乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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それから10日間、ジークさんと会う事はなかった。

政務で忙しいだけでなく避けられているのだろう。
ゼインさんが毎日のように来て、何処そこへ慰問や視察に連れ出してくれるので気は紛れているけれど。

日中は空元気で乗り切り、夜はひとり落ち込む毎日だ。
クロもニクスさんも毒ちゃんも、ゼインさんまでもそれが分かったのか、元気のない私を心配してくれる。

「ルナさま、お顔の色が優れませんが無理をなさっていらっしゃいませんか?」
「大丈夫です、お気になさらずに」
「帝都内とは言え、連日こうしてご足労頂いているのです。お疲れでしょう。明日以降の視察は日を改める事にしましょう」
「お気遣いありがとうございます。ですが、殿下の戴冠式までもう日がありません。それまでに、出来るだけ皆さんのお顔を拝見しておきたいのです」

そう、ジークさんが皇帝になる日まであと2日。
それまでに、少しでもジークさんの力になれる事だけはしていきたい。
それに、じっとしていると絶望感に囚われて真っ暗闇に落ちていきそうなのだ。

収監部屋に戻り、また悶々とする夜がやって来る。
毎日考えるのはジークさんの事ばかりだ。

今日も会えなかった。
いや、このまま顔を合わせず、言葉も交わさずにお別れした方が諦めもつくのでは?
そう思う心とは逆に、もう2度と会えなくなるのだから、やっぱり最後はぎゅっと抱きしめて後悔しないようにするべきだと考えたりもする。
会いたい、でも会ったら苦しくなる、だけど会えない事を考えたらやっぱり苦しくなってしまう。
・・・もう、堂々巡りだ。

『ねえ、どうしてご主人さまの側にいたくないのさ?』

ベッドの上で枕に顔を埋める私に、クロが念話で問いかける。
この10日間、ずっと聞かれている質問だ。

「クロとニクスさんは、ジークさんと繋がってるから言えない」
『あら、アタシたち口は堅いわよー』
『そうだよ、悩んでいるなら言った方がスッキリするよ』

クロとニクスさんが畳み掛けて来る。

『いつまでも悩むなど、ルナらしくない』

最近になって仔犬姿に擬態出来るようになった毒ちゃんが、柔らかい肉球の前脚で私の頭をポンポンしてくる。
皆んなに心配かけて申し訳ない、涙。

『ルナはジークが嫌いなのか?』

私は枕に顔を押し付けながら首を振った。

『ならば何が嫌なのだ?皇帝になるのが嫌なのか?』

肉球がポコポコ頭に当てられる。

「ジークさん以外に皇帝になって欲しくないよ」
『では何が嫌なのだ?』
「自分の我がままさが嫌なの・・・」
『何が我がままなのだ?』
「・・・」

皆んなの前でも言いたくない。
あのひと言が欲しいなんて・・・。

『あー、もう、情緒不安定も、いつまでも続くと気持ち悪いわよ!いい加減にしなさい!』

黙っている私にニクスさんがキレた。
私はモソモソと身体を起こしてベッドの上に座った。

「・・・だって、嫌われたくないんだもの」

つい小声になってしまう。

『だから何でよ?!』

キレたオバさん口調で美人さんが凄む。

「っ・・・、ジークさんに面倒な女だって思われたくない」
『既にアンタ、今、立派に面倒な女よ?!』
「うっ・・・」
『ハッキリしなさい!』
「ジークさんに言ったりしない?」
『アンタ次第よ!』
「じ、じゃあ、言わな・・・」
『ルナっ!』

うひ。
怒った美人さんのお顔は綺麗だけど凄みがある、汗。
緑の煌めく瞳を三角に釣り上げて、室内に小さな竜巻を起こしたニクスさんは全身で怒りを露わにしている。
これ以上怒らせたら、もうお友達でいて貰えないかも知れない、涙。

「・・・ジークさんを独り占め出来ないのが嫌なの・・・」

私は仕方無く、自分の葛藤を打ち明け項垂れた。
竜巻が消えて嫌に静かだ。
皆んな呆れてしまっているのかな、泣。
恐る恐る顔を上げると、一人と2匹は眼をパチクリさせて私を見ていた。

う。
やっぱり阿呆なヤツと思われてそう・・・涙。

『何ソレ?すれば良いじゃない、独占?』
『ご主人さまは喜ぶと思うよ?』
『彼奴もルナを独占したいであろう?』

いやいや、一時の事ではないのよ?

「一生の事よ?ジークさんが皇帝になったら、沢山の奥さんやお妾さんが出来るのよ?その中の一人になるなんて嫌だもの。好きな人には私だけの人でいて欲しいもの」

私の発言に、やっぱり皆んなは眼を白黒させている。
この女心が通じないのか、大した事ではないと思っているのか、呆れているのか・・・涙。

『本人にそう言えばいいじゃないの』
「そんな事言って、独占欲の強い女だなんて思われたくないし、何より拒絶されたら立ち直れない・・・」

そう思ったら、自然に両眼に温かいモノが盛り上がってきた。

『アンタが言いにくいなら、アタシが伝えてあげるわ』
「だ、ダメですっ!」
『何でよ?』
「だって、ジークさんは理性的に考える人だから、皇帝となって国の為になる事を最優先にするから、私の事は後回しになるから、」
『だから何が言いたいのよ?!』

またもやキレ始めたニクスさんにタジタジになる。

「国の為に、政治的に必要であれば沢山の女性を迎える事も仕方無いし、これが政治だって言われたらそれまでだし・・・」
『アンタ、意外にウジウジする面倒な女だったのねぇ』
「だから言いたくなかったのに・・・」

黒猫のクロが膝に乗って小首を傾げる。

『ご主人さまに聞いてみればいいよ』
「だ、ダメよ!面倒な女だって間違いなく嫌がられるっ。とにかく!ジークさんが最高の皇帝になるには、こんなウダウダする女が嫁になってはダメなの!だから潔く国に帰るのよ!」
『その割には未練がましいな』

毒ちゃんの鋭い突っ込みに言葉がつかえてしまう。

「仕方ないでしょう、好きなんだもの・・・」

ジークさんを忘れるのは難しいと思う。
でも諦めなきゃ。
またしても項垂れた私に、緑の優しい風が頬を撫でた。

『最高の皇帝ねぇー。ジークはそんなモノに興味無いと思うけど?』

私も、もう、面倒な湿った女は飽き飽きだ。

「ニクスさん、お願いです。戴冠式が終わったら、私を帝国の外に飛ばして下さい。帝国の噂が聞こえない、遥か遠くがいいです」

セルバンでは近過ぎて、きっとジークさんの近況を嫌でも耳にしてしまうだろう。
それこそ、今度はどこそこのお姫さまをお嫁にもらったとか。
そんな事聞いた日には、何処までも深い穴に入って出て来られない、泣。

『ハイハイ。その時は、アンタの行きたい所に飛ばしてやるわよ』
「ありがとうございます・・・っ」

情けなくなって、私はとうとう泣き出した。
皆んな呆れながらも目尻を下げて、そんな私の頭を代わる代わる撫でてくれた。
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