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Ⅴ.背徳の墓標
酒豪ふたり
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「ログランドさん、お代わり下さい!」
「…あ」
セレンの声に、はっと我に返ったヴァルスは、ふと、異様な光景を見た気がして、瞬間、己が目を擦った。
あれからさほど時間も経っていないというのに、既にユイの足元には、片手程の酒瓶が空になって転がっている。
そして傍らのカウンターには、同じく空と化したカクテルのグラスが、所狭しと並んでいた。
これに、アルコールを口にしていた訳でもないのに、何となく悪酔いを覚えずにはいられなかったのは、ヴァルスだ。
それは酒場の主のログランドも同じだったのか、こめかみに血管を戦慄かせながら、当のザル二人に向かって呟く。
「…あなた方、店を潰すおつもりですか」
「そんなつもりは無い」
ユイがグラス片手に平然と答える。
そして6本めのボトルをログランドに頼んだ。
ログランドはさすがに閉口しつつも、それでも律儀に、ユイにボトルを渡す。
その傍らではセレンが、店のメニューを食い入るように見つめていた。
「…んー、じゃあ私は、メニューにあるカクテル、上から全部でお願いします」
「…、ヴァルス」
ログランドの表情は既に引きつっていた。
「ん?」
ヴァルスは何やら、嫌ぁな予感を覚えながらも問い返す。
「…早く二人を、魔公の元へ連れて行って貰えると有り難い」
今度は、このログランドの言い回しに引っかかったヴァルスが、顔をひきつらせる番だった。
「ちょっと待て、何で俺が──」
「まあ、あの二人を見る限りでは、お前は確かにお邪魔虫には違いないだろうが…」
背に腹は代えられないといった口調で呟いたログランドが、嘆息する。
「これから先、二人がああなった場合…
誰が歯止めをかける?」
「…あー…」
ヴァルスはがっくりと頭を抱えた。
「ったく…さっきの幹部同士の戦いにだけ首を突っ込んでおいて、後は傍観を通すつもりだったのに…
俺はあいつらの止め…否、お守り役かよ…」
「それに、また組織…というより総統が、新たな刺客を差し向けないとも限らないからな」
「…おーやおや」
ヴァルスの口元が、ゆるりと緩む。
「その口振り…語るに落ちたな。
ログランド、お前、何か知ってるな?
恐らくは次に放たれる刺客が誰であるか…とか」
「…情報など得なくとも、予測は付く。
次は間違いなく、幹部予備が出て来る」
「ああ…あの俺らに取って代わりたい奴らね」
ヴァルスは軽く頭を掻く。
しかしその様子には微塵の動揺もない。
「カードの連中は、下っ端なだけに幹部の地位を、虎視眈々と狙っているからな…
あいつら、血気盛んというか何というか…大人しくしているうちはいいんだけど、地位奪取に本腰を入れてきたら、俺としてはあまり関わり合いたくないね」
「…今、組織内の立場で危ういのは、ケイオスとゼオンの地位だ。
ユイ様とお前…二人が無事に戻ったということは、あの二人の以降の対処も、おしなべて知れる」
「…確かに。この機に、奴らに取って代わろうと考える奴も、決して少なくないだろうな」
ヴァルスは腕を組んで、少し考えた。
「…まあ、数では明らかに組織の方が上だし、戦うとなったら、セレンもユイに張り付いている訳にもいかないだろうし…
そうなるとセレンの護衛役が、どう転んでも必要になってくる訳か…」
「それに、例えユイ様がご自分の意志で組織を抜けられたとはいえ、現在まで、“当の総統ご自身が、ユイ様の地位を剥奪していない”。
…だから今回の場合は、“誰かが必ず、副総統を護らなければならない”」
「下っ端は、ユイが副総統だなんてこと、全く知らされも聞かされもしないだろうからな。
それに、セレンの件もある…か。いいよ、ログランド…
この件は、俺が引き受ける」
「こういう時だけは頼りになるな、ヴァルス」
「…その一言がなけりゃあ最高なんだけどね」
ヴァルスはひくりと口元を引きつらせた…が、会話が終わったことで、そのままユイとセレンの方に、何気なく向き直った瞬間。
あろうことかその口元だけではなく、その表情全体が引きつった。
「!な…何十杯飲んでるんだお前ら」
…ユイの足元には無数の酒瓶。
そしてセレンの目の前には、シャンパンタワーの如く、グラスが整然と積み重なっている。
「…ま、まさかこれ全部飲んだのか…!?」
さすがにヴァルスが強烈な目眩を覚えた。
それに、ユイは至極しれっとした表情で答える。
「まだまだ飲み足りないが?」
「そうね、まだ許容量の半分くらいかな」
セレンもそれに相槌を打つ。
ログランドは既に痛み始めた頭を押さえながらも、ひたすら酒瓶を片していた。
「…ヴァルス…」
「分かってる、ログランド…」
二人は顔を見合わせると、互いに、これ以上はない程に盛大な溜め息をついた。
「…あ」
セレンの声に、はっと我に返ったヴァルスは、ふと、異様な光景を見た気がして、瞬間、己が目を擦った。
あれからさほど時間も経っていないというのに、既にユイの足元には、片手程の酒瓶が空になって転がっている。
そして傍らのカウンターには、同じく空と化したカクテルのグラスが、所狭しと並んでいた。
これに、アルコールを口にしていた訳でもないのに、何となく悪酔いを覚えずにはいられなかったのは、ヴァルスだ。
それは酒場の主のログランドも同じだったのか、こめかみに血管を戦慄かせながら、当のザル二人に向かって呟く。
「…あなた方、店を潰すおつもりですか」
「そんなつもりは無い」
ユイがグラス片手に平然と答える。
そして6本めのボトルをログランドに頼んだ。
ログランドはさすがに閉口しつつも、それでも律儀に、ユイにボトルを渡す。
その傍らではセレンが、店のメニューを食い入るように見つめていた。
「…んー、じゃあ私は、メニューにあるカクテル、上から全部でお願いします」
「…、ヴァルス」
ログランドの表情は既に引きつっていた。
「ん?」
ヴァルスは何やら、嫌ぁな予感を覚えながらも問い返す。
「…早く二人を、魔公の元へ連れて行って貰えると有り難い」
今度は、このログランドの言い回しに引っかかったヴァルスが、顔をひきつらせる番だった。
「ちょっと待て、何で俺が──」
「まあ、あの二人を見る限りでは、お前は確かにお邪魔虫には違いないだろうが…」
背に腹は代えられないといった口調で呟いたログランドが、嘆息する。
「これから先、二人がああなった場合…
誰が歯止めをかける?」
「…あー…」
ヴァルスはがっくりと頭を抱えた。
「ったく…さっきの幹部同士の戦いにだけ首を突っ込んでおいて、後は傍観を通すつもりだったのに…
俺はあいつらの止め…否、お守り役かよ…」
「それに、また組織…というより総統が、新たな刺客を差し向けないとも限らないからな」
「…おーやおや」
ヴァルスの口元が、ゆるりと緩む。
「その口振り…語るに落ちたな。
ログランド、お前、何か知ってるな?
恐らくは次に放たれる刺客が誰であるか…とか」
「…情報など得なくとも、予測は付く。
次は間違いなく、幹部予備が出て来る」
「ああ…あの俺らに取って代わりたい奴らね」
ヴァルスは軽く頭を掻く。
しかしその様子には微塵の動揺もない。
「カードの連中は、下っ端なだけに幹部の地位を、虎視眈々と狙っているからな…
あいつら、血気盛んというか何というか…大人しくしているうちはいいんだけど、地位奪取に本腰を入れてきたら、俺としてはあまり関わり合いたくないね」
「…今、組織内の立場で危ういのは、ケイオスとゼオンの地位だ。
ユイ様とお前…二人が無事に戻ったということは、あの二人の以降の対処も、おしなべて知れる」
「…確かに。この機に、奴らに取って代わろうと考える奴も、決して少なくないだろうな」
ヴァルスは腕を組んで、少し考えた。
「…まあ、数では明らかに組織の方が上だし、戦うとなったら、セレンもユイに張り付いている訳にもいかないだろうし…
そうなるとセレンの護衛役が、どう転んでも必要になってくる訳か…」
「それに、例えユイ様がご自分の意志で組織を抜けられたとはいえ、現在まで、“当の総統ご自身が、ユイ様の地位を剥奪していない”。
…だから今回の場合は、“誰かが必ず、副総統を護らなければならない”」
「下っ端は、ユイが副総統だなんてこと、全く知らされも聞かされもしないだろうからな。
それに、セレンの件もある…か。いいよ、ログランド…
この件は、俺が引き受ける」
「こういう時だけは頼りになるな、ヴァルス」
「…その一言がなけりゃあ最高なんだけどね」
ヴァルスはひくりと口元を引きつらせた…が、会話が終わったことで、そのままユイとセレンの方に、何気なく向き直った瞬間。
あろうことかその口元だけではなく、その表情全体が引きつった。
「!な…何十杯飲んでるんだお前ら」
…ユイの足元には無数の酒瓶。
そしてセレンの目の前には、シャンパンタワーの如く、グラスが整然と積み重なっている。
「…ま、まさかこれ全部飲んだのか…!?」
さすがにヴァルスが強烈な目眩を覚えた。
それに、ユイは至極しれっとした表情で答える。
「まだまだ飲み足りないが?」
「そうね、まだ許容量の半分くらいかな」
セレンもそれに相槌を打つ。
ログランドは既に痛み始めた頭を押さえながらも、ひたすら酒瓶を片していた。
「…ヴァルス…」
「分かってる、ログランド…」
二人は顔を見合わせると、互いに、これ以上はない程に盛大な溜め息をついた。
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