真珠を噛む竜

るりさん

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第三章 銀の百合

ワインの残り香

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 翌朝、クロヴィスはエリクの元気な声で起こされて、目を覚ました。
「クロヴィス、おはよう! もうすぐ日が昇るよ!」
 日の出前、まだ寝ていたい時間だった。眠い目をこすりながら窓際に歩いていくと、エリクがずいぶんと興奮していた。
「クロヴィス、太陽が昇るよ! 僕には初めての日の出だ。きれいだなあ」
 そうか、エリクは生まれてからずっと、ジャンヌたちに出会うまではずっと、牢屋の中で育っていたのだった。それなら、そんなエリクとみる朝陽は悪いものではない。クロヴィスはそう思ってエリクと一緒に日の出を見た。
 着替えて食堂に行くと、ジャンヌとリゼットに途中で会って合流した。朝食付きの宿なので、おいしい朝食をいただくと、リゼットが鼻をつまんで手を振った。
「酒くっさ! あなたたち、もしかして昨日お酒飲んだの?」
 すると、エリクが何の疑問も持たずにこう答えた。
「そうだよ。とてもおいしいワインだった」
「お酒! しかもワイン! クロヴィス、あなた、この純真な子にそんなもの教えて!」
 リゼットが怒りの声を上げると、クロヴィスはそれをなだめながら食事を指さした。
「いいじゃないか、何も問題なかったんだから。それより食おうぜ。温かい食事が冷めちまう」
 リゼットは、少し納得のいかない様子だったが、それでも他の三人と一緒に食事を済ませると、早めに支度をして宿を出た。
「隣の村までは一日かかるから、なるべく野宿にならないようにしようね。まあ、もっとも、銀の村に泊まれる宿があればの話だけど」
 ジャンヌがそう言うと、エリクは笑って応えた。
「僕は野宿も好きだよ」
「お前は、何でも楽しめるんだな」
 クロヴィスが、そう言ってエリクの背中を叩いた。
「もっとも、俺も野宿は嫌いじゃない。いろんなものがいろんな視点で見えてくる」
 そのクロヴィスの言葉に、女二人はくすくす笑いをした。どうして笑われたのか分からないクロヴィスは、女は変な生き物だ、そう思って気を取り直した。
「それじゃあ、行くわよ。クスクス」
 リゼットが笑いながら皆に号令をかけた。クロヴィスは変な気持ちだったが、エリクは、楽しそうな女二人を見て笑っていた。
「なんだか楽しそうだね、二人とも」
 歩き出すと、エリクがクロヴィスに話しかけてきた。クロヴィスはもうあきらめていて、女という生き物に関して理解することに、さじを投げていた。
「もう知らん」
 そう言うと、エリクとともに、先を行く女子二人を追いかけていった。
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