瓦礫が飛ばされる中、テラス席に駆け上がっていた銀狼さんが見えた。
良かった、毒ちゃんも無事だ。
ホッとしたのも束の間、暗黒繭を取り巻く漆黒の靄から強いエネルギーを帯びた光の輪が湧き起こり、大気の焦げる匂いがして来た。
光の輪は次第に渦を巻ながら繭を何重にも取り巻き、やがて繭から外れ広場の天井に向けて勢い良く一直線に光の柱を放った。
?!
轟音と共に建物の天井が粉々に破壊され、光の柱は太陽にも似た明るさをもたらし四方に飛び散った。
あまりの眩しさに一瞬目を閉じる。
次の瞬間には全て暗闇となり、強烈な光の後、音までも飲み込んだ静寂が辺りを覆った。
破壊された天井の隙間から差す月光が一条、まるでスポットライトのように広場に落ちて光の輪を描いている。
その光の筋の奥、漆黒の闇の中に赤黒い2対の光が浮かび上がった。
静寂の中、黒竜さんが警戒の唸り声をあげる。
次の瞬間、地響きと共に聞いた事も無いような恐ろしい咆哮が広場に響き渡った。
舞台に落ちた光の輪を目指すように、深淵の暗闇から地響きと共に赤い眼を持つ岩山のような巨大な物体が近付いて来た。
立ち込める黒い靄を纏い月光の下に現れたのは、黒く緑色の岩にも似た鱗を持つ、あの竜眼で見た悍ましい竜だった。
ゼインさんに指示された兵士さん達が、6人がかりで血塗れの皇帝の身体を取り囲んだ。
大きなジークさんの掌から、じっとその光景を眺める。
黒い大判の布を何処からか持って来た兵士さんが、瞼の閉じ切っていない皇帝の顔にかけた。
布で覆われたその姿は、それが皇帝かどうかも分からなくなった。
いつ迄も眺めてはいられない。
私は運ばれる皇帝だった男の姿から視線を外した。
まさに、その時だった。
「うわああぁ!た、助けてくれーっ!!」
悲鳴が上がった方へ皆が振り返ると、兵士さんの1人が赤黒い蛸足に身体を羽交い締めにされていた。
蛸足を辿ると死んだ筈の妖魔術師の腹へと続き、引き摺られた兵士さんを見て皆恐怖で絶句した。
首の無い妖魔術師の腹に鋭利な牙を剥く大きな獣の口が出現し、兵士さんの頭を噛み砕き始めたのだ。
コイツ、死んで無い?!
『総員退避!!』
ジークさんの怒声と咆哮が重なった。
「騒ぐな!全員隊列を維持しながら退避しろっ!!」
皇帝の遺体をその場に残し、ゼインさんの指示に従い兵士さん達は舞台袖まで退いた。
妖魔術師はやはり不死者だったのか?
顔の無い妖魔術師の蛸足が蠢き、布の掛けられた皇帝の遺体に辿り着くと勢い良く飛び付いた。
黒い布の下で、骨まで噛み切っている様な不気味な音がする。
このままにしてはマズイ!
『ルナ、止せ!』
本能的に思った私は、ジークさんが止めるのも聞かず、光魔法を募らせ皇帝の亡骸を貪る妖魔術師目掛けて光り玉を投げつけた。
けれども、奴に届く前に、突然現れた黒雲の様な繭に妖魔術師は覆われ、光り玉は弾かれて霧散してしまった。
『・・・不味いな』
銀狼の毒ちゃんが呟いた。
黒い繭は雷を纏い、その頭上にも黒い雷雲を呼び寄せていた。
何が起こるのか分からないが、嫌な予感しかしない。
『総員建物から離れろ!!』
ジークさんの叫び声に続き、兵士さんの脱出をゼインさんが誘導する。
『ゼイン!ルナを連れて退避しろ!』
「はっ!」
「嫌です!!」
ゼインさんの返事と私の返事が重なった。
『ルナ!我儘は許さん!一刻を争う。言う通りにするんだ!』
「い・や・で・す!偶には私の言う事も聞いて!」
ジークさんは一度だって、最初から私の言う事なんか聞いた事ないじゃないか!
黄金の瞳で睨んでくるジークさんに、私も負けじと睨み返す。
強風が吹き付ける中、巨大な竜のジークさんと掌の上の蟻んこレベルの小っぽけな私で睨めっこだ。
簡単に折れてなんかやるもんか。
見た目に小っぽけでも、竜の守護者である私は彼にとって絶対に必要な筈なんだ。
後悔したくない。
だから、ジークさんと共に居る。
最後まで。
ふたり睨み合いの中、笑い出したのはゼインさんだった。
「私は命が惜しいので早々に退散します。後はお二人で心置きなく話し合って下さい」
そう言って暴風の中、ゼインさんは大笑いしながら広場の出口に姿を消した。
『ルナ・・・』
「私を怒らせる気ですか?」
そんな事したら、即婚約解消だ。
私の言葉にジークさんは大きな瞼を閉じた。
『ルナ、約束してくれ、危ない事はしないと』
「無理です。諦めて下さい」
私はジークさんの申し出に否を即答した。
その言葉を予想していただろうジークさんは、竜のお顔で器用に苦笑いした。
『ならば、全てが終わったら、俺の願いを一つ叶えて欲しい』
綺麗な金眼を見開いて私の眼を覗き込んで来る。
金の瞳の中に、幾つもの煌めきが見えるようだ。
頑として譲らない私に、何かひとつでも譲歩させたいのだろう。
全てが片付いて互いに命の安全が得られるなら、ひとつくらい願いを叶えてあげるなんて大した事では無い。
「交渉成立ですね」
にっこり笑ってジークさんに向かい拳を上げた。
それを見たジークさんがニヤリと笑った気がした。
バチバチと空気の爆ぜる音が続き、妖魔術師を覆う黒い繭はその大きさを増していった。
ジークさんが緩く握ってくれている掌の中で、私は身を縮めて事の成り行きを見守った。
台風並みの爆風が、広場の壁をメリメリと軋ませ抉り取っていく。
黒竜さんの身体に何か大きな物が当たったのか、私を守ってくれている手にも振動が伝わって来た。
『ジークさん、大丈夫?!』
『俺は大丈夫だ。じっとしていろ』
咄嗟に念話で呼びかけると、ジークさんは宥める様に答えてくれた。
そうだ!
毒ちゃんは?!
『毒ちゃん!どこ?!』
念話で叫ぶと、直ぐに返事が返って来た。
『ルナ、我は此処だ!自分の身を守れ!』
ジークさんの手に守られ眼を細めながらは辺りを見回す。
強風に瓦礫が飛ばされる中、テラス席に駆け上がっていた銀狼さんが見えた。
良かった、毒ちゃんも無事だ。
ホッとしたのも束の間、暗黒繭を取り巻く漆黒の靄から強いエネルギーを帯びた光の輪が湧き起こり、大気の焦げる匂いがして来た。
光の輪は次第に渦を巻ながら繭を何重にも取り巻き、やがて繭から外れ広場の天井に向けて勢い良く一直線に光の柱を放った。
?!
轟音と共に建物の天井が粉々に破壊され、光の柱は太陽にも似た明るさをもたらし四方に飛び散った。
あまりの眩しさに一瞬目を閉じる。
次の瞬間には全て暗闇となり、強烈な光の後、音までも飲み込んだ静寂が辺りを覆った。
破壊された天井の隙間から差す月光が一条、まるでスポットライトのように広場に落ちて光の輪を描いている。
その光の筋の奥、漆黒の闇の中に赤黒い2対の光が浮かび上がった。
静寂の中、黒竜さんが警戒の唸り声をあげる。
次の瞬間、地響きと共に聞いた事も無いような恐ろしい咆哮が広場に響き渡った。
舞台に落ちた光の輪を目指すように、深淵の暗闇から地響きと共に赤い眼を持つ岩山のような巨大な物体が近付いて来た。
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