MIO〜剥がれた股間の絆創膏〜

AI異教徒

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『夢の果て -HEROes of the World-』

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この世界はクソだ。

俺は扉をノックした。
高級スイートルームの扉の前、毛足の長い絨毯の廊下に俺達はいる。隣に立つ相棒・翔は、細い身体に甘いマスクの「守りたい男子No1」だ。その甘い顔とやらも今は緊張で引きつっている。
奥から声がかかり、扉を開け一礼して中に入る。真っ暗い廊下を抜け、薄暗い間接照明のラウンジに進む。甘ったるい香水の匂いが漂う広い薄暗がりの中央、女が立って待っていた。薄い黒いドレスが細身の身体に張り付き、骨ばった腰を際立たせる。真っ赤な口紅が唇を越え、眼鏡の奥の目は俺たちを値踏みする。白髪交じりの髪と知的な顔立ちとは裏腹に、欲望を放つ。

「この度は…」と挨拶しかけた瞬間、彼女の指が俺の顎を掴み、唇がぶつかる。熱く貪るようなキス、舌が絡み、口紅が擦り付けられる。唾液と香水で頭がくらくらした。翔は黙って脇に立ち、彼女の気配に飲まれる。
唇が離れると、彼女は翔に目をやり、「お前は自分でしごいてなさい」と低く命じる。翔は戸惑いながらズボンを下ろし、震える手で従う。
女は俺に目を戻し「跪け」と囁く。俺が膝をつくと、彼女はドレスをたくし上げ黒いレースの下着を露わにする。「舐めなさい」俺の舌が触れると、彼女の太ももが震え、低い唸りが漏れる。俺の髪を掴み、「もっと深く!」と咆哮。爪が肩に食い込み、嬌声が部屋を震わせる。背後では翔の荒い息と湿った音が響く。
不意に俺の頭が手で押しやられる。女王のような足取りで女が翔に近づく。「興奮したの?」と嘲り、長い指で翔の強ばりを撫でる。今度は女が跪き、翔を口に含んだ。舌が這い、口紅が跡を残す。「我慢できる?」と挑発すると、深く咥え込み翔を責め立てた。そして数秒の後、翔が硬直し短い呻き声を挙げた。おいおいまさか…暴発しやがった。女は口にぶちまけられた白い粘液を吐き捨て「勝手にだすな!」と翔の腿を殴った。
立ち上がり俺に振り返る。眼鏡の奥の目はギラギラと光り、濡れた唇が歪む。
「あなたはいい子にできるわよね?」

その日の夜はとびきり素敵な、地獄の夜となった。人間の尊厳もへったくれもない。この世界はクソ溜まりなのだ。



長い長い夜が明けた。

シャワーの水が全身を叩くたび傷に染みた。肩の爪痕、背中の引っかき傷、太ももの噛み跡――どれも彼女の欲望の証だ。手首には黒い糸で縛られた跡がくっきり残りじんじんと疼く。
「学校どうしよ…」翔は鏡の中の自分、ボールギャグの線が残る顔にボヤいている。

着替えを終えて俺たちは女が待つ部屋に戻る。
女はガウン姿でソファに腰掛け、朝焼けに染まる街並みを見下ろしていた。ガラスの向こうに広がる高層ビルと遠くの地平線。彼女の細い指がワイングラスを握り、愉悦に浸るように唇が緩む。
俺達は女王様の邪魔にならぬよう、部屋に散乱する色とりどりの“玩具”を手早く静かに片付ける。ひときわ大きな“玩具”を手に取ると、昨夜の内臓を押し拡げられる感覚を思い出して吐き気がした。
片付けを終えた俺たちは女の前に跪き、感謝の口上を述べる。下げた頭に女の視線が突き刺さるのを感じる。
「あなたたち、またお願いするわ」顔を上げると眼鏡の奥の目がぎらりと光る。俺と翔の笑顔が軋んだ。

部屋を出て扉を閉めた瞬間、二人同時に「はぁぁぁぁぁ…」と息を吐いた。膝が笑い、身体が重い。よろよろとエレベーターに辿り着く。
それなりの場数を踏んでいる俺達でも、今日のハードさは頭抜けていた。

長いエレベーターの下降中「正樹、見て!」翔が俺に画面を突き出してくる。
そこにはさっきの女が澄ました顔で写っていた。幼い頃にテレビで毎日見た、世界を救った天才学者。知性溢れる白衣の英雄。俺の上では理性を失ったケダモノ。
「次回は“安奈様”ってお呼びするか?」俺の冗談に翔は「殺されるよ?」真顔で返してくる。クソ笑えねぇ。

幼い頃の俺は裕福だった。
だが、8年前のあの“災厄”。俺の両親はその際に命を落とし、俺は施設に引き取られた。翔とは施設で出逢った縁だ。
学費はケーキ屋の給料だけじゃ賄いきれない。だからこんな“バイト”をするしかない。俺は体格に恵まれ、翔は顔が良いのでそれなりのギャラはもらえている。扱いは人間以下だが。大学の男友達もそんなのばかり。
全く、素敵な世の中だ。


「英雄様は好き放題できていいよな」そんな俺のボヤきに無邪気に翔が尋ねてくる。「正樹が英雄になったら何する?」
「なれるかよ」そう、俺らは脇役だ。主人公補正なんてのは生まれた瞬間に決まっている。
話を変えようと翔の顔を振り返る。
あどけない親友の顔から猿ぐつわの跡は消えていたが、首元に傷ができていた。ポケットから絆創膏を出して貼ってやろうと手伸ばす。袖から覗く自分の手首、“英雄”様に黒い糸で縛られた跡がうずく。内臓をまさぐられる感触が蘇る。客達のおぞましい笑い声が耳の中にこだましてくる。

吐き気と共に俺の目から涙が吹き出した。止めどなく涙が溢れる。
俺達は傷を舐め合うことしかできない。俺達は一生搾取され続ける。親友を守ってやることもできない。非力な自分が悔しい。
魂が張り裂けそうな感覚。耐えきれず俺は天井を仰ぎ叫んだ。

「誰か助けてくれよ」

俺が何をした。

「誰か止めてくれよ」

誰のせいでこんな目に遭う。

「てめえら大人なら子供を助けろよ」

優しい世界に生まれたかった。

「こんなイカれた世界、全部なくなっちまえ!!」

扉が開き、淵井正樹は世界を否定した。




【認証:HERO_WISH_承認】
【実行:小さな救い】
【検索:世界の敵......特定】
【挿入:時間軸を指定_開始...】
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