59 / 147
第九章 ひまわり亭
サンドイッチを作ろう
しおりを挟む
宿屋までの帰り道、皆は少し真剣な表情で、乾いた道路を歩いていた。この町の空気は乾燥している。砂漠のようではないが、カラッとしていた。
その中で、すこし楽しそうにしているのが、エリクだった。彼は、今まで持っていた違和感が解消されたみたいで、心地よかったのだ。クロヴィスが言ってくれたことも、それに対してリゼットが気付いたことも。
これから自分たちは本当の家族になる。その期待感が、エリクを前に向かせていた。
宿屋に着くと、セベルとエーテリエが入り口で待っていた。この暑い中どうして宿屋の中にいなかったのだろう。皆はそう思った。だが、二人は手を振ってごまかし笑いをしながらこう言うだけだった。
「今日のご飯はどこかほかの店で食べましょうよ」
しかし、エリクたちやサニアたちにしても、そんなにお金があるほうではない。そうしょっちゅう外食ばかりはできなかった。いつまで経ってもごまかし笑いをしている二人を見て、サニアは腕組みをして迫っていった。
「怪しい」
そう言いながら、二人を押しのけて戸を開けた。そして、皆を誘うと、台所の騒ぎを見て、ため息をついた。
「やっぱりね。何かあるとは思ったけど」
だが、サニアは肩を落としたわけではなかった。少しの苦笑いを浮かべたまま、台所のカウンターの上に置かれた悲惨な状態の野菜を手に取る。
「この程度なら問題ないわ。どうせ切り刻んでサンドイッチに挟む予定だったし」
「サンドイッチ!」
みんなが声を揃えて喜びの声を上げた。サンドイッチが嫌いな人間はいなかったからだ。
「採れたての食材で作るサンドイッチ! どんなにおいしいだろう!」
エリクは相当嬉しそうだ。
するとそこに、アースとナリアが帰ってきた。よく見ると、二人ともいつものような覇気がない。疲れ切っていて、頭も抱えていた。肩を落とし、ナリアの髪に至ってはところどころ乱れている部分があった。
しかし、買い物はきちんとこなしてきたようで、二人が差し出したものをチェックすると、頼んだものすべてがきちんとそこにあった。
「疲れた」
二人は声を揃えてそう言い、椅子に座ってだらりとした。
「どうしたんですか、ナリアさんもアースさんも!」
ジャンヌが駆け寄っていって心配そうに二人を見るので、他の人間もそれに倣った。
「この町の人たちはなんでああもタフなんだ」
アースが、天井を見ながら呟く。ナリアは乱れた髪を直してため息をついた。
「足まで速くてびっくりしました」
「どういうことですか?」
セリーヌがサニアたちに問いかけると、皆は何かを悟ったように笑い合った。ナリアとアースの置かれた状況が容易に想像できたからだ。
セリーヌの問いには、レイテナが答えた。
「この町の人たちは、カップルとみれば追いかけまわす習性があるの。だから足は鍛えられているのよ。アースさんがナリアさんを庇って走ったなら、二人とも相当疲れているはずよ。少し休ませてあげましょう」
「もしかして、レイテナさんとソルアさんもその洗礼に遭ったことが?」
レイテナとソルアは、頷いた。
「もちろん。今回みたいにカップルでなくても、男女が一人ずつ、一組になっていれば同じ目に遭います」
「なるほど」
みんなはその言葉ですべてを納得した。
納得したところで、サニアのサンドイッチづくりが始まった。皆が手伝いながら作っていくことになっていて、キュウリを切ったり、レタスをちぎったり、卵をゆでてから潰してマヨネーズと塩コショウで和えたり。皆それぞれ役割を与えられて作っていった。ナリアとアースだけが、椅子に座って休んでいた。
サンドイッチを作るのは楽しかった。まるでチームプレイのスポーツをしているかのような感覚だった。一つの作業が終わったら、他のチームの作業が終わるのを待つ。サニアが指示を出してきたら次のステップに移る。そうやって、サンドイッチは出来上がっていった。
「卵が一番かかったわね」
「卵は工程が多かったから、最後はみんなでつぶしていたよね」
「すごい量だったものね」
「卵もだけど、パンもすごく使ったよね」
出来上がったサンドイッチをバスケットに詰めながら、リゼットとエリクが会話をしている。皆で、少し歩いた平原の木の下で食べる予定になっていた。皆はそれが楽しみで仕方がなかった。こんなに大勢でとる食事とはどういうものだろう。
その頃にはもう、ナリアとアースの疲れも取れてきていた。皆は、町を西から出ていった先にある、国境近くの平原へ行くために準備を始めた。バスケットと、レジャーシート。それに、貴重品と得物。もし、クマでも出てきたら、アースが手を貸さない限り素手では勝てないからだ。
すべての準備が整うと、皆を宿屋から出し、サニアは宿の窓やドアにカギをかけた。そして、大所帯になった集団に声をかけた。
「さあ、これからはちょっとしたピクニックよ! 楽しんでいきましょう!」
その中で、すこし楽しそうにしているのが、エリクだった。彼は、今まで持っていた違和感が解消されたみたいで、心地よかったのだ。クロヴィスが言ってくれたことも、それに対してリゼットが気付いたことも。
これから自分たちは本当の家族になる。その期待感が、エリクを前に向かせていた。
宿屋に着くと、セベルとエーテリエが入り口で待っていた。この暑い中どうして宿屋の中にいなかったのだろう。皆はそう思った。だが、二人は手を振ってごまかし笑いをしながらこう言うだけだった。
「今日のご飯はどこかほかの店で食べましょうよ」
しかし、エリクたちやサニアたちにしても、そんなにお金があるほうではない。そうしょっちゅう外食ばかりはできなかった。いつまで経ってもごまかし笑いをしている二人を見て、サニアは腕組みをして迫っていった。
「怪しい」
そう言いながら、二人を押しのけて戸を開けた。そして、皆を誘うと、台所の騒ぎを見て、ため息をついた。
「やっぱりね。何かあるとは思ったけど」
だが、サニアは肩を落としたわけではなかった。少しの苦笑いを浮かべたまま、台所のカウンターの上に置かれた悲惨な状態の野菜を手に取る。
「この程度なら問題ないわ。どうせ切り刻んでサンドイッチに挟む予定だったし」
「サンドイッチ!」
みんなが声を揃えて喜びの声を上げた。サンドイッチが嫌いな人間はいなかったからだ。
「採れたての食材で作るサンドイッチ! どんなにおいしいだろう!」
エリクは相当嬉しそうだ。
するとそこに、アースとナリアが帰ってきた。よく見ると、二人ともいつものような覇気がない。疲れ切っていて、頭も抱えていた。肩を落とし、ナリアの髪に至ってはところどころ乱れている部分があった。
しかし、買い物はきちんとこなしてきたようで、二人が差し出したものをチェックすると、頼んだものすべてがきちんとそこにあった。
「疲れた」
二人は声を揃えてそう言い、椅子に座ってだらりとした。
「どうしたんですか、ナリアさんもアースさんも!」
ジャンヌが駆け寄っていって心配そうに二人を見るので、他の人間もそれに倣った。
「この町の人たちはなんでああもタフなんだ」
アースが、天井を見ながら呟く。ナリアは乱れた髪を直してため息をついた。
「足まで速くてびっくりしました」
「どういうことですか?」
セリーヌがサニアたちに問いかけると、皆は何かを悟ったように笑い合った。ナリアとアースの置かれた状況が容易に想像できたからだ。
セリーヌの問いには、レイテナが答えた。
「この町の人たちは、カップルとみれば追いかけまわす習性があるの。だから足は鍛えられているのよ。アースさんがナリアさんを庇って走ったなら、二人とも相当疲れているはずよ。少し休ませてあげましょう」
「もしかして、レイテナさんとソルアさんもその洗礼に遭ったことが?」
レイテナとソルアは、頷いた。
「もちろん。今回みたいにカップルでなくても、男女が一人ずつ、一組になっていれば同じ目に遭います」
「なるほど」
みんなはその言葉ですべてを納得した。
納得したところで、サニアのサンドイッチづくりが始まった。皆が手伝いながら作っていくことになっていて、キュウリを切ったり、レタスをちぎったり、卵をゆでてから潰してマヨネーズと塩コショウで和えたり。皆それぞれ役割を与えられて作っていった。ナリアとアースだけが、椅子に座って休んでいた。
サンドイッチを作るのは楽しかった。まるでチームプレイのスポーツをしているかのような感覚だった。一つの作業が終わったら、他のチームの作業が終わるのを待つ。サニアが指示を出してきたら次のステップに移る。そうやって、サンドイッチは出来上がっていった。
「卵が一番かかったわね」
「卵は工程が多かったから、最後はみんなでつぶしていたよね」
「すごい量だったものね」
「卵もだけど、パンもすごく使ったよね」
出来上がったサンドイッチをバスケットに詰めながら、リゼットとエリクが会話をしている。皆で、少し歩いた平原の木の下で食べる予定になっていた。皆はそれが楽しみで仕方がなかった。こんなに大勢でとる食事とはどういうものだろう。
その頃にはもう、ナリアとアースの疲れも取れてきていた。皆は、町を西から出ていった先にある、国境近くの平原へ行くために準備を始めた。バスケットと、レジャーシート。それに、貴重品と得物。もし、クマでも出てきたら、アースが手を貸さない限り素手では勝てないからだ。
すべての準備が整うと、皆を宿屋から出し、サニアは宿の窓やドアにカギをかけた。そして、大所帯になった集団に声をかけた。
「さあ、これからはちょっとしたピクニックよ! 楽しんでいきましょう!」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません
夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される!
前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。
土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。
当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。
一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。
これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
僕の前世は日本人で25歳の営業マン。社畜のように働き、過労死。目が覚めれば妹が大好きだった少女漫画のヒロインを苦しめる悪役令息アドルフ・ヴァレンシュタインとして転生していた。しかも彼はヒロインの婚約者で、最終的にメインヒーローによって国を追放されてしまう運命。そこで僕は運命を回避する為に近い将来彼女に婚約解消を告げ、ヒロインとヒーローの仲を取り持つことに決めた――。
※他サイトでも投稿中
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる