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†双璧の闇†
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★☆★☆★
「…街外れなどに出かけたいとはな」
ライセを伴い、精の黒瞑界の中央区を抜けたカミュは、その足を北地区へと向けていた。
すると、その隣を無言のままに歩いていたライセが、ぴた、と足を止める。
それに気付いたカミュは、自らも足を止めると、息子の方へと向き直った。
「どうした、ライセ」
「…、父上は…」
その蒼の瞳によぎる不安の影。
それにカミュの双眸は自然、訝を帯びた。
ライセはそんなカミュの目を正面からは見られず、目を深く伏せながら呟く。
「…父上は…まだ、母上を…」
「……」
カミュは答えない。
ただ、その雰囲気が気のせいではなく冷ややかに凍ったことを、ライセは直接は見ないながらも、その周囲を取り巻く空気から、的確に理解した。
「人間…に、毒を使うなって言ったのも…
…は、母上が…悲しむから…?」
…自然、ライセの問いは辿々しくなる。
ライセは、物心ついた頃から、母親は病気で亡くなった…つまり既に故人であると聞かされて育って来た。
──その母が拘りを見せたという、人間。
だからこそ、父親は…その口や態度でどう示そうと、本当は人間を殺める気など、まるで無いのではないか。
ライセの葛藤は懸念が全てだった。
しかし、そんなライセの問いを、カミュは冷笑を浮かべることで払拭させた。
「何を言うかと思えば、下らないことを…
人間とお前の母・唯香が一体、何の関係がある?」
「!? …で、でも父上、母上は──」
「ああ…己が立場を省みず、滑稽なまでに人間に拘っていたな。
…あいつの血統では…どれほど乞うても、染まれるものでも、なれるものでもないと言うのに」
ざっ、と音を立てて、カミュは、再び足を踏み出した。
いつの間にか茫然自失となっていたライセは、それによってようやく我に返る。
「ライセ、お前にもいずれ解る時が来る。
理解したなら、その時は止めはしない。
…人間共など、好きなだけ殺すがいい…」
消え入るように低い声ながらも、それに反して、ぞっとするような憎しみを最後に含ませたカミュの言葉に、ライセは我知らず背筋を震わせた。
…この尋常ではない憎悪は何なのだろう。
まるで、毒で殺すだけでは飽き足りないと言わんばかりの、この激しい憎しみは──
!?
…“毒で殺すだけでは飽き足りない”?
まさか、だから父親はあの時、自分を…
“止めたのか”!?
己が手を染めることも厭わずに。
ただひたすら、人間そのものに、その憎悪と嫌悪を露わにする。
そしてその事実が同時に、ライセの心に、ひとかけらの疑問を投げかけた。
(精の黒瞑界の皇子とは、本来がこう在らねばならないのか…
過去の流れからしても、父上が無意味な言動を取る事は、絶対に無いといっていい。
だとすれば、もしや…父上が拘っている、人間という存在そのものが──)
「……」
ライセは俯き加減になっていた顔をあげた。
母親が側に居ない、幼いライセにとっては、父親であるカミュの言葉こそが、まさに絶対。
「…人間は、父上にとっての憎悪の象徴…
ならば俺にとってもやはり人間は敵であり、忌むべき存在でしかない」
そうなると、殺すなという父上の意図は分からないが…という、後に続く言葉を飲み込んだライセの目の奥には、それまでには見られなかった、偏見という名の鈍い光が宿っていた。
…その歪んだ光を湛えたままのライセが、成長して双子の弟と相対し…
凛に、累世のことについて諭され、価値観を変えるのは──
その人間そのものに興味を示し、愛着を持つようになるのは…
まだ、先の話。
─完─
執筆開始日:2008/04/13
執筆終了日:2008/10/10
【後書き】
これはキリ番34000の時に頂いたリクエストです。
この短編に関しては、当時、本当の1ページ目に書いた文章が、内容の全てを物語っているかと思います。
その、当時の1ページ目を丸々、下に転記致します。
※自サイトでの執筆ということもあり、敬語でない点は、どうかご容赦下さい。
『本編でも記載した通り、隔てられて育てられた、精の黒瞑界の双子の皇子・ライセとルイセ。
父親であるカミュに、精の黒瞑界で育てられ、吸血鬼の本質を色濃く引き継いだ、兄であるライセ。
そして、母親である唯香に人間界で育てられ、人間としての情と誇りを強くその身に宿した、弟であるルイセ。
双子でありながら、育った環境の異なる二人は、その立場も、考え方も…
かつては何もかもが異なっていたのだ。
…そう、全ては二人が出会った、あの頃のように。
精の黒瞑界という闇に生きるライセ。
人間界という光の中に生きるルイセ。
その対極とも取れる、二人の生き様…
幼少時代の一部を、その目に、その感情に…
強く焼き付けてやろう』
…、なんとまあ、今読むと随分と癖が強… いやいや、ストレートな文章ですね(笑)。
とはいえ、自分の執筆力ではこれが限界なのですが、それでも、つかの間ながら楽しんで頂けるようであれば、こちらとしましても、エセ物書き冥利に尽きる次第です。
ここまでお読み下さいましてありがとうございます。
短編はまだストックはありますが、話の進行上、どうしても本編より間が開きますこと、ご理解頂ければ幸いです。
ではまた次作にて。
「…街外れなどに出かけたいとはな」
ライセを伴い、精の黒瞑界の中央区を抜けたカミュは、その足を北地区へと向けていた。
すると、その隣を無言のままに歩いていたライセが、ぴた、と足を止める。
それに気付いたカミュは、自らも足を止めると、息子の方へと向き直った。
「どうした、ライセ」
「…、父上は…」
その蒼の瞳によぎる不安の影。
それにカミュの双眸は自然、訝を帯びた。
ライセはそんなカミュの目を正面からは見られず、目を深く伏せながら呟く。
「…父上は…まだ、母上を…」
「……」
カミュは答えない。
ただ、その雰囲気が気のせいではなく冷ややかに凍ったことを、ライセは直接は見ないながらも、その周囲を取り巻く空気から、的確に理解した。
「人間…に、毒を使うなって言ったのも…
…は、母上が…悲しむから…?」
…自然、ライセの問いは辿々しくなる。
ライセは、物心ついた頃から、母親は病気で亡くなった…つまり既に故人であると聞かされて育って来た。
──その母が拘りを見せたという、人間。
だからこそ、父親は…その口や態度でどう示そうと、本当は人間を殺める気など、まるで無いのではないか。
ライセの葛藤は懸念が全てだった。
しかし、そんなライセの問いを、カミュは冷笑を浮かべることで払拭させた。
「何を言うかと思えば、下らないことを…
人間とお前の母・唯香が一体、何の関係がある?」
「!? …で、でも父上、母上は──」
「ああ…己が立場を省みず、滑稽なまでに人間に拘っていたな。
…あいつの血統では…どれほど乞うても、染まれるものでも、なれるものでもないと言うのに」
ざっ、と音を立てて、カミュは、再び足を踏み出した。
いつの間にか茫然自失となっていたライセは、それによってようやく我に返る。
「ライセ、お前にもいずれ解る時が来る。
理解したなら、その時は止めはしない。
…人間共など、好きなだけ殺すがいい…」
消え入るように低い声ながらも、それに反して、ぞっとするような憎しみを最後に含ませたカミュの言葉に、ライセは我知らず背筋を震わせた。
…この尋常ではない憎悪は何なのだろう。
まるで、毒で殺すだけでは飽き足りないと言わんばかりの、この激しい憎しみは──
!?
…“毒で殺すだけでは飽き足りない”?
まさか、だから父親はあの時、自分を…
“止めたのか”!?
己が手を染めることも厭わずに。
ただひたすら、人間そのものに、その憎悪と嫌悪を露わにする。
そしてその事実が同時に、ライセの心に、ひとかけらの疑問を投げかけた。
(精の黒瞑界の皇子とは、本来がこう在らねばならないのか…
過去の流れからしても、父上が無意味な言動を取る事は、絶対に無いといっていい。
だとすれば、もしや…父上が拘っている、人間という存在そのものが──)
「……」
ライセは俯き加減になっていた顔をあげた。
母親が側に居ない、幼いライセにとっては、父親であるカミュの言葉こそが、まさに絶対。
「…人間は、父上にとっての憎悪の象徴…
ならば俺にとってもやはり人間は敵であり、忌むべき存在でしかない」
そうなると、殺すなという父上の意図は分からないが…という、後に続く言葉を飲み込んだライセの目の奥には、それまでには見られなかった、偏見という名の鈍い光が宿っていた。
…その歪んだ光を湛えたままのライセが、成長して双子の弟と相対し…
凛に、累世のことについて諭され、価値観を変えるのは──
その人間そのものに興味を示し、愛着を持つようになるのは…
まだ、先の話。
─完─
執筆開始日:2008/04/13
執筆終了日:2008/10/10
【後書き】
これはキリ番34000の時に頂いたリクエストです。
この短編に関しては、当時、本当の1ページ目に書いた文章が、内容の全てを物語っているかと思います。
その、当時の1ページ目を丸々、下に転記致します。
※自サイトでの執筆ということもあり、敬語でない点は、どうかご容赦下さい。
『本編でも記載した通り、隔てられて育てられた、精の黒瞑界の双子の皇子・ライセとルイセ。
父親であるカミュに、精の黒瞑界で育てられ、吸血鬼の本質を色濃く引き継いだ、兄であるライセ。
そして、母親である唯香に人間界で育てられ、人間としての情と誇りを強くその身に宿した、弟であるルイセ。
双子でありながら、育った環境の異なる二人は、その立場も、考え方も…
かつては何もかもが異なっていたのだ。
…そう、全ては二人が出会った、あの頃のように。
精の黒瞑界という闇に生きるライセ。
人間界という光の中に生きるルイセ。
その対極とも取れる、二人の生き様…
幼少時代の一部を、その目に、その感情に…
強く焼き付けてやろう』
…、なんとまあ、今読むと随分と癖が強… いやいや、ストレートな文章ですね(笑)。
とはいえ、自分の執筆力ではこれが限界なのですが、それでも、つかの間ながら楽しんで頂けるようであれば、こちらとしましても、エセ物書き冥利に尽きる次第です。
ここまでお読み下さいましてありがとうございます。
短編はまだストックはありますが、話の進行上、どうしても本編より間が開きますこと、ご理解頂ければ幸いです。
ではまた次作にて。
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