†血族たちの秘密†

如月統哉

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†翼の回帰†

レイヴァンと玲奈の馴れ初めの話

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★☆★☆★



お伽噺というものは、
必ず最後は幸せか不幸せかで終わる。



しかしそれはあくまで話としての終わり方というもので…
現実にはそうはっきりと区切りは付かなくていい。
そう思う。

…幸せなのにこしたことはないだろうが、それでも大抵の者が望むのは、不幸せよりはまだ、平凡な暮らしだろうから。


平凡な生活。
それは至極ありきたりなものだろう。
だが、その平凡は、手に入れるのは容易くとも、それを維持することは難しい。


どれほどに切望しようとも。


それでも平凡を求めるなら、
必ず何かを歪めなければならない。
自らや周囲を犠牲にしなければならない。
平定させておかなければならない…



──“それが前述の二択より、
遥かに難しいことが分かってはいても”。




★☆★☆★


「──人間の観察…ですか?」


…そう怪訝そうに、薄暗い空間で年若い声をあげたのは、六魔将に抜擢されてまだ年月の浅い、かのゼファイル家の後継…
レイヴァン=ゼファイルだった。

…今でこそレイヴァンといえば、六魔将のトップとして名高い、誰しもが認める実力者だが…
当時、彼と同時期に六魔将として属していたのは、今の六魔将ではフェンネルのみという、六魔将在籍の日の浅さからくる事実が、レイヴァンの隠されたその実力をも、ひっそりと覆い被していたのだ。

そして当時、六魔将として名を馳せていた中には、現・六魔将の紅一点である、サリア=マクレディの父親…
内々にレイヴァンの監視役をも任された、【煌雷(コウライ)】のミハイル=マクレディがいた。

そのミハイルは、今だ不思議そうな表情が抜けないレイヴァンを、半ば支える形にも近く、肩に手を置きながら主に問い返す。

「サヴァイス様、それはもしや…」
「さすがに見抜いているか、ミハイル」

言いながらも眼前の窓から、ゆるりと身を翻してサヴァイスは告げた。
同時に、その艶のある漆黒の美しい髪が、静かに揺れる。

「…レイヴァン」

無言のままに紫の視線を投げかけるサヴァイスに代わって、ミハイルが再び口を開いた。

「お前なら既に理解しているはずだ。
六魔将とは、その実力や魔力のみが全てではない。何よりも求められるのは、精神の強さや心の強さ…
お前が真に六魔将を名乗るに相応しいか否か、今一度、その身をもってサヴァイス様に示すのだな」
「……」

レイヴァンは、サヴァイスの視線に自らのそれを絡めた。
…じっとそのまま見つめても、サヴァイスの瞳が自分に動じて揺らぐことは、ただの一度たりとも無い。


強者の持つ、揺るがない信念を帯びた瞳。


その強さと美しさを確認したレイヴァンは、不意に頭を下げることでその視線を断ち切った。

「了解致しました、サヴァイス様」

承の言。
はっきりとした答えを聞いたミハイルが、満足気にレイヴァンの肩からその手を下ろした。
すると当のレイヴァンは、肩にミハイルの温もりを残したまま、再度サヴァイスへと会釈をすると、音もなくその空間から姿を消す。

…ややあって、ミハイルが楽しげにその口元に笑みを浮かべた。

「…サヴァイス様」
「ああ。…我はあれの成長が楽しみで仕方がない」

サヴァイスは珍しくも、それでいて凛とした笑みを見せると、近くにあった玉座にその体を落ち着けた。
その動きによって舞った髪や服が、再び元に還元した時。
ミハイルは改めて主を見やった。


…この精の黒瞑界の、絶対の君主。
長寿でありながらもそれを塵ほども窺わせない、瑞々しい若さと、全てを凌ぐ強大な魔力。
吸血鬼皇帝の異名がまさに相応しい、美貌の闇の王──


その美しくも形のよい唇が紐解かれる。

「…我に動じない不変の強さを持つ、あの少年…
さすがにかのゼファイル家の後継よな」
「…やはりレイヴァンをお試しになられていたのですね」

先程の相対を目の当たりにしたミハイルが、その笑みを苦笑へと変える。

「彼に人間への接触を試みさせた時点で、薄々は気付いていましたが…
サヴァイス様は相当にレイヴァンを買っておられる」
「…ああ。あれの強さは到底、魔力のみには留まらぬ。
我の意図する所を解し、見通し、それすらも己の知に転じようとする…」

サヴァイスは楽しげに天を仰いだ。

「実に忠実だ…自らの欲というものにな」
「…は」

ミハイルは一度、畏まった会釈をし、そしてすぐに顔を上げた。

「だが、ミハイルよ…気付いたか?」

言いながらも視線を配下に戻すサヴァイスの美しい瞳が、それとは対極に、一瞬、それのみで射殺せそうな闇の鋭さを見せた。
その鋭利さに伴われた指摘に、ミハイルは自然、口調をそれまでのものより固くする。

「はい。…感付く程度には、ですが」


「あれには決定的な感情が不足している。
…その感情なくして、次期・六魔将の長の座を…
ゼルクの後を継がせることは出来ん」


「!サヴァイス様…」

言うなりミハイルは絶句した。

…現在、六魔将にその名を連ねているはずのレイヴァン。
だが彼は現・六魔将の中では、まだ完全に駆け出し的な存在のはずだ。


──…既存の六魔将の面々の中では、未だひよっこにも等しいレイヴァンを。
この賢帝は、既に次代の六魔将の長として見ている。


それはサヴァイスの、物事の全てを看破する眼力故だろうが、そう言われてみるとミハイルには、納得の出来る事象がひとつだけあった。

「…成る程、だから人間を…」
「最も良い前例が、ここに居るであろう?」

サヴァイスは再び、それでも口元をほんの少し緩めるだけの微かな笑みを見せる。
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