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第一部【蠢く敵】
鈍いにも程がありすぎる
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【ファルス城・城門前】
「!ちょ、ちょっとシグマ、無茶だってば!」
ライムが前に回り込んでシグマを制しようとする。
対してシグマの方は、そんなライムの焦りなどどこ吹く風で、城門の方へと確実に歩を進めている。
もはやムンクの叫びと化したライムは、かさかさとシグマの前に回り込み、その道を遮る。
さすがにシグマが足を止めると、ライムは今にも噛みつきそうな勢いで喚いた。
「お城になんて、アポでもとってなきゃ、そうそう入れるはずがないでしょ! それを真っ正面から、突貫で行くつもりっ!?」
ライムの指摘は煩い上に容赦がない。
たまらずにシグマは眉をひそめた。
「何をそんなに騒いでいるのかは知らないが…」
「騒ぎたくもなるでしょ!? この状況を少しは考えなさいよ!
まあ、まだ門番にはバレてないからいいけど、って…」
「お前たち! そこで何をしている!」
言っていた矢先から門番に咎められ、ライムはより一層の焦りを露わにした。
「あぁあ…既にバレバレじゃない! どーすんのよ!」
「見慣れない顔だな。何処の者だ? 名を名乗れ!」
名前の通り、門を守る二人の番人にびしびしと責め立てられ、ライムはさすがに尻込みした。
「!あああ、あのいやその…あたしは一応、クライシス家の者なんですけど…」
…クライシス家は確かにファルスでは上流名門貴族の位置にいるが、もしかしたら得体の知れないこの二人と一緒では、信用されないかも知れない…
などと、ライムが己の性格をすっかり棚にあげて懸念していると、
「ライム、いいからもっと堂々としていろ。──リック!」
高らかに、シグマがリックの名を呼びつける。
それにリックは、軽い溜め息混じりに返事をした。
「…はいはい、やっぱこうなるか…」
「お前たち、アポイントメントは取ってあるんだろうな?」
門番が再び尋ねてくる。
“アポイントメント”、つまりこの場合は謁見予約のことだ。
そんなことを言われても、現在はしがない旅人に過ぎない自分たちが、そんな上等な手続きを取っているはずがない。
…必然的に、ライムが壊れた。
「!だぁあぁぁぁっ! だからとってる訳ないじゃないのっ!」
「そうか。だったら、また日を改めて…」
そう言いかけた門番を相手に、リックが興奮気味のライムを、片手で抑えながら言い放つ。
「──そこでこいつらを帰したら、お前らまとめて減給だぞ」
するとその一言に、門番たちのこめかみがぴくりと引きつった。
警護の為に手にしていた槍を、今にも突き出さんばかりの勢いで噛みつきにかかる。
「!何だと… んっ!? あ、貴方は…!」
門番たちは何故か、そう言ったリックの顔をしげしげと見つめる。
二人の脳が、それが誰であるかの認識を完了した後、二人は槍を構え直し、背筋をぴしりと伸ばしにかかった。
「フレデリック王子殿下っ!?」
…え…!?
…フレデリック…王…?
…誰が?
まさか──リックが!?
壊れていたライムの思考回路が、その単語を認知するのに、ややしばらくの時間を要した。
…そして、それがすっかりその脳に浸透した時。
「!え…えぇえぇぇっ!?」
ライムは抑揚に富んだ、奇妙な雄叫びをあげていた。
そんなライムの反応にはまるで構わず、リックはずい、と門番たちに詰め寄る。
それに門番たちは、たじろいで思わず後退した。
それを、もはや身元が割れたリックが、半眼になりかけた目で容赦なく睨む。
「お前ら、いくらアポがないとはいえ、よもや…俺の客人を無条件で追い出そうなんて考えちゃいないだろうな?」
「!めめめ、滅相もない!」
…自国の王子を相手にしての非礼。
その客人に対しての無礼。
いつ首が飛んでも不思議ではないこの状況下で…
それを察し、それ自体が現実として我が身に降りかかった門番たちは、顔色を赤にも青にも変えながら、ぶんぶんと首を左右に振った。
「た、大変失礼致しました! どうぞお通り下さい!」
「ああ。今回は大目にみてやるが…今後は気をつけろよ」
リックはいかにも王子らしく、配下の失態をたしなめる。
それに、門番たちは肝に銘じるように、はっきりと返答した。
「はいっ!」
「…という訳だ。中に入ろうぜ」
リックはそれ以上咎めることもなく、さらりと三人を城内に促す。
そこで先程からの様子に釈然としないままのライムが、早速リックに話しかけた。
「何が“という訳”なのかは知らないけど…納得いかないっ!
何で、リックが王子様なのよ!? これってどーゆーことなの!?
シグマ…あんた、何か知ってるでしょ!」
何となく予測はしていたものの、やはりと言うべきか矛先が完全にこちらに向いて、シグマは渋面で苦虫を噛み潰した。
…自国の王子の顔を知らないのか全く、という内心と共に。
「説明しなけりゃならないのは分かってるから、そういちいち突っ掛かるなよ。…あのな、“リック”っていうのは、俺が小さい頃にこいつに付けた、“フレデリック”の略称なんだ」
「ふーん… !でも、待ってよ…
だったら、シグマってどーゆー家柄なの!? 仮にも“ファルスの王子様”に、普通、略称なんか付けられるものなの!?」
ライムの驚きに、リックは鳩が豆鉄砲を食らったような表情を見せる。
「へっ? …何だよシグマ、まだ言ってなかったのか」
こうまで公然と連れ歩いているのだから、当然、ライムはシグマの身元を知っていると思っていた…という内面の心境をまともに顔に張り付けたリックに、クレアが苦笑しながら助け舟を出す。
「唐突なことで、単に言う暇がなかっただけのようだがな」
「!ちょ、ちょっとシグマ、無茶だってば!」
ライムが前に回り込んでシグマを制しようとする。
対してシグマの方は、そんなライムの焦りなどどこ吹く風で、城門の方へと確実に歩を進めている。
もはやムンクの叫びと化したライムは、かさかさとシグマの前に回り込み、その道を遮る。
さすがにシグマが足を止めると、ライムは今にも噛みつきそうな勢いで喚いた。
「お城になんて、アポでもとってなきゃ、そうそう入れるはずがないでしょ! それを真っ正面から、突貫で行くつもりっ!?」
ライムの指摘は煩い上に容赦がない。
たまらずにシグマは眉をひそめた。
「何をそんなに騒いでいるのかは知らないが…」
「騒ぎたくもなるでしょ!? この状況を少しは考えなさいよ!
まあ、まだ門番にはバレてないからいいけど、って…」
「お前たち! そこで何をしている!」
言っていた矢先から門番に咎められ、ライムはより一層の焦りを露わにした。
「あぁあ…既にバレバレじゃない! どーすんのよ!」
「見慣れない顔だな。何処の者だ? 名を名乗れ!」
名前の通り、門を守る二人の番人にびしびしと責め立てられ、ライムはさすがに尻込みした。
「!あああ、あのいやその…あたしは一応、クライシス家の者なんですけど…」
…クライシス家は確かにファルスでは上流名門貴族の位置にいるが、もしかしたら得体の知れないこの二人と一緒では、信用されないかも知れない…
などと、ライムが己の性格をすっかり棚にあげて懸念していると、
「ライム、いいからもっと堂々としていろ。──リック!」
高らかに、シグマがリックの名を呼びつける。
それにリックは、軽い溜め息混じりに返事をした。
「…はいはい、やっぱこうなるか…」
「お前たち、アポイントメントは取ってあるんだろうな?」
門番が再び尋ねてくる。
“アポイントメント”、つまりこの場合は謁見予約のことだ。
そんなことを言われても、現在はしがない旅人に過ぎない自分たちが、そんな上等な手続きを取っているはずがない。
…必然的に、ライムが壊れた。
「!だぁあぁぁぁっ! だからとってる訳ないじゃないのっ!」
「そうか。だったら、また日を改めて…」
そう言いかけた門番を相手に、リックが興奮気味のライムを、片手で抑えながら言い放つ。
「──そこでこいつらを帰したら、お前らまとめて減給だぞ」
するとその一言に、門番たちのこめかみがぴくりと引きつった。
警護の為に手にしていた槍を、今にも突き出さんばかりの勢いで噛みつきにかかる。
「!何だと… んっ!? あ、貴方は…!」
門番たちは何故か、そう言ったリックの顔をしげしげと見つめる。
二人の脳が、それが誰であるかの認識を完了した後、二人は槍を構え直し、背筋をぴしりと伸ばしにかかった。
「フレデリック王子殿下っ!?」
…え…!?
…フレデリック…王…?
…誰が?
まさか──リックが!?
壊れていたライムの思考回路が、その単語を認知するのに、ややしばらくの時間を要した。
…そして、それがすっかりその脳に浸透した時。
「!え…えぇえぇぇっ!?」
ライムは抑揚に富んだ、奇妙な雄叫びをあげていた。
そんなライムの反応にはまるで構わず、リックはずい、と門番たちに詰め寄る。
それに門番たちは、たじろいで思わず後退した。
それを、もはや身元が割れたリックが、半眼になりかけた目で容赦なく睨む。
「お前ら、いくらアポがないとはいえ、よもや…俺の客人を無条件で追い出そうなんて考えちゃいないだろうな?」
「!めめめ、滅相もない!」
…自国の王子を相手にしての非礼。
その客人に対しての無礼。
いつ首が飛んでも不思議ではないこの状況下で…
それを察し、それ自体が現実として我が身に降りかかった門番たちは、顔色を赤にも青にも変えながら、ぶんぶんと首を左右に振った。
「た、大変失礼致しました! どうぞお通り下さい!」
「ああ。今回は大目にみてやるが…今後は気をつけろよ」
リックはいかにも王子らしく、配下の失態をたしなめる。
それに、門番たちは肝に銘じるように、はっきりと返答した。
「はいっ!」
「…という訳だ。中に入ろうぜ」
リックはそれ以上咎めることもなく、さらりと三人を城内に促す。
そこで先程からの様子に釈然としないままのライムが、早速リックに話しかけた。
「何が“という訳”なのかは知らないけど…納得いかないっ!
何で、リックが王子様なのよ!? これってどーゆーことなの!?
シグマ…あんた、何か知ってるでしょ!」
何となく予測はしていたものの、やはりと言うべきか矛先が完全にこちらに向いて、シグマは渋面で苦虫を噛み潰した。
…自国の王子の顔を知らないのか全く、という内心と共に。
「説明しなけりゃならないのは分かってるから、そういちいち突っ掛かるなよ。…あのな、“リック”っていうのは、俺が小さい頃にこいつに付けた、“フレデリック”の略称なんだ」
「ふーん… !でも、待ってよ…
だったら、シグマってどーゆー家柄なの!? 仮にも“ファルスの王子様”に、普通、略称なんか付けられるものなの!?」
ライムの驚きに、リックは鳩が豆鉄砲を食らったような表情を見せる。
「へっ? …何だよシグマ、まだ言ってなかったのか」
こうまで公然と連れ歩いているのだから、当然、ライムはシグマの身元を知っていると思っていた…という内面の心境をまともに顔に張り付けたリックに、クレアが苦笑しながら助け舟を出す。
「唐突なことで、単に言う暇がなかっただけのようだがな」
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