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第十三章 ルッコラ
初恋のゆくえ
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エリクは、ティエラを見送ったその場所でしばらく放心状態になっていた。ティエラのことを思い出すだけで胸が痛い。その辺の屋台から香ってくるいい香りも、ティエラのつけていた、ほんのり香る香水の匂いにかき消されてしまっていた。
「エリク」
遠くから誰かの声が聞こえる。聞きなれた声だ。女の人の声、家族。
その声は、エリクを何度か呼んだが、そのうち聞こえなくなってしまった。次に、誰かが体を揺さぶった。
エリクは、我に返った。
すると、目の前にはクロヴィスとセリーヌがいた。
「ようやく気が付いた。どうしたんだ?」
クロヴィスはそう言うと、ほっとした顔をした。セリーヌが横で何かを考えている。
エリクは、二人を見比べると、大きく長いため息をついた。
「エリク」
セリーヌがエリクの肩に手を置いた。
「昼間に会ったという女性」
セリーヌがそう言うと、エリクの体がビックリして跳ね上がった。
「違うんだ、セリーヌ! 僕はただその女の人がきれいで」
焦りながら説明しようとエリクが頑張っていると、セリーヌはその肩を抱いて、一言、こう言った。
「恋をしたのね」
そのセリーヌのぬくもりに、エリクは安心した。胸につかえていた重いものが流れて消えていく。安心すると、周りの屋台から香ってくるおいしそうな匂いに、お腹が反応した。先ほど食べたばかりなのに。
「エリクも空腹か。俺たちも何も食べていないんだ。一緒にどうだ?」
エリクは、それに同意した。
三人は、近くにあった石窯ピザの屋台で、焼き立てのピザを食べた。三人とも初めて食べる料理で、食べるときに食器を使わないので、戸惑いながら食べた。クロヴィスは、ほかの屋台からもらってきた赤いワインを飲んだ。
「そう言えば、アースさんとエーテリエは? セリーヌはコンテストに出ないの?」
三枚目のピザを食べながら、エリクが尋ねると、セリーヌが答えた。
「私はエントリーしないことにしたの。出るだけでもお金がかかるから、三人も出たら必ず誰かの分が無駄になるでしょ? アースさんは、さっきから姿が見えないの。ナリアさんたちのところにもいなくて。それを探していたから、私たち、今まで何も食べていなかったのよ」
「え? いないの?」
エリクが驚いているので、クロヴィスが、ピザをくわえながら答えた。
「おかしいんだよ。何も言わずに消える人じゃないだろ。ナリアさんに聞いても、不気味に笑うだけで。なに企んでいるのか、皆目見当がつかない」
不気味に笑うナリア、すぐ消えるアース。疲れている顔でクロヴィスに助けを求め、今もここにはいない。
「おかしいな。何かあるのかな、このコンテスト」
エリクが呟くと、クロヴィスとセリーヌはびっくりした顔をした。
「コンテストに何かあるの?」
セリーヌの問いに、エリクは何も答えられなかった。根拠がないからだ。
エリクが悩んでいると、クロヴィスが四枚目のピザを食べ終わって、服に着いた粉やカスを払っていた。
「まあ、なるようになるさ」
クロヴィスは、そう言って二人に笑いかけた。
するとその時、コンテストの始まる大きな音楽が流れてきた。このコンテストだけにそこら中から集められた楽器奏者が楽団を作って、急ごしらえの音楽を演奏する。ステージには、司会者の男性が上がっている。ステージの両脇にはたいまつが置かれていた。
「あれは、きっと錬術の火だね。明るいけど、熱が弱い」
エリクには、温度が見えた。明らかに冷たい錬術の炎も、リゼットやナリアが使う熱い錬術の炎も、見分けることができた。
それは、きっとエリクがランサーである証拠なのだろう。
クロヴィスとセリーヌは、エリクの言葉を聞いていて、そう納得した。
司会者の軽快な声に導かれて、コンテストにエントリーした女性が一人一人壇上に上がっていく。人数はエリクたちが思ったよりも多い。その中にはちゃんと、リゼットやジャンヌ、そして、ティエラもいた。
「ティエラは、優勝すると思う」
エリクは、自分自身に言い聞かせるように、そっと呟いた。
「それくらい、彼女はきれいなんだ。でも、もう一人の僕は、彼女に優勝してほしくないんだ」
エリクがそう言ってティエラから目を逸らすと、それを見ていたクロヴィスが、エリクの肩に手をやって、自分のほうに引き寄せた。
「大丈夫だ、エリク。あそこにナリアさんもいるぞ」
「エリク」
遠くから誰かの声が聞こえる。聞きなれた声だ。女の人の声、家族。
その声は、エリクを何度か呼んだが、そのうち聞こえなくなってしまった。次に、誰かが体を揺さぶった。
エリクは、我に返った。
すると、目の前にはクロヴィスとセリーヌがいた。
「ようやく気が付いた。どうしたんだ?」
クロヴィスはそう言うと、ほっとした顔をした。セリーヌが横で何かを考えている。
エリクは、二人を見比べると、大きく長いため息をついた。
「エリク」
セリーヌがエリクの肩に手を置いた。
「昼間に会ったという女性」
セリーヌがそう言うと、エリクの体がビックリして跳ね上がった。
「違うんだ、セリーヌ! 僕はただその女の人がきれいで」
焦りながら説明しようとエリクが頑張っていると、セリーヌはその肩を抱いて、一言、こう言った。
「恋をしたのね」
そのセリーヌのぬくもりに、エリクは安心した。胸につかえていた重いものが流れて消えていく。安心すると、周りの屋台から香ってくるおいしそうな匂いに、お腹が反応した。先ほど食べたばかりなのに。
「エリクも空腹か。俺たちも何も食べていないんだ。一緒にどうだ?」
エリクは、それに同意した。
三人は、近くにあった石窯ピザの屋台で、焼き立てのピザを食べた。三人とも初めて食べる料理で、食べるときに食器を使わないので、戸惑いながら食べた。クロヴィスは、ほかの屋台からもらってきた赤いワインを飲んだ。
「そう言えば、アースさんとエーテリエは? セリーヌはコンテストに出ないの?」
三枚目のピザを食べながら、エリクが尋ねると、セリーヌが答えた。
「私はエントリーしないことにしたの。出るだけでもお金がかかるから、三人も出たら必ず誰かの分が無駄になるでしょ? アースさんは、さっきから姿が見えないの。ナリアさんたちのところにもいなくて。それを探していたから、私たち、今まで何も食べていなかったのよ」
「え? いないの?」
エリクが驚いているので、クロヴィスが、ピザをくわえながら答えた。
「おかしいんだよ。何も言わずに消える人じゃないだろ。ナリアさんに聞いても、不気味に笑うだけで。なに企んでいるのか、皆目見当がつかない」
不気味に笑うナリア、すぐ消えるアース。疲れている顔でクロヴィスに助けを求め、今もここにはいない。
「おかしいな。何かあるのかな、このコンテスト」
エリクが呟くと、クロヴィスとセリーヌはびっくりした顔をした。
「コンテストに何かあるの?」
セリーヌの問いに、エリクは何も答えられなかった。根拠がないからだ。
エリクが悩んでいると、クロヴィスが四枚目のピザを食べ終わって、服に着いた粉やカスを払っていた。
「まあ、なるようになるさ」
クロヴィスは、そう言って二人に笑いかけた。
するとその時、コンテストの始まる大きな音楽が流れてきた。このコンテストだけにそこら中から集められた楽器奏者が楽団を作って、急ごしらえの音楽を演奏する。ステージには、司会者の男性が上がっている。ステージの両脇にはたいまつが置かれていた。
「あれは、きっと錬術の火だね。明るいけど、熱が弱い」
エリクには、温度が見えた。明らかに冷たい錬術の炎も、リゼットやナリアが使う熱い錬術の炎も、見分けることができた。
それは、きっとエリクがランサーである証拠なのだろう。
クロヴィスとセリーヌは、エリクの言葉を聞いていて、そう納得した。
司会者の軽快な声に導かれて、コンテストにエントリーした女性が一人一人壇上に上がっていく。人数はエリクたちが思ったよりも多い。その中にはちゃんと、リゼットやジャンヌ、そして、ティエラもいた。
「ティエラは、優勝すると思う」
エリクは、自分自身に言い聞かせるように、そっと呟いた。
「それくらい、彼女はきれいなんだ。でも、もう一人の僕は、彼女に優勝してほしくないんだ」
エリクがそう言ってティエラから目を逸らすと、それを見ていたクロヴィスが、エリクの肩に手をやって、自分のほうに引き寄せた。
「大丈夫だ、エリク。あそこにナリアさんもいるぞ」
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