DRAGON FOURTH

如月統哉

文字の大きさ
9 / 21
第一部【蠢く敵】

鈍いにも程がありすぎる

しおりを挟む
【ファルス城・城門前】



「!ちょ、ちょっとシグマ、無茶だってば!」

ライムが前に回り込んでシグマを制しようとする。
対してシグマの方は、そんなライムの焦りなどどこ吹く風で、城門の方へと確実に歩を進めている。

もはやムンクの叫びと化したライムは、かさかさとシグマの前に回り込み、その道を遮る。
さすがにシグマが足を止めると、ライムは今にも噛みつきそうな勢いで喚いた。

「お城になんて、アポでもとってなきゃ、そうそう入れるはずがないでしょ! それを真っ正面から、突貫で行くつもりっ!?」

ライムの指摘は煩い上に容赦がない。
たまらずにシグマは眉をひそめた。

「何をそんなに騒いでいるのかは知らないが…」
「騒ぎたくもなるでしょ!? この状況を少しは考えなさいよ!
まあ、まだ門番にはバレてないからいいけど、って…」
「お前たち! そこで何をしている!」

言っていた矢先から門番に咎められ、ライムはより一層の焦りを露わにした。

「あぁあ…既にバレバレじゃない! どーすんのよ!」

「見慣れない顔だな。何処の者だ? 名を名乗れ!」

名前の通り、門を守る二人の番人にびしびしと責め立てられ、ライムはさすがに尻込みした。

「!あああ、あのいやその…あたしは一応、クライシス家の者なんですけど…」

…クライシス家は確かにファルスでは上流名門貴族の位置にいるが、もしかしたら得体の知れないこの二人と一緒では、信用されないかも知れない…
などと、ライムが己の性格をすっかり棚にあげて懸念していると、

「ライム、いいからもっと堂々としていろ。──リック!」

高らかに、シグマがリックの名を呼びつける。
それにリックは、軽い溜め息混じりに返事をした。

「…はいはい、やっぱこうなるか…」
「お前たち、アポイントメントは取ってあるんだろうな?」

門番が再び尋ねてくる。
“アポイントメント”、つまりこの場合は謁見予約のことだ。
そんなことを言われても、現在はしがない旅人に過ぎない自分たちが、そんな上等な手続きを取っているはずがない。

…必然的に、ライムが壊れた。

「!だぁあぁぁぁっ! だからとってる訳ないじゃないのっ!」

「そうか。だったら、また日を改めて…」

そう言いかけた門番を相手に、リックが興奮気味のライムを、片手で抑えながら言い放つ。

「──そこでこいつらを帰したら、お前らまとめて減給だぞ」

するとその一言に、門番たちのこめかみがぴくりと引きつった。
警護の為に手にしていた槍を、今にも突き出さんばかりの勢いで噛みつきにかかる。

「!何だと…  んっ!? あ、貴方は…!」

門番たちは何故か、そう言ったリックの顔をしげしげと見つめる。
二人の脳が、それが誰であるかの認識を完了した後、二人は槍を構え直し、背筋をぴしりと伸ばしにかかった。

「フレデリック王子殿下っ!?」



…え…!?




…フレデリック…王…?



…誰が?




まさか──リックが!?



壊れていたライムの思考回路が、その単語を認知するのに、ややしばらくの時間を要した。
…そして、それがすっかりその脳に浸透した時。

「!え…えぇえぇぇっ!?」

ライムは抑揚に富んだ、奇妙な雄叫びをあげていた。

そんなライムの反応にはまるで構わず、リックはずい、と門番たちに詰め寄る。
それに門番たちは、たじろいで思わず後退した。

それを、もはや身元が割れたリックが、半眼になりかけた目で容赦なく睨む。

「お前ら、いくらアポがないとはいえ、よもや…俺の客人を無条件で追い出そうなんて考えちゃいないだろうな?」
「!めめめ、滅相もない!」

…自国の王子を相手にしての非礼。
その客人に対しての無礼。
いつ首が飛んでも不思議ではないこの状況下で…
それを察し、それ自体が現実として我が身に降りかかった門番たちは、顔色を赤にも青にも変えながら、ぶんぶんと首を左右に振った。

「た、大変失礼致しました! どうぞお通り下さい!」
「ああ。今回は大目にみてやるが…今後は気をつけろよ」

リックはいかにも王子らしく、配下の失態をたしなめる。
それに、門番たちは肝に銘じるように、はっきりと返答した。

「はいっ!」
「…という訳だ。中に入ろうぜ」

リックはそれ以上咎めることもなく、さらりと三人を城内に促す。
そこで先程からの様子に釈然としないままのライムが、早速リックに話しかけた。

「何が“という訳”なのかは知らないけど…納得いかないっ!
何で、リックが王子様なのよ!? これってどーゆーことなの!?
シグマ…あんた、何か知ってるでしょ!」

何となく予測はしていたものの、やはりと言うべきか矛先が完全にこちらに向いて、シグマは渋面で苦虫を噛み潰した。
…自国の王子の顔を知らないのか全く、という内心と共に。

「説明しなけりゃならないのは分かってるから、そういちいち突っ掛かるなよ。…あのな、“リック”っていうのは、俺が小さい頃にこいつに付けた、“フレデリック”の略称なんだ」
「ふーん… !でも、待ってよ…
だったら、シグマってどーゆー家柄なの!? 仮にも“ファルスの王子様”に、普通、略称なんか付けられるものなの!?」

ライムの驚きに、リックは鳩が豆鉄砲を食らったような表情を見せる。

「へっ? …何だよシグマ、まだ言ってなかったのか」

こうまで公然と連れ歩いているのだから、当然、ライムはシグマの身元を知っていると思っていた…という内面の心境をまともに顔に張り付けたリックに、クレアが苦笑しながら助け舟を出す。

「唐突なことで、単に言う暇がなかっただけのようだがな」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...