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11話 ミオの守備位置と打順

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 龍之介とミオは、チームの現状戦力や今後の方針について確認をした。

「龍様。ちょっと質問なのですが……」

「どうした? ミオ」

「私って、グラブ捌きは下手ですけど肩はそれなりに強いと自負しています。足も決して遅くはありません」

「ああ、そこは俺も認めている」

「だったら、私はファースト以外のポジションがいいのでは? サードとか、ライトとか……。あるいはレフトでも……」

 ミオの言葉に、龍之介は目を丸くした。
 彼女は純粋な質問として尋ねてきたのだが――。

「……おお! そこまで野球を理解し、自分なりに考えてくれているとは! す、素晴らしい……!!」

「え、ええ……?」

 龍之介が興奮気味に言う。
 そんな彼の態度に困惑するミオ。

「いや、すまない。つい興奮してしまって……」

「い、いえ……。それより、どうして私がサードやライトではなくファーストなんですか?」

「ん? ああ、簡単な話だ。ファーストはミオにピッタリだと思ったからだよ」

 龍之介の答えに、ミオは再び首を傾げる。
 彼女としては、理由を聞いているのにその説明ではよく分からないのだった。
 そんなミオを見て、龍之介が続ける。

「ミオは残念ながらグラブ捌きが下手だし、フライの落下地点予測もまだまだ不得手だ。そのため、いわゆるセンターライン……守備負担の大きいキャッチャー、ショート、センター、セカンドというポジションは避けた方がいいだろう」

「そうですね。それは私も自覚しています」

「消去法で残されたポジションは4つ。その中で、一般的に負担の少ないとされる順番は決まっている。負担の少ない順に、ファースト、レフト、ライト、サードだ」

「ふむ……。なるほど」

 龍之介の説明に、ミオが納得したように頷いた。
 このやり取りだけで、何かを察したらしい。

「つまり、下手くそな私はファーストでも守っていろと……?」

「違う違う! さっきの守備負担の話は、あくまでプロや甲子園常連校の話さ。まだ始動したばかりの野球チームなら、事情が異なってくる」

「と言いますと……」

「ファーストの重要性が増すのさ。内野ゴロの度に、一塁に送球されるわけだからな。ファーストが捕球ミスをしていたら、なかなかアウトにできないだろう?」

 龍之介が説明する。
 それを受け、ミオの顔に疑問符が浮かぶ。

「しかし、私のグラブ捌きはイマイチですけど……」

「まだまだこれからさ。ミオはどんどん上手くなっていくと思う。それに対して、ロボの性能を向上させることはできない。真正面に送球された球を落球することはないが、少しでも逸れた球は目測を誤ってこぼす可能性が高まるんだ。ファーストは、最優先でロボから人間に置き換えたいと思っていたポジションなんだよ」

 龍之介が、ミオにも分かりやすいよう丁寧に説明する。
 それを受けて、ミオは納得したように頷いた。

「分かりました! では、私はこれからファーストの名手になります!!」

「ああ、期待している。しかし同時に、守備ばかりに気をとられてほしくはないな」

「えっと……?」

「さっきもいった通り、プロや甲子園常連校レベルなら、やはりファーストは守備負担の少ないポジションなんだ。ミオも、ある程度慣れたら守備を負担に感じなくなってくるだろう」

「そうなる日が来るでしょうか……」

「そう遠くない内に来るさ。そうなれば、ミオも打撃に専念できる。桃色青春高校のウルトラスラッガーとして、打線を引っ張っていってほしい」

「わ、私がウルトラスラッガー……! が、頑張ります!!」

 龍之介の言葉に、ミオの顔がぱぁっと輝く。
 彼女は、自分自身でも気が付かないうちに野球を好きになっていたようだ。
 そんな彼女の姿を見て、龍之介は満足げに微笑む。

「あ……。龍様、もう1つ質問があります!」

「ん? なんだ?」

「あの、どうして私が2番なのでしょうか?」

「2番では不満か?」

「いえ、決して不満ではないのですが……。打線を引っ張るなら4番では? それに、龍様が4番ではなく3番というのにも違和感があります。ロボよりも間違いなく打てる御方なのに……」

「ほほう。野球について、よく勉強しているようだな」

 ミオの言葉に、龍之介がニヤリと笑う。
 彼女の指摘にも一理ある。
 最強の打者は4番。
 次に上手い者を3番や5番に据える。
 3番~5番に次いでバッティングが上手く、かつ足が速い者を1番と2番に。
 これが、野球においての打線を組む際の基本的な考え方である。
 ただし、少しばかり古いセオリーでもある。

「クリーンナップ――3番~5番に強打者を集めるのは、やや古い考え方だ。その上、十分に選手が集まっている前提の話でもある」

「あっ……。確かに、今のチームでまともに打てるのは龍様と私だけですね……」

「そうだ。俺たちの場合、俺とミオを連続して配置するのは大前提となる。それも、可能な限り上位の打順にな。工夫の余地があるとすれば、主に俺とミオの前後の順番ぐらいだ」

「ええっと……。龍様のが考案されたオーダーでは、私が先ですね。その理由は……はっ! なるほど!!」

「気付いたようだな。そう、走塁力を考慮したのさ」

 龍之介が、ドヤ顔で言う。
 彼は自信満々に続けた。

「俺が先に出塁してミオが長打を打ったとしても、今の俺の足では長駆ホームインは厳しい。一方で、逆は可能だ。ミオは足も遅くないからな」

「あ、ありがとうございます!」

 ミオは照れつつも、嬉しそうな表情をする。

「しかし、それは現状ベストオーダーの一案に過ぎない。ミオが1番で俺が2番とか、ミオが3番で俺が4番とか……そういう形にしたっていいわけだ」

「あっ、確かにそうですね!」

 ミオが感心したように言った。
 そんな彼女の態度に気を良くしたのか、龍之介は話を続ける。

「ま、今は公式試合や練習試合の予定も入っていないし、オーダーはあまり気にしないでくれ」

「わかりました! ……でも、龍様」

「ん?」

「私、いつか4番で打ってみたいです!」

「……ああ、そうだな。自然とその形にできるよう、まずは部員を集めたいと思っている。ミオはウェイトリフティング部と野球部の掛け持ちで大変だろう? 新入部員のスカウトは、俺に任せておいてくれ」

「よろしくお願いします!」

 ミオが頭を下げる。
 そんな彼女の頭を、龍之介はポンポンと叩いたのだった。
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