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始祖竜さんに説教
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黄金の瞳に虹色に輝く精悍な竜。
始祖竜さんに似た姿の竜に、ただ魅せられる。
『ルナの魔力で生まれた姿だ』
驚きで言葉を失っている私に、ジークさんの穏やかな声が聞こえて来た。
『まるで始祖竜さんみたいです』
ジークさんが笑った気がした。
『綺麗だ』
『はい。星の光で出来た湖なんて見た事ないですよね』
虹色の竜になったジークさんの首から顔を覗かせて、目の前に広がる湖を眺める。
星が落ちた真っ暗な空と対照的に、地上に出来た湖は下からライトが当てられているみたいに眩しく輝いている。
きっとここは、帝国の歴史上、伝説の場所になる。
若い人たちの間ではデートスポットになるかも知れない、笑。
『違う』
『は?』
新たな観光スポットに考えを巡らせていると、不意にジークさんの否定の声がした。
『湖じゃない』
『?』
へ?
これ、湖じゃ無いの?
『俺が言ったのはルナの事だ』
『私?』
『ルナが綺麗なんだ』
『は、あ、?わたし?』
私は目が点になった。
あちこち怪我と血と泥でグシャグシャの私が?
綺麗?
??
両手で自分の顔に触れる。
何だか鼻が長いし細長いヒゲがある・・・?
!!?
ひげっ?!
乙女の顔にヒゲはダメでしょう!!
どっ、どうしよう!?
私、オジサンになっちゃったのか、泣?
涙目で固まっていると、ジークさんが笑って私の頬に大きな竜の指を添えて来た。
『ああ、綺麗だ・・・。白い竜など見た事が無い』
?!
へっ??
竜なの?私が?!
身体を乗り出して湖面を覗き込む。
虹色をした竜の首に巻き付くようにして、白く小さな竜がちょこんと乗っている。
ジークさんの牙に触れる前に聞こえた、始祖竜さんの言葉。
白き竜。
私の事?・・・なの・・・?
勇壮なジークさんと比べると、ひょろっとしたトカゲのように見えなくもないが・・・泣?
『竜族は力を司る黒竜と癒しを司る白竜、二柱の竜神を崇め奉っていた。太古の昔、始祖竜が黒竜、白竜を従えていたと伝えられている』
そう言えば、バラーさまに会ったあの大神殿の大広間に竜神像があった。
陽の光が広がる祭壇に、向かい合わせになって天を仰ぐ白と黒の竜神。
静謐な美しい光景が胸に甦る。
竜神像に思いを馳せていると目の前の湖の光が、まるで銀河のように渦をつくりながら集まり出した。
中心が湖面から浮き上がり、渦の中心に集められた光で輝く星の如く球体を造った。
そして、一瞬大きく煌めき、光る球体の中心から虹色の大きな竜の顔が現れた。
『稀なる者たちよ、其方らの力でこの世の安寧が守られた。竜族の礎として感謝する』
厳かな始祖竜さんの言葉に、ジークさんがどう思ったのか気になり黒竜さんの顔を見上げる。
私の視線を捉えた金眼がフッと笑った。
眼を伏せて赤黒い靄を一瞬纏い、ジークさんは元の姿に戻った。
と、黒竜さんの首に巻き付いていた筈の私も急に重力を感じ、靄が晴れると同時にジークさんの首にしがみ付いた姿で元に戻った。
思わず手で髭が無いことを確認する。
良かった、髭は無い、汗。
その様子に、片手で私を抱っこするジークさんの口元が緩んだ。
「奴は、怨嗟竜は何処だ?」
厳しい顔で視線を戻したジークさんは、始祖竜の感謝の言葉には応えず、私も気になっていた事を口にした。
『この湖の底だ』
「生きているのか?」
『核となる其方の父親の生命力を食い尽くせば、やがて眠りにつく』
むっ。
まだ生きているのか。
「どのくらいで尽きるのか?」
『ものの数年だろう。原始の戒めに縛られ自由は利かぬ。星々が創り上げたこの湖は時空が異なる故、戒めが解けたとしても簡単にこの世界との往来は叶わぬ』
そうは言っても、この世界、抜け穴が多い気がする。
封印したつもりでも、いつ何時怨嗟竜が復活するか分からない。
そんな爆弾を、国民の皆さんが生活するこの地に安穏と置いていいものだろうか?
「ならば、今すぐに皇帝を屠る」
『急く事は無い。時が解決する』
「時間や他の者になど任せておけるか。いつ復活するか分からぬ化け物をこの地に留めるなど、この俺が許さん」
さすがヒーロー、さすがジークさん!!
そうだ、その通りだ。
始祖竜さんとのやり取りを聞いているうちに、私は段々と始祖竜さんに腹が立ってきた。
『案ずる事は無い。存在は時空を違えている上、やがて眠りにつくのだ。無理に核を器から離す事は無い』
「ちょーっと待ったーーっ!!」
及び腰の始祖竜さんに、とうとう私はブチ切れた。
「さっきから何故、傍観しようとするんです?貴方ほどの力が有るのならば、貴方が怨嗟竜ごと皇帝に引導を渡せばいいじゃないですか!そもそも、人族を騙し始めた竜族が諸悪の根源でしょうに!!そこに対する良心の呵責や責任を取る姿勢は無いんですか?」
私は始祖竜さんに向かって人差し指を突き付けながら捲し立てた。
ここまで色々とお願い事を聞いて貰ってきたが、それだって、元を正せば話を拗らせた竜族が悪いのだから、人族の私がわざわざ力を貸してあげた、というのが本当のところだ。
よって、始祖竜さんに貸しは有っても借りは無い、うん。
そう思ったら、何度も死にかけた事を思い出し、余計に腹が立ってきた。
譲ってやるもんかと、始祖竜さんを思いっきり睨む。
『我々竜族は古より血の盟約を交わしてきた。人族の命を無碍に奪いはせぬと』
「命を奪うという定義が分かりません。これだけルシュカン族を狂気に陥れ死に追いやってきたというのに、今更、皇帝を自らの手で葬る事を否とする姿勢に全く納得できません!間接的であれば幾らでも殺して良いという事?!そんな屁理屈、通るんですか?」
始祖竜さんも、諸悪の根源指摘に対して応えずに話題をはぐらかした。
竜毒さんの時もそうだったが、竜族ってホント不利と思われる事には触れずに話をすり替えるよな、怒。
その姿がずる賢いのだよ。
怒気も露わに言いたい事を並べ立てた私に、始祖竜さんは暫し黙り込んだ。
視線を逸らしてやるもんか。
私は当事者の一人だ。
怒る権利がある。
納得いく答えが返ってこなければ、何度でも怒鳴ってやる。
鼻息荒く始祖竜さんを睨み続けていると、ジークさんの大きな手が頭を撫でた。
「ルナの言う通りだ。散々ルシュカンを欺いておきながら、その言葉を理解しろと?」
『其方らに理解できずとも、これが理だ』
「違います!屁理屈です!」
「ならば、奴が存在する時空とやらに連れて行け。お前ら竜族の仕出かした事の後始末を、人族の俺がつけてやる。お前は指を加えて見ているのだな」
感情的な私とは違う冷静なジークさんの言葉に、再び始祖竜は沈黙した。
ジークさんと共に始祖竜さんを睨み続ける。
人族に貸しをつくりたくなかったのか、始祖竜さんが折れた。
『・・・良かろう。怨嗟竜から其方の父親を切り離してやる。後は其方の好きにするが良い』
「怨嗟竜はどうなる?」
『核を失えば、直ぐに崩れて消滅する』
「これで私たちにつくった貸しがチャラになると思わないでください」
私はジークさんと始祖竜さんの話に割って入った。
ここが肝心なのだ。
「元はと言えば、竜族がルシュカン族を騙したことから始まった災厄です。それに対する責任を、始祖竜の貴方は取らないのですか?」
何でもかんでも、我々人間にやらせる竜族にムカつく。
譲歩させる、必ず。
『・・・白竜の化身よ、何が望みだ』
表情の変わらない始祖竜さんが、欲しかった言葉を静かに口にした。
よし!
こちらは始祖竜さんの感情は読めないが、始祖竜さんは空気が読める。
私はジークさんの腕から降りて両の足で地面に立つと、背筋を伸ばして始祖竜さんを真っ直ぐ見据えた。
「ジークさんから竜毒を取り除いてください。貴方にはそれが出来る筈です」
竜族が始めたルシュカン族の悲劇を、ここで終わらせるのだ。
さあ、始祖竜さん、落とし前を付けてもらうぞ。
1ミリも譲らないと視線で訴えながら、私は始祖竜さんの言葉を待った。
過去に渡って皇太子から毒ちゃんを引っぺがした時も、毒ちゃんが銀狼さんの身体に取り込まれた時も、私は始祖竜さんにお祈りした。
多分、始祖竜さんの牙である竜牙剣が、刺さった私の身体に一部でも残っていて、その剣を通して始祖竜さんが願いを叶えてくれたんじゃないのかな?
つまり、始祖竜さんが万能だという事だ。
ジークさんの解呪だって出来る筈。
「ルナ」
ジークさんが何か言いかけたが、私は始祖竜さんを見たまま続けた。
「人にとって竜の魔力は毒であると伝えずに盟約を交わすなど、契約違反の何ものでもありません。それが貴方の言うところの理なんですか?」
これで解呪出来ないとか、先延ばしにするとか、そんな事言い始めたら、始祖竜さんであってもぐーパンチだ、怒。
始祖竜さんの眉間に皺が寄った気がした。
『竜の魔力を変化させる能力は我にあるのではない。其方、闇魔法使いの力にある。そして、娘よ、其方こそが、時始めに我の魔力から生まれた、闇の力を受け継ぐ者なのだ』
ふーむ。
回りくどい言い方をされても良く分からん。
「つまり、始祖竜さんには出来ないけれど、私には出来るって事ですか?」
『如何にも』
「では、やり方を教えてください」
むう。
始祖竜さんには解呪出来ないと言って来た。
腑に落ちない。
なら、始祖竜さんは何の為に存在するんだ?
『竜の魔力と意思を共有することだ。単に闇の力を持つ者では念話も難しい。だが、時始めの者は竜の魔力と意思の疎通を図る事が出来る』
え?
普通、竜毒さんと会話出来ないの?
竜の魔力、つまりは闇の力をもつジークさんにも聞こえないの?
横に立つジークさんを見上げる。
「竜毒の魔力を感じても話すことは出来ない。一度声が聞こえたが、それはルナが俺に力を与えてくれた時だけだ」
そう言って目尻を下げながら、ジークさんは指で私の唇を優しく撫でた。
!!
あの時の、アレ、ですか・・・汗。
またしても思い出して赤面する私に、ジークさんはちょっと嬉しそうだ。
『更に、其方は竜牙剣をその身に収める稀有な存在だ。我が半身を持って臨めば、原始の力に惹かれ魔力は動く。だが、竜の魔力の本質に反する事象は、原始の闇の力に魅了されようとも竜の魔力は従わぬ』
・・・。
難しい言葉の羅列につい無言になる。
どうしてこう、ややこしい言い回しばかり並べるのか。
脳みそのシワが少ない私には理解出来ない、むー。
「つまり、私が竜毒さんを説得すればいいって事ですかね?」
もっと簡潔明瞭に言えないものかね。
私は乱暴に話を区切った。
ジークさんに向き直り、胸の辺りに居るであろう竜毒1号さんを探そうと彼の胸に左手を翳した。
すると、ジークさんがその手を握り込んできた。
?
どうした、ジークさん?
顔を上げると、少し困ったような表情のジークさんと眼が合った。
「ルナ、俺はこのままでいい」
ジークさんの一言に私は呆然とした。
え?
何で?
だって、ずっと願って来たでしょう?
「だ、ダメですよ、ジークさん!ずっと苦しんで来たじゃないですか?!」
「いや、いいんだ」
「いいって、どうしてっ?!」
手を握られたまま、私はジークさんに詰め寄った。
あんな苦しそうなジークさんを、もう二度と見たくない。
その為に、ここまで頑張って来たのだ。
「ルナはドラゴンが好きなのだろう?俺から竜の魔力が無くなれば、ルナの好きなドラゴンになれない」
は?
何言ってんだ、コノヒト?
「ドラゴンになれなくっても、もう生命力を吸われて苦しむ事が無くなるんですよ?」
「俺は少しでもルナに好かれたい。だから、この魔力、竜毒を持ちながら生きていく」
私は絶句してしまった。
私に好かれたい?
そんな理由で?
そこに命を懸ける意味があるのか??
突然来る発作のようなあの狂気を、このまま受け入れると?
思わず眉間に寄った皺を揉み解した。
「そんな事しなくても、ジークさんの事はちゃんと好きですよ?だから聞き分けて、竜毒さんとお別れして下さい」
握り込んでいた私の手を離し、ジークさんは両腕で私を包み込んで来た。
「竜毒に生命力を吸われても、ルナが力を与えてくれるのだろう?」
甘い視線で見つめられ、私はつい仰け反ってしまった。
コノヒト、またアレをやれと言うのか、汗?!
「いやいや、いつも私が側に居るとは限りませんし、私が病気になったり、それこそ死んだりしたら何も出来ませんよ。ジークさんだって呪いを解いて欲しいと、協力して欲しいと言ってたじゃないですか?!」
私が必死に説得していると、ジークさんは再び私の手を握って跪いた。
「約束通りバケモノになどならなかった」
「はい。安心しました」
「俺の願いを叶えてくれるのだったな」
「え?解呪しないのが望みなんですか??」
「俺の願いはひとつだ。これから先、ルナと共に生きていく事、それだけだ」
・・・。
ジークさんの真剣な金の瞳に魅せられながら、私はまたもや絶句した。
言葉が出て来ない。
これは主従関係のお誘い?か?
それとも夫婦になろうというプロポーズなのか?
固まっている私に向けられていた黄金の瞳が愉快そうに細められた。
「愛している」
ジークさんが口にした言葉に、私は頭が真っ白になった。
始祖竜さんに似た姿の竜に、ただ魅せられる。
『ルナの魔力で生まれた姿だ』
驚きで言葉を失っている私に、ジークさんの穏やかな声が聞こえて来た。
『まるで始祖竜さんみたいです』
ジークさんが笑った気がした。
『綺麗だ』
『はい。星の光で出来た湖なんて見た事ないですよね』
虹色の竜になったジークさんの首から顔を覗かせて、目の前に広がる湖を眺める。
星が落ちた真っ暗な空と対照的に、地上に出来た湖は下からライトが当てられているみたいに眩しく輝いている。
きっとここは、帝国の歴史上、伝説の場所になる。
若い人たちの間ではデートスポットになるかも知れない、笑。
『違う』
『は?』
新たな観光スポットに考えを巡らせていると、不意にジークさんの否定の声がした。
『湖じゃない』
『?』
へ?
これ、湖じゃ無いの?
『俺が言ったのはルナの事だ』
『私?』
『ルナが綺麗なんだ』
『は、あ、?わたし?』
私は目が点になった。
あちこち怪我と血と泥でグシャグシャの私が?
綺麗?
??
両手で自分の顔に触れる。
何だか鼻が長いし細長いヒゲがある・・・?
!!?
ひげっ?!
乙女の顔にヒゲはダメでしょう!!
どっ、どうしよう!?
私、オジサンになっちゃったのか、泣?
涙目で固まっていると、ジークさんが笑って私の頬に大きな竜の指を添えて来た。
『ああ、綺麗だ・・・。白い竜など見た事が無い』
?!
へっ??
竜なの?私が?!
身体を乗り出して湖面を覗き込む。
虹色をした竜の首に巻き付くようにして、白く小さな竜がちょこんと乗っている。
ジークさんの牙に触れる前に聞こえた、始祖竜さんの言葉。
白き竜。
私の事?・・・なの・・・?
勇壮なジークさんと比べると、ひょろっとしたトカゲのように見えなくもないが・・・泣?
『竜族は力を司る黒竜と癒しを司る白竜、二柱の竜神を崇め奉っていた。太古の昔、始祖竜が黒竜、白竜を従えていたと伝えられている』
そう言えば、バラーさまに会ったあの大神殿の大広間に竜神像があった。
陽の光が広がる祭壇に、向かい合わせになって天を仰ぐ白と黒の竜神。
静謐な美しい光景が胸に甦る。
竜神像に思いを馳せていると目の前の湖の光が、まるで銀河のように渦をつくりながら集まり出した。
中心が湖面から浮き上がり、渦の中心に集められた光で輝く星の如く球体を造った。
そして、一瞬大きく煌めき、光る球体の中心から虹色の大きな竜の顔が現れた。
『稀なる者たちよ、其方らの力でこの世の安寧が守られた。竜族の礎として感謝する』
厳かな始祖竜さんの言葉に、ジークさんがどう思ったのか気になり黒竜さんの顔を見上げる。
私の視線を捉えた金眼がフッと笑った。
眼を伏せて赤黒い靄を一瞬纏い、ジークさんは元の姿に戻った。
と、黒竜さんの首に巻き付いていた筈の私も急に重力を感じ、靄が晴れると同時にジークさんの首にしがみ付いた姿で元に戻った。
思わず手で髭が無いことを確認する。
良かった、髭は無い、汗。
その様子に、片手で私を抱っこするジークさんの口元が緩んだ。
「奴は、怨嗟竜は何処だ?」
厳しい顔で視線を戻したジークさんは、始祖竜の感謝の言葉には応えず、私も気になっていた事を口にした。
『この湖の底だ』
「生きているのか?」
『核となる其方の父親の生命力を食い尽くせば、やがて眠りにつく』
むっ。
まだ生きているのか。
「どのくらいで尽きるのか?」
『ものの数年だろう。原始の戒めに縛られ自由は利かぬ。星々が創り上げたこの湖は時空が異なる故、戒めが解けたとしても簡単にこの世界との往来は叶わぬ』
そうは言っても、この世界、抜け穴が多い気がする。
封印したつもりでも、いつ何時怨嗟竜が復活するか分からない。
そんな爆弾を、国民の皆さんが生活するこの地に安穏と置いていいものだろうか?
「ならば、今すぐに皇帝を屠る」
『急く事は無い。時が解決する』
「時間や他の者になど任せておけるか。いつ復活するか分からぬ化け物をこの地に留めるなど、この俺が許さん」
さすがヒーロー、さすがジークさん!!
そうだ、その通りだ。
始祖竜さんとのやり取りを聞いているうちに、私は段々と始祖竜さんに腹が立ってきた。
『案ずる事は無い。存在は時空を違えている上、やがて眠りにつくのだ。無理に核を器から離す事は無い』
「ちょーっと待ったーーっ!!」
及び腰の始祖竜さんに、とうとう私はブチ切れた。
「さっきから何故、傍観しようとするんです?貴方ほどの力が有るのならば、貴方が怨嗟竜ごと皇帝に引導を渡せばいいじゃないですか!そもそも、人族を騙し始めた竜族が諸悪の根源でしょうに!!そこに対する良心の呵責や責任を取る姿勢は無いんですか?」
私は始祖竜さんに向かって人差し指を突き付けながら捲し立てた。
ここまで色々とお願い事を聞いて貰ってきたが、それだって、元を正せば話を拗らせた竜族が悪いのだから、人族の私がわざわざ力を貸してあげた、というのが本当のところだ。
よって、始祖竜さんに貸しは有っても借りは無い、うん。
そう思ったら、何度も死にかけた事を思い出し、余計に腹が立ってきた。
譲ってやるもんかと、始祖竜さんを思いっきり睨む。
『我々竜族は古より血の盟約を交わしてきた。人族の命を無碍に奪いはせぬと』
「命を奪うという定義が分かりません。これだけルシュカン族を狂気に陥れ死に追いやってきたというのに、今更、皇帝を自らの手で葬る事を否とする姿勢に全く納得できません!間接的であれば幾らでも殺して良いという事?!そんな屁理屈、通るんですか?」
始祖竜さんも、諸悪の根源指摘に対して応えずに話題をはぐらかした。
竜毒さんの時もそうだったが、竜族ってホント不利と思われる事には触れずに話をすり替えるよな、怒。
その姿がずる賢いのだよ。
怒気も露わに言いたい事を並べ立てた私に、始祖竜さんは暫し黙り込んだ。
視線を逸らしてやるもんか。
私は当事者の一人だ。
怒る権利がある。
納得いく答えが返ってこなければ、何度でも怒鳴ってやる。
鼻息荒く始祖竜さんを睨み続けていると、ジークさんの大きな手が頭を撫でた。
「ルナの言う通りだ。散々ルシュカンを欺いておきながら、その言葉を理解しろと?」
『其方らに理解できずとも、これが理だ』
「違います!屁理屈です!」
「ならば、奴が存在する時空とやらに連れて行け。お前ら竜族の仕出かした事の後始末を、人族の俺がつけてやる。お前は指を加えて見ているのだな」
感情的な私とは違う冷静なジークさんの言葉に、再び始祖竜は沈黙した。
ジークさんと共に始祖竜さんを睨み続ける。
人族に貸しをつくりたくなかったのか、始祖竜さんが折れた。
『・・・良かろう。怨嗟竜から其方の父親を切り離してやる。後は其方の好きにするが良い』
「怨嗟竜はどうなる?」
『核を失えば、直ぐに崩れて消滅する』
「これで私たちにつくった貸しがチャラになると思わないでください」
私はジークさんと始祖竜さんの話に割って入った。
ここが肝心なのだ。
「元はと言えば、竜族がルシュカン族を騙したことから始まった災厄です。それに対する責任を、始祖竜の貴方は取らないのですか?」
何でもかんでも、我々人間にやらせる竜族にムカつく。
譲歩させる、必ず。
『・・・白竜の化身よ、何が望みだ』
表情の変わらない始祖竜さんが、欲しかった言葉を静かに口にした。
よし!
こちらは始祖竜さんの感情は読めないが、始祖竜さんは空気が読める。
私はジークさんの腕から降りて両の足で地面に立つと、背筋を伸ばして始祖竜さんを真っ直ぐ見据えた。
「ジークさんから竜毒を取り除いてください。貴方にはそれが出来る筈です」
竜族が始めたルシュカン族の悲劇を、ここで終わらせるのだ。
さあ、始祖竜さん、落とし前を付けてもらうぞ。
1ミリも譲らないと視線で訴えながら、私は始祖竜さんの言葉を待った。
過去に渡って皇太子から毒ちゃんを引っぺがした時も、毒ちゃんが銀狼さんの身体に取り込まれた時も、私は始祖竜さんにお祈りした。
多分、始祖竜さんの牙である竜牙剣が、刺さった私の身体に一部でも残っていて、その剣を通して始祖竜さんが願いを叶えてくれたんじゃないのかな?
つまり、始祖竜さんが万能だという事だ。
ジークさんの解呪だって出来る筈。
「ルナ」
ジークさんが何か言いかけたが、私は始祖竜さんを見たまま続けた。
「人にとって竜の魔力は毒であると伝えずに盟約を交わすなど、契約違反の何ものでもありません。それが貴方の言うところの理なんですか?」
これで解呪出来ないとか、先延ばしにするとか、そんな事言い始めたら、始祖竜さんであってもぐーパンチだ、怒。
始祖竜さんの眉間に皺が寄った気がした。
『竜の魔力を変化させる能力は我にあるのではない。其方、闇魔法使いの力にある。そして、娘よ、其方こそが、時始めに我の魔力から生まれた、闇の力を受け継ぐ者なのだ』
ふーむ。
回りくどい言い方をされても良く分からん。
「つまり、始祖竜さんには出来ないけれど、私には出来るって事ですか?」
『如何にも』
「では、やり方を教えてください」
むう。
始祖竜さんには解呪出来ないと言って来た。
腑に落ちない。
なら、始祖竜さんは何の為に存在するんだ?
『竜の魔力と意思を共有することだ。単に闇の力を持つ者では念話も難しい。だが、時始めの者は竜の魔力と意思の疎通を図る事が出来る』
え?
普通、竜毒さんと会話出来ないの?
竜の魔力、つまりは闇の力をもつジークさんにも聞こえないの?
横に立つジークさんを見上げる。
「竜毒の魔力を感じても話すことは出来ない。一度声が聞こえたが、それはルナが俺に力を与えてくれた時だけだ」
そう言って目尻を下げながら、ジークさんは指で私の唇を優しく撫でた。
!!
あの時の、アレ、ですか・・・汗。
またしても思い出して赤面する私に、ジークさんはちょっと嬉しそうだ。
『更に、其方は竜牙剣をその身に収める稀有な存在だ。我が半身を持って臨めば、原始の力に惹かれ魔力は動く。だが、竜の魔力の本質に反する事象は、原始の闇の力に魅了されようとも竜の魔力は従わぬ』
・・・。
難しい言葉の羅列につい無言になる。
どうしてこう、ややこしい言い回しばかり並べるのか。
脳みそのシワが少ない私には理解出来ない、むー。
「つまり、私が竜毒さんを説得すればいいって事ですかね?」
もっと簡潔明瞭に言えないものかね。
私は乱暴に話を区切った。
ジークさんに向き直り、胸の辺りに居るであろう竜毒1号さんを探そうと彼の胸に左手を翳した。
すると、ジークさんがその手を握り込んできた。
?
どうした、ジークさん?
顔を上げると、少し困ったような表情のジークさんと眼が合った。
「ルナ、俺はこのままでいい」
ジークさんの一言に私は呆然とした。
え?
何で?
だって、ずっと願って来たでしょう?
「だ、ダメですよ、ジークさん!ずっと苦しんで来たじゃないですか?!」
「いや、いいんだ」
「いいって、どうしてっ?!」
手を握られたまま、私はジークさんに詰め寄った。
あんな苦しそうなジークさんを、もう二度と見たくない。
その為に、ここまで頑張って来たのだ。
「ルナはドラゴンが好きなのだろう?俺から竜の魔力が無くなれば、ルナの好きなドラゴンになれない」
は?
何言ってんだ、コノヒト?
「ドラゴンになれなくっても、もう生命力を吸われて苦しむ事が無くなるんですよ?」
「俺は少しでもルナに好かれたい。だから、この魔力、竜毒を持ちながら生きていく」
私は絶句してしまった。
私に好かれたい?
そんな理由で?
そこに命を懸ける意味があるのか??
突然来る発作のようなあの狂気を、このまま受け入れると?
思わず眉間に寄った皺を揉み解した。
「そんな事しなくても、ジークさんの事はちゃんと好きですよ?だから聞き分けて、竜毒さんとお別れして下さい」
握り込んでいた私の手を離し、ジークさんは両腕で私を包み込んで来た。
「竜毒に生命力を吸われても、ルナが力を与えてくれるのだろう?」
甘い視線で見つめられ、私はつい仰け反ってしまった。
コノヒト、またアレをやれと言うのか、汗?!
「いやいや、いつも私が側に居るとは限りませんし、私が病気になったり、それこそ死んだりしたら何も出来ませんよ。ジークさんだって呪いを解いて欲しいと、協力して欲しいと言ってたじゃないですか?!」
私が必死に説得していると、ジークさんは再び私の手を握って跪いた。
「約束通りバケモノになどならなかった」
「はい。安心しました」
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「え?解呪しないのが望みなんですか??」
「俺の願いはひとつだ。これから先、ルナと共に生きていく事、それだけだ」
・・・。
ジークさんの真剣な金の瞳に魅せられながら、私はまたもや絶句した。
言葉が出て来ない。
これは主従関係のお誘い?か?
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