朝に弱い幼馴染は俺に起こされるのをいつもベッドの中で待っている

ハヤサカツカサ

文字の大きさ
1 / 16

1話

しおりを挟む
 問題集の横に広げたノートの上で数式が踊る。一見難解と思える問題が、集めた情報を駆使くしして数式を導き一つの答えを作り上げていく過程に俺は心が震えた。

 素晴らしい! やはり朝は数学に限る!

 高校2年生の春。窓側の一番後ろの席。教室でこぶしを握りしめ一人余韻に浸っていた俺の机の上に影が差した。

 誰だ? 

 顔を上げると端正な顔立ちの男子生徒が立っている。黒髪にメガネの俺とは対照的な派手な金髪にピアスというなんともラフな格好をした友人は、飲みかけのいちご牛乳の紙パックを握りながらニッと白い歯を見せて笑った。

 「おはよう、りゅう! 二年も同じクラスだね。よろしく。それにしても……相変わらず勉強? せっかく進級してクラスと一緒にクラスメイトも変わったんだから、話さないの?」

 「いいんだよ、俺はこれで。それよりも夏樹なつき、俺の代わりにあずさを起こしてきてくれないか?」

 持っていたシャープペンシルで黒板の上で時間を刻んでいる時計を指す。時刻は始業開始、十五分前を示していた。俺の提案に夏樹は苦笑しながら顔の前で手を振る。

 「僕じゃ無理だよ、梓ちゃんを起こすのは。まだ冬眠中の熊を起こしてこいの方が簡単かも。やっぱり幼馴染の龍じゃないと手に負えないよ」

 「やっぱり行くしかないのか……。というか、あいつ今年でもう高校二年生だぞ。何で幼稚園に通う子供でもできることができないんだあぁぁ!」

 梓というのは俺の幼馴染の女の子だ。昔から朝に極端に弱く、毎朝起こしに行ってるのだが自分で起きてくる気配を感じたことはこれまで一度もなし。腐れ縁ということもあり、毎日始業前に学校に引っ張ってくるのが日課となっていた。机の中に問題集を全てしまい終えると、でもと言いながら夏樹が口を開く。

 「もしかしたら二年生になったのをきっかけに心を入れ替えて、自分で起きてきたりするかも……」

 「あっはっは! 梓が自分で起きる? そんな白百合しらゆり先生が嫁に行くみたいな話をされてもな……ってあれ?」

 先ほどまでの笑顔が完全に消え去り、石像のように凍りついて俺の背後を見る夏樹を見て察する。無限にある次の行動の選択肢の中から最も生存率が高そうな答えを弾き出し、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって走り出そうとした。が——

 「やあ、小島こじま小栗おぐり。今年も君たちの担任は私らしい。よろしく頼むよ。それはそうと……どうした小島そんなに慌てて?」

 「白百合先生……おはようございます。ですけど、理由なら分かってるはずですよね? じゃなきゃ、こんなことになってないですから」

 錆びついたような機械のような動きで後ろを振り返ると、俺の右腕を骨が砕けるんじゃないかと思えるほどの万力で掴んでいる女性教師——白百合咲しらゆりさきがいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...