レモン

双華 シンジ

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レモン

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夜中のキッチンでスーツを着たままレモンを切る、包丁で真っ二つに。柑橘系独特の少し刺激的な香りが、キッチンに漂う。無糖の紅茶をティーカップに注いで、輪切りのレモンを浮かべる。これでレモンティーの完成だ、私は砂糖は入れない。それを持ってソファーに向かう。趣味が殆どなく、家にテレビすらない私の唯一の安らぎだ。レモンティーを口に運ぶ、レモンの香りと茶葉の香りが混ざり合って鼻腔に届く。この瞬間に私は色々な事を考える。今日の失敗、明日の不安、そしてあの日の事。
 あの日、私は親友を失った。私に人生の楽しみ方を教えてくれた人で、笑顔がとても素敵だったことが印象に残っている。交通事故で死んだ彼女はあの日も私との日課だった電話をした後、バスに乗って自宅に帰るところだったと聞いている。そのバスが事故に遭い、乗客だった彼女はなくなってしまった。
 それからだ、私の楽しみが激減したのは。彼女のお陰で楽しかった私の人生は、彼女がいなくなった途端、彼女と出会う前に戻ってしまったのだ。はあ、今日も思い出してしまった、これだから安らぎたくないのだ。前向きな感情にはいつも彼女の笑顔があるから。















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