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21話 ノゾミの守備位置と打順

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 翌日――。
 今日の野球部も、いつものように練習が行われていた。
 部員は4人。
 ピッチャーの龍之介、ファーストのミオ、ショートのアイリ、センターのノゾミである。
 本来、4人だけでは練習すらままならないところだが、今は2099年の技術がある。
 野球ロボたちが4人の練習をサポートしていた。

『ピピッ! では、センターへの打球です』

 ロボ1号がノックを行う。
 そして、正確な打球をノゾミへと放った。

「来たっ! 前……じゃなくて後ろっ!」

 ノゾミは、一瞬だけ前に出ようとするが、すぐに後ろに下がった。
 そして、ギリギリのところでキャッチする。

「ナイス、ノゾミちゃん!!」

 アイリが嬉しそうに言った。
 それに対して、ノゾミは照れたように笑う。

「えへへ……。上手くいきました!」

 練習の成果が出始めていることを喜ぶノゾミ。
 そんな彼女は、龍之介に話しかけた。

「……龍先輩、わたしの守備ってどうですか?」

「ん? ああ。まだちょっと粗さはあるが、着実に成長していると思うぜ」

 龍之介が率直に答えると、ノゾミはパァッと表情を明るくさせた。
 やはり嬉しいのだろう。
 そして、そんな彼女を龍之介も褒めたたえる。

「落下地点の予測が甘くても、ノゾミにはその脚力があるからな……。かなり広い守備範囲を誇っているよ。センターを任せられるのはノゾミしかいない」

「えへへ、ありがとうございます!」

 ノゾミは嬉しそうに笑う。
 そんな様子を見て、龍之介も微笑んだ。
 野球の守備においては、センターラインを固めることが重要となる。
 すなわち、キャッチャー、セカンド、ショート、センターである。
 ショートはアイリが守っており、センターには今回ノゾミが配置された。
 桃色青春高校の守備は、着実に固くなっていると言っていいだろう。

「さて、次はバッティング練習だが……。せっかくだし、実戦形式にしようか」

「実戦形式……ですか?」

「ああ。ノゾミはバッターボックスに入ってくれ。ショートにはアイリ、ファーストにはミオが入るんだ。そして……ピッチャーは俺だ」

 龍之介はそう言って、マウンドに登る。
 そして、ミオとノゾミに向けて言った。

「今から、ノゾミに打ってもらう。内野に転がったら、2人の出番だぜ」

「分かりました!」

「……分かったよ」

 2人はそう答えると、守備位置についた。
 それを確認した龍之介も、投球準備に入る。

「じゃ、行くぞ。まずは軽くストレートを……」

 龍之介はそう言って、ボールを投げるモーションに入った。
 そして、ノゾミはタイミングを合わせてバットを振る――。

『ストラーイク!!』

「あぅ……。空振りしちゃいました……」

 ノゾミは、少し悔しそうにする。
 そんな様子を見て、龍之介は笑った。

「いや、悪くないぞ! 初めての実戦形式であそこまで反応できるなら大したものだ!」

「そうですか……。えへへ……」

「ノゾミちゃん、ナイススイング!」

「うん。雰囲気は出ているよ」

 みんなの言葉に、ノゾミは嬉しそうにする。
 そんな彼女を見ながら、龍之介は言った。

「では、次だ。ノゾミ、構えてくれ」

「はいっ!」

 気を取り直したノゾミは、龍之介に向かってバットを構える。
 そんな彼女に向かって、龍之介はボールを放った。

(次は当てるぞっ!)

 ノゾミは、バットを振る動作に入る。
 そして――。
 コンッ……。
 小さな音が鳴り、ノゾミのバットから力のない打球が放たれた。

「あ……」

 ノゾミは不満げな様子である。
 そんな彼女に対し、龍之介は言った。

「ノゾミ、走れ! ボテボテのショートゴロだ!!」

「は、はいっ!」

 龍之介の指示を受けたノゾミが走り出す。
 そして、その瞬足で一塁へ向かった。

「ボクだって……守備練習を頑張ってきたんだよ! こういう打球は……ほいっと!!」

 ショートのアイリが、ゴロボールを捕球して素早くファーストに投げる。
 ノゾミの一塁到達とミオの捕球タイミングはほぼ同時だった。
 審判役の野球ロボの判定は――

『アウト!』

「ふぅ……。間一髪でアウトにできたよ」

「ちょっと危なかったですけど、上手く捕球できて良かったです」

 アイリとミオは、安堵するように呟く。
 一方のノゾミは、悔しそうにしていた。

「うぅ……。こんな調子では、龍先輩のお役に立てません……。やっぱり、右利きのわたしが左打ちするのは、難しいんでしょうか……」

 そう呟くノゾミ。
 そんな彼女の背中を、龍之介は優しく叩いた。

「大丈夫だ、ノゾミ。ちゃんと振れているぞ」

「でも……」

「確かに、右利きのノゾミが左打ちでまともに当てられるようになるのは、しばらくの時間が必要になる。だが、まともに当てる必要なんてないのさ」

「え……?」

 龍之介の言葉に、ノゾミは首を傾げる。
 そんな彼女に、彼は続けた。

「1番バッターのノゾミに期待しているのは、出塁することだ。そうすれば、アイリ、俺、ミオの3人で返すことも可能だろう」

「でも、塁に出るにはちゃんと当てないと……」

「違うな。野球には内野安打がある。今の当たりだって、ノゾミが最初から全力で走っていればセーフになっていたはずなんだ」

 龍之介はそう語る。
 野球そのものにまだ慣れていないノゾミは、「打ったら走る」という基本がまだ固まっていなかった。
 だが、今後の練習によってそれも改善していくだろう。

「それに、アイリの守備も相当なものだからな。少なくとも、秋大会の1回戦や2回戦で当たるチームのショートよりずっと上手いと思うぜ。そのアイリですら、ギリギリでアウトにできるかどうかってレベルの瞬足がノゾミだ。気負うことなく、自分にできることをしてくれればいい」

「自分にできること……。わ、分かりました!」

 ノゾミは力強く頷く。
 まだまだ、野球に関して分からないことが多い彼女だが、龍之介の言葉をしっかりと受け止めたようだ。
 そんなやり取りを眺めつつ、ミオが口を開く。

「秋大会と言えば……1回戦の相手は決まったのでしょうか?」

「いや、まだだ。ちょうど今週末に抽選会がある。初めての公式試合だし、あまり強すぎないところがいいな」

「ふふっ。そうだね。龍之介のくじ運に期待してるよ」

 アイリがそう言って、龍之介にサムズアップする。
 そんな彼女に、龍之介は苦笑したのだった。
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