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Ⅵ.因縁の魔窟
幹部に思う
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「いや、そうじゃなくて…」
ヴァルスは驚きが抜けないままに続ける。
「それって下手をすると、ロゼと総統を、同時に相手にするつもりだったって──」
「今の俺は、組織を抜けた身だからな」
ユイは然したる動じも見せずに呟く。
「…自分の意志で組織を潰そうとしている以上、その程度のリスクは、嫌でも背負うことになるだろう?」
「…、ねえ、ユイ」
ヴァルスが急に声のトーンを落としたことで、自然、ユイの表情には怪訝が混じる。
「今度は何だ?」
「ユイはさ… まだ自分が組織の副総統の位置にいるって…知ってるんだろ?」
「……」
これに対して、ユイは否定も肯定もしなかった。
しかしその沈黙を肯定と受け取ったヴァルスは、いよいよ声を低くして囁いた。
「──総統は、今だにユイ以外を副総統に据える気はないみたいだよ」
「…傍迷惑な話だな」
ユイは真実、興味が無さげにふい、と顔を背ける。
「いや、でもさ、だからこそロゼは本気で打って出ないってのも、あるんだと思うんだよ」
「…俺が潰せば同じことなのに、か?」
「まあね。あいつの総統への忠誠ぶりは、崇拝を通り越して狂信的だから」
「……」
「だから、ユイの見当とは真逆になるけど…総統が命令を下さない限り、ひょっとしたら、あいつは自分からは動かないかも…」
…そう、総統と同様、ロゼも今だ、ユイを副総統だと認めたままならば…
幹部クラスの自分(ロゼ)よりも位が上の副総統(ユイ)には、総統の命令がない限り、絶対的に手出しは出来ないはず──
「まあ、例え総統がけしかけたところで、お前ならロゼは簡単に倒せるだろうけど…
そうすると、総統と戦う時に余力が無くなるだろう?」
「…そうだな」
…総統の、あの魔力のキャパシティ。
あれはまともに見た者でなければ分からない。
力の予測など、つくはずもない。おおよそ桁が違う…どころの話ではないのだ。
それは彼が、若くしてあれだけの犯罪組織を纏めあげている、類い稀な手腕と能力が証明している。
「あの総統を相手にするつもりなら、余力は少しでも多く残しておいた方がいいだろうよ」
「そうだな。その意味では、お前がロゼの相手を買って出てくれて助かった」
ユイが珍しく素直に礼を言うと、ヴァルスは目に見えて変な顔をした。
「…どうしたのさユイ。熱でもあるの?
素直過ぎて気持ち悪いんだけど」
…次の瞬間、ヴァルスの顔は近くの壁に、深くめり込んでいた。
その周囲には、容赦なく蜘蛛の巣状の罅が入っている。
「……」
顔が壁に埋められたことで、ろくに言葉を発せないヴァルスは、こちらも次には、緩急をつけて壁から首を起こした。
「…何するんだよ、ユイ」
正直に言っただけなのに…と、後に続けようとしたヴァルスの呟きを、ユイの半眼が遮った。
「さすが腐っても幹部クラス。頑丈だな。
これなら手を抜く必要もなかったか」
「これで抜いてるっての?」
ヴァルスは壁の罅(ヒビ)を指差す。
これだけの強固な壁に、罅が入る程に顔を強打させられれば、普通の人間なら、間違いなく鼻の骨は折れ、最悪の場合、顔面の全てを骨折している。
「本気でやれば良かったか?」
ユイはまだまだ半眼を崩さない。
その、明らかに冗談の通じない様に、ヴァルスは不承不承、折れた。
「…分かったよ、俺が言い過ぎた。
けど、この壁の跡は…」
「それはレアン公爵の判断に任せる。
どちらにせよ、我々の仕業だということは容易に分かるだろうが… まあ、それを言うなら、あの部屋の大破も同じだからな」
「…、違いないね」
ヴァルスは驚きが抜けないままに続ける。
「それって下手をすると、ロゼと総統を、同時に相手にするつもりだったって──」
「今の俺は、組織を抜けた身だからな」
ユイは然したる動じも見せずに呟く。
「…自分の意志で組織を潰そうとしている以上、その程度のリスクは、嫌でも背負うことになるだろう?」
「…、ねえ、ユイ」
ヴァルスが急に声のトーンを落としたことで、自然、ユイの表情には怪訝が混じる。
「今度は何だ?」
「ユイはさ… まだ自分が組織の副総統の位置にいるって…知ってるんだろ?」
「……」
これに対して、ユイは否定も肯定もしなかった。
しかしその沈黙を肯定と受け取ったヴァルスは、いよいよ声を低くして囁いた。
「──総統は、今だにユイ以外を副総統に据える気はないみたいだよ」
「…傍迷惑な話だな」
ユイは真実、興味が無さげにふい、と顔を背ける。
「いや、でもさ、だからこそロゼは本気で打って出ないってのも、あるんだと思うんだよ」
「…俺が潰せば同じことなのに、か?」
「まあね。あいつの総統への忠誠ぶりは、崇拝を通り越して狂信的だから」
「……」
「だから、ユイの見当とは真逆になるけど…総統が命令を下さない限り、ひょっとしたら、あいつは自分からは動かないかも…」
…そう、総統と同様、ロゼも今だ、ユイを副総統だと認めたままならば…
幹部クラスの自分(ロゼ)よりも位が上の副総統(ユイ)には、総統の命令がない限り、絶対的に手出しは出来ないはず──
「まあ、例え総統がけしかけたところで、お前ならロゼは簡単に倒せるだろうけど…
そうすると、総統と戦う時に余力が無くなるだろう?」
「…そうだな」
…総統の、あの魔力のキャパシティ。
あれはまともに見た者でなければ分からない。
力の予測など、つくはずもない。おおよそ桁が違う…どころの話ではないのだ。
それは彼が、若くしてあれだけの犯罪組織を纏めあげている、類い稀な手腕と能力が証明している。
「あの総統を相手にするつもりなら、余力は少しでも多く残しておいた方がいいだろうよ」
「そうだな。その意味では、お前がロゼの相手を買って出てくれて助かった」
ユイが珍しく素直に礼を言うと、ヴァルスは目に見えて変な顔をした。
「…どうしたのさユイ。熱でもあるの?
素直過ぎて気持ち悪いんだけど」
…次の瞬間、ヴァルスの顔は近くの壁に、深くめり込んでいた。
その周囲には、容赦なく蜘蛛の巣状の罅が入っている。
「……」
顔が壁に埋められたことで、ろくに言葉を発せないヴァルスは、こちらも次には、緩急をつけて壁から首を起こした。
「…何するんだよ、ユイ」
正直に言っただけなのに…と、後に続けようとしたヴァルスの呟きを、ユイの半眼が遮った。
「さすが腐っても幹部クラス。頑丈だな。
これなら手を抜く必要もなかったか」
「これで抜いてるっての?」
ヴァルスは壁の罅(ヒビ)を指差す。
これだけの強固な壁に、罅が入る程に顔を強打させられれば、普通の人間なら、間違いなく鼻の骨は折れ、最悪の場合、顔面の全てを骨折している。
「本気でやれば良かったか?」
ユイはまだまだ半眼を崩さない。
その、明らかに冗談の通じない様に、ヴァルスは不承不承、折れた。
「…分かったよ、俺が言い過ぎた。
けど、この壁の跡は…」
「それはレアン公爵の判断に任せる。
どちらにせよ、我々の仕業だということは容易に分かるだろうが… まあ、それを言うなら、あの部屋の大破も同じだからな」
「…、違いないね」
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