ざんねん!ナルシストはハーレムの呪いにかかってしまった!

竜造寺 怜音

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1章 呪われしナルシスト

1.受難の始まりは突然に

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「ゼーゲンさん!そっちにモンスターが行きましたよ!」

 茂みから突如現れた狼型のモンスター――プチウルフが、鋭い歯を剥き出しにして、俺の喉元を食い千切ろうと飛び掛かってきた。それを俺はしゃがみ込むことで華麗に回避し、ブロードソードで振り向きざまに横薙ぎの一閃を食らわせる。
 首元に鋭い斬撃を受けたプチウルフはしばらくのたうち回った後に、黒い霧となって虚空に散っていった。


「ふっ……ふふふふふっ!この金色に輝く髪!透き通った碧眼!そしてモンスターを一撃で切り伏せるこの剣技!やはり俺は美しい!非の打ちどころがなさすぎて俺は俺自身が怖い!」

 完璧だ。やはり俺は完璧だ。見た目もよくて腕っぷしもよいなんて、我ながら恐ろしい。天は二物を俺に与えてくれた。ありがとう天!いつまでも俺の美貌を見守っていてくれ!

「ゼーゲンさん……。確かに見た目は格好いいと私も思いますよ。見た目は」
「むっ。見た目だけでなく内面も格好いいだろう?」
「それはないですねー。見た目はいいけど中身は濁った川のようです。いえ、泥水も濾過すれば飲み水になりますし、レーゲンさんと一緒にしたら濁った川に失礼ですね。すみません」
「濁った川以下!?この美しい俺が!?」

 俺の内面を濁った川と評した、艶やかなセミロングの黒髪と低身長であることが印象的なこの少女は、黒いローブを身にまとい、古びたウッドロッドを手に持ちいかにも魔法使いといった姿をしている。そのいかにも魔法使いといった姿の通り、彼女は闇の魔法を扱うことに長けている。
 彼女の名はナハト。今年十六歳になったばかりの俺より一つ年下の、毒舌少女だ。俺と同じように孤児であった彼女とは、一緒の孤児院で育ってきた。昔は俺のことをレーゲンお兄ちゃんと呼んで慕っていたのだが、時間の流れは残酷だ。気が付くと、息をするように鋭い言葉を放つようになってしまった。主に俺に対して。

「全く。ゼーゲンさん。ここは初心者冒険者用のダンジョンですよ?当然、ここに生息しているモンスターはよわよわなんです。そんなよわよわなモンスターを一匹倒して調子に乗ったらダメですよ。悦に浸ってる瞬間に、別のモンスターが現れて食べられちゃうかもしれないんですから」
「いたっ!いたたっ!杖で小突くのはやめて!たんこぶができたら俺の美貌がくすんでしまう!」
「うーん。頭をぽかぽか叩き続けたら性格変わりませんかね?ゼーゲンさんが謙虚で薄幸な感じの美青年になってくれたら嬉しいんですが……」

 そう言いながらナハトは、ウッドロッドでさらに頭を小突いてきた。
 失礼な奴だ!もうすでに俺は謙虚で薄幸な超絶美青年だというのに!

「ダメよナハト。そいつにあまり近付きすぎるとナルシスト菌が伝染するわよ」
「そんな菌無いし、伝染するわけないだろ!ナハト共々失礼だなレルム姉は!」

 ナハトを庇う様にして俺の前に立ちはだかった彼女――レルム姉は辛辣な言葉を俺に投げかけてきた。今の言葉は彼女が愛用しているアイアンナイフより鋭いのではなかろうか。

「まあそんな菌があってもなくてもどうでもいいわ。感染対策だけはしておくけど」
「いやしなくていいから!」
「はいはい。ま、とにかくナハトが言ったようにダンジョンの中であまり調子に乗ってはダメよ。少しの油断が命取りになるんだから。ダンジョンを攻略した後ならいくらでも自分の美貌をひけらかしていいわよ。アタシたちはスルーするけどね」

 そう言いながら、レルム姉は自身の頭に生えた角を忙しなく弄っている。
 レルム姉は竜人族と人間のクォーターであるため、紫のロングヘアを掻き分けるように、頭に左右対称な二本の角が生えている。角があることを除けば俺とナハトみたいなヒト族とそう変わらない見た目をしているが、彼女にとってはその角がコンプレックスなようで、時折角が無くなったらいいのにと呟く姿を見る。そして、そんな疎ましく思っている角を忙しなく触っている時は相当機嫌が悪い時だ。まずい。ここは謝って機嫌を直して貰わねば。

「むう。すまなかった。美しく剣を振るう俺の姿があまりにも神々しかったせいで二人を嫉妬させてしまった。本当にすまない。俺が美しすぎたばかりに……」
「ゼーゲンさん本当に反省してます?」
「してないわね絶対。今度は思い切り殴っていいわよナハト」
「はーい。それじゃナハトちゃんいきまーす」
「ストップストップ!本当に反省してるから!あまりにも完璧すぎる姿でこの世に生を受けたことは罪だと俺も思っているから!今後その罪を償っていくから!」
「はーい。それじゃ歯を食いしばっててくださいねー」

 大変だ。このままだと恐ろしい笑みを浮かべるナハトに撲殺されてしまう。まさかモンスターより恐ろしい存在がいるとは。恐るべしダンジョン……。

「ふ、二人とも!やめるのだ!こんな所で仲間割れしたらそれこそ命取りである!」

 振り下ろされた杖が、俺の頭上すれすれで止まった。
 見上げると、そこには白くてモフモフとした毛皮に覆われたごつい手が、ナハトのウッドロッドを止めてくれていた。


「ゼクストさん!ゼーゲンさんなんかを庇うなんて……。ごめんなさい。手、痛くないですか?」
「大丈夫だ。我は頑丈である」
「ゼクスト!こういう時、俺を庇わなくていいと言っているだろう。いくらマッチョでいかにも前衛という見た目をしていてもお前は回復担当の治癒術使いなんだ。前衛である俺をモンスターの攻撃から庇う必要はないんだ」
「ちょっと待ってください?今、ナハトちゃんがモンスター扱いされませんでした?」
「え?似たようなものだろう」
「……闇よ、深淵より這い、出でよ」
「ナハト殿!ストップ!ストップだ!闇魔法をゼーゲン殿に向けて使ってはいけないのである!」

 俺に向けて放たれようとしている闇魔法の詠唱を慌てて止める、ホワイトタイガーの獣人、ゼクスト。筋骨隆々で格闘家のような姿をしているが、彼はなんと後方支援が得意な癒術使いである。俺と同い年なはずなのに一回り年上と錯覚してしまいそうになるほど落ち着きがあり、心優しい性格で、このように喧嘩が発生すると慌てて仲裁に入る。一言でいえば気遣いの達人だ。





「はあ、先が思いやられる。駆け出しの冒険者は皆苦労するみたいだけど、アタシたちはより苦労しそうね」
「大丈夫だ。俺のこの剣がどんな困難も切り開く!もし剣で切り開けない困難が現れたら俺の美貌で乗り越えよう!」
「貴方のせいで困難な状況が生まれそうなんだけど。もういいわ。早く目的を果たしましょう。アタシたちがこのゲヴェクスの森に来た理由は忘れてないわよね?」
「うむ、森の北部に自生している薬草を手に入れるためである。一応、我は治癒術を使えるが、強敵との戦いで魔力切れなどを起こす場面もあるかもしれないから、薬草はあるに越したことはない。備えあれば憂いなしというやつである」

 そう。ゼクストの言う通り、俺たちがこのダンジョンに足を踏み入れた理由は、薬草を手に入れるためだ。
 小さな傷を癒す薬草は、何かと怪我をしやすい冒険者の必需品。大量にあって困ることはない。だが、道具屋でまとめて買うと意外と値が張るのが薬草だ。駆け出しで殆ど稼ぎが無い冒険者には痛い出費となる。その出費を抑えたいと思う駆け出し冒険者にとって、このゲヴェクスの森は都合が良いダンジョンだ。生息しているモンスターが弱く、ダンジョンの構造も複雑ではない。そして薬草まで生い茂っている。モンスター退治の要領を得ることができ、冒険の必需品も入手できる。故に、このダンジョンは初心者冒険者に人気があるのだ。それは俺たちも例外ではない。

「薬草かあ。院長先生を思い出しちゃいますね」
「あー。怪我ばかりしてた俺たちに馴染みが深かったからな。薬草。怪我するたびに、院長がどこからか薬草を取り出して手当てしてくれたっけ」
「うむ、そうだったな。……孤児院から旅立ってそんなに日数が過ぎたわけでもないのに、懐かしく感じるのが不思議である」

 俺たち四人は、このゲヴェクスの森から少し離れた場所にある町の、同じ孤児院の出身だ。そこには、元冒険者である院長先生が居て、俺たちに様々なことを学ばせてくれた。元冒険者である先生は、週に何度か、町の子供たちを集めて冒険者について学ぶ場を設けてくれた。魔物と戦うための術、魔法を使うコツ、食べられる野草の見分け方等、今思えばそれはどれも生きていくうえで役立つ勉強ばかりだ。まあ、俺には魔法の才能がなかったから剣技を重点的に鍛えてもらったが。

「薬草以外にもお金になりそうなものがあるといいですねー。宝石とか転がってませんかね?」
「宝石は流石に転がってないと、我は思う」
「そうだな。もしあったらこの俺の美しさを際立てるための装飾品にするのだが、まあそんなものが都合よく転がってるわけ……」

 ……ん?気のせいだろうか。先ほどプチウルフを倒した地点に、淡い光を放つ物体が転がっているように見えるのは。噂をしたら本当に転がってた、なんてことはないよな。流石に。


「……マジか」

 まさかと思いながら光っている物がある場所に近づくと、そこには淡い紫色の光を放つ小さな宝石が付いた指輪が転がっていた。主張が激しくない色合いが、とても良い。俺のように金髪碧眼で目立つ美青年の魅力を引き立ててくれそうだ。そう思った俺は、すぐにその転がっている指輪を右手の人差し指に装着し、3人に見せつけた。

「見てくれ!さっきプチウルフを倒した所にこれが落ちてた!」
「あら、それは指輪かしら。プチウルフを倒した所にあったということは……、もしかしたらさっきの魔物は依代モンスターだったのかもしれないわね」
「依代モンスターって、確か古い道具に魂を憑依させた珍しいモンスターだったっけ」
「そうよ。幸先が良いわね。とても貴重な品だと思うわ。……当然のように貴方が装着しているのがちょっと腹立たしいけど」

 角を触りながら微笑するレルム姉が少し怖い。レルム姉もこの指輪を装着してみたいのだろうか。なら、この上品な色の指輪をはめた俺の姿を見せびらかせた後、彼女に渡そう。この冒険で手に入れた物は俺たち全員の物だからな。みんなの物はみんなの物。

「ふふふ……。この紫という落ち着いた色が眩しく輝く俺自身をより引き立て、最高の美を生み出すのだ!そう思うだろうみんなも?」
「そうですね!とても素敵ですゼーゲンさん!普段からクールで格好良いのに、それを着けてるとより男前で素敵です……」
「えっ?」
「ええっ?」

 俺とレルム姉が同時に困惑の声を上げる。それもそのはず。何と、ナハトが俺を素敵と評したのだ。先ほど俺を濁った川と評したその口で、素敵と。


「お、おい。ナハトの様子がおかしくないか?なあゼクスト。ゼクスト?……うおおおおっ!?」

 振り向けば、いつの間にかゼクストが俺の真後ろに立っていて心臓が止まりそうになった。吐息が頭に当たる程に近い。近すぎる。

「おかしくないぞ。とても素敵である。その太陽のように輝く金の髪も、見る者の心を射止めるその碧の瞳も、そしてこの柔らかさと硬さが絶妙な抱き心地の良い身体も……」
「ぎゃあああああああああああっ!?」

 たった今、俺は、筋骨隆々のホワイトタイガーマンに背後からそっと抱きしめられている。荒い吐息と鼻息。伝わる熱気。大変だ。変態だ。どうしよう。レルム姉がめっちゃ目を丸くしてこっちを見てる。……と思ったら急に慈しむような視線を向けてきたぞ。ちょっと待て。もしかして俺とゼクストをそういう関係だと思ったわけか?思ったわけだな?

「ご、ごめん。貴方たちがそういう関係って知らなくて……」
「違うから!俺が好きなのは俺だから!俺の恋人は俺だから!」
「ゼーゲン殿。我はゼーゲン殿が好きである。いや、大好きである……」
「ラブじゃなくてライクの意味でだよな!?それなら俺も好きだよ!仲間だと思ってるよ!」
「ゼーゲン殿……」
「疑惑を残したままトリップするな!!正気に戻れゼクストォーッ!!」
「ゼクストさんばかりずるいです!私もゼーゲンさんが大好きです!だからナハトちゃんは前から抱き着いちゃいます!それー!」
「ぐえええええええっ!!?」

 ナハトが勢いよく俺の腹にタックルをかましてきた。胃の内容物をぶちまけそうになったが、何とか堪えることができた。いや、吐き気を堪えることができたからといってそれがなんだ。なんだこの状況は。どうして俺は仲間の2人に抱きしめられている?おかしい。突然こんな状況になるなんて絶対におかしい。
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