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妖精は遠い存在だった。【ラルフサイド】
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王太子として産まれて、周りからもチヤホヤされて、勉強だって、魔法だって、剣術だって、同年代の奴らよりできていたから、自分に出来ないことなどないと思っていた。
ある時、教師達がランカスター家の長女の話をしているのを聞くまでは。
「本当にびっくりするような天才ですよ」
「殿下と同じ四歳なんですよね?」
「既に魔法は超上級まで全て覚えたって聞きますよ」
「しかも無詠唱でね」
「そりゃ凄い。外国語も八ヶ国語覚えたんでしょう?」
「ありゃもう現地の大人よりペラペラだよ。外交官としてやっていける程だね」
「しかもそんな超天才児なのに、驕るところもなくて、努力家で可愛いと聞きますよ」
「嬉しそうに学んでくれるからこちらもつい色々教えてしまうんだよね」
「実は人間じゃなくて妖精なのではって思っているよ」
なんだ、その女は。
俺より出来るって言うのか。
俺は、その時から見た事もないそいつを勝手にライバル視し始めた。
ついに、そいつに会えるという、お茶会の日。そいつが大した事がなければ鼻で笑ってやろう、と意気込んでいた。
親に連れられてきたそいつを見て、俺は息を飲んだ。本当に妖精がいるのかと思ったからだ。目を離せなくて、ずっと見つめていたら、母上に、ランカスター家のアリシア嬢が気になるの?と揶揄うような声で聞かれた。
あの妖精が、アリシア嬢?
「そんなんじゃない」
ムッとしているうちに、一言も話せないうちにアリシア嬢の挨拶が終わってしまい、その後全ての挨拶が終わったあとにお茶会が始まった。
お茶会は、令嬢達が座っているテーブルを、俺が順番に廻るのだけれど、どのテーブルを見てもアリシア嬢の姿が見えない。
どこに行ったのだと思っていたら急に警護が慌ただしくなって、何事かを母上に伝えるのが見えた。
大人の席でもバタバタと動きがあってアリシア嬢の両親が母上のテーブルに移動する。
敷地内の警護の騎士達にも緊張が走っているのが見える。
まさかアリシア嬢に何かあったのだろうか?
しかし母上が俺に何も言って来ない以上はこのままホストし続けなければならない。俺は愛想笑いを浮かべながら、テーブルを巡っていった。
テーブルの令嬢達が何か話しかけてきているが何も頭に入ってこない。
しばらくすると、父上の年の離れた弟であるルドルフ従兄さんが、アリシア嬢を連れてやってきた。
なんで、手を繋いでいるんだ。
アリシアとルドルフ従兄さんはそのまま、母上のテーブルに座ると話をしだした。何を話しているのか分からないがどうしてもそちらが気になるので、テーブルの令嬢達からの質問に、ああ、ああ、と空返事をしていたらテーブルで笑い声が起きた。
全くもって何を話していたのか分からないが、こちらを見たアリシア嬢と目が合った。
それなのに、スっと目を逸らされた。アリシア嬢が何事かを言ってルドルフ従兄さんが質問している。向こうのテーブルが賑やかになった。
「母上のテーブルには行かなくていいのか?」
アリシア嬢だって婚約者候補としてお茶会に参加しているはずだ。傍についている従者に尋ねてみたが、必要ないそうです。と言われた。
そのままお茶会が終わり、結局アリシア嬢とは話すことも出来なかった。
「誰か気になった子はいたかしら?」
「アリシア嬢は…」
お茶会の時に何をしていたのだ、と聞こうとしたら
「アリシア嬢は難しいわね」
と、一刀両断された。
「ランカスター嬢と付き合うには、ラルフじゃ覚悟が足りないよ」
ルドルフ従兄さんにまでそう言われる。
「なんでですか!?」
そして、ルドルフ従兄さんから今日起きた事と、話した内容を伝えられた。
「アリシア嬢は本当の天才だよ。彼女の隣に立とうと思ったら、少しの努力も怠ってはならない。お前は歴代の王太子の中でも優秀だと思うよ。それでも彼女ーとの差は歴然と分かるんだ。どんなに努力しても到達できない域に彼女がいるんだ。ちょっとでも諦めたり、卑屈になったら彼女の隣に居る自分が惨めになって辛くなる」
「!」
「それに彼女は、王太子妃という地位にも全然興味が無い。なんなら公爵令嬢という地位にも興味が無さそうだったから、令嬢なら王太子妃になりたいだろう、などとこちらが上から強制したって無駄だろう。まあ王命を使えば婚約者にはなれると思うが、お前が少しでも諦めた途端、傷が付くとかも気にせずに、これ幸いと婚約を解消してくると思うよ」
「そんな…それでも俺はアリシア嬢が…」
一目惚れだったのだ。
「結婚するのはどう考えても十年後、その時お互いがどんな風になっているかも分からない、と彼女は言っていた。だったらお前がもっともっと努力して、ランカスター嬢が認めるような男になればいい。婚約者だって、無理に今決める必要はない」
「そうなのですか?」
「そうなのよ。アリシア嬢言われて、確かにそうね、と思ってしまったのよ。今選んだ婚約者が十年後に王太子妃にふさわしい令嬢になっているかなんて分からないものね」
それなら、アリシア嬢が『是』という男になってやろうじゃないか。
「でも優秀すぎるアリシア嬢を王家としては野放しにも出来ないのよね…。ルドルフ、貴方はどう?」
「やめてくださいよ、義姉上。私は十二も年下の幼女に懸想するような変態じゃないですよ。それに私は誰とも結婚する気はありません。無駄に子種を撒いて兄上の治世を乱すような事はしませんよ」
「あら、でも王家の血筋は必要よ」
「そこは兄上と、義姉上が頑張ってくださいよ。今でも第二王子も第三王子だって居るのだから充分でしょう」
確かに三歳になる弟のレオと、こないだ産まれたばかりの弟アダンがいる…が。
「十年後はどうなっているか、分からないでしょ?十五と二十七なら、まあ範疇よね。十年後ならレオか、アダンでも…」
「駄目です!アリシアは俺のです!!」
思わず叫んでしまった。
だけれど、ルドルフ従兄にも、弟たちにだってアリシアは、やるものか。
ある時、教師達がランカスター家の長女の話をしているのを聞くまでは。
「本当にびっくりするような天才ですよ」
「殿下と同じ四歳なんですよね?」
「既に魔法は超上級まで全て覚えたって聞きますよ」
「しかも無詠唱でね」
「そりゃ凄い。外国語も八ヶ国語覚えたんでしょう?」
「ありゃもう現地の大人よりペラペラだよ。外交官としてやっていける程だね」
「しかもそんな超天才児なのに、驕るところもなくて、努力家で可愛いと聞きますよ」
「嬉しそうに学んでくれるからこちらもつい色々教えてしまうんだよね」
「実は人間じゃなくて妖精なのではって思っているよ」
なんだ、その女は。
俺より出来るって言うのか。
俺は、その時から見た事もないそいつを勝手にライバル視し始めた。
ついに、そいつに会えるという、お茶会の日。そいつが大した事がなければ鼻で笑ってやろう、と意気込んでいた。
親に連れられてきたそいつを見て、俺は息を飲んだ。本当に妖精がいるのかと思ったからだ。目を離せなくて、ずっと見つめていたら、母上に、ランカスター家のアリシア嬢が気になるの?と揶揄うような声で聞かれた。
あの妖精が、アリシア嬢?
「そんなんじゃない」
ムッとしているうちに、一言も話せないうちにアリシア嬢の挨拶が終わってしまい、その後全ての挨拶が終わったあとにお茶会が始まった。
お茶会は、令嬢達が座っているテーブルを、俺が順番に廻るのだけれど、どのテーブルを見てもアリシア嬢の姿が見えない。
どこに行ったのだと思っていたら急に警護が慌ただしくなって、何事かを母上に伝えるのが見えた。
大人の席でもバタバタと動きがあってアリシア嬢の両親が母上のテーブルに移動する。
敷地内の警護の騎士達にも緊張が走っているのが見える。
まさかアリシア嬢に何かあったのだろうか?
しかし母上が俺に何も言って来ない以上はこのままホストし続けなければならない。俺は愛想笑いを浮かべながら、テーブルを巡っていった。
テーブルの令嬢達が何か話しかけてきているが何も頭に入ってこない。
しばらくすると、父上の年の離れた弟であるルドルフ従兄さんが、アリシア嬢を連れてやってきた。
なんで、手を繋いでいるんだ。
アリシアとルドルフ従兄さんはそのまま、母上のテーブルに座ると話をしだした。何を話しているのか分からないがどうしてもそちらが気になるので、テーブルの令嬢達からの質問に、ああ、ああ、と空返事をしていたらテーブルで笑い声が起きた。
全くもって何を話していたのか分からないが、こちらを見たアリシア嬢と目が合った。
それなのに、スっと目を逸らされた。アリシア嬢が何事かを言ってルドルフ従兄さんが質問している。向こうのテーブルが賑やかになった。
「母上のテーブルには行かなくていいのか?」
アリシア嬢だって婚約者候補としてお茶会に参加しているはずだ。傍についている従者に尋ねてみたが、必要ないそうです。と言われた。
そのままお茶会が終わり、結局アリシア嬢とは話すことも出来なかった。
「誰か気になった子はいたかしら?」
「アリシア嬢は…」
お茶会の時に何をしていたのだ、と聞こうとしたら
「アリシア嬢は難しいわね」
と、一刀両断された。
「ランカスター嬢と付き合うには、ラルフじゃ覚悟が足りないよ」
ルドルフ従兄さんにまでそう言われる。
「なんでですか!?」
そして、ルドルフ従兄さんから今日起きた事と、話した内容を伝えられた。
「アリシア嬢は本当の天才だよ。彼女の隣に立とうと思ったら、少しの努力も怠ってはならない。お前は歴代の王太子の中でも優秀だと思うよ。それでも彼女ーとの差は歴然と分かるんだ。どんなに努力しても到達できない域に彼女がいるんだ。ちょっとでも諦めたり、卑屈になったら彼女の隣に居る自分が惨めになって辛くなる」
「!」
「それに彼女は、王太子妃という地位にも全然興味が無い。なんなら公爵令嬢という地位にも興味が無さそうだったから、令嬢なら王太子妃になりたいだろう、などとこちらが上から強制したって無駄だろう。まあ王命を使えば婚約者にはなれると思うが、お前が少しでも諦めた途端、傷が付くとかも気にせずに、これ幸いと婚約を解消してくると思うよ」
「そんな…それでも俺はアリシア嬢が…」
一目惚れだったのだ。
「結婚するのはどう考えても十年後、その時お互いがどんな風になっているかも分からない、と彼女は言っていた。だったらお前がもっともっと努力して、ランカスター嬢が認めるような男になればいい。婚約者だって、無理に今決める必要はない」
「そうなのですか?」
「そうなのよ。アリシア嬢言われて、確かにそうね、と思ってしまったのよ。今選んだ婚約者が十年後に王太子妃にふさわしい令嬢になっているかなんて分からないものね」
それなら、アリシア嬢が『是』という男になってやろうじゃないか。
「でも優秀すぎるアリシア嬢を王家としては野放しにも出来ないのよね…。ルドルフ、貴方はどう?」
「やめてくださいよ、義姉上。私は十二も年下の幼女に懸想するような変態じゃないですよ。それに私は誰とも結婚する気はありません。無駄に子種を撒いて兄上の治世を乱すような事はしませんよ」
「あら、でも王家の血筋は必要よ」
「そこは兄上と、義姉上が頑張ってくださいよ。今でも第二王子も第三王子だって居るのだから充分でしょう」
確かに三歳になる弟のレオと、こないだ産まれたばかりの弟アダンがいる…が。
「十年後はどうなっているか、分からないでしょ?十五と二十七なら、まあ範疇よね。十年後ならレオか、アダンでも…」
「駄目です!アリシアは俺のです!!」
思わず叫んでしまった。
だけれど、ルドルフ従兄にも、弟たちにだってアリシアは、やるものか。
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