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これからのお付き合い
しおりを挟む隼人とデートをしたあの夜から数日が過ぎた。
隼人とは順調にお付き合いがいっているものの、俺の心には小さな棘が刺さったまま。
『あ……す、すみません……っ! 私……』
傷ついた顔の服部さんを思い出す。
あのままじゃダメだよな……。
服部さんにしっかり伝えないといけない。
協力は出来ないってこと。
そして今日。
俺はバイト先に出勤した。
「おはようございます……」
「広瀬くん、おはよー!」
店長が明るく声をかけてくる。
今日は隼人は補習に参加するとかでバイトのシフトは休み希望で出していた。
「今日は三上くんがいないから、広瀬くんが積極的に服部さんに教えてあげてね」
「はいっ!」
「よろしくお願いします!」
服部さんが背筋を伸ばして言う。
そっか……服部さんだけいるのか。
なんとなく気まずい気持ちになりながらも、俺はフロアーに立った。
この日の仕事を終えたバイト帰り。
「お疲れ様です」
みんなに挨拶をして帰ろうとする服部さんの後ろ姿を追いかけた。
「服部さん!」
外に出たところでようやく追いつく。
彼女は不思議そうに俺を見た。
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「はい?」
彼女が手を止めて振り返る。
言わなくちゃ……。
俺は真っ直ぐに彼女の目を見た。
「この間、俺……隼人のこと相談されて、協力するって言っちまったんだけど……やっぱり協力できない」
俺は拳をギュッと握りしめ、意を決して言葉にした。
なんだよコイツって思われるかもしれない。
服部さんは俺のことを嫌いになるかもしれない。
でも今言わなくちゃ。
ちゃんと人には誠実でいないとダメなんだ。
「俺……隼人のことが好きなんだ。……それなのに、あの時は無責任なこと言ってごめん」
言ってしまった。
ずっと胸につかえていた本音。
これを言うことでウワサになってしまうかもしれない。
バイト先に居づらくなってしまうかもしれないという怖さはある。
でも、どうしてもウソをつき続けることは出来なかった。
俺は深く頭を下げた。
ぎゅっと手を握りしめる。
どんなことを言われる覚悟をしていた時、頭上から服部さんの声が降ってきた。
「知ってます!」
「……えっ」
予想外の反応に、俺はパッと顔を上げた。
「し、知ってるって……どういう……?」
俺が呆気にとられていると、彼女は平然と言った。
「三上さんに好きな人がいるかどうか聞いたことがあるんです。その時にいるよって言われて……三上さんの視線たどったらすぐ分かりました」
「視線……?」
「三上さん、仕事中でも愛おしそうに広瀬さんのこと見てるんですもん。そりゃ気づきます」
「なっ……」
カァッと顔が熱くなる。
な、なんだよそれ……知らねぇぞ……っ。
俺が恥ずかしさで固まっていると、服部さんは悪戯っぽく舌を出した。
「だから言ったんです! 協力してほしいって。正直わざとです」
平然とそんなことを言い放つ服部さん。
服部さんってか弱い女の子だと思っていたけど、もしかして実はめっちゃ強い……?
俺が呆然としていると、服部さんはキリッとした表情に戻って言った。
「でも、負けませんから」
「ええっ……」
「今は広瀬さんのこと好きなのかもしれないけど……私はアピールし続けます! 覚悟しといてください」
彼女はそう宣言すると、ニコッと笑って駅の方まで走っていった。
なんか宣戦布告されてしまったような……。
でも不思議と、嫌な気持ちはしなかった。
しっかり言えて良かった。
これで胸を張って、隼人の隣にいられる気がする。
あとは、隼人に許可を取らずに服部さんに言ってしまったことだけど……。
(どう思うかな)
時計を見る。
隼人は補習があるって言ってけど、さすがにもう終わってるか。
だとしたら家にいる……?
なんだろうな。
今、無性に隼人に会いたい。
気付けば、俺の足は動いていた。
アパートに帰る道とは逆方向。
隼人のマンションへと続く道を、俺は走り出していた。
カバンが背中で跳ねるのも、息が切れるのも気にせず夜の街を走り抜ける。
マンションの前まで来ると、呼吸を整える間もなくインターホンを押した。
「はぁ……はぁ……」
『……はい』
スピーカー越しに隼人の低い声が響く。
……いた!
「陽だけど」
『陽……? どうしたんだ急に』
「ちょっとな」
さすがに会いたくなったなんて言えなかった。
オートロックが解除される。
俺はエレベーターに乗り、到着と同時に廊下を走る。
角部屋のドアが開くのが見えた。
「陽、なにかあっ──」
「隼人ッ!」
俺は、驚いて出てきた隼人の胸に勢いよく飛び込んだ。
「うおっ……!?」
隼人がよろめきながらも、しっかりと俺を受け止める。
「ど、どうした? 」
抱きついたまま、俺はあいつの背中に腕を回しぎゅっと力を込めた。
隼人の匂い。
温かい体温。
ドクンドクンと響く心臓の音。
そのすべてが、俺を安心させてくれる。
「とりあえず入ろうか」
そう言って隼人は家の中に入れてくれる。
でも玄関先でクツも脱がず俺たちはぎゅっと抱き合ったままだった。
「どうしたの?突然来て……俺は嬉しいけど」
隼人が戸惑った声を出す。
俺も言おうと思っていることが全然まとまってない。
「なんか……会いたくなった。気づいたら走ってて……」
やべぇ、言うのめっちゃ恥ずかしい。
これ以上はもう言わないでおこう。
そう思ったが、時すでに遅く次の瞬間、俺の身体が浮くくらい強く抱きしめ返された。
「……っ、痛ぇよ隼人」
「……ずるい」
耳元で低い声がくぐもる。
隼人は俺の肩口に顔を埋めたまま、ため息をつくように言った。
「急に来てそんなかわいいこと言うなんて……反則だろ」
「は、隼人……?」
「俺だって会いたかった。……迷惑になると思って我慢してたのに」
腕の力が強まる。
俺が会いたいと思っていた時、隼人も同じことを思っていてくれたんだ。
愛おしさで胸がいっぱいになる。
「……なぁ、隼人。聞いてほしいことがあるんだ」
「……なに?」
俺はこの温もりに甘えるように、身を預けたまま口を開いた。
「……俺、勝手に言っちゃった」
「え?」
俺は顔を埋めたまま、早口で告げた。
「服部さんに……俺、協力するって言っちまったんだ。隼人とくっつくように。だからそれ……協力できないって謝ってきた。俺が隼人のことが好きだからって」
隼人は優しく大きな手が俺の頭を撫でてくれる。
「……そっか」
「俺の口からちゃんと言わないとダメだと思って……」
「うん」
「勝手に言ってごめん」
俺が静かに伝えると、隼人は顔をあげた。
「陽は本当に……素直でピュアすぎるね」
「はあ!? なんだよそれ!」
「わざわざそんなこと服部さんに伝えるなんて」
「だ、だって……協力するとか言って陰で付き合ってんのは不誠実だろ!」
俺の言葉に隼人はくすりと笑った。
「普通はみんな適当に誤魔化したりするもんだよ。それに服部さんは陽よりよっぽど策士だと思うし」
う“……。
やっぱりそれ、隼人も気づいてたのか……。
「でもそういう陽が好き。陽はきっと誰にでも誠実でいてくれるんだと思う」
誰にでも、誠実か……。
隼人の言葉は優しいけれど、俺はとっさに首を横に振った。
「……違う」
「え?」
「誰にでも、じゃねぇよ」
俺は隼人の服をギュッと握りしめて、真っ直ぐに見つめ返した。
「俺が誠実でいたいのは……隼人だからだ」
「陽……」
「お前のこと、もう傷つけたくないし、変なすれ違いで別れるようなことにはなりたくない……お前が一番大事だから、ちゃんと向き合いたいんだ」
俺は、今までで一番の勇気を込めて告げた。
「隼人が好きだ」
ハッキリと伝えたのは初めてだと思う。
照れくさくてなかなか言えなくて誤魔化してしまう俺だけど、少しずつこうやって気持ちを伝えていけたらいいなって思ってる。
「……参ったな。そんなこと言われたら、もう返せないじゃん」
隼人は俺を抱きしめる腕に力を込めた。
「俺も。愛してるよ、陽」
甘い言葉と共に唇が塞がれる。
靴も脱がないままの玄関先で、俺たちは何度も口づけを交わした。
回り道もした。
傷つけ合った過去もある。
でも、その全てがあったからこそ、今こうして強く抱きしめ合うことができるんだと思う。
「……陽、今日は泊まってく?」
唇を離し、隼人が悪戯っぽく囁く。
俺は赤くなった顔で、それでもしっかりと頷いた。
「……うん」
繋いだ手は、もう二度と離さない。
元カレとの再開から始まった俺たちの二度目の恋は、ここからまた新しく動き出すんだ──。
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