6 / 8
第六話 カモマイル・ローマン
しおりを挟む
「マスター!聞いたかい!?」
自称江戸っ子の多胡さんはこの喫茶店の常連だ。
年の頃は60代半ば。白髪混じりの短髪。
仕事は魚屋だが、ここに来る時は、念入りに体を流し、夏場はポロシャツ、冬場はコーデュロイパンツにフィッシャーマンズセーターという出で立ちで週の半ばに現れる。
マスターはそこまで気を使わなくてもと言うのだが、「いや、俺のだんでぃずむが許さねぇ」と自らに課したスタイルを保ち続けている。
その多胡さんが今日は前掛けにハチマキのスタイルで現れた。
「どうしたんですか?店はよろしいんですか?」
マスターはほんの数秒驚いた様子だったが、すぐにいつもの表情に戻った。
「あの馬鹿ガイだよ!」
馬鹿ガイとは同じ商店街でコンビニを経営している甲斐さんの事だ。
「甲斐さんがどうかされたんですか?」
多胡さんによると甲斐さんのコンビニで中学生数人が万引きをしているのを店員が見つけたらしい。
当然、親が呼び出されたのだが、子供らはヘラヘラ笑っている。それを見た親が子供を殴り飛ばしたらしいのだ。
警察沙汰になり、"親"が捕まった。それを黙って見ていた甲斐さんを多胡さんは怒っているのだ。
「俺たちが子供の頃は、悪いことをしたら、怒られてたじゃねぇか。万引きなんぞしたひにゃぁ一発殴られるどころじゃ済まなかったよ。近所の爺さんの家の柿を盗んだ時には爺さんからしたたか怒られたぜ。そのあと、親からはボコボコよぉ。親父は爺さんに一升瓶ぶら下げて謝りに行ったもんさ。警察が出てくることなんざなかったよ。馬鹿ガイの野郎みたいに子供の悪さを黙って見てる大人なんざ一人もいなかったよ!ましてや悪さを怒る親が捕まるとはどういうことだい!俺ぁ甲斐はもう少し骨のある奴だと思ってたぜ。情けねぇ。」
「うるせぇ。骨がねぇのはタコも同じじゃねぇか。」
扉の前に肩を落とした甲斐さんが立っている。
「俺だって自分の子供がおんなじことをしたら殴り飛ばすよ。でもよ、法律がそれを許さねぇんだと。」
「じゃあ、子供が悪さをしたらどうやって怒るんだよ?」
「褒めて教えろだとさ。」
「何?じゃあ、なにかい?”もっと盗めたのにお前はよくこれだけで我慢したねぇ~”とでも言えってか?冗談じゃねえよ!」
「しようがないさね。お偉い先生方が考えてお上がお決めになったんだろ。」
多胡さんも甲斐さんも黙り込んでしまった。
「とりあえずどうぞ。」二人にジャスミンティーをマスターは差し出した。
「マスター。なんかない?」甲斐さんは鼻の前を手で扇ぎながら聞いた。
「そうですね。子供を怒る時に合う香りなどはないのですが、これはいかがでしょう?」
マスターの手の小瓶はカモマイル・ローマン。
子供のストレスにもよく使う香りだとの説明を聞きながら香りを嗅いでいた多胡さんが口を開いた。
「まぁ、確かに最近の子供らは俺らの時代にはないストレスがあるかもなぁ。」
「一体いつからこんな感じになっちまったのかねぇ。」
しばらくの間、喫茶店内はジャスミンティを啜る音と沈黙のみが居座ることとなった。
自称江戸っ子の多胡さんはこの喫茶店の常連だ。
年の頃は60代半ば。白髪混じりの短髪。
仕事は魚屋だが、ここに来る時は、念入りに体を流し、夏場はポロシャツ、冬場はコーデュロイパンツにフィッシャーマンズセーターという出で立ちで週の半ばに現れる。
マスターはそこまで気を使わなくてもと言うのだが、「いや、俺のだんでぃずむが許さねぇ」と自らに課したスタイルを保ち続けている。
その多胡さんが今日は前掛けにハチマキのスタイルで現れた。
「どうしたんですか?店はよろしいんですか?」
マスターはほんの数秒驚いた様子だったが、すぐにいつもの表情に戻った。
「あの馬鹿ガイだよ!」
馬鹿ガイとは同じ商店街でコンビニを経営している甲斐さんの事だ。
「甲斐さんがどうかされたんですか?」
多胡さんによると甲斐さんのコンビニで中学生数人が万引きをしているのを店員が見つけたらしい。
当然、親が呼び出されたのだが、子供らはヘラヘラ笑っている。それを見た親が子供を殴り飛ばしたらしいのだ。
警察沙汰になり、"親"が捕まった。それを黙って見ていた甲斐さんを多胡さんは怒っているのだ。
「俺たちが子供の頃は、悪いことをしたら、怒られてたじゃねぇか。万引きなんぞしたひにゃぁ一発殴られるどころじゃ済まなかったよ。近所の爺さんの家の柿を盗んだ時には爺さんからしたたか怒られたぜ。そのあと、親からはボコボコよぉ。親父は爺さんに一升瓶ぶら下げて謝りに行ったもんさ。警察が出てくることなんざなかったよ。馬鹿ガイの野郎みたいに子供の悪さを黙って見てる大人なんざ一人もいなかったよ!ましてや悪さを怒る親が捕まるとはどういうことだい!俺ぁ甲斐はもう少し骨のある奴だと思ってたぜ。情けねぇ。」
「うるせぇ。骨がねぇのはタコも同じじゃねぇか。」
扉の前に肩を落とした甲斐さんが立っている。
「俺だって自分の子供がおんなじことをしたら殴り飛ばすよ。でもよ、法律がそれを許さねぇんだと。」
「じゃあ、子供が悪さをしたらどうやって怒るんだよ?」
「褒めて教えろだとさ。」
「何?じゃあ、なにかい?”もっと盗めたのにお前はよくこれだけで我慢したねぇ~”とでも言えってか?冗談じゃねえよ!」
「しようがないさね。お偉い先生方が考えてお上がお決めになったんだろ。」
多胡さんも甲斐さんも黙り込んでしまった。
「とりあえずどうぞ。」二人にジャスミンティーをマスターは差し出した。
「マスター。なんかない?」甲斐さんは鼻の前を手で扇ぎながら聞いた。
「そうですね。子供を怒る時に合う香りなどはないのですが、これはいかがでしょう?」
マスターの手の小瓶はカモマイル・ローマン。
子供のストレスにもよく使う香りだとの説明を聞きながら香りを嗅いでいた多胡さんが口を開いた。
「まぁ、確かに最近の子供らは俺らの時代にはないストレスがあるかもなぁ。」
「一体いつからこんな感じになっちまったのかねぇ。」
しばらくの間、喫茶店内はジャスミンティを啜る音と沈黙のみが居座ることとなった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる