真珠を噛む竜

るりさん

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第九章 ひまわり亭

サンドイッチを作ろう

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 宿屋までの帰り道、皆は少し真剣な表情で、乾いた道路を歩いていた。この町の空気は乾燥している。砂漠のようではないが、カラッとしていた。
 その中で、すこし楽しそうにしているのが、エリクだった。彼は、今まで持っていた違和感が解消されたみたいで、心地よかったのだ。クロヴィスが言ってくれたことも、それに対してリゼットが気付いたことも。
 これから自分たちは本当の家族になる。その期待感が、エリクを前に向かせていた。
 宿屋に着くと、セベルとエーテリエが入り口で待っていた。この暑い中どうして宿屋の中にいなかったのだろう。皆はそう思った。だが、二人は手を振ってごまかし笑いをしながらこう言うだけだった。
「今日のご飯はどこかほかの店で食べましょうよ」
 しかし、エリクたちやサニアたちにしても、そんなにお金があるほうではない。そうしょっちゅう外食ばかりはできなかった。いつまで経ってもごまかし笑いをしている二人を見て、サニアは腕組みをして迫っていった。
「怪しい」
 そう言いながら、二人を押しのけて戸を開けた。そして、皆を誘うと、台所の騒ぎを見て、ため息をついた。
「やっぱりね。何かあるとは思ったけど」
 だが、サニアは肩を落としたわけではなかった。少しの苦笑いを浮かべたまま、台所のカウンターの上に置かれた悲惨な状態の野菜を手に取る。
「この程度なら問題ないわ。どうせ切り刻んでサンドイッチに挟む予定だったし」
「サンドイッチ!」
 みんなが声を揃えて喜びの声を上げた。サンドイッチが嫌いな人間はいなかったからだ。
「採れたての食材で作るサンドイッチ! どんなにおいしいだろう!」
 エリクは相当嬉しそうだ。
するとそこに、アースとナリアが帰ってきた。よく見ると、二人ともいつものような覇気がない。疲れ切っていて、頭も抱えていた。肩を落とし、ナリアの髪に至ってはところどころ乱れている部分があった。
 しかし、買い物はきちんとこなしてきたようで、二人が差し出したものをチェックすると、頼んだものすべてがきちんとそこにあった。
「疲れた」
 二人は声を揃えてそう言い、椅子に座ってだらりとした。
「どうしたんですか、ナリアさんもアースさんも!」
 ジャンヌが駆け寄っていって心配そうに二人を見るので、他の人間もそれに倣った。
「この町の人たちはなんでああもタフなんだ」
 アースが、天井を見ながら呟く。ナリアは乱れた髪を直してため息をついた。
「足まで速くてびっくりしました」
「どういうことですか?」
 セリーヌがサニアたちに問いかけると、皆は何かを悟ったように笑い合った。ナリアとアースの置かれた状況が容易に想像できたからだ。
 セリーヌの問いには、レイテナが答えた。
「この町の人たちは、カップルとみれば追いかけまわす習性があるの。だから足は鍛えられているのよ。アースさんがナリアさんを庇って走ったなら、二人とも相当疲れているはずよ。少し休ませてあげましょう」
「もしかして、レイテナさんとソルアさんもその洗礼に遭ったことが?」
 レイテナとソルアは、頷いた。
「もちろん。今回みたいにカップルでなくても、男女が一人ずつ、一組になっていれば同じ目に遭います」
「なるほど」
 みんなはその言葉ですべてを納得した。
 納得したところで、サニアのサンドイッチづくりが始まった。皆が手伝いながら作っていくことになっていて、キュウリを切ったり、レタスをちぎったり、卵をゆでてから潰してマヨネーズと塩コショウで和えたり。皆それぞれ役割を与えられて作っていった。ナリアとアースだけが、椅子に座って休んでいた。
 サンドイッチを作るのは楽しかった。まるでチームプレイのスポーツをしているかのような感覚だった。一つの作業が終わったら、他のチームの作業が終わるのを待つ。サニアが指示を出してきたら次のステップに移る。そうやって、サンドイッチは出来上がっていった。
「卵が一番かかったわね」
「卵は工程が多かったから、最後はみんなでつぶしていたよね」
「すごい量だったものね」
「卵もだけど、パンもすごく使ったよね」
 出来上がったサンドイッチをバスケットに詰めながら、リゼットとエリクが会話をしている。皆で、少し歩いた平原の木の下で食べる予定になっていた。皆はそれが楽しみで仕方がなかった。こんなに大勢でとる食事とはどういうものだろう。
 その頃にはもう、ナリアとアースの疲れも取れてきていた。皆は、町を西から出ていった先にある、国境近くの平原へ行くために準備を始めた。バスケットと、レジャーシート。それに、貴重品と得物。もし、クマでも出てきたら、アースが手を貸さない限り素手では勝てないからだ。
 すべての準備が整うと、皆を宿屋から出し、サニアは宿の窓やドアにカギをかけた。そして、大所帯になった集団に声をかけた。
「さあ、これからはちょっとしたピクニックよ! 楽しんでいきましょう!」
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