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第9章:文化祭とメイドさん
しおりを挟む土日とゆっくり休んだ週明け。
生徒会の集まりの時にみんなにありがとうと伝えると、生徒会のメンバーは優しい言葉をかけてくれた。
「もう、会長頑張りすぎるから。早めの段階で頼ってくださいよ」
「いつでも力になるからね」
「みんなありがとう……」
俺だけが一人で抱え込んでいた。
みんなこんなに手を差し出してくれていたのにな。
「まっ、一番は俺に頼ってほしいですけど」
目の前にいる宇佐美が言う。
悔しいから言わないけど、きっと一番頼ってしまっているのは宇佐美だ。
今回の件は本当に感謝しなくちゃいけない。
自分の気持ちを伝えることが出来て、心の中にあったモヤモヤが晴れた。
苦しい時に苦しいと言える場所があること。
すごく大切なんだと知った。
「じゃあ準備しましょうか」
刻々と近づいてくる文化祭。
作り始めに比べて、だんだんと形になって来た。
「そういえば、コスプレ喫茶の衣装に追加の特別衣装って書いてあったけどなにをやるんだ?」
それは1、2年生の男子がふざけて書いたものだ。
「メイドですよ」
メイド!?
コスプレの衣装はキャラクターだったり、執事の衣装や和服だったりを想定していた。
その他に自分たちで作った服ならOKとしていたんだけど……メイド服なんてリストにあったか?
「執事があったらメイドさんもいなきゃダメじゃないっすか~ 家庭科部の吉田さんに頼んでこっそり作ってもらいました」
全く、気づけば勝手なことを……。
俺は頭を抱えた。
また真面目な生徒会からは遠ざかった気がする。
でもまぁ、それを着る女子たちがいいって言ってるならいいか。
「会長もメイドさんの服どうですか?」
「絶対嫌だ!それに俺は当日現場監督だし……」
ちぇっ、なんてみんなが口を尖らせる。
そもそも男がメイド服着たって、何も面白くないだろ……!
「つーか、唯人先輩にセクハラすんなよな」
すると宇佐美がやって来て口を挟んだ。
「なんだよ、宇佐美は会長のメイド服見たくねぇの?」
「…………見たくねぇ」
「おい、なんだよ今の間」
「怪しかったぞ!!」
宇佐美は同じ学年の二人に茶化されていた。
見たくねぇって言われるのもなんだか癪だが……。
それを横目で見ながらも、俺はパンっと手を叩いた。
「はい、遊んでないで準備準備」
3人はしぶしぶ準備へと取り掛かった。
看板に内装、衣装も8割が終わっている。
後は前日のジュースやお茶菓子の準備と、チケット作りか……。
「唯人先輩」
色々と考えていると、宇佐美は俺の肩を叩く。
「看板壊した犯人、探らなくていいんですか?」
看板や他のものを壊した人。
出来れば探したい気持ちはある。
でも今は問題を掘り返して、みんなの気持ちを下げたくない。
「とりあえず、対策だけして犯人を探すのは文化祭が終わってからにしよう」
「そうですね」
それから準備に準備を重ね、ついに文化祭の日がやって来た。
俺は当日、クラスの方で特別やる仕事はないので、1日生徒会喫茶の方にいることになっている。
少しの期待をこめて、両親に時間と場所を伝えたけれど……。
母さんからは【仕事だから】と。
父さんからは返事すら帰って来なかった。
来れるわけないよな。
結局3年間、見てもらえなかったな……。
「唯人」
肩を落としていると、誰かが話しかけて来た。
振り返るとそこには執事の格好をした学がいる。
「うわあ~執事だ」
「ご注文はなにになさいますか?」
彼の執事を真似た声に笑ってしまう。
「なに笑ってんだよ、こっちは真剣なんだぞ」
「ふふっ、ごめんって。似合ってるよ」
すごいな、制服じゃないだけでがらっとイメージが変わる。
これは色んな人が来るんじゃないか?
「岩田さん、指名入ってますよ」
すると後からやって来たのは宇佐美だった。
彼もまた同じように執事の格好をしていて……。
うわ、すごいな。
着こなしてる。
この中の誰よりも似合っているな……。
これは女子が騒ぎそうだ。
「指名ってどこ?」
「あの3番テーブルです」
3番テーブルを見てみると、そこには生徒会の2年生男子メンバーが女装をして座っていた。
「あ~ん、岩田くんタイプ♡」
「早く来てぇ~~」
「だ、そうです。しっかり接客してきてください」
学はげっ、という顔をしつつも、きちんと3番テーブルに向かった。
みんな楽しんでいていいな。
みんなが楽しめる学校を作りたいと目標にして頑張ってきた。
今、そんな学校になっていたらいいな。
「無事、本番を迎えられて良かったですね」
宇佐美がしみじみ言う。
「そうだな……色々あったけど、こうやって形になってるの見るとやっぱり嬉しい」
「ですね」
宇佐美は柔らかく笑うと、白い手袋をかけたままその手を差し出した。
??
「手を」
意味が分からぬまま宇佐美の手の上に俺の手を置くと、その手を持ち上げてちゅっとキスを落とす。
「う、え……宇佐美!?」
「今日はよろしくお願いします。唯人様」
な、なんだ……これは!!
宇佐美にキスされた手をぱっと下げると、俺は必死に言う。
「そ、そんなことお客さんにやったらダメだからな!」
「もちろん。先輩だけですよ」
そういう意味じゃなくてだな……!
全く……。
こういう悪ノリ、宇佐美は参加してこないタイプなんだけどな。
宇佐美も浮かれてるのか?
「先輩、そろそろ時間じゃ無いですか?」
「ああ、そうだったな……。行ってくる」
もうすぐ文化祭スタートの時間だ。
生徒会長が文化祭開始の合図をかける決まりになっている。
俺は放送室に向かった。
長い間時間をかけて来たこと。
それを今日はみんなで目一杯楽しむ日。
挨拶と短いメッセージを伝え。
「文化祭スタートです」
ついに文化祭は始まった。
それぞれの出し物の見回りをしないとな。
違反をしていないか、危ないことをしていないかみるのも生徒会の役割だ。
辺りは賑やかでみんな楽しそうだった。
俺たちにとって大事な思い出だ。
やって来たことをやって良かったと思えるような文化祭になるといいな。
「唯人先輩、見てください」
一通り見回りを終えて、自分たちの行うカフェに戻ってくるとそこは大繁盛していた。
「すごい……さっそく人が入るなんて思わなかった」
でも、女子の数が多いような気が……?
「宇佐美くん~注文したいんですけどお」
「直人、こっちにも来てよ~」
ああ、やっぱり。
みんな宇佐美目当てで来るのか。
人気者は大変だなぁ。
そんなことを考えながら裏で飲み物の準備をしていると、遅れてくると言っていた1年生の女子がスマホを握り、焦りながらやって来た。
「どうしよう……」
「どうかしたのか?」
キャラクターの着ぐるみを着て、呼び込みを行っていた1年生の女子が困ったように言う。
「実はクラスの方で具合悪い子がいて、急遽入らなくちゃいけなくなっちゃっって……でも代わりがいなくて」
なるほど……。
「それなら生徒会の方は俺がやるから、クラスの方に顔を出してくるといい」
「えっ、いいんですか?」
今手が空いている人は俺くらいしかいない。
そうなったら出ていくしかないだろう。
「ああ、もちろんだ」
「すみません、会長も忙しいのに……」
その子は申し訳なさそうに、衣装の入った紙袋を俺に手渡した。
「クラスの方終わったらすぐに戻って来ますので~!」
彼女は頭を下げると、生徒会カフェを後にした。
さっそく着替えるか……。
想像以上に賑わっているため、売り場に出る人はもう1人いた方がいいだろう。
俺はすぐ隣にある生徒会室の中に入っていった。
中に入り、渡された紙袋の中身を取り出す。
「え……」
てっきりキャラクターの衣装だと思っていたけれど、その子が持っていたのはメイド服であった。
な、なんだこれは……!
なんでよりよってメイド服なんだよ……泣。
待って、これ俺着れるか?
サイズも問題だが……どう考えても周りの目を汚すとしか思えない。
でもコスプレ喫茶と謳っているのに、普通の制服で出るわけにはいかないし……。
なにか着れる衣装は……。
俺はキョロキョロと辺りを見渡したが、他の衣装は残っていなかった。
「どうしよう……」
たしか、衣装は男女兼用で着れるように大きめに作ってると言ってた。
頑張れば着れないことはない?
生徒会長喫茶に穴をあけないため、羞恥心を捨ててお店に出る。
ええい!
みんなのためだ!
俺はしぶしぶ衣装に手を通した。
「こ、これは……事故だろ」
ワイシャツはボタンが第2ボタンくらいまで開いているタイプ。
スカートはやはり男が着るには短すぎるし、とにかく違和感があった。
ス―スーする……。
こんなだらしのない制服の着方、今までしたことないぞ!
これは大問題だ!
「やっぱり無理」
俺が着替え直そうと思っていると、突然生徒会室のドアが開いた。
「うわっ」
「あ、すみません……」
とっさに体を隠す。
すると、そこに入って来たのは宇佐美だった。
う、なんでこんな時に宇佐美が……っ。
一番見られたくなかった。
「唯人先輩……?」
恥ずかしすぎる。
宇佐美は俺を見て固まったまま。
そして信じられないとでも言いたげな顔をして言った。
「どうしたんですか、その恰好」
「あ、いや……1年の子がクラスの方に行かなきゃいけないらしくて衣装渡されて……その、だな」
ああもう……!
なんだこの羞恥プレイは!
「ダメです」
「えっ」
「それで店に出るなんてよくないです」
よ、よくないって!
そんなの俺が一番わかってる!
ゴツくて固い男の足なんて誰もみたくないし、とにかく似合っていない。
でも脱ごうとしたんだから、そんなに否定しなくたっていいだろう……!
「なんでそんなの着ようとするんですか」
「なんでって……これしかなかったから!」
なんなんだよ。
そんなに突っかかってきて!
宇佐美は不機嫌そうに眉を寄せると、ズカズカと俺の方へ歩み寄ってくる。
その迫力に押され、俺はジリジリと後退った。
「な、なんだよ」
「自覚が足りないんですよ、先輩は」
「はあ?」
トン、と腰が後ろの会議机に当たった。
宇佐美は俺の目の前まで来ると、両手を机につき、逃げ場を完全に塞いだ。
「ちょっ、近いだろ……!」
「よく見てください、自分のその姿」
宇佐美の視線が、俺の身体をゆっくりと這うように下りていく。
白いフリルのついたエプロン。
そして、ありえないほど短いスカートから伸びた、自身の足。
「見るなよ……!分かってるから!もっと似合いそうな子に着てもらうよ。悪かったな。汚いものみせて」
「そうじゃない」
するとグイッ、と顎を持ち上げられれ、強制的に宇佐美と視線が絡んだ。
「かわいすぎる」
「……はぁ?」
「その恰好で外に出て、他のやつらにジロジロ見られるのが我慢ならないって言ってるんです」
こ、こいつ……。
もしかして働きすぎて目がおかしくなったんじゃ……。
「う、宇佐美……お前、もう少し休んだ方がいいぞ」
「?」
宇佐美はよくわからないとでも言いたげな顔をしていた。
文化祭の準備が忙しすぎておかしくなってしまったんだ……。
俺がもっと頑張らないと。
すると。
ーーコンコン。
ノックの音が響いた。
「会長、人手が足りてなくて……もう出られますか」
ハッ、と我に返る。
そうだ行かないと。
今は人手不足なんだ。
もう色々吹っ切れたからこれでいいや……。
宇佐美にも散々見られたし。
一人くらいネタになりそうな男がいてもいいだろう。
「分かった。今行く……」
そう言って宇佐美の横を通り過ぎようとした時、彼が俺の肩になにかを掛けた。
「えっ?」
「これで妥協しますから、着ていて下さい」
宇佐美の大きなジャージは膝先まで隠してくれた。
「あ、ありがとう!」
これならなんとか隠せるだろう。
俺はこうして生徒会室を出た。
急いで戻らないと。
ジャージの裾をギュッと掴んだ時。
びっくりする光景が目に飛び込んでいた。
俺はぴたりと足を止める。
「父さん……」
生徒会喫茶の前に父さんが立っていた。
仕立ての良いスーツを着た父さん。
仕事を抜けてきてくれたんだ!
俺のメッセージを読んで!?
嬉しい……!
「父、さん……来てくれるなんて嬉しいよ!時間があるなら見ていってほしい。生徒会のみんなと作ったんだ」
父さんが学校に来るなんて、入学式以来だ。
仕事人間で、厳格な政治家である父。
まさか本当に来てくれるなんて思っていなかった。
俺は喜びを感じながら駆け寄ろうとした。
しかしその瞬間、父さんは冷え切った声で言った。
「最後くらい見届けてやろうと思って来たが……時間の無駄だったな」
「え……」
「そんなふざけた格好をして生徒会長をしてるなんて想像もしなかった」
口がカラカラに乾いていく。
父、さん……。
すると父さんは俺に背中を向けた。
「唯人にはがっかりだ」
ガツン、と頭を殴られたような衝撃が走った。
そん、な……。
「父さん、待って! 俺は……っ」
しかし父は何も言わずに歩きだしてしまう。
待ってくれ。
ひきとめたいけど、足が動かない。
俺は……っ、俺はまた失敗した?
手が震える。
その時。
「待てよ!」
後ろから大きな声が響いた。
俺の横を風が通り抜けていく。
その背中は、見間違えるはずもない。
宇佐美だった。
宇佐美は父さんの前まで大股で歩み寄ると、行く手を強引に阻んだ。
「なんだ、キミは」
父さんが不快そうに眉を寄せる。
しかし宇佐美は一歩も引かず、鋭い視線で父さんを睨みつけた。
「あんた、それでも親かよ」
「……なんだと?」
宇佐美の声は怒りで震えていた。
「上っ面しか見ないで判断して帰って、政治家ならもっとしっかり中身を見たらどうですか?」
「……っ!」
ピリリ、と空気が凍りつく。
父さんの目がスッと細められた。
そして冷ややかな声で吐き捨てる。
「キミは、誰にものを言ってるのかね?」
威圧的な言葉。
俺なら、それだけですくみ上がって謝ってしまうだろう。
だけど宇佐美は、フンと鼻で笑った。
「宇佐美、やめ……っ」
俺が止めようと声を出すより早く、宇佐美は言い放った。
「俺は、あんたが時間の無駄だと切り捨てたこの人の、一番近くにいた人間として言ってるんだ」
宇佐美の拳がギュッと握りしめられているのが見えた。
「唯人先輩がどれだけの思いで生徒会長を務めてきたか。どれだけ身を削って、この学校のために尽くしてきたか。なにも見てないあんたに、否定する資格なんてない」
「宇佐美……」
やっぱりそうだ。
俺が欲しかった言葉。伝えたかったこと。
それを全部分かってくれるのは宇佐美なんだな。
「くだらん」
父さんはそう吐き捨てるとそのまま去っていった。
「うさ、み……ごめ」
謝ろうとした時。
「誰か!宇佐美くんと会長呼んできて!」
中から声が聞こえる。
もう行かないと。
俺たちは急いで生徒会喫茶の中に入ることにした。
それから生徒会喫茶は考える暇もないくらい忙しかった。
「次、2番テーブルに接客ついて」
「了解です」
「その次、8番テーブルにドリンクを」
まさかここまで混むなんて想像以上だ。
途中飲み物が無くなりそうになってしまい、近くのスーパーに買い出しに何人かが向かったり、お客さん同士のトラブルが起きたりして大変だったけど、なんとか忙しい時間は乗り越えられたように思う。
そして俺に衣装を貸した1年生も無事戻ってきてくれて衣装を返すことにした。
生徒会喫茶でなにか足りないことはないか確認していた時。
「唯人先輩」
宇佐美が話しかけてきた。
「うん?」
「生徒会喫茶、だいぶ落ち着いたみたいだし……今日は先輩もう休んでいいんじゃないですか?」
「そんなわけにはいかないだろ、現場監督だってしなきゃいけないし……」
「今、須藤に頼みましたよ」
「そしたら須藤が休憩に回ってくれたらいいだろ、後は俺が……」
すると少し沈黙した後、宇佐美は言った。
「一緒に回ってくれないんですか?」
「えっ」
「せっかく最後の文化祭なんですから、思い出作りましょうよ」
宇佐美は拗ねたように唇を尖らせる。
「思い出、か……」
そうだな。
この3年間、俺は一度も楽しまず仕事をしてきたからな……。
最後くらいお客さんとして楽しむのも大事なことかもしれない。
「……分かった。行こう」
俺たちは着替えて文化祭を回ることにした。
みんなにごめんね、と伝えると周りは笑顔で送りだしてくれた。
文化祭終わるまであと1時間だけど、楽しむには十分だろう。
さっそく歩き出すと宇佐美は俺に尋ねる。
「どこか行きたいところはありますか?」
「えっと……ワッフルを食べに……」
俺がそういうと、宇佐美はにやりと笑った。
「へぇ?唯人先輩甘党なんですね」
「わ、悪いか?」
「全然。今度甘いもの食べにデートできるなと思って」
「デートってなんだよ!」
嬉しそうに笑う宇佐美。
なんかこんな自然な宇佐美、はじめて見たな……。
「ワッフルならおいしいって評判のお店あるんで、行きましょう」
俺も変わったよな……。
1年前だったらこんなふうに誰かと一緒に文化祭を回ることなんて想像できなかった。
まぁ……それは本当に宇佐美のおかげだ。
彼がいなかったら、きっと大きな行事が終わったタイミングでなんとなく虚無感があったりするんだろう。
「ここです」
すると宇佐美は2年生がやっているワッフル屋さんについた。
ここがおいしいと評判のワッフル屋か……!
「宇佐美~!やっと見つけた!こっち戻ってきてくれよ」
「お前がいないから女子がやる気出さなくてよ~俺らこき使われたんだからな」
あれ……、もしかしてここって?
看板を見てみると、そこは2年3組と書かれていた。
そうか、ここは宇佐美のクラスだったのか。
「悪いけど無理。今俺デート中だから」
「だからデートじゃないだろ!」
「先輩、なに味にしますか?」
全然俺の話聞いてないし……。
「じゃあ、イチゴ味で……」
「了解です!俺はチョコバナナ」
宇佐美の友達が作ってくれている間に俺は宇佐美に言った。
「なぁ、宇佐美。人手が足りてないならいいんだぞ?無理に俺と回らないで」
すると宇佐美は深くため息をついた。
「俺が一緒に回りたいんです。俺の時間を奪わないでください」
ま、まぁ……いいならいいんだが……。
宇佐美もきっと同級生と回った方が楽しいだろうし……それに一緒にまわりたいという女の子もたくさんいるような……。
なんだかそんな宇佐美の時間を奪ってしまうのは申し訳なく思えてくる。
ワッフルが出来るとクラスの子と話していた宇佐美が、飲み物と一緒に運んでくれる。
「空き教室行きません?ここで食べたらうるさそうだし……」
周りを見渡すと、宇佐美のクラスの女子たちが誰が一緒に遊ぶかでもめていた。
「決着つかないうちに早く」
「お、おう……」
めちゃくちゃモテてる。
でも当然か。
学校行事の中でも一大イベント。好きな人と回りたいって思うに決まってる。
空き教室に向かいながら俺は宇佐美に尋ねた。
「宇佐美は彼女とかいないのか?」
「いると思うんですか?」
「いてもおかしくないだろ」
「……やっぱりなにも気づいてないんですね」
……?
なにも気づいてない?
どういうことだ?
「まぁ気づかないのも当然か……」
宇佐美がぶつぶつとしゃべっているが、俺にはなにを言っているのか分からなかった。
そうこうしているうちに空き教室についた。
誰もいない教室に机を向かい合わせに並べて座る。
「食べましょうか」
甘い、いい匂いが今日1日の疲れを取ってくれる気がした。
「いただきます」
2人、手を合わせて食べる。
ホイップにイチゴジャムがよく効いた美味しいワッフルだった。
「うん……美味い」
「それはよかった。みんなに伝えておきますよ」
「ああ、頼んだ」
静かで、ほっとするすごくいい時間だった。
「宇佐美。今日は誘ってくれてありがとう。仕事もたくさんあるし、遊ぶなんて考えてもなかったけど、最後の文化祭だったからいい思い出になった」
「俺も、今年はあなたと過ごせて良かった」
「今年は?」
「去年もずっと働いていたでしょう?声かけられなかったから……」
「声かけたかったのか?」
「そりゃ当然でしょ」
そっか、宇佐美は俺と回りたいって思ってくれてたのか……。
やっぱり宇佐美、変わってるな。
みんな俺とは距離を置いて話をすることが多い。
だから遊びに誘われることだってなかったし、プライベートの付き合いも当然ない。
でもみんなが誘ってくれるようになったのは、きっと宇佐美が俺を輪の中に入れてくれたからだ。
「なぁ、宇佐美」
俺は立ち上がって言った。
「さっきのやつ、悪かったな……。父さんがひどいことを言った」
「俺は別に気にしてないです。でも……唯人さんが悲しそうな顔をするのが耐えられなかった」
あの時、宇佐美がかばってくれなかったら、俺はショックで動けなかったかもしれない。
頭が真っ白になって、きっと使い物にならなくて失敗ばかりしていたかも。
そうじゃないって否定してくれる人がいて救われた。
「俺の家はさ……いっつもあんな感じなんだ。父さんは政治家で母さんは弁護士。ふたりとも忙しくて俺になんかに目を向けてくれなかった。それで生徒会長になったって報告した時だけ……ふたりとも褒めてくれたんだ。みんなのためになることはいいことだって。はじめて俺のことを見てくれた気がした」
だから俺は生徒会長に固執してしまった。
生徒会長にならなければ自分に価値がないと思ってしまった。
「宇佐美……ごめん。謝っても一生許されないことは分かってる。でもやっぱりちゃんとあの時のこと謝りたい。卑怯なことして宇佐美から生徒会長の座を奪ってごめん」
宇佐美が立候補していたら、絶対に宇佐美が当選していたことは分かってる。
宇佐美は仕事もできるし、容量もいいし……みんなに好かれてる。
憧れられるような生徒会長になっていたはずだ。
すると、宇佐美は真剣な眼差しで俺を見つめた。
「俺は……」
真剣な表情。
その時、外からヒューっと音がする。
それは文化祭終了を告げる打ち上げ花火であった。
──バンッ。
打ちあがった花火はドン、という大きな音と共に花を咲かせる。
「うわぁ……」
キレイだ。
思わず見とれてしまった。
「あ、すまない宇佐美。今なんて……?」
俺が振り返ると、宇佐美は花火など見向きもせず、じっと俺のことを見つめていた。
「……いえ、大丈夫です」
でもなにか言いかけてたよな?
「でもこれだけは言わせてください」
真剣な声色。
逆光で表情は見えにくいが、その瞳だけが外の花火よりも強く輝いていた。
「俺はあなたを見ています」
「宇佐美……」
心臓がドクリと大きく跳ねた。
「だから……誰も自分を見てないんじゃないかって不安にならないでください。あなたのしてきたことも頑張ってきたことも全部俺は知ってる」
「……っ」
「それだけは忘れないで」
宇佐美のその言葉が、全てを優しく包み込んでくれた。
どうして宇佐美なんだ……。
あんなにひどいことをしたのに、いつも分かってくれるのは宇佐美で……。
なんでこんなに優しいんだろう……。
そう思った時。
──ドォン……!
盛大な音が響き、窓ガラスがビリビリと震える。
色とりどりの光が俺たちの影を揺らした。
「……うれしい」
心の底から出た言葉だった。
「ありがとう……宇佐美」
俺が微笑むと、宇佐美もまた嬉しそうに目を細めた。
最後の文化祭。
花火の音と、包まれた心の温もり。
そして一番記憶に焼き付いたのは、宇佐美のまっすに俺を見つめる瞳だった。
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