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†星の幻夢†
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「…でも母上は、特別、精の黒瞑界自体に拘っている訳じゃないよね?
カミュ皇子や兄上たちの傍に居られれば、それでいいんだろう?」
「…え…」
何かを察した唯香が怯む。
それにレイセは、見せつけるように、その幼い手に蒼銀の魔力を集中させた。
「それなら、あんな世界は粉々に壊してしまえばいいよ。
その方が、母上も──」
「!嫌… やめて、レイセ!」
唯香はレイセの体全体を、縋るようにして更に強く抱きしめる。
…背後から、今だヴァルディアスに捕らわれたままで。
するとレイセは、何を思ったのか、唐突にその魔力を消し、一見、寂しげにも見える、極上の魔の笑みを垣間見せた。
「…母上、読んで欲しい本があるんだ…
読んでくれる?」
「…うん…」
唯香は悲しみに眉を顰め、ようやくそれだけを言うと、口元を手で覆った。
…泣きそうになる自分に、心の中で、必死に鞭をくれる。
──涙を見せる訳にはいかない。
泣いてしまえば、以降、精の黒瞑界に…
否、自らが守りたいと思う者たちに対して、レイセやヴァルディアスがどう出るか分からないから。
「…有難う、母上…
さあ、これが読んで欲しい本だよ」
唯香は、微かに震える手で、レイセが何処からか取り出した、黒い表紙の本を手に取った。
するとヴァルディアスが、音もなく唯香から離れた。
それと時を同じくして、レイセが唯香の膝に、座りこむ形で位置どる。
「…僕ね、ずっと母上にこうして欲しいと思っていたんだ。
母上はいつも、カミュ皇子や、兄上たちのことしか、気に掛けてくれないから…」
「!…レイセ…」
ぴた、と唯香の手の震えが止まる。
それを受けるようにして、傍観していたヴァルディアスが口を開いた。
「…だから先程言っただろう…
“レイセには母親が必要だ”と」
「……」
唯香は居たたまれずに黙り込む。
ヴァルディアスの指摘通り、自分が、形式にも近い上辺だけしか見えていなかったことに気付いたからだ。
…それは形だけのことではなく、レイセの感情面にも間違いなく、大きく影響する。
「…、ごめんね、レイセ…」
それが何に対しての謝罪なのか…
息子に憐れみと詫びを掛けているのかも分からないままに、唯香は言を洩らしていた。
…そして、自分から本を開き始める。
「…“王子様と女の子”」
タイトルを読み上げ、ぱら、と唯香はページを捲る。
どうやらこの本は、人間界でいうところの絵本のようなものに当たるらしく、1ページめには、それはそれは可愛らしい、王子様と女の子の絵が書かれていた。
いかにも絵本といった感じの、機械的ではない独特の人の温もり溢れるタッチに、唯香の表情には自然、微笑みが戻る。
一方、思わず顔が綻んだ唯香を、ヴァルディアスは安堵したように見つめた。
彼からしてみれば、いつまでもふさぎ込み、落ち込み悲しんでいる唯香を見ていることこそ忍びなかったのだ。
…それが例え傍から見て傲慢であろうと、唯香を得る為なら、そう思われるのも構わない。
“得たい者を得、奪いたい者を奪う”──
それが本来の、支配者たる者のあるべき姿なのだから。
「…“そこで王子様は、ぷんすか怒ると、女の子へと言い渡しました。
平民が、俺に触るな!”」
唯香の朗読が、静かな空間に響く。
その声は心なしか、次第に明るく、楽しげなものへと変化してきている。
「…?」
ヴァルディアスはそれを訝しんだ。
しかしそれと同時、ついに唯香が我慢ならなくなったらしく、先程の様相など陰もないままに、盛大に吹き出した。
カミュ皇子や兄上たちの傍に居られれば、それでいいんだろう?」
「…え…」
何かを察した唯香が怯む。
それにレイセは、見せつけるように、その幼い手に蒼銀の魔力を集中させた。
「それなら、あんな世界は粉々に壊してしまえばいいよ。
その方が、母上も──」
「!嫌… やめて、レイセ!」
唯香はレイセの体全体を、縋るようにして更に強く抱きしめる。
…背後から、今だヴァルディアスに捕らわれたままで。
するとレイセは、何を思ったのか、唐突にその魔力を消し、一見、寂しげにも見える、極上の魔の笑みを垣間見せた。
「…母上、読んで欲しい本があるんだ…
読んでくれる?」
「…うん…」
唯香は悲しみに眉を顰め、ようやくそれだけを言うと、口元を手で覆った。
…泣きそうになる自分に、心の中で、必死に鞭をくれる。
──涙を見せる訳にはいかない。
泣いてしまえば、以降、精の黒瞑界に…
否、自らが守りたいと思う者たちに対して、レイセやヴァルディアスがどう出るか分からないから。
「…有難う、母上…
さあ、これが読んで欲しい本だよ」
唯香は、微かに震える手で、レイセが何処からか取り出した、黒い表紙の本を手に取った。
するとヴァルディアスが、音もなく唯香から離れた。
それと時を同じくして、レイセが唯香の膝に、座りこむ形で位置どる。
「…僕ね、ずっと母上にこうして欲しいと思っていたんだ。
母上はいつも、カミュ皇子や、兄上たちのことしか、気に掛けてくれないから…」
「!…レイセ…」
ぴた、と唯香の手の震えが止まる。
それを受けるようにして、傍観していたヴァルディアスが口を開いた。
「…だから先程言っただろう…
“レイセには母親が必要だ”と」
「……」
唯香は居たたまれずに黙り込む。
ヴァルディアスの指摘通り、自分が、形式にも近い上辺だけしか見えていなかったことに気付いたからだ。
…それは形だけのことではなく、レイセの感情面にも間違いなく、大きく影響する。
「…、ごめんね、レイセ…」
それが何に対しての謝罪なのか…
息子に憐れみと詫びを掛けているのかも分からないままに、唯香は言を洩らしていた。
…そして、自分から本を開き始める。
「…“王子様と女の子”」
タイトルを読み上げ、ぱら、と唯香はページを捲る。
どうやらこの本は、人間界でいうところの絵本のようなものに当たるらしく、1ページめには、それはそれは可愛らしい、王子様と女の子の絵が書かれていた。
いかにも絵本といった感じの、機械的ではない独特の人の温もり溢れるタッチに、唯香の表情には自然、微笑みが戻る。
一方、思わず顔が綻んだ唯香を、ヴァルディアスは安堵したように見つめた。
彼からしてみれば、いつまでもふさぎ込み、落ち込み悲しんでいる唯香を見ていることこそ忍びなかったのだ。
…それが例え傍から見て傲慢であろうと、唯香を得る為なら、そう思われるのも構わない。
“得たい者を得、奪いたい者を奪う”──
それが本来の、支配者たる者のあるべき姿なのだから。
「…“そこで王子様は、ぷんすか怒ると、女の子へと言い渡しました。
平民が、俺に触るな!”」
唯香の朗読が、静かな空間に響く。
その声は心なしか、次第に明るく、楽しげなものへと変化してきている。
「…?」
ヴァルディアスはそれを訝しんだ。
しかしそれと同時、ついに唯香が我慢ならなくなったらしく、先程の様相など陰もないままに、盛大に吹き出した。
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