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†翼の回帰†
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「人間とは糧のみに留まらぬもの…
あの短命な種族が見せる生命の力、奇跡、そしてその強さを…あれがどのように捉え動くか。
その点に興味が尽きぬ」
「…しかし、サヴァイス様」
先を見据えたらしいミハイルが、進言しようと機を構える。
それをサヴァイスは察したのか、静かに瞬きをすることで了とした。
「…危惧しているか?」
「はい」
ミハイルは即答した。
皇帝の指摘、そして自分の危惧とは他でもない。
“レイヴァンが、人間に情を移したら?”
「杞憂だ。そして…それはそれで良い」
「!サヴァイス様…」
ミハイルは絶句した。
…本来ならば、精の黒瞑界の者は、その魔力や血統を絶やさぬよう、同世界の者と婚姻を結ばなければならない。
しかし過去、その絶対的な規律が、ただ一度だけ破られた。
唯一の例外中の例外のはずであった、皇帝自身の婚姻。
…あれ限りだと思っていた。
この世界の者と、人間が交わるのは…!
「そうは仰いましても、サヴァイス様!
レイヴァンのゼファイル家の血統は、この精の黒瞑界では、サヴァイス様の血統に次いで貴重なもの…
果たして人間などに、その血を担う大役が務まるものでしょうか?」
「……」
人間を卑下するというよりは、真にレイヴァンの身を案じた言動を取るミハイルに、サヴァイスは次の言を量りかねた。
…すると。
「気に病みすぎだろ、ミハイル…
そんなに気になるなら、あいつのお守りは俺がしてやるよ」
…そう不敵な言葉を掛け、ちゃり、と、金属が擦れるような音と共に、その場に足を踏み入れた青年。
茶の髪に、金と赤のオッドアイの瞳を持ち、装いの各所に極細の鎖を取り入れた出で立ちをした、活発かつ、粗野なイメージの男だ。
だがその双眼には、その口調とは裏腹に、油断なくも鋭い光が湛えられている。
その青年を一見したミハイルは、相手の姿を確認すると共に、瞬間的に声を上げた。
「…ゼルク!」
──そう、姿を見せたのは、現・六魔将の最高位にして、先程、二人の会話にも名の出た、ゼルク=ランドミリオンだった。
そのゼルクは、二人の元に歩を進めると、サヴァイスの前で、ぴたりとその足を止めた。
…反動で、身に付けている鎖がまたも、ちゃり、と乾いた音を立てる。
「サヴァイス様、あいつ…レイヴァンは、六魔将のうちのひとりです。
なら、やはり俺が監視するのが筋ってもんですよね?」
「…自ら動くか? 珍しいこともあるものよな」
サヴァイスが苦笑に近い笑みを見せると、ゼルクは、左耳に付けた複数のピアスから流れる鎖を、その左手でからかうように弄んだ。
「可愛い後輩の手に余るような試練には、先輩の隠れたバックアップは必須と判断しましたんで」
「…、見抜いていたか」
サヴァイスはその笑みを満足げなものへと変えた。
しかし、支配者であり、君主であるはずのサヴァイスを前にしても、そんな飄々とした様子を見せるゼルクに、やはりというべきかミハイルが噛みつく。
「ゼルク…主の実力は、サヴァイス様や我らも確かに認める所ではあるが…
その奔放さは何とかならないか?」
「…は。奔放も時には役立つこともあるってことだ」
ゼルクは左手を緩やかに落とした。
「お前も分かるだろう? ミハイル。
四六時中、この世界に引っ付くことを是とした六魔将など、未だかつて居なかったことを。
ましてやそれが六魔将の長ともなりゃ、敵の油断も自然と生まれるってもんだ」
「…成る程、とりあえず計算高くは考えているということか」
「…、いちいち一言余計なんだよお前は」
いみじくも的確な言に、ゼルクがさすがに半眼になる。
「…ま、とにかくそんな訳で、サヴァイス様」
「良かろう、ゼルク。…レイヴァンを影になり、時には日向になり、守るがいい」
「了承しました」
ゼルクは軽く頭を下げると、その場から退室しようと、もと来た方へと歩み出す。
…その手を、ミハイルが捕らえた。
「ゼルク」
「…んだよ、気に病むなっつったろ。
俺が数時、留守にしても、この世界は大丈夫だ…、大丈夫に決まってるだろう?
【煌雷(コウライ)】、お前が居るんだから」
「!」
その言葉に、確かな信頼感を感じたミハイルは、我知らずその手を話した。
ゼルクはそのまま、ふっ、と軽く微笑むと、
「じゃあな、後は頼んだ」
それだけを告げ、その空間を後にした。
後に残されたミハイルは、滅多に本音を洩らさないゼルクの吐露に、知らぬ間に目をぱちくりさせる。
「ゼルクが…まさか、あんなことを…」
「…あれは奔放なだけの男ではない。
それが良く分かったであろう?」
「…はい」
サヴァイスの示唆を耳にしながら、ミハイルは、深く、強くその意味を噛みしめていた。
…あれが六魔将の長。そしてレイヴァンもそう在らねばならない…
否、“そんな彼を超えなければならないのだ”…と。
あの短命な種族が見せる生命の力、奇跡、そしてその強さを…あれがどのように捉え動くか。
その点に興味が尽きぬ」
「…しかし、サヴァイス様」
先を見据えたらしいミハイルが、進言しようと機を構える。
それをサヴァイスは察したのか、静かに瞬きをすることで了とした。
「…危惧しているか?」
「はい」
ミハイルは即答した。
皇帝の指摘、そして自分の危惧とは他でもない。
“レイヴァンが、人間に情を移したら?”
「杞憂だ。そして…それはそれで良い」
「!サヴァイス様…」
ミハイルは絶句した。
…本来ならば、精の黒瞑界の者は、その魔力や血統を絶やさぬよう、同世界の者と婚姻を結ばなければならない。
しかし過去、その絶対的な規律が、ただ一度だけ破られた。
唯一の例外中の例外のはずであった、皇帝自身の婚姻。
…あれ限りだと思っていた。
この世界の者と、人間が交わるのは…!
「そうは仰いましても、サヴァイス様!
レイヴァンのゼファイル家の血統は、この精の黒瞑界では、サヴァイス様の血統に次いで貴重なもの…
果たして人間などに、その血を担う大役が務まるものでしょうか?」
「……」
人間を卑下するというよりは、真にレイヴァンの身を案じた言動を取るミハイルに、サヴァイスは次の言を量りかねた。
…すると。
「気に病みすぎだろ、ミハイル…
そんなに気になるなら、あいつのお守りは俺がしてやるよ」
…そう不敵な言葉を掛け、ちゃり、と、金属が擦れるような音と共に、その場に足を踏み入れた青年。
茶の髪に、金と赤のオッドアイの瞳を持ち、装いの各所に極細の鎖を取り入れた出で立ちをした、活発かつ、粗野なイメージの男だ。
だがその双眼には、その口調とは裏腹に、油断なくも鋭い光が湛えられている。
その青年を一見したミハイルは、相手の姿を確認すると共に、瞬間的に声を上げた。
「…ゼルク!」
──そう、姿を見せたのは、現・六魔将の最高位にして、先程、二人の会話にも名の出た、ゼルク=ランドミリオンだった。
そのゼルクは、二人の元に歩を進めると、サヴァイスの前で、ぴたりとその足を止めた。
…反動で、身に付けている鎖がまたも、ちゃり、と乾いた音を立てる。
「サヴァイス様、あいつ…レイヴァンは、六魔将のうちのひとりです。
なら、やはり俺が監視するのが筋ってもんですよね?」
「…自ら動くか? 珍しいこともあるものよな」
サヴァイスが苦笑に近い笑みを見せると、ゼルクは、左耳に付けた複数のピアスから流れる鎖を、その左手でからかうように弄んだ。
「可愛い後輩の手に余るような試練には、先輩の隠れたバックアップは必須と判断しましたんで」
「…、見抜いていたか」
サヴァイスはその笑みを満足げなものへと変えた。
しかし、支配者であり、君主であるはずのサヴァイスを前にしても、そんな飄々とした様子を見せるゼルクに、やはりというべきかミハイルが噛みつく。
「ゼルク…主の実力は、サヴァイス様や我らも確かに認める所ではあるが…
その奔放さは何とかならないか?」
「…は。奔放も時には役立つこともあるってことだ」
ゼルクは左手を緩やかに落とした。
「お前も分かるだろう? ミハイル。
四六時中、この世界に引っ付くことを是とした六魔将など、未だかつて居なかったことを。
ましてやそれが六魔将の長ともなりゃ、敵の油断も自然と生まれるってもんだ」
「…成る程、とりあえず計算高くは考えているということか」
「…、いちいち一言余計なんだよお前は」
いみじくも的確な言に、ゼルクがさすがに半眼になる。
「…ま、とにかくそんな訳で、サヴァイス様」
「良かろう、ゼルク。…レイヴァンを影になり、時には日向になり、守るがいい」
「了承しました」
ゼルクは軽く頭を下げると、その場から退室しようと、もと来た方へと歩み出す。
…その手を、ミハイルが捕らえた。
「ゼルク」
「…んだよ、気に病むなっつったろ。
俺が数時、留守にしても、この世界は大丈夫だ…、大丈夫に決まってるだろう?
【煌雷(コウライ)】、お前が居るんだから」
「!」
その言葉に、確かな信頼感を感じたミハイルは、我知らずその手を話した。
ゼルクはそのまま、ふっ、と軽く微笑むと、
「じゃあな、後は頼んだ」
それだけを告げ、その空間を後にした。
後に残されたミハイルは、滅多に本音を洩らさないゼルクの吐露に、知らぬ間に目をぱちくりさせる。
「ゼルクが…まさか、あんなことを…」
「…あれは奔放なだけの男ではない。
それが良く分かったであろう?」
「…はい」
サヴァイスの示唆を耳にしながら、ミハイルは、深く、強くその意味を噛みしめていた。
…あれが六魔将の長。そしてレイヴァンもそう在らねばならない…
否、“そんな彼を超えなければならないのだ”…と。
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