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第一部【蠢く敵】
出会いは夜の森
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…とある森の奥深くで、焚き火をしている、ひとりの青年がいた。
青年といっても、まだ成り立てのようで、見た目で言えば少年に近い。
その青年の肩には、まるで小動物と見紛うばかりの、一匹の水色のドラゴンがとまっていた。
青年は、手にしていた小枝を無造作に折り、目の前の焚き火に放り込みながらも、静かに呟いた。
「…辺りもすっかり暗くなったし、そろそろ寝るか…」
…日が暮れたのと同時、周囲は、森であることも手伝って、すっかり薄暗くなっている。しかし、そんな中でも、その森の持つ美しさは、他国でも類を見ない。
青年はまた、静かに呟いた。
「ファルスは久しぶりに来たが…さすがに森と湖の国というだけのことはあって、綺麗な所だな。そうは思わないか? クレア」
言葉の最後は、肩にいるドラゴンに呼びかける。
これから判断するに、このドラゴンの名は、【クレア】というらしい。
すると、そのクレアが極めて唐突に、くいくいと青年の髪を牙で引いた。
「!痛っ! …ちょっと待て、クレア。お前、今はいくらちびバージョンだからといって、何かを教える時に、俺の髪の毛を引っ張るのはやめろ。癖が悪い」
青年がクレアを窘める。
…このクレアは、元々はそれなりの大きさを持つドラゴンであるが、その色を変化させ、尚且つ体を縮小出来る、便利な能力を有していた。
…そんな青年たちの背後から…
先程から、ごく微かではあるが、誰かが──それも複数で、草むらを掻き分けて近づいてくるような音が響いてきている。
クレアは敏感にも、それに気付いていたらしく、青年の髪をなおも強く引く。
ちくちくとしたその痛みに、さすがに青年は声を一段あげた。
「だから、痛いからやめろと言っているだろう! そんなに引っ張らなくても、お前の言いたいことくらい分かってる」
言いながら、青年は何かを警戒するように、傍らにあった剣を手に取り、抜いた。
…徐々に、草むらからの音がこちらに近づいてくる。
「!っ──きゃああぁあぁああっ!?」
…不意に、言葉の最後が疑問詞な悲鳴が聞こえてきた。
それに青年は、警戒していたはずの心境を通り越して、拍子抜けした。
「何だ…? あの奇声は…」
声だけ聞けば、猿にも似ていないことはない。
しかし、この場が森であることを差し引いても、こんな時間に、意味もなくこんな声をあげる猿など…いるわけもない。
それはつまり、他に人間がこの森にいるということになるのだろうが…
より一層近づいてくる草むらの音に、青年は油断なくそちらに目を向け続けた。
…すると。
がさがさと、これ以上なく大ざっぱに草むらを掻き分けて現れたのは、意外にも、こんな夜に出歩くには似つかわしくない風貌の少女だった。
青年が、場違いに現れた少女に、反射的にその目を向けると、少女は、かちりと視線を合わせてきた。
次には、天の助けと言わんばかりに駆け寄る。
「!ちょ、ちょっとそこの人っ! 暇なら見てないで助けてよ! か弱い女の子が、一生懸命逃げてるんだからっ!」
…きっぱり言い放った少女に、青年は些かの頭痛を覚えずにはいられなかった。
「見てないで助けて…って、誰がか弱いんだ…」
青年が半眼で呻いたのを合図にするかのように、次の瞬間、しんとした森の中に、複数の、柄の悪そうな怒声が響いた。
「こらてめえっ! ちょこまかと逃げ回るんじゃねえっ!」
「ガキのくせに、やたらてこずらせやがって! それ以上逃げ回るってんなら、問答無用でブッ殺すぞ!」
「しまいには、きつく吊し上げられないと分からないみたいねえっ!?」
そこに姿を見せたのは、男がふたり、女がひとりのトリオだ。
見た目からして関わり合いにはなりたくないタイプだと思いながらも、青年は律儀にも、少女に訊ねた。
「…おい…誰だ、こいつら?」
青年の問いには答えず、少女はお祈りさながらに手を組み、切々と情に訴える。
「ああ、勇敢な旅の御方! 貴方なら私を助けて下さるわよねっ! 不幸中の幸いなことに、剣も持っているみたいですしっ」
…これには、さすがに青年も関わり合いたくなくなってきたらしく、目に見えて眉を顰めた。
「その前に聞きたいところだな。一体何をやったんだ? お前。何でお前みたいな奴が、一流のハンターに追われてるんだ」
「…ほほぅ…、俺たちのことを“一流の”ハンターだと分かったか」
青年の知識を褒めちぎるかのように、ハンターのひとりが得意気になる。
すると少女は、そんな彼らに、ちらりと目を走らせた。
「だって、何だかお腹が空いたから、あの人たちの夕飯を…」
「まさか失敬した挙げ句、こんな所まで追いかけ回された…のか?」
青年が、その容姿に似合わず半眼で訊ねると、少女は目に見えて怯んだ。
「…そう」
「自業自得だ」
「なんでっ!?」
間髪入れずに答えた、容赦のない青年の発言に、少女は抱え込むように頭を押さえて天を仰いだ。
しかし、容赦がないのは青年だけではなかった。
ハンターたちは少女に、じり、と音を立ててにじり寄る。
それに少女が後ずさるより早く、ハンターのうちのひとりが、いきなり声を張り上げた。
「聞け青年! そもそも事の起こりは、そのガキがだなぁ…
俺たちの食事を、3人分全て平らげたことに端を発している!」
「!…3人分…!?」
青年は目に見えて眉を顰め、そのまま呆れたように少女を見やる。
これに、さすがに少女は早口に弁解した。
「!で、でもね、黙って食べたのは悪いと思ったから、ちゃあんと代わりのものを作っておいたのよ? 偉いでしょ!?」
青年といっても、まだ成り立てのようで、見た目で言えば少年に近い。
その青年の肩には、まるで小動物と見紛うばかりの、一匹の水色のドラゴンがとまっていた。
青年は、手にしていた小枝を無造作に折り、目の前の焚き火に放り込みながらも、静かに呟いた。
「…辺りもすっかり暗くなったし、そろそろ寝るか…」
…日が暮れたのと同時、周囲は、森であることも手伝って、すっかり薄暗くなっている。しかし、そんな中でも、その森の持つ美しさは、他国でも類を見ない。
青年はまた、静かに呟いた。
「ファルスは久しぶりに来たが…さすがに森と湖の国というだけのことはあって、綺麗な所だな。そうは思わないか? クレア」
言葉の最後は、肩にいるドラゴンに呼びかける。
これから判断するに、このドラゴンの名は、【クレア】というらしい。
すると、そのクレアが極めて唐突に、くいくいと青年の髪を牙で引いた。
「!痛っ! …ちょっと待て、クレア。お前、今はいくらちびバージョンだからといって、何かを教える時に、俺の髪の毛を引っ張るのはやめろ。癖が悪い」
青年がクレアを窘める。
…このクレアは、元々はそれなりの大きさを持つドラゴンであるが、その色を変化させ、尚且つ体を縮小出来る、便利な能力を有していた。
…そんな青年たちの背後から…
先程から、ごく微かではあるが、誰かが──それも複数で、草むらを掻き分けて近づいてくるような音が響いてきている。
クレアは敏感にも、それに気付いていたらしく、青年の髪をなおも強く引く。
ちくちくとしたその痛みに、さすがに青年は声を一段あげた。
「だから、痛いからやめろと言っているだろう! そんなに引っ張らなくても、お前の言いたいことくらい分かってる」
言いながら、青年は何かを警戒するように、傍らにあった剣を手に取り、抜いた。
…徐々に、草むらからの音がこちらに近づいてくる。
「!っ──きゃああぁあぁああっ!?」
…不意に、言葉の最後が疑問詞な悲鳴が聞こえてきた。
それに青年は、警戒していたはずの心境を通り越して、拍子抜けした。
「何だ…? あの奇声は…」
声だけ聞けば、猿にも似ていないことはない。
しかし、この場が森であることを差し引いても、こんな時間に、意味もなくこんな声をあげる猿など…いるわけもない。
それはつまり、他に人間がこの森にいるということになるのだろうが…
より一層近づいてくる草むらの音に、青年は油断なくそちらに目を向け続けた。
…すると。
がさがさと、これ以上なく大ざっぱに草むらを掻き分けて現れたのは、意外にも、こんな夜に出歩くには似つかわしくない風貌の少女だった。
青年が、場違いに現れた少女に、反射的にその目を向けると、少女は、かちりと視線を合わせてきた。
次には、天の助けと言わんばかりに駆け寄る。
「!ちょ、ちょっとそこの人っ! 暇なら見てないで助けてよ! か弱い女の子が、一生懸命逃げてるんだからっ!」
…きっぱり言い放った少女に、青年は些かの頭痛を覚えずにはいられなかった。
「見てないで助けて…って、誰がか弱いんだ…」
青年が半眼で呻いたのを合図にするかのように、次の瞬間、しんとした森の中に、複数の、柄の悪そうな怒声が響いた。
「こらてめえっ! ちょこまかと逃げ回るんじゃねえっ!」
「ガキのくせに、やたらてこずらせやがって! それ以上逃げ回るってんなら、問答無用でブッ殺すぞ!」
「しまいには、きつく吊し上げられないと分からないみたいねえっ!?」
そこに姿を見せたのは、男がふたり、女がひとりのトリオだ。
見た目からして関わり合いにはなりたくないタイプだと思いながらも、青年は律儀にも、少女に訊ねた。
「…おい…誰だ、こいつら?」
青年の問いには答えず、少女はお祈りさながらに手を組み、切々と情に訴える。
「ああ、勇敢な旅の御方! 貴方なら私を助けて下さるわよねっ! 不幸中の幸いなことに、剣も持っているみたいですしっ」
…これには、さすがに青年も関わり合いたくなくなってきたらしく、目に見えて眉を顰めた。
「その前に聞きたいところだな。一体何をやったんだ? お前。何でお前みたいな奴が、一流のハンターに追われてるんだ」
「…ほほぅ…、俺たちのことを“一流の”ハンターだと分かったか」
青年の知識を褒めちぎるかのように、ハンターのひとりが得意気になる。
すると少女は、そんな彼らに、ちらりと目を走らせた。
「だって、何だかお腹が空いたから、あの人たちの夕飯を…」
「まさか失敬した挙げ句、こんな所まで追いかけ回された…のか?」
青年が、その容姿に似合わず半眼で訊ねると、少女は目に見えて怯んだ。
「…そう」
「自業自得だ」
「なんでっ!?」
間髪入れずに答えた、容赦のない青年の発言に、少女は抱え込むように頭を押さえて天を仰いだ。
しかし、容赦がないのは青年だけではなかった。
ハンターたちは少女に、じり、と音を立ててにじり寄る。
それに少女が後ずさるより早く、ハンターのうちのひとりが、いきなり声を張り上げた。
「聞け青年! そもそも事の起こりは、そのガキがだなぁ…
俺たちの食事を、3人分全て平らげたことに端を発している!」
「!…3人分…!?」
青年は目に見えて眉を顰め、そのまま呆れたように少女を見やる。
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