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第1章 プロローグ
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終電に揺られながら、浦部千夜は何度もあくびを噛み殺した。
車内には酔いのまわった中年男性と、隣同士で肩を寄せ合う若いカップルの笑い声が響いている。
金曜日の深夜。
週末の開放感は、千夜には縁のないものだった。
経堂駅のホームに降り立ったとき、空気が幾分涼しく感じられた。
夏の終わりが、ひそやかに近づいてきている。
改札を抜けると、駅前のロータリーに並ぶ灯りがにじんで見えた。
眼鏡の奥の目は充血し、体はだるく、パンプスが足を痛めつけている。
それでも、今日も自分はやるべきことをやり切った。
誰にも褒められることはないが、それでも千夜は胸の内で小さく頷いた。
いつものように、駅前のコンビニに立ち寄る。
酔うためだけに飲む酒を、今日も選ぶ。
冷蔵ケースの前でしゃがみ込み、アルコール度数の高いストロング系の缶酎ハイを無言で吟味する。
どれでもよかった。
けれど、その時、ふと目に留まった缶があった。
**「胡蝶堂」**と、小さく筆文字で書かれている。
紫の蝶のイラストが、缶の背景に淡くあしらわれていた。
(こんなのあったっけ……?)
見慣れない銘柄だった。
印字された謳い文句は「この爽快さ、あなたを素敵なドリームに誘います!」とある。
手に取ってみると、指先にほんのり冷たさが伝わる。
缶の表面にある「アルコール9%」の文字を見て、千夜は黙ってレジへと向かった。
アパートに着くと、玄関のドアを乱暴に閉め、バッグを投げ、パンプスを脱ぎ捨てた。
洗顔も着替えも放り出して、缶のプルタブを開ける。炭酸の音が、耳に心地よく響い
た。
胡蝶堂の酎ハイは、思った以上に飲みやすかった。
甘くも苦くもなく、喉を通っていくたび、頭が軽くなる。あっという間に、空き缶になった。
深く息をついた後、千夜はベッドに倒れ込んだ。天井がゆっくりと回っているように感じた。
意識が溶けていく中で、不意に、部屋の隅に紫色の蝶が一羽、静かに舞っているのが見えたような気がした。
――まさかね、と微笑む前に、眠りがすべてを攫っていった。
車内には酔いのまわった中年男性と、隣同士で肩を寄せ合う若いカップルの笑い声が響いている。
金曜日の深夜。
週末の開放感は、千夜には縁のないものだった。
経堂駅のホームに降り立ったとき、空気が幾分涼しく感じられた。
夏の終わりが、ひそやかに近づいてきている。
改札を抜けると、駅前のロータリーに並ぶ灯りがにじんで見えた。
眼鏡の奥の目は充血し、体はだるく、パンプスが足を痛めつけている。
それでも、今日も自分はやるべきことをやり切った。
誰にも褒められることはないが、それでも千夜は胸の内で小さく頷いた。
いつものように、駅前のコンビニに立ち寄る。
酔うためだけに飲む酒を、今日も選ぶ。
冷蔵ケースの前でしゃがみ込み、アルコール度数の高いストロング系の缶酎ハイを無言で吟味する。
どれでもよかった。
けれど、その時、ふと目に留まった缶があった。
**「胡蝶堂」**と、小さく筆文字で書かれている。
紫の蝶のイラストが、缶の背景に淡くあしらわれていた。
(こんなのあったっけ……?)
見慣れない銘柄だった。
印字された謳い文句は「この爽快さ、あなたを素敵なドリームに誘います!」とある。
手に取ってみると、指先にほんのり冷たさが伝わる。
缶の表面にある「アルコール9%」の文字を見て、千夜は黙ってレジへと向かった。
アパートに着くと、玄関のドアを乱暴に閉め、バッグを投げ、パンプスを脱ぎ捨てた。
洗顔も着替えも放り出して、缶のプルタブを開ける。炭酸の音が、耳に心地よく響い
た。
胡蝶堂の酎ハイは、思った以上に飲みやすかった。
甘くも苦くもなく、喉を通っていくたび、頭が軽くなる。あっという間に、空き缶になった。
深く息をついた後、千夜はベッドに倒れ込んだ。天井がゆっくりと回っているように感じた。
意識が溶けていく中で、不意に、部屋の隅に紫色の蝶が一羽、静かに舞っているのが見えたような気がした。
――まさかね、と微笑む前に、眠りがすべてを攫っていった。
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