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第二王子は気になるようです
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次にアーサーからの呼び出しがあったのは、それから一週間後のことだった。
「お待ちしておりましたよ、セス殿。アーサー殿下が癇癪を起こさぬ内に、さあどうぞこちらへ」
「あ、はいっ」
王城に着くや否や、アーサーの側仕えであるカミールに慌ただしく出迎えられた。その勢いのままに、アーサーの待つ部屋へと通される。
「失礼いたします」
室内へと足を踏み入れたところで、セスは思わず息を呑んだ。
「っ……」
部屋の中央に置かれた天蓋付きベッド。そこに腰掛けるアーサーの周囲に、黒い霧のようなものが立ち込めていた。ように見えたのは、あくまでも比喩表現だ。しかし、それが誇張とは言い切れない程には、彼の纏う雰囲気は剣呑としていた。
「あ、あの……殿下、その……」
おどおどと視線を彷徨わせるセスをじっと見据え、アーサーは苦々しげに口を開いた。
「何故、一週間も僕のもとを訪ねてこなかった」
何故か、と聞かれれば答えは明瞭だ。
アーサーからの呼び出しであればいつでも馳せ参じる所存だが、平民のセスが自らの意思で王族を訪ねるなど、不敬以外の何者でもない。
言葉選びを間違わぬよう、セスは慎重に弁明した。
「ぼ、私のような身分の者が、殿下の貴重なお時間を頂戴するなど、そのような恐れ多いことは」
「そのようなことを聞いているのではない」
セスの言葉を遮り、アーサーは苛立たしげに足を組み替えた。
「そもそも君は、魔力供給が目的で僕のもとに来たのだろう? ならば、一週間も間隔を空けるなど非効率だ。第一、君の主治医の話では、君は充分な魔力を生成できないばかりか、僅かばかりの魔力を留めておくことすらできないのだろう。見たところ、先日僕が渡した分の魔力も既に底をついているようだしな」
「そ、それは……」
セスが言い淀んでいる間にも、アーサーの纏う空気はますます剣呑なものになっていく。
「僕の魔力を分けてやったというのに、君はそれすら無駄にするつもりなのか」
「も、申し訳ございません。決してそのようなことは……ただ」
「……なんだ、言いたいことがあるなら臆さず言ってみろ」
口籠るセスに先を促すように、アーサーが僅かに首を傾げる。その仕草は年相応にあどけないものだったけれど、彼の纏う空気の刺々しさは変わらない。
こくりと喉を鳴らし、セスは乾いた喉から掠れた声を絞り出した。
「た、ただの平民である私が、殿下のお時間を頂戴するなどと恐れ多いと……そう、思ったのです。殿下のお心遣いを無下にする結果になってしまい、大変申し訳ございません」
深々と頭を下げてから数秒。沈黙に耐え切れずに顔を上げれば、アーサーが表情の読めない顔でセスを見下ろしていた。
「殿下、あの……」
「あい分かった」
感情の窺えない声音で相槌を打ち、アーサーは徐に立ち上がった。
鷹揚な足取りでセスの元へと歩み寄ると、その顎を掴んで上向かせた。
「っ……あ、アーサー殿下?」
「では、ルールを決める。君はこれから二日おきに僕のもとを訪れ、魔力供給を行うんだ。もし魔力が枯渇したなら、それよりも短いスパンでも構わない」
有無を言わさぬ口調で言われれば、セスには頷く以外の選択肢はない。
「……かしこまり、ました」
戸惑いながらも大人しく首を縦に振れば、アーサーは満足げに頷いてセスの手を引いた。
「立ち話もなんだ、座れ」
「は、い。失礼、いたします」
アーサーに促されるまま、寝台へと腰掛けた彼の隣へと腰を下ろす。すぐさま体を寄せられて、セスの肩にアーサーの頭が乗せられた。
「少し寝かせろ。起きたら、好きなだけ魔力を注いでやる」
「あ、はい。ありがとうございます」
「僕の為でもあるんだ。礼には及ばない」
「はい、ありが……承知しました」
会話と呼ぶには拙すぎるやり取りを重ね、アーサーは間もなくして安らかな寝息をたて始めた。
「殿下……おやすみなさいませ」
そっと囁きかけ、セスも静かに瞼を下ろした。
────
「ん……」
次にセスの意識が浮上したのは、それから数時間後のことだ。
いつのまにか、体を寝台に横たえられており、肩の重みは消えていた。その代わりのように、ツンツン、と頬を突かれている。
(殿下……?)
薄目を開くと、セスの隣で添い寝をするアーサーの姿が視界に映った。頰をつつく指はアーサーのもので、ぷにぷにと感触を楽しんでいるようだった。
「お待ちしておりましたよ、セス殿。アーサー殿下が癇癪を起こさぬ内に、さあどうぞこちらへ」
「あ、はいっ」
王城に着くや否や、アーサーの側仕えであるカミールに慌ただしく出迎えられた。その勢いのままに、アーサーの待つ部屋へと通される。
「失礼いたします」
室内へと足を踏み入れたところで、セスは思わず息を呑んだ。
「っ……」
部屋の中央に置かれた天蓋付きベッド。そこに腰掛けるアーサーの周囲に、黒い霧のようなものが立ち込めていた。ように見えたのは、あくまでも比喩表現だ。しかし、それが誇張とは言い切れない程には、彼の纏う雰囲気は剣呑としていた。
「あ、あの……殿下、その……」
おどおどと視線を彷徨わせるセスをじっと見据え、アーサーは苦々しげに口を開いた。
「何故、一週間も僕のもとを訪ねてこなかった」
何故か、と聞かれれば答えは明瞭だ。
アーサーからの呼び出しであればいつでも馳せ参じる所存だが、平民のセスが自らの意思で王族を訪ねるなど、不敬以外の何者でもない。
言葉選びを間違わぬよう、セスは慎重に弁明した。
「ぼ、私のような身分の者が、殿下の貴重なお時間を頂戴するなど、そのような恐れ多いことは」
「そのようなことを聞いているのではない」
セスの言葉を遮り、アーサーは苛立たしげに足を組み替えた。
「そもそも君は、魔力供給が目的で僕のもとに来たのだろう? ならば、一週間も間隔を空けるなど非効率だ。第一、君の主治医の話では、君は充分な魔力を生成できないばかりか、僅かばかりの魔力を留めておくことすらできないのだろう。見たところ、先日僕が渡した分の魔力も既に底をついているようだしな」
「そ、それは……」
セスが言い淀んでいる間にも、アーサーの纏う空気はますます剣呑なものになっていく。
「僕の魔力を分けてやったというのに、君はそれすら無駄にするつもりなのか」
「も、申し訳ございません。決してそのようなことは……ただ」
「……なんだ、言いたいことがあるなら臆さず言ってみろ」
口籠るセスに先を促すように、アーサーが僅かに首を傾げる。その仕草は年相応にあどけないものだったけれど、彼の纏う空気の刺々しさは変わらない。
こくりと喉を鳴らし、セスは乾いた喉から掠れた声を絞り出した。
「た、ただの平民である私が、殿下のお時間を頂戴するなどと恐れ多いと……そう、思ったのです。殿下のお心遣いを無下にする結果になってしまい、大変申し訳ございません」
深々と頭を下げてから数秒。沈黙に耐え切れずに顔を上げれば、アーサーが表情の読めない顔でセスを見下ろしていた。
「殿下、あの……」
「あい分かった」
感情の窺えない声音で相槌を打ち、アーサーは徐に立ち上がった。
鷹揚な足取りでセスの元へと歩み寄ると、その顎を掴んで上向かせた。
「っ……あ、アーサー殿下?」
「では、ルールを決める。君はこれから二日おきに僕のもとを訪れ、魔力供給を行うんだ。もし魔力が枯渇したなら、それよりも短いスパンでも構わない」
有無を言わさぬ口調で言われれば、セスには頷く以外の選択肢はない。
「……かしこまり、ました」
戸惑いながらも大人しく首を縦に振れば、アーサーは満足げに頷いてセスの手を引いた。
「立ち話もなんだ、座れ」
「は、い。失礼、いたします」
アーサーに促されるまま、寝台へと腰掛けた彼の隣へと腰を下ろす。すぐさま体を寄せられて、セスの肩にアーサーの頭が乗せられた。
「少し寝かせろ。起きたら、好きなだけ魔力を注いでやる」
「あ、はい。ありがとうございます」
「僕の為でもあるんだ。礼には及ばない」
「はい、ありが……承知しました」
会話と呼ぶには拙すぎるやり取りを重ね、アーサーは間もなくして安らかな寝息をたて始めた。
「殿下……おやすみなさいませ」
そっと囁きかけ、セスも静かに瞼を下ろした。
────
「ん……」
次にセスの意識が浮上したのは、それから数時間後のことだ。
いつのまにか、体を寝台に横たえられており、肩の重みは消えていた。その代わりのように、ツンツン、と頬を突かれている。
(殿下……?)
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