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問題集の横に広げたノートの上で数式が踊る。一見難解と思える問題が、集めた情報を駆使して数式を導き一つの答えを作り上げていく過程に俺は心が震えた。
素晴らしい! やはり朝は数学に限る!
高校2年生の春。窓側の一番後ろの席。教室で拳を握りしめ一人余韻に浸っていた俺の机の上に影が差した。
誰だ?
顔を上げると端正な顔立ちの男子生徒が立っている。黒髪にメガネの俺とは対照的な派手な金髪にピアスというなんともラフな格好をした友人は、飲みかけのいちご牛乳の紙パックを握りながらニッと白い歯を見せて笑った。
「おはよう、龍! 二年も同じクラスだね。よろしく。それにしても……相変わらず勉強? せっかく進級してクラスと一緒にクラスメイトも変わったんだから、話さないの?」
「いいんだよ、俺はこれで。それよりも夏樹、俺の代わりに梓を起こしてきてくれないか?」
持っていたシャープペンシルで黒板の上で時間を刻んでいる時計を指す。時刻は始業開始、十五分前を示していた。俺の提案に夏樹は苦笑しながら顔の前で手を振る。
「僕じゃ無理だよ、梓ちゃんを起こすのは。まだ冬眠中の熊を起こしてこいの方が簡単かも。やっぱり幼馴染の龍じゃないと手に負えないよ」
「やっぱり行くしかないのか……。というか、あいつ今年でもう高校二年生だぞ。何で幼稚園に通う子供でもできることができないんだあぁぁ!」
梓というのは俺の幼馴染の女の子だ。昔から朝に極端に弱く、毎朝起こしに行ってるのだが自分で起きてくる気配を感じたことはこれまで一度もなし。腐れ縁ということもあり、毎日始業前に学校に引っ張ってくるのが日課となっていた。机の中に問題集を全てしまい終えると、でもと言いながら夏樹が口を開く。
「もしかしたら二年生になったのをきっかけに心を入れ替えて、自分で起きてきたりするかも……」
「あっはっは! 梓が自分で起きる? そんな白百合先生が嫁に行くみたいな話をされてもな……ってあれ?」
先ほどまでの笑顔が完全に消え去り、石像のように凍りついて俺の背後を見る夏樹を見て察する。無限にある次の行動の選択肢の中から最も生存率が高そうな答えを弾き出し、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって走り出そうとした。が——
「やあ、小島に小栗。今年も君たちの担任は私らしい。よろしく頼むよ。それはそうと……どうした小島そんなに慌てて?」
「白百合先生……おはようございます。ですけど、理由なら分かってるはずですよね? じゃなきゃ、こんなことになってないですから」
錆びついたような機械のような動きで後ろを振り返ると、俺の右腕を骨が砕けるんじゃないかと思えるほどの万力で掴んでいる女性教師——白百合咲がいた。
素晴らしい! やはり朝は数学に限る!
高校2年生の春。窓側の一番後ろの席。教室で拳を握りしめ一人余韻に浸っていた俺の机の上に影が差した。
誰だ?
顔を上げると端正な顔立ちの男子生徒が立っている。黒髪にメガネの俺とは対照的な派手な金髪にピアスというなんともラフな格好をした友人は、飲みかけのいちご牛乳の紙パックを握りながらニッと白い歯を見せて笑った。
「おはよう、龍! 二年も同じクラスだね。よろしく。それにしても……相変わらず勉強? せっかく進級してクラスと一緒にクラスメイトも変わったんだから、話さないの?」
「いいんだよ、俺はこれで。それよりも夏樹、俺の代わりに梓を起こしてきてくれないか?」
持っていたシャープペンシルで黒板の上で時間を刻んでいる時計を指す。時刻は始業開始、十五分前を示していた。俺の提案に夏樹は苦笑しながら顔の前で手を振る。
「僕じゃ無理だよ、梓ちゃんを起こすのは。まだ冬眠中の熊を起こしてこいの方が簡単かも。やっぱり幼馴染の龍じゃないと手に負えないよ」
「やっぱり行くしかないのか……。というか、あいつ今年でもう高校二年生だぞ。何で幼稚園に通う子供でもできることができないんだあぁぁ!」
梓というのは俺の幼馴染の女の子だ。昔から朝に極端に弱く、毎朝起こしに行ってるのだが自分で起きてくる気配を感じたことはこれまで一度もなし。腐れ縁ということもあり、毎日始業前に学校に引っ張ってくるのが日課となっていた。机の中に問題集を全てしまい終えると、でもと言いながら夏樹が口を開く。
「もしかしたら二年生になったのをきっかけに心を入れ替えて、自分で起きてきたりするかも……」
「あっはっは! 梓が自分で起きる? そんな白百合先生が嫁に行くみたいな話をされてもな……ってあれ?」
先ほどまでの笑顔が完全に消え去り、石像のように凍りついて俺の背後を見る夏樹を見て察する。無限にある次の行動の選択肢の中から最も生存率が高そうな答えを弾き出し、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって走り出そうとした。が——
「やあ、小島に小栗。今年も君たちの担任は私らしい。よろしく頼むよ。それはそうと……どうした小島そんなに慌てて?」
「白百合先生……おはようございます。ですけど、理由なら分かってるはずですよね? じゃなきゃ、こんなことになってないですから」
錆びついたような機械のような動きで後ろを振り返ると、俺の右腕を骨が砕けるんじゃないかと思えるほどの万力で掴んでいる女性教師——白百合咲がいた。
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