MIO〜剥がれた股間の絆創膏〜

『仲良しちゃん -Kinder World-』OL・真由

■09:43
都心のオフィスビル。28階の営業部はモニターの光とキーボードの音に包まれている。
私は真由。肩まで伸びた黒髪にバニラの香水、ネイビーのタイトスカートでデスクに向かう。唇にはピンクのリップグロスを塗り、朝のコーヒーの苦みがまだ舌に残っている。
隣のデスクでは彩乃が書類を整理している。24歳の彼女のポニーテールからシトラスの香りが漂い、爪には淡いラメのマニキュアがきらめく。
「真由さん、昨日の資料、部長がチェック済みだって。やっと一息つけるね」と彩乃が笑う。私は「ほんと、助かった」と頷き、彼女の方へ体を傾ける。
彩乃の唇が私の唇に触れる。柔らかくて、朝に食べたオレンジガムの甘酸っぱさが舌に広がる。彼女の舌が軽く私の歯をなぞり唾液が混ざり合う。無意識に指が彩乃の腕に触れ10秒ほど維持する。唇を離すと唾液の糸が一瞬伸び、頬がほのかに熱を持つ。
「午後のプレゼンの準備しましょっか」と赤らんだ顔で彩乃が言う。私も「うん、すぐやる」とモニターに目を戻す。

その時ヒールの音が響き、部長の香織が現れる。45歳の彼女は私が苦手な上司だ。ショートカットの髪に赤い口紅、濃いフローラル香水が漂い、鋭い目つきで私を見下ろす。
「真由、昨日の報告書、数字の整合性が甘いわ。午前中に直して」と冷たく言う。私は内心イラッとしながら「了解しました」と答える。
香織は私のデスクに手を置き、身を寄せてくる。「ちゃんとやってね」と囁きながら、私の顎を軽く持ち上げる。私は目を閉じ、彼女の唇を受け入れる。厚い唇には口紅のワックスのような感触とミントタブレットの清涼感が混じる。香織の舌が力強く私の口内を探り、唾液が喉に流れ込む。体が一瞬震え、彼女の香水が鼻を支配する。口蓋を撫でる舌の感触に脳が蕩けさせられそうになるのを私は耐える。キスを終えると香織は「期待してるわ」と言い残して去って行った。

私は唇を軽く拭い、コーヒーを一口飲んで香織の味を消す。身体の火照りは深呼吸で鎮める。性格は嫌味で冷酷なくせに、キスだけは熱く心を撫でてくるのも腹立たしい。
隣の彩乃が「相変わらずキツーい」と小声で笑う。「ほんと、最悪」と呟きながら、報告書の修正を始める。
窓の外ではビルの谷間に陽光が反射し、今日もオフィスは淡々と動き続けている。

■12:35
社員食堂はランチの喧騒で騒がしい。
入口で新入社員の梨花（22歳）とすれ違った。美しいロングヘアの彼女が唇を突き出す。私はそれに応えて舌を唇に差し込んであげる。甘いストロベリーガムの、彼女のいつもの味。甘ったるい口腔をぬぐうように舌を動かす。上顎を撫ぜる度に「ん…」と梨花の鼻息が漏れる。
舌を抜くと「真由さん、午後の研修お願いします！」と笑って去っていった。頬を紅くしてカワイイ後輩。

注文カウンターでは食堂のおばちゃんに会釈する。宏美さん（50歳）は私が「カレーとサラダ」と言う途中で、宏美さんが「はいよ」と笑い唇を重ねてくる。彼女の唇はカサついていたが、漂う汗と油の混じった香りと、大雑把に絡めてくる舌が食欲を刺激してくれる。
私は「いつも美味しいよ」と笑顔で伝えお金をカウンターに置く。

一人で窓際の席につくと、不意に誰かに唇を奪われた。このフワッとした肉厚な唇は総務部の恵子さん（52歳）だ。指で私の髪を掻き分け耳をソッと撫でてくれる。恵子さんの繊細な指使いに虜の女子社員は少なくない。私も癒やされている一人だ。
私はカレーを手に「恵子さん、こんにちは」と挨拶する。
彼女はカレーを食べながら「真由ちゃん、香織部長キツかった？」と心配してくれた。私が「細かすぎ」と答える間もなく恵子さんのキスが挟まる。
「若い子に厳しすぎるわよね」という恵子さんの言葉に私はサラダを食べながら首肯した。

楽しい時間は早い。カウンターにトレイを返しながら恵子さんは「元気出してね」と励ましてくれた。「元気ですよ」私もカウンターのおばちゃんとキスをしながら恵子さんへ微笑み返した。


■13:25
28階へ戻るエレベーターの中、落ちたグロスを塗り直す。
「さてと。午後も忙しくなりそう」



───カジュアルキス法はまたたく間に社会へ伝播しキスはいまや常識となった
───相手を思い遣るエチケット、密接なコミュニケーション
───これらは争いや諍いを減らし、人類はユートピアの時代を迎えた



仲良しちゃん　-Kinder World-
OL・真由　完