真珠を噛む竜

るりさん

文字の大きさ
137 / 147
第十七章 風に舞う葉

同じ

しおりを挟む
 翌日、大工のウドを中心として、主に力のある男性組が中心になって、空き家をリフォームしたり、テーブルや椅子を作ったりする作業に取り掛かった。女性組は街に行って必要な物を買い揃えたり市場の様子を見に行ったりした。
 そして、街から帰ってきた女性組は、仕入れてきた布を使って、レストランのユニフォームを作ることになった。
 そんなことを何日も繰り返していると疲れてきたので、レストラン開始前の三日間は、それぞれ思い思いのことをして休むことになった。 
 休み初日の朝、顔を洗う水が水瓶からなくなっていたので、エリクとシリウスがまだ寝ているアースを起こさないように、静かに瓶を泉に持って行った。
 泉に着くと、水を入れながらシリウスがエリクにこう言った。
「可愛いだろ、あいつの寝顔」
 少し、真剣な顔だった。そんな顔で言うことだろうか。
 エリクは疑問に思いながらも、少し困ったような気分でこう返した。
「可愛いです。でも、そう感じ始めたのは最近のことで」
「そうだろうな」
 シリウスはそう言って、泉の先に広がる森を見た。起きたばかりで体が鈍り切っている。伸びをすると気持ちが良かった。
 そんなシリウスを見て、エリクは変な気持ちになった。自分とアースの間に入ってきた、アースの親友であるシリウスに対して、どこかに劣等感のようなものがあったのだ。
 それを見抜いたのか、シリウスはエリクの背中を軽く叩いた。
「エリクも、俺と同じなんだよ」
 そう言って、不思議そうにこちらを見るエリクに笑いかけた。不思議とさきほどの劣等感は消えている。そのことに疑問を覚えながらも、エリクは水が溜まっていく瓶を見た。
「シリウスさんと同じなら、それでいいかも」
 エリクは笑った。そして、シリウスと一緒に、水を貯めた瓶を持って、空き家に戻っていった。
 すると、アースはもう起きていて、半分くらいふてくされた顔をして待っていた。
「お前ら、俺の悪口言ってただろ」
 すると、そんなアースがすごくおかしくなってエリクとシリウスは大声で笑ってしまった。二人が腹を抱えて笑っていると、アースはバツの悪そうな顔をして引き下がった。
 エリクは、シリウスと共にお腹を抱えて笑って初めて、彼とうまくやっていけるような気がした。彼らは地球の人だから、あとどれくらい一緒にいられるのかはわからないが、それでも仲良くなって、一緒に喜怒哀楽を共にすることにためらいは感じなかった。
 アースが、ベッドの上に座ってため息をついた。なんだかその姿も滑稽で、エリクは気づいたら目の前のアースに向かって、こう言っていた。
「着替えて、行きましょう。あなたを待っている人がたくさんいます!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】聖女は国を救わないと決めていた~「みんなで一緒に死にましょうよ!」と厄災の日、聖女は言った

ノエル
恋愛
「来たりくる厄災から、王国を救う娘が生まれる。娘の左手甲には星印が刻まれている」 ――女神の神託により、王国は「星印の聖女」を待ち望んでいた。 完璧な星印を持つ子爵令嬢アニエスと、不完全な星印しか持たない公爵令嬢レティーナ。 人々はこぞってアニエスを“救いの聖女”と讃え、レティーナを虐げた。 だが、本当に王国を救うのは、誰なのか。 そして、誰にも愛されずに生きてきたレティーナの心を誰が救うのか。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...