2 / 48
1.忘れられない人が居るから
しおりを挟む
俺は棗 遙(なつめ はるか)高校2年。
成績は大体3~5。5がつくのは国語や英語の文系の教科。秀でて勉強やスポーツが出来るわけでもなければ手が器用なわけでも無い。家も特別貧乏でもお金持ちでも無い。至って極普通の男子高校生である。
部活には所属していない。入りたいと思う部活が無かったのである。部活はやっていないが友人に勧められて近所のスーパーでレジ打ちをしている。そして部活をやっていない分他の事で頑張ろうと委員会には所属していた。所属している委員会は保健委員である。
本当に、俺は極普通の生活を送っている。あの災難に遭うまでは。
これはある日の放課後に起きた出来事である。
保健委員の俺は1年の後輩と一緒に保健室の掃除や備品の点検を行っていた。
「棗先輩は付き合ってる人とか居るんですか?」いきなり後輩が尋ねてきた。
「え…居ないよ。でも、急にどうして?」急な質問に少し驚くも俺は答えを述べた。ちなみに俺は誰とも付き合った事はないのだ。
「そうなんですね。良かった…」後輩は安堵の溜息を吐いた。
「…?良かった?」後輩の言葉の意味が分からず俺は後輩を見つめる。
「あ…俺、実は…棗先輩の事が好きで…」
後輩から告げられた言葉の理解をするまでに少し時間を要した。男が男に告白を?
しかし驚いたのは一瞬だった。実は昔からよく告白されるのだ。女にも男にも。だからいつも俺はこう返すのだ。
「…気持ちは嬉しいけど、ごめんな。俺はその気持ちは受け取れない。君には他に良い人が居るよ」
「先輩が良いんです」後輩は真っ直ぐに俺を見つめてくる。
今みたいな返答を受ける事は何度もあった。だからいつものように俺は答える。
「ごめんね、君の気持ちは嬉しいよ。でも俺は君を愛せない」はっきりと彼に告げる。
「何で、ですか」彼は今にも泣き出しそうで、少し言い過ぎたかと後悔した。
「…忘れられない人が居るから」俺はそう答えた。そう、俺には忘れられない人が居る。
「…先輩の忘れられない人がどんなに素晴らしい人かは知りませんが、その人を忘れるくらい先輩を幸せにします」彼の言葉には熱が篭っていて、真剣な事は伝わってきた。
「無理なんだ、ごめん」それでもやはり俺はあの人を忘れる事は出来ない。
「無理って決めつけないでください!酷いです…」後輩の怒りと悲しみが満ちた表情、声色。彼の瞳には涙が浮かんでいた。そして彼は走り去って行った。
ああ、俺はまた傷付けてしまった。あの時のように。
成績は大体3~5。5がつくのは国語や英語の文系の教科。秀でて勉強やスポーツが出来るわけでもなければ手が器用なわけでも無い。家も特別貧乏でもお金持ちでも無い。至って極普通の男子高校生である。
部活には所属していない。入りたいと思う部活が無かったのである。部活はやっていないが友人に勧められて近所のスーパーでレジ打ちをしている。そして部活をやっていない分他の事で頑張ろうと委員会には所属していた。所属している委員会は保健委員である。
本当に、俺は極普通の生活を送っている。あの災難に遭うまでは。
これはある日の放課後に起きた出来事である。
保健委員の俺は1年の後輩と一緒に保健室の掃除や備品の点検を行っていた。
「棗先輩は付き合ってる人とか居るんですか?」いきなり後輩が尋ねてきた。
「え…居ないよ。でも、急にどうして?」急な質問に少し驚くも俺は答えを述べた。ちなみに俺は誰とも付き合った事はないのだ。
「そうなんですね。良かった…」後輩は安堵の溜息を吐いた。
「…?良かった?」後輩の言葉の意味が分からず俺は後輩を見つめる。
「あ…俺、実は…棗先輩の事が好きで…」
後輩から告げられた言葉の理解をするまでに少し時間を要した。男が男に告白を?
しかし驚いたのは一瞬だった。実は昔からよく告白されるのだ。女にも男にも。だからいつも俺はこう返すのだ。
「…気持ちは嬉しいけど、ごめんな。俺はその気持ちは受け取れない。君には他に良い人が居るよ」
「先輩が良いんです」後輩は真っ直ぐに俺を見つめてくる。
今みたいな返答を受ける事は何度もあった。だからいつものように俺は答える。
「ごめんね、君の気持ちは嬉しいよ。でも俺は君を愛せない」はっきりと彼に告げる。
「何で、ですか」彼は今にも泣き出しそうで、少し言い過ぎたかと後悔した。
「…忘れられない人が居るから」俺はそう答えた。そう、俺には忘れられない人が居る。
「…先輩の忘れられない人がどんなに素晴らしい人かは知りませんが、その人を忘れるくらい先輩を幸せにします」彼の言葉には熱が篭っていて、真剣な事は伝わってきた。
「無理なんだ、ごめん」それでもやはり俺はあの人を忘れる事は出来ない。
「無理って決めつけないでください!酷いです…」後輩の怒りと悲しみが満ちた表情、声色。彼の瞳には涙が浮かんでいた。そして彼は走り去って行った。
ああ、俺はまた傷付けてしまった。あの時のように。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~
槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。
公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。
そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。
アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。
その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。
そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。
義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。
そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。
完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる