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第八章 トネリコ
定住という選択肢
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皆が疲れ果てていたため、稽古は午前中で終わった。ジャンヌやエリクはもっと続けたいと言っていたが、休むのも鍛錬のうちだとクロヴィスに言われ、納得せざるを得なかった。
その後三日間、各々稽古をつけてもらいながらも、どんどん武器の使い方が上手になっていくのを実感していた。休んでは稽古、休んでは稽古だったが、体力もついてきたせいか、どんどんみんな楽しくなってきていた。
リゼットは、水を一瞬にして凍らせるすべを身につけた。これは、水の運搬だけでなく、作ったジャムの鮮度を落とさずに運ぶのに非常に役立つ術だった。
そして、三日経ったある日、隊商がこの町にやってきた。
彼らは大所帯で、いくつもの馬車と何十頭もの馬、何十人もの人間がいろいろな荷物を運んで売り買いして歩いていた。中にはちょっとした芸を見せる人もいて、村の中で人形劇を披露しては金を集めていた。
「ああいうの、私たちの町でもあったわね」
遠巻きに人形劇を見ながら、懐かしい気分に浸っているのは、リゼットだった。彼女は今、大量の氷を作る練習をしていた。この村には湧水が多い。その湧水を使って氷にしては戻す、その練習を何度もしていた。
懐かしい気持ちになっているのはジャンヌも同じだった。エリクもだ。三人が出会ったあの町、そこにはまだエリクの母が囚われたままだ。
「母さん、大丈夫かな」
エリクがふと、呟いた。すると、きれいな泉のある木の下で何かを話し合っていたナリアとアースがこちらへやってきた。ナリアが、エリクの肩に手を当てる。
「エリク、大丈夫です。あなたのお母様のことはこちらで常に監視しています。心配せずに旅を続けてください。何よりも、今あなたに必要なのは、ご家族の力。それを高めていくことです」
「家族の力」
ナリアは、にこりと笑った。その笑顔に、エリクは少し安心した。そうだ、いまはアースもいる。これだけ頼りになる人たちが揃っていて、母を守ってくれているのだから、心配はいらないのかもしれない。
「ここに来て、旅を続けていた末に定住した家族を見た」
アースが、エリクにそう告げると、今度はリゼットやジャンヌたち全員がやってきて、エリクの周りに集まった。
「それは本当ですか? そんなことができるんですか!」
ジャンヌがアースに食って掛かった。アースは、少し困ったような顔をした。
「できないと思って旅をしていたのか」
すると、全員が黙ってしまった。
どこかで、エリクの目的が終わってしまったらみんなどうするんだろう、離れ離れになってしまうのではないか。そう思っていた。そんな不安を抱えながら旅をしていた。
すると、アースは気を取り直して、すこしだけ、優しそうな表情をした。いつも厳しい表情をしているわけではないが、笑顔を見せるという印象が薄かったから珍しかった。
「その夫婦の家は、ちょうどこの南東だ。少し道をそれるが、元の街道にはすぐに戻れる。会ってみるか?」
アースの提案に、皆が同意した。ナリアが少し寂しそうな顔をしている。
「ここから南東の家に住む家の夫婦」
ナリアは、ひとつ、ため息をついた。そして、空を見上げると、ゼンテイカ一家を見渡した。
「確かに、あの夫婦ならばあなた方に良いことを教えてくれるでしょう」
「ナリアさん、知っているんですか?」
エリクが驚いてナリアを見た。他の皆も驚いて囁き合っている。ナリアはこの世界のことなら何でも知っている。そして、把握している。それでも次に会う夫婦が特別な存在であることは、ナリアの表情から見て取れた。
ナリアは、やはり寂しそうににこりと笑って頷いた。それ以上何も言わなくなってしまった彼女の代わりに、アースがその理由を語ってくれた。
「その夫婦は、ナリアの兄夫婦なんだ。この国の隣の国にいて、戦乱に巻き込まれて放浪していたが、戦争の終結とともに定住地を定めた。今は小さな宿屋を開いている。ナリアの兄は穏やかな人で、もとはその国の騎士だった。会ってみて損はない」
「戦乱が、隣国であったんですね。知らなかった」
セリーヌが、何かを考えこんでいる。おそらく、この国のそこらじゅうを回っていながら、戦乱のうわささえ聞かなかったのがおかしいのだろう。それは、ナリアがフォローした。
「あの戦乱は、内乱のようなものでしたし、隣国各国の脅威にはなりませんでした。脅威になるもの以外には皆無関心ですから、知らなくても当然なのかもしれません」
ナリアの顔は、相変わらず寂しそうだった。なにが彼女にそうさせるのかは誰にもわからなかった。アースだけがただ、その事情を察してナリアの背をそっと叩いた。
その後三日間、各々稽古をつけてもらいながらも、どんどん武器の使い方が上手になっていくのを実感していた。休んでは稽古、休んでは稽古だったが、体力もついてきたせいか、どんどんみんな楽しくなってきていた。
リゼットは、水を一瞬にして凍らせるすべを身につけた。これは、水の運搬だけでなく、作ったジャムの鮮度を落とさずに運ぶのに非常に役立つ術だった。
そして、三日経ったある日、隊商がこの町にやってきた。
彼らは大所帯で、いくつもの馬車と何十頭もの馬、何十人もの人間がいろいろな荷物を運んで売り買いして歩いていた。中にはちょっとした芸を見せる人もいて、村の中で人形劇を披露しては金を集めていた。
「ああいうの、私たちの町でもあったわね」
遠巻きに人形劇を見ながら、懐かしい気分に浸っているのは、リゼットだった。彼女は今、大量の氷を作る練習をしていた。この村には湧水が多い。その湧水を使って氷にしては戻す、その練習を何度もしていた。
懐かしい気持ちになっているのはジャンヌも同じだった。エリクもだ。三人が出会ったあの町、そこにはまだエリクの母が囚われたままだ。
「母さん、大丈夫かな」
エリクがふと、呟いた。すると、きれいな泉のある木の下で何かを話し合っていたナリアとアースがこちらへやってきた。ナリアが、エリクの肩に手を当てる。
「エリク、大丈夫です。あなたのお母様のことはこちらで常に監視しています。心配せずに旅を続けてください。何よりも、今あなたに必要なのは、ご家族の力。それを高めていくことです」
「家族の力」
ナリアは、にこりと笑った。その笑顔に、エリクは少し安心した。そうだ、いまはアースもいる。これだけ頼りになる人たちが揃っていて、母を守ってくれているのだから、心配はいらないのかもしれない。
「ここに来て、旅を続けていた末に定住した家族を見た」
アースが、エリクにそう告げると、今度はリゼットやジャンヌたち全員がやってきて、エリクの周りに集まった。
「それは本当ですか? そんなことができるんですか!」
ジャンヌがアースに食って掛かった。アースは、少し困ったような顔をした。
「できないと思って旅をしていたのか」
すると、全員が黙ってしまった。
どこかで、エリクの目的が終わってしまったらみんなどうするんだろう、離れ離れになってしまうのではないか。そう思っていた。そんな不安を抱えながら旅をしていた。
すると、アースは気を取り直して、すこしだけ、優しそうな表情をした。いつも厳しい表情をしているわけではないが、笑顔を見せるという印象が薄かったから珍しかった。
「その夫婦の家は、ちょうどこの南東だ。少し道をそれるが、元の街道にはすぐに戻れる。会ってみるか?」
アースの提案に、皆が同意した。ナリアが少し寂しそうな顔をしている。
「ここから南東の家に住む家の夫婦」
ナリアは、ひとつ、ため息をついた。そして、空を見上げると、ゼンテイカ一家を見渡した。
「確かに、あの夫婦ならばあなた方に良いことを教えてくれるでしょう」
「ナリアさん、知っているんですか?」
エリクが驚いてナリアを見た。他の皆も驚いて囁き合っている。ナリアはこの世界のことなら何でも知っている。そして、把握している。それでも次に会う夫婦が特別な存在であることは、ナリアの表情から見て取れた。
ナリアは、やはり寂しそうににこりと笑って頷いた。それ以上何も言わなくなってしまった彼女の代わりに、アースがその理由を語ってくれた。
「その夫婦は、ナリアの兄夫婦なんだ。この国の隣の国にいて、戦乱に巻き込まれて放浪していたが、戦争の終結とともに定住地を定めた。今は小さな宿屋を開いている。ナリアの兄は穏やかな人で、もとはその国の騎士だった。会ってみて損はない」
「戦乱が、隣国であったんですね。知らなかった」
セリーヌが、何かを考えこんでいる。おそらく、この国のそこらじゅうを回っていながら、戦乱のうわささえ聞かなかったのがおかしいのだろう。それは、ナリアがフォローした。
「あの戦乱は、内乱のようなものでしたし、隣国各国の脅威にはなりませんでした。脅威になるもの以外には皆無関心ですから、知らなくても当然なのかもしれません」
ナリアの顔は、相変わらず寂しそうだった。なにが彼女にそうさせるのかは誰にもわからなかった。アースだけがただ、その事情を察してナリアの背をそっと叩いた。
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