18 / 24
終焉
しおりを挟むあの裁きの日、天上からの光が射し、村に長く続いていたしがらみが、ようやく終わりを迎えた。
式典が失敗した疑いが解けることとなり、広場の中央に、天王寺家の者たちは静かに跪いていた。
お父様、お義母様、そして麗羅。
この3人は村を支配し、人々を意のままに操ってきた。
けれど、今の彼らに、かつての威厳はなかった。
両手を縛られ、膝をつきうつむいたまま、なにも語ろうとしない。
3人はムチ打ちの刑により、身体はボロボロであった。
村人たちは静かに集まり、それを見つめていた。
もう怒号も、罵声もなかった。
ただ、長い時を超えて積み重なった痛みを実感していた。
「天王寺家を村から、追放することが決まった」
長老が静かに告げる。
「二度とこの地に足を踏み入れることは叶わぬ。それが、あなたたちが選んだ道の果てだ」
麗羅が唇を噛み、お父様は肩を震わせていた。
このまま天王寺家は船に乗せられ遠くまで運ばれることになる。
本来なら、島流しという手足を拘束し、そのまま川に流す措置が取られるはずだった。
でも……人の命を奪うことで争いが生まれると知っていた私はそれだけはどうにか出来ないかと掛け合いこの措置が取られた。
お父様たちはこれから遠くの地で暮らしていくことになるだろう。
もうこの村に戻ってくることは叶わない。
村を思い役目を果たすことが出来たら、こんなことにはならなかっただろう。
自分たちの権力を優先させたつけは、必ず帰ってくる。
私は、ただそれを静かに見届けていた。
お父様たちの追放は村人が見ている中、行われた。
船に乗せられ、だんだんと遠のいていく。
こんなことを母は望んでいたんじゃない……。
切ない気持ちになりながらも、私はそれを見ていることしか出来なかった。
そして見えなくなると、村人のみんなにも笑顔がともった。
「やったぞ……」
「これで支配される生活は終わりだ。もうあいつらに取られることはないんだ!」
これで、すべてが終わった……。
そう思っていた時、村人たちが私を囲んだ。
そしてみんな一斉に私の前でひざまずいてきた。
「な、なにを……」
「美鈴様……今までのご無礼……申し訳ありませんでした」
深々と謝る村人たち。
「あ、頭をあげてください」
「我々はあなたの言葉を信じることが出来なかった……あなたこそが村のことを一番に考えていてくれたはずなのに……」
前までは信じてもらうのに必死だった。
まっすぐに生きて行けば、最後は誰かが信じてくれると思い、私は認めてもらうのに必死だった。
でも今は、そんなことを望んではない。
大事なのは神話守になることではないと知ったから……。
「美鈴様……我々からお願いがあります。これからは、あなたがこの村の神話守としてどうか、我々を導いてください」
「美鈴様……お願いします」
村人たちは、そう口々に頭を下げた。
たしかに、私は雷神様と出会い、村を変えるきっかけとなったのかもしれない。
でも私ひとりではなにも出来なかった。
そしてこれからもライエン様に頼って生きていくことはしたくない。
私は一歩、前に出て、静かに声を上げた。
「わたしは、神話守にはなりません」
ざわめく村人たちを前に、私はゆっくりと続けた。
「この村に必要なのは、誰かの命令や権力ではありません。神も恐れるものではない。大事なのは、自然と、互いと、心を大切にする……その気持ちです」
空に風が吹いた。
遠くで雲がほどけて、陽が差し込む。
「私はみなさんと同じ、ただの村のひとりです。それ以上でも、それ以下でもありません。だからみんなで力を合わせながら、分け合う気持ちでこの村を過ごしていって欲しい。私の願いはそれだけです」
少しだけ笑みを浮かべて、私は言葉を結んだ。
「きっとそうやって生きれば、争いのない平和な世界が生まれるはずです」
「ありがとう、ございます……」
村の人はみんな涙を流しながら頭を下げた。
温かい空気が、村をそっと包んでいく。
爪を立てるような争いではなく、そっと触れ合うような繋がりが、ここに生まれていた。
きっとこれが、新しい始まりなんだろう。
もう、この村は大丈夫だ。
私はその場を静かにあとにした。
離れた場所でライエン様は待ってくれていたようだ。
「美鈴……」
「……決めたのか?」
「はい」
私は頷いた。
ライエン様は言った。
本来住むべき場所に戻ってもいいと。
美鈴が望むなら、暮らしやすいところで暮らしたらいいと……。
「ライエン様……」
私が名前を呼ぶと、雷神様の瞳がほんのわずか、やさしく揺れた。
私の答えはもう、決まってる。
「これからも私と一緒に暮らしてくれませんか?あなたの側で生きていきたい」
すると次の瞬間。
雷神様の目が、ふっとやわらかく揺れた。
「良かった」
その口元に、滅多に見られない微笑が浮かぶ。
「……美鈴の考えを尊重しようと思っていた。でも美鈴がいなくなるのは悲しい」
そう言った彼は、ゆっくりと腕を伸ばしてきた。
「おいで」
「きゃっ!」
そして、私の肩をそっと引き寄せ、大きく、あたたかくその胸に抱きしめてくれた。
「これからは、キミが幸せだと思えるような生活を送ろう」
「ライエン様と一緒にいたら、もう十分幸せです」
「美鈴の居場所はここだ。毎日ここに帰ってくるんだ」
「はい……」
彼の胸に耳をあてると、静かに脈打つ鼓動が聞こえた。
彼の腕の中に包まれながら、私はようやく知った。
雷神様という名の孤独を抱えたひとりの存在が、今、たしかに私を必要としてくれているということを。
そして私もまた、この人と生きていくことを――心から望んでいるということを。
天上への光がまた、ふたりの頭上に降り注いでいた。
これからは……誰のものでもない人生を、ふたりで歩いていくのだと、静かに、そう思えた。
雷鳴山の神殿へと戻ると、どこからか飛び出してくるように、ふたつの小さな影が私たちの前に現れた。
「美鈴ぅ~~~~っ!!」
「帰ってきたジョ~~~~ッ!!」
勢いよく抱きついてきたのは、白くてふわふわのマルンとモルン。
ふたり揃って私の足元に飛びつき、ころんと転がるようにしがみついてくる。
「心配したんだゾ!もう帰ってこないかと思ったジョ……」
「美鈴は村に帰るかもしれないって思ったゾ……!」
ライエン様が見ている世界をふたりも見ることが出来るようになっている。
だから、一連の流れをマルンとモルンは見ていたんだろう。
「ふふ、ふたりとも……ただいま。大丈夫よ。これからここでまた一緒に暮らそう」
「美鈴……!」
私はそっと膝を折り、ふわふわの毛並みを撫でてやる。
すると、後ろで微かに喉を鳴らすような低い声が聞こえた。
「……全く、おおげさだな」
ふいに振り返ると、雷神様がほんの少しだけ顔をそらしていた。
マルンとモルンは同時に顔を上げる。
「なにを言うジョ! 雷神様だって、ずっとそわそわしてたくせに~僕たちは天上から眺めていたから知ってるんだジョ」
「……美鈴が村で暮らす可能性も考えて落ち込んでたんだゾ!」
「えっ」
私は思わず、雷神様の方を見てしまう。
すると彼は、明らかに視線をそらしながら言った。
「……言っていない」
けれど、その頬がほんのわずかに赤く染まっていたのを、私は見逃さなかった。
「ふふ……」
笑みがこぼれる。
マルンとモルンは、ぴょこぴょこと私の膝に登りながら言う。
「でも、よかったジョ~! 美鈴がいないと、天上も静かで寂しいんだゾ!」
「これで、また一緒にいられるジョ!」
私は小さく頷いた。
「ただいま。マルン、モルン」
帰る場所があること。
出迎えてくれる人がいること……。
それはすごく幸せなことなんだと実感した。
これからはここで暮らしていく。
だから……。
お母様……一緒に見守っていてくださいね。
0
あなたにおすすめの小説
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募しています。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
※小説内容にはAI不使用です。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!
有賀冬馬
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!?
「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。
でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした!
「君がいたから、この国は守られていたんだよ」
えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!?
竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート!
そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません
綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」
婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。
だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。
伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。
彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。
婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。
彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。
真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。
事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。
しかし、リラは知らない。
アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。
そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。
彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。
王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。
捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。
宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――?
※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。
物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる