声が聞こえる

ゆき

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聞こえたのは

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 満月の夜。少し、肌寒いぐらいの夜だった。私が、窓から満月を見ていると声が聞こえた。
「何してるの?」
後ろを振り返ると、女の人が立っていた。よく見ると私に少し似ている気がした。
「誰?」
私がそう聞くと、女の人は少し悩んで
「未来の私かな?」
と言った。未来の私?そんなの信じられるわけがない。誰も未来なんて分からないから。
「信じられるわけがない。」 
と私は言った。
「そうだよね。いきなり言われても信じられるわけがないよね。」
女の人は困った顔をして私を見た。
「まあいいや。少しだけ、私の話を聞いてほしいな。」
「嫌です。」
私は即答だった。何故知らない人の話を聞かないといけない。あと、私に何か起きるような気がしたから。
「まあそう言わずに。」
女の人は、私の前にきて椅子に座った。
「そんなに私の話を聞くのが嫌なの?」
「嫌です。」
「何で?」
女の人は首をかしげた。
「私に何か起きるような気がしたから。」
と小さな声で言った。
「なんだ、そんなことか。」
女の人は笑いながら、言った。いったい何が面白いのだろうか。
「話を聞けばすべてが変わるかもね。」
「少しだけなら。」
と私は少しだけ気になったので話を聞いてみようと思った。
「やっと乗り気になった。」
女の人は真剣な眼差しで私を見た。
「今から話すことは、すべて私の過去。過去の私を助けるための話。」
私は頷いた。それを確認したのか女の人は話始めた。
「自分は大丈夫、まだやれるとか言い聞かせないで、もうダメだ、疲れた。自分の心に素直になったらいいと思う。これはある一人の人から貰った手紙を読んで気付いた。私は、自分の心に素直じゃなかったから。疲れてることにも気付かなかったんだ。泣き虫の私が泣くことすらしなくなってた。夜もいろいろ考えて辛くなった。楽しいことも分からなくなって、けど友達には心配かけたくなくて、大丈夫な私を演じてた。演じてるときも辛くて、まだ大丈夫って言い聞かせて毎日を過ごしてた。」
女の人は少し手が震えていた。
「その時に手紙を読んで、やっと素直になったの。心に声をかけて。心が疲れてしまっているから、休んでいるの。無理をしすぎた分の代償が今、押し寄せてきてる。どんだけ、私が心に無理をさせてきたか分かるぐらい。だから、過去の私にはこうなってほしくないの。まだ間に合うから。心に素直になって。休んだって良い。休まないと未来の私みたいになるから。」
女の人は私の手を握って言った。
「心に素直になる。」
私がそう言うと
「うん。素直になることは悪いことではない。」
「素直になってもいいの?」
私が泣きそうになった。ふと、体に温もりを感じた。女の人は私を抱きしめていた。
「なってもいいの。泣いたっていいの。」
私は気付いたら大粒の涙がこぼれていた。我慢していたぶんたくさんの涙がこぼれていた。
「いつも自分に大丈夫って言って、自分より辛い人がいるから私は辛くないって言い聞かせてた。心に素直になることは悪いことだと思ってた。」
「ううん、心に素直になることはいいことなの。誰も未来の私も悪いとは思わないから。」
「うん。」
私は泣きながら、女の人の温もりを感じた。
気付いたときには朝になっていて、女の人はいなかった。
「素直になってね。」
と女の人の声が聞こえた気がした。



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