43 / 63
†翼の回帰†
レイヴァンと玲奈の馴れ初めの話
しおりを挟む
★☆★☆★
お伽噺というものは、
必ず最後は幸せか不幸せかで終わる。
しかしそれはあくまで話としての終わり方というもので…
現実にはそうはっきりと区切りは付かなくていい。
そう思う。
…幸せなのにこしたことはないだろうが、それでも大抵の者が望むのは、不幸せよりはまだ、平凡な暮らしだろうから。
平凡な生活。
それは至極ありきたりなものだろう。
だが、その平凡は、手に入れるのは容易くとも、それを維持することは難しい。
どれほどに切望しようとも。
それでも平凡を求めるなら、
必ず何かを歪めなければならない。
自らや周囲を犠牲にしなければならない。
平定させておかなければならない…
──“それが前述の二択より、
遥かに難しいことが分かってはいても”。
★☆★☆★
「──人間の観察…ですか?」
…そう怪訝そうに、薄暗い空間で年若い声をあげたのは、六魔将に抜擢されてまだ年月の浅い、かのゼファイル家の後継…
レイヴァン=ゼファイルだった。
…今でこそレイヴァンといえば、六魔将のトップとして名高い、誰しもが認める実力者だが…
当時、彼と同時期に六魔将として属していたのは、今の六魔将ではフェンネルのみという、六魔将在籍の日の浅さからくる事実が、レイヴァンの隠されたその実力をも、ひっそりと覆い被していたのだ。
そして当時、六魔将として名を馳せていた中には、現・六魔将の紅一点である、サリア=マクレディの父親…
内々にレイヴァンの監視役をも任された、【煌雷(コウライ)】のミハイル=マクレディがいた。
そのミハイルは、今だ不思議そうな表情が抜けないレイヴァンを、半ば支える形にも近く、肩に手を置きながら主に問い返す。
「サヴァイス様、それはもしや…」
「さすがに見抜いているか、ミハイル」
言いながらも眼前の窓から、ゆるりと身を翻してサヴァイスは告げた。
同時に、その艶のある漆黒の美しい髪が、静かに揺れる。
「…レイヴァン」
無言のままに紫の視線を投げかけるサヴァイスに代わって、ミハイルが再び口を開いた。
「お前なら既に理解しているはずだ。
六魔将とは、その実力や魔力のみが全てではない。何よりも求められるのは、精神の強さや心の強さ…
お前が真に六魔将を名乗るに相応しいか否か、今一度、その身をもってサヴァイス様に示すのだな」
「……」
レイヴァンは、サヴァイスの視線に自らのそれを絡めた。
…じっとそのまま見つめても、サヴァイスの瞳が自分に動じて揺らぐことは、ただの一度たりとも無い。
強者の持つ、揺るがない信念を帯びた瞳。
その強さと美しさを確認したレイヴァンは、不意に頭を下げることでその視線を断ち切った。
「了解致しました、サヴァイス様」
承の言。
はっきりとした答えを聞いたミハイルが、満足気にレイヴァンの肩からその手を下ろした。
すると当のレイヴァンは、肩にミハイルの温もりを残したまま、再度サヴァイスへと会釈をすると、音もなくその空間から姿を消す。
…ややあって、ミハイルが楽しげにその口元に笑みを浮かべた。
「…サヴァイス様」
「ああ。…我はあれの成長が楽しみで仕方がない」
サヴァイスは珍しくも、それでいて凛とした笑みを見せると、近くにあった玉座にその体を落ち着けた。
その動きによって舞った髪や服が、再び元に還元した時。
ミハイルは改めて主を見やった。
…この精の黒瞑界の、絶対の君主。
長寿でありながらもそれを塵ほども窺わせない、瑞々しい若さと、全てを凌ぐ強大な魔力。
吸血鬼皇帝の異名がまさに相応しい、美貌の闇の王──
その美しくも形のよい唇が紐解かれる。
「…我に動じない不変の強さを持つ、あの少年…
さすがにかのゼファイル家の後継よな」
「…やはりレイヴァンをお試しになられていたのですね」
先程の相対を目の当たりにしたミハイルが、その笑みを苦笑へと変える。
「彼に人間への接触を試みさせた時点で、薄々は気付いていましたが…
サヴァイス様は相当にレイヴァンを買っておられる」
「…ああ。あれの強さは到底、魔力のみには留まらぬ。
我の意図する所を解し、見通し、それすらも己の知に転じようとする…」
サヴァイスは楽しげに天を仰いだ。
「実に忠実だ…自らの欲というものにな」
「…は」
ミハイルは一度、畏まった会釈をし、そしてすぐに顔を上げた。
「だが、ミハイルよ…気付いたか?」
言いながらも視線を配下に戻すサヴァイスの美しい瞳が、それとは対極に、一瞬、それのみで射殺せそうな闇の鋭さを見せた。
その鋭利さに伴われた指摘に、ミハイルは自然、口調をそれまでのものより固くする。
「はい。…感付く程度には、ですが」
「あれには決定的な感情が不足している。
…その感情なくして、次期・六魔将の長の座を…
ゼルクの後を継がせることは出来ん」
「!サヴァイス様…」
言うなりミハイルは絶句した。
…現在、六魔将にその名を連ねているはずのレイヴァン。
だが彼は現・六魔将の中では、まだ完全に駆け出し的な存在のはずだ。
──…既存の六魔将の面々の中では、未だひよっこにも等しいレイヴァンを。
この賢帝は、既に次代の六魔将の長として見ている。
それはサヴァイスの、物事の全てを看破する眼力故だろうが、そう言われてみるとミハイルには、納得の出来る事象がひとつだけあった。
「…成る程、だから人間を…」
「最も良い前例が、ここに居るであろう?」
サヴァイスは再び、それでも口元をほんの少し緩めるだけの微かな笑みを見せる。
お伽噺というものは、
必ず最後は幸せか不幸せかで終わる。
しかしそれはあくまで話としての終わり方というもので…
現実にはそうはっきりと区切りは付かなくていい。
そう思う。
…幸せなのにこしたことはないだろうが、それでも大抵の者が望むのは、不幸せよりはまだ、平凡な暮らしだろうから。
平凡な生活。
それは至極ありきたりなものだろう。
だが、その平凡は、手に入れるのは容易くとも、それを維持することは難しい。
どれほどに切望しようとも。
それでも平凡を求めるなら、
必ず何かを歪めなければならない。
自らや周囲を犠牲にしなければならない。
平定させておかなければならない…
──“それが前述の二択より、
遥かに難しいことが分かってはいても”。
★☆★☆★
「──人間の観察…ですか?」
…そう怪訝そうに、薄暗い空間で年若い声をあげたのは、六魔将に抜擢されてまだ年月の浅い、かのゼファイル家の後継…
レイヴァン=ゼファイルだった。
…今でこそレイヴァンといえば、六魔将のトップとして名高い、誰しもが認める実力者だが…
当時、彼と同時期に六魔将として属していたのは、今の六魔将ではフェンネルのみという、六魔将在籍の日の浅さからくる事実が、レイヴァンの隠されたその実力をも、ひっそりと覆い被していたのだ。
そして当時、六魔将として名を馳せていた中には、現・六魔将の紅一点である、サリア=マクレディの父親…
内々にレイヴァンの監視役をも任された、【煌雷(コウライ)】のミハイル=マクレディがいた。
そのミハイルは、今だ不思議そうな表情が抜けないレイヴァンを、半ば支える形にも近く、肩に手を置きながら主に問い返す。
「サヴァイス様、それはもしや…」
「さすがに見抜いているか、ミハイル」
言いながらも眼前の窓から、ゆるりと身を翻してサヴァイスは告げた。
同時に、その艶のある漆黒の美しい髪が、静かに揺れる。
「…レイヴァン」
無言のままに紫の視線を投げかけるサヴァイスに代わって、ミハイルが再び口を開いた。
「お前なら既に理解しているはずだ。
六魔将とは、その実力や魔力のみが全てではない。何よりも求められるのは、精神の強さや心の強さ…
お前が真に六魔将を名乗るに相応しいか否か、今一度、その身をもってサヴァイス様に示すのだな」
「……」
レイヴァンは、サヴァイスの視線に自らのそれを絡めた。
…じっとそのまま見つめても、サヴァイスの瞳が自分に動じて揺らぐことは、ただの一度たりとも無い。
強者の持つ、揺るがない信念を帯びた瞳。
その強さと美しさを確認したレイヴァンは、不意に頭を下げることでその視線を断ち切った。
「了解致しました、サヴァイス様」
承の言。
はっきりとした答えを聞いたミハイルが、満足気にレイヴァンの肩からその手を下ろした。
すると当のレイヴァンは、肩にミハイルの温もりを残したまま、再度サヴァイスへと会釈をすると、音もなくその空間から姿を消す。
…ややあって、ミハイルが楽しげにその口元に笑みを浮かべた。
「…サヴァイス様」
「ああ。…我はあれの成長が楽しみで仕方がない」
サヴァイスは珍しくも、それでいて凛とした笑みを見せると、近くにあった玉座にその体を落ち着けた。
その動きによって舞った髪や服が、再び元に還元した時。
ミハイルは改めて主を見やった。
…この精の黒瞑界の、絶対の君主。
長寿でありながらもそれを塵ほども窺わせない、瑞々しい若さと、全てを凌ぐ強大な魔力。
吸血鬼皇帝の異名がまさに相応しい、美貌の闇の王──
その美しくも形のよい唇が紐解かれる。
「…我に動じない不変の強さを持つ、あの少年…
さすがにかのゼファイル家の後継よな」
「…やはりレイヴァンをお試しになられていたのですね」
先程の相対を目の当たりにしたミハイルが、その笑みを苦笑へと変える。
「彼に人間への接触を試みさせた時点で、薄々は気付いていましたが…
サヴァイス様は相当にレイヴァンを買っておられる」
「…ああ。あれの強さは到底、魔力のみには留まらぬ。
我の意図する所を解し、見通し、それすらも己の知に転じようとする…」
サヴァイスは楽しげに天を仰いだ。
「実に忠実だ…自らの欲というものにな」
「…は」
ミハイルは一度、畏まった会釈をし、そしてすぐに顔を上げた。
「だが、ミハイルよ…気付いたか?」
言いながらも視線を配下に戻すサヴァイスの美しい瞳が、それとは対極に、一瞬、それのみで射殺せそうな闇の鋭さを見せた。
その鋭利さに伴われた指摘に、ミハイルは自然、口調をそれまでのものより固くする。
「はい。…感付く程度には、ですが」
「あれには決定的な感情が不足している。
…その感情なくして、次期・六魔将の長の座を…
ゼルクの後を継がせることは出来ん」
「!サヴァイス様…」
言うなりミハイルは絶句した。
…現在、六魔将にその名を連ねているはずのレイヴァン。
だが彼は現・六魔将の中では、まだ完全に駆け出し的な存在のはずだ。
──…既存の六魔将の面々の中では、未だひよっこにも等しいレイヴァンを。
この賢帝は、既に次代の六魔将の長として見ている。
それはサヴァイスの、物事の全てを看破する眼力故だろうが、そう言われてみるとミハイルには、納得の出来る事象がひとつだけあった。
「…成る程、だから人間を…」
「最も良い前例が、ここに居るであろう?」
サヴァイスは再び、それでも口元をほんの少し緩めるだけの微かな笑みを見せる。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる