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第一部【蠢く敵】
こきおろすのも、また愛情
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ライムの表情が固まり、次いでムンクの叫びと化したからだ。
「…はあ…って事は! もしかしてあたし、今までとんでもない事ばかり言ってた!?」
「気付くのが遅すぎるぜ。…シグマも気の毒になぁ」
しみじみと言うリックの言葉は、もはやライムの耳には入らない。
ムンクの叫びポーズから両手を頭に移行させ、そのままヘコみ続ける。
「う"う"う"…我ながら自己嫌悪…」
さめざめと泣き出さんばかりの勢いでヘコむライムを、気にかけるように一瞥して、シグマは労るように声をかけた。
「らしくないな、ライム。別に今まで通りに、お前らしく俺と話をすればいいだけの事だろう?」
「…そう言ってくれるのは、凄く有難いんだけどね…」
ライムはまだまだヘコんでいる。
仕方なく、シグマは先を続けた。
「だから言っているだろう? “らしくない”って」
「それって、あたしが無礼で失礼で、挙げ句に口の悪い奴だって言ってるようなもんじゃないの!」
「何だ、自分で分かっているじゃないか」
しれっとして言い放つシグマに、ライムは何だかヘコんでいるのが馬鹿らしくなってきた。
シグマにそう仕向けられたとは露知らず、ライムはどんよりとした表情に怒りマークを張り付ける。
「…そーよね… そういえばシグマって、こんな性格だったんだっけ…
しかもっ! これで皇子だって言うんだから、信憑性に欠けるわよね!? 全く」
「…おい…ライム」
シグマにしてみれば、そこまでは立ち直って欲しくなかったに違いない。
そのシグマの制止を、ライムは口元に笑みを浮かべて遮った。
「分かってる。シグマは皇子だろうが何だろうが、“シグマ”のままでいるみたいだからね。…あたしも、遠慮なく話させて貰うから覚悟してよ? “シグマ”!」
これにはシグマも苦笑せざるを得ない。
「ああ。何か引っかかるが、その方がお前らしい」
「さて──痴話喧嘩はそこまでだ。ところで、シグマ皇子。
俺に、何か用があったのではないのか?」
ファルスの王の、心中を読んだような的確なその問いに、シグマは先程までのライムとの戯れの様はどこへやら、内心で密かに舌を巻いた。
「さすが、リックの父親というのは伊達ではないですね。勘が鋭くて助かります」
「どーゆー意味だ? それ…」
リックが眉をひそめる。それに軽い笑みを見せながらも、ファルス王は先を促した。
「息子に対する遠回しな皮肉は、俺に対する誉め言葉として取っておこう。…それよりも、用件を聞こうか」
「はい。率直に言わせて貰えば、この放浪王子が、ようやく城に戻り、休養を取っているという情報を、ファルス国中に流して頂きたいのです。…出来れば、今日中にお願いします」
「分かった。すぐに手配させよう」
ファルス王は頷いたが、簡単に頷けないのはリックの方だった。
「“放浪王子”ってのが、どーも納得いかねぇんだが…」
目を据わらせる息子に、親としてのファルス王の容赦ない指摘が飛ぶ。
「納得も何も、“放蕩”と言われなかっただけ、有難く思え。
…さて、あとは何かあるか? 皇子」
「では、あと二つ。…一つめは、これは許可を得るための断りなのですが…リックをしばらくの間、お借りしたいのです」
げ、…と、シグマの傍らでリックの表情が引きつるが、反して、シグマの表情はけろりとしたものだ。
そして一方のその親も、そんな二人を見、苦笑混じりにあっさりと許可を出した。
「構わない。こんな愚息でよければ、好きなように使ってくれ」
ファルス王の快諾に、シグマは感謝しながらも軽く頭を下げた。
「助かります。それから──最後に、とはいっても、王は既に俺が何をするつもりなのか、理解しておられるのでしょうね」
問われて、ファルス王は軽く口に手を当てた。
その紅眼が、測るようにシグマに向けられる。
「そうだな。理解というよりは見当に近いのだが──皇子は、フレデリックを使って、あのルーファスを誘き出すつもりなのだろう? …その際の、周囲の倒壊に対する詫びだな」
「──ええ。ご推察どおりです」
シグマは満足そうに笑む。
しかしやはり笑いきれない人物が、言うまでもなく一名いた。
さすがにその目が半眼と化したリックは、それを戻そうともせずに呟く。
「おい…何だかさっきから、凄まじい言われようなんだが」
「それにちょっと…それって凄すぎない?」
このリックが王族として餌になる事実自体もそうだが、それよりも何よりも、そのれっきとした王族を、こうも苦もなく囮に使おうとするシグマの策の大胆不敵さには驚かされる。
その当のシグマは、顔色ひとつ変えずに策を持ちかけた。
「リックだけで無理があるのなら、俺の名も使って構いません。二つの国の後継者が、同じ場所にいるとなれば、奴には今回がまたとない機会となるはずですからね」
「了承した。──ミスト」
ファルス王は近くに待機していた、側近の若い女性に声をかけた。
ミストと呼ばれたその女性は、王の命令に、恭しく頭を垂れる。
「はっ、すぐに手配して参ります!」
ミストはすぐさま踵を返すと、扉の向こうへと姿を消した。
それを見届けたファルス王は、次いでシグマへと視線を戻して話しかける。
「──皇子、ウインダムズの皇帝、つまり、皇子の父が殺された件は、俺の耳にも届いている。この件に関しては、俺も出来るだけ協力しよう。
皇子も、他国だからといって遠慮せず、フレデリックと共に、自分の好きなようにやるがいい」
「感謝します、ファルス王」
ファルスの王公認の許しが出て、シグマの表情は自然、綻んだ。
しかし未だに釈然としないままのリックは、シグマの肩を人差し指で、つつくように叩いて声をかける。
「…おーい、シグマぁ?」
「…はあ…って事は! もしかしてあたし、今までとんでもない事ばかり言ってた!?」
「気付くのが遅すぎるぜ。…シグマも気の毒になぁ」
しみじみと言うリックの言葉は、もはやライムの耳には入らない。
ムンクの叫びポーズから両手を頭に移行させ、そのままヘコみ続ける。
「う"う"う"…我ながら自己嫌悪…」
さめざめと泣き出さんばかりの勢いでヘコむライムを、気にかけるように一瞥して、シグマは労るように声をかけた。
「らしくないな、ライム。別に今まで通りに、お前らしく俺と話をすればいいだけの事だろう?」
「…そう言ってくれるのは、凄く有難いんだけどね…」
ライムはまだまだヘコんでいる。
仕方なく、シグマは先を続けた。
「だから言っているだろう? “らしくない”って」
「それって、あたしが無礼で失礼で、挙げ句に口の悪い奴だって言ってるようなもんじゃないの!」
「何だ、自分で分かっているじゃないか」
しれっとして言い放つシグマに、ライムは何だかヘコんでいるのが馬鹿らしくなってきた。
シグマにそう仕向けられたとは露知らず、ライムはどんよりとした表情に怒りマークを張り付ける。
「…そーよね… そういえばシグマって、こんな性格だったんだっけ…
しかもっ! これで皇子だって言うんだから、信憑性に欠けるわよね!? 全く」
「…おい…ライム」
シグマにしてみれば、そこまでは立ち直って欲しくなかったに違いない。
そのシグマの制止を、ライムは口元に笑みを浮かべて遮った。
「分かってる。シグマは皇子だろうが何だろうが、“シグマ”のままでいるみたいだからね。…あたしも、遠慮なく話させて貰うから覚悟してよ? “シグマ”!」
これにはシグマも苦笑せざるを得ない。
「ああ。何か引っかかるが、その方がお前らしい」
「さて──痴話喧嘩はそこまでだ。ところで、シグマ皇子。
俺に、何か用があったのではないのか?」
ファルスの王の、心中を読んだような的確なその問いに、シグマは先程までのライムとの戯れの様はどこへやら、内心で密かに舌を巻いた。
「さすが、リックの父親というのは伊達ではないですね。勘が鋭くて助かります」
「どーゆー意味だ? それ…」
リックが眉をひそめる。それに軽い笑みを見せながらも、ファルス王は先を促した。
「息子に対する遠回しな皮肉は、俺に対する誉め言葉として取っておこう。…それよりも、用件を聞こうか」
「はい。率直に言わせて貰えば、この放浪王子が、ようやく城に戻り、休養を取っているという情報を、ファルス国中に流して頂きたいのです。…出来れば、今日中にお願いします」
「分かった。すぐに手配させよう」
ファルス王は頷いたが、簡単に頷けないのはリックの方だった。
「“放浪王子”ってのが、どーも納得いかねぇんだが…」
目を据わらせる息子に、親としてのファルス王の容赦ない指摘が飛ぶ。
「納得も何も、“放蕩”と言われなかっただけ、有難く思え。
…さて、あとは何かあるか? 皇子」
「では、あと二つ。…一つめは、これは許可を得るための断りなのですが…リックをしばらくの間、お借りしたいのです」
げ、…と、シグマの傍らでリックの表情が引きつるが、反して、シグマの表情はけろりとしたものだ。
そして一方のその親も、そんな二人を見、苦笑混じりにあっさりと許可を出した。
「構わない。こんな愚息でよければ、好きなように使ってくれ」
ファルス王の快諾に、シグマは感謝しながらも軽く頭を下げた。
「助かります。それから──最後に、とはいっても、王は既に俺が何をするつもりなのか、理解しておられるのでしょうね」
問われて、ファルス王は軽く口に手を当てた。
その紅眼が、測るようにシグマに向けられる。
「そうだな。理解というよりは見当に近いのだが──皇子は、フレデリックを使って、あのルーファスを誘き出すつもりなのだろう? …その際の、周囲の倒壊に対する詫びだな」
「──ええ。ご推察どおりです」
シグマは満足そうに笑む。
しかしやはり笑いきれない人物が、言うまでもなく一名いた。
さすがにその目が半眼と化したリックは、それを戻そうともせずに呟く。
「おい…何だかさっきから、凄まじい言われようなんだが」
「それにちょっと…それって凄すぎない?」
このリックが王族として餌になる事実自体もそうだが、それよりも何よりも、そのれっきとした王族を、こうも苦もなく囮に使おうとするシグマの策の大胆不敵さには驚かされる。
その当のシグマは、顔色ひとつ変えずに策を持ちかけた。
「リックだけで無理があるのなら、俺の名も使って構いません。二つの国の後継者が、同じ場所にいるとなれば、奴には今回がまたとない機会となるはずですからね」
「了承した。──ミスト」
ファルス王は近くに待機していた、側近の若い女性に声をかけた。
ミストと呼ばれたその女性は、王の命令に、恭しく頭を垂れる。
「はっ、すぐに手配して参ります!」
ミストはすぐさま踵を返すと、扉の向こうへと姿を消した。
それを見届けたファルス王は、次いでシグマへと視線を戻して話しかける。
「──皇子、ウインダムズの皇帝、つまり、皇子の父が殺された件は、俺の耳にも届いている。この件に関しては、俺も出来るだけ協力しよう。
皇子も、他国だからといって遠慮せず、フレデリックと共に、自分の好きなようにやるがいい」
「感謝します、ファルス王」
ファルスの王公認の許しが出て、シグマの表情は自然、綻んだ。
しかし未だに釈然としないままのリックは、シグマの肩を人差し指で、つつくように叩いて声をかける。
「…おーい、シグマぁ?」
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