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第一部【蠢く敵】
腐れ縁は波紋のように
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「何だ? リック。そんなに眉をひそめて」
こちらの意向をまるで当然の如くスルー状態のシグマ。
当然、リックの頭には一方的な疑問符ばかりが残る。
「ひそめたくもなるわっ! そもそもどーして俺がお前と一緒に囮扱いなんだよ!? 囮は、お前一人だけで充分だろ!?」
「鈍いな。重役を狙うなら、王子の名目は格好の獲物だろう?」
このシグマのいかにもな言葉に、リックの目はこれ以上ないほどに据わった。
「一人より二人がいいのは良く分かってるけどなあ! …お前さっきから、人の事を、散々コケにしてくれてねぇか!?」
「俺はただ、正直な意見を述べただけなんだが…まあいい。ところで、ライム」
こうも平然と名を呼ばれて、ライムの頭は瞬時に活火山と化した。
「何よ!? この際だから言っとくけどねぇ、あたしは…」
「巻き添えを食わせてしまう事は謝る。済まないな」
「!やっぱり、あたしにもとばっちりが来るのね!? …だけどシグマってば、あたしが文句を言いたいのがよく分かってて、それに先手を打ったような気がするんだけど」
これを聞いたシグマは、ライムには気付かれないように、軽く心中で臍を噛んだ。
「妙なところで勘がいいな…こいつ」
「? 何か言った?」
「いや別に」
シグマはつとめて平静を装って否定する。
辛うじて、ここでライムを巧くはぐらかすことに成功した…と思ったのも束の間、続けて不満だらけのリックが、すっかり仏頂面になって声をかけてきた。
「…おい、ところで俺は仕方ねぇから聞きたいんだが」
「妙な文法だな。今度は何だ?」
シグマは、更なる関門であるリックをどうあしらうか、起こり得る全ての応対を、頭の中で想定しながら問い返す。
それを知ってか知らずか、リックの表情は苦虫を噛み潰したように変化した。
「俺とお前が囮ってのは、よっく分かった。が! お前は肝心な事を忘れてるぜ。…奴を誘き出して、“それから”どうするつもりだ?
知っての通り奴は魔法剣士、誘き寄せたところで一筋縄でいく相手じゃねぇぞ?」
「分かっている。──だから、俺が奴の相手をする」
「お前だけで務まると思ってんのか? 相手はルーファスだぞ。
ここファルスでは、奴は…どんな警戒をしようとも、狙った相手を必ず殺す事で有名なんだ。生半可な攻撃では返り討ちに遭うのが、目に見えてる」
シグマは、リックが自分を心配したからこそ言って来た言葉を、その心情を…よく理解していた。
だからこそ、それに応える為に頷いてみせる。
「それも分かっている。…俺は奴と話をした上で、事を構えるつもりだ。それに、俺はともかく、少なくとも、お前たちには絶対に手出しはさせないから、安心しろ」
いざとなれば自らを犠牲にする覚悟で、シグマが告げる。
しかし、そんなシグマの複雑な心境を知るよしもなく、ライムは純粋に言葉を受け止めた。
「なんか…かっこいいっ! もしかしてシグマって、すごく頼りになるんじゃない!?」
これに横目を走らせたのはリックだ。
「今更それを言うか? カナル等に追っかけられた張本人が」
鋭く指摘され、途端にライムの頭が沸騰する。
「!なっ…あんたも結構、根に持つ奴よねっ! しつこい男は嫌われるわよ!?」
もはやライムの頭からは、リックが自国の王族であることなど、すっ飛んでしまっている。
そして一方のリックも、既に自らの立場を忘れているどころか、ライムが自国の上流貴族の娘であることすら、綺麗さっぱり忘れていた。
「!それこそ、お前に言われたら終わりだろ!」
「!んなっ…何ですってぇ!?」
がっちりと犬猿よろしく睨み合う二人を、シグマは不機嫌そうに睨み据えた。
…これからルーファスと一戦交えねばならぬというのに、この二人がこれでは…
言うまでもなく、先が思いやられる。
「煩いぞ二人とも。…あんまり騒ぐと、前言撤回するぞ。
自分の身は自分で守るか?」
シグマに睨まれて、リックとライムは蛇に睨まれた蛙よろしく立ちすくんだ。
「!い…、いや、それはちょっと…」
「…遠慮しとく。だからよろしく頼むわ、シグマ」
ライムとリックが揃って冷や汗を流す。
するとシグマは、少しばかり睨みを緩和させた。
「おい…ライムはともかく、リック。…確か、お前は槍術が得意だったはずだな」
…これを聞いたリックの体は、もはや蛙を通り越して、ギリシャ神話のメデューサに睨まれたかのごとく石化した。
「だから奴とやれってのか!? 俺の槍が奴に通用するとは…」
「それでもやって貰うさ。俺だけでは手が足りないからな」
呟いたシグマは、睨みを解き、その視線の先にあるものを、深く認識し直した。
こちらの意向をまるで当然の如くスルー状態のシグマ。
当然、リックの頭には一方的な疑問符ばかりが残る。
「ひそめたくもなるわっ! そもそもどーして俺がお前と一緒に囮扱いなんだよ!? 囮は、お前一人だけで充分だろ!?」
「鈍いな。重役を狙うなら、王子の名目は格好の獲物だろう?」
このシグマのいかにもな言葉に、リックの目はこれ以上ないほどに据わった。
「一人より二人がいいのは良く分かってるけどなあ! …お前さっきから、人の事を、散々コケにしてくれてねぇか!?」
「俺はただ、正直な意見を述べただけなんだが…まあいい。ところで、ライム」
こうも平然と名を呼ばれて、ライムの頭は瞬時に活火山と化した。
「何よ!? この際だから言っとくけどねぇ、あたしは…」
「巻き添えを食わせてしまう事は謝る。済まないな」
「!やっぱり、あたしにもとばっちりが来るのね!? …だけどシグマってば、あたしが文句を言いたいのがよく分かってて、それに先手を打ったような気がするんだけど」
これを聞いたシグマは、ライムには気付かれないように、軽く心中で臍を噛んだ。
「妙なところで勘がいいな…こいつ」
「? 何か言った?」
「いや別に」
シグマはつとめて平静を装って否定する。
辛うじて、ここでライムを巧くはぐらかすことに成功した…と思ったのも束の間、続けて不満だらけのリックが、すっかり仏頂面になって声をかけてきた。
「…おい、ところで俺は仕方ねぇから聞きたいんだが」
「妙な文法だな。今度は何だ?」
シグマは、更なる関門であるリックをどうあしらうか、起こり得る全ての応対を、頭の中で想定しながら問い返す。
それを知ってか知らずか、リックの表情は苦虫を噛み潰したように変化した。
「俺とお前が囮ってのは、よっく分かった。が! お前は肝心な事を忘れてるぜ。…奴を誘き出して、“それから”どうするつもりだ?
知っての通り奴は魔法剣士、誘き寄せたところで一筋縄でいく相手じゃねぇぞ?」
「分かっている。──だから、俺が奴の相手をする」
「お前だけで務まると思ってんのか? 相手はルーファスだぞ。
ここファルスでは、奴は…どんな警戒をしようとも、狙った相手を必ず殺す事で有名なんだ。生半可な攻撃では返り討ちに遭うのが、目に見えてる」
シグマは、リックが自分を心配したからこそ言って来た言葉を、その心情を…よく理解していた。
だからこそ、それに応える為に頷いてみせる。
「それも分かっている。…俺は奴と話をした上で、事を構えるつもりだ。それに、俺はともかく、少なくとも、お前たちには絶対に手出しはさせないから、安心しろ」
いざとなれば自らを犠牲にする覚悟で、シグマが告げる。
しかし、そんなシグマの複雑な心境を知るよしもなく、ライムは純粋に言葉を受け止めた。
「なんか…かっこいいっ! もしかしてシグマって、すごく頼りになるんじゃない!?」
これに横目を走らせたのはリックだ。
「今更それを言うか? カナル等に追っかけられた張本人が」
鋭く指摘され、途端にライムの頭が沸騰する。
「!なっ…あんたも結構、根に持つ奴よねっ! しつこい男は嫌われるわよ!?」
もはやライムの頭からは、リックが自国の王族であることなど、すっ飛んでしまっている。
そして一方のリックも、既に自らの立場を忘れているどころか、ライムが自国の上流貴族の娘であることすら、綺麗さっぱり忘れていた。
「!それこそ、お前に言われたら終わりだろ!」
「!んなっ…何ですってぇ!?」
がっちりと犬猿よろしく睨み合う二人を、シグマは不機嫌そうに睨み据えた。
…これからルーファスと一戦交えねばならぬというのに、この二人がこれでは…
言うまでもなく、先が思いやられる。
「煩いぞ二人とも。…あんまり騒ぐと、前言撤回するぞ。
自分の身は自分で守るか?」
シグマに睨まれて、リックとライムは蛇に睨まれた蛙よろしく立ちすくんだ。
「!い…、いや、それはちょっと…」
「…遠慮しとく。だからよろしく頼むわ、シグマ」
ライムとリックが揃って冷や汗を流す。
するとシグマは、少しばかり睨みを緩和させた。
「おい…ライムはともかく、リック。…確か、お前は槍術が得意だったはずだな」
…これを聞いたリックの体は、もはや蛙を通り越して、ギリシャ神話のメデューサに睨まれたかのごとく石化した。
「だから奴とやれってのか!? 俺の槍が奴に通用するとは…」
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