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62話 愛情クロストレーニング・セツナ

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「では、鍛錬を始めよう」

「ほ、本当にやるのでござるか……?」

「もちろんさ。そのために、他の部員が帰るのを待っていたんだから」

 龍之介が頷く。
 その前では、セツナが不安そうな表情を浮かべていた。

「ではセツナ、目隠しを」

「わ、分かったでござる……」

 セツナが渋々といった様子で目隠しを受け取る。
 そして、彼女は目元にそれを当てた。

(ふふ……。目隠しした剣道美少女は最高だぜ!)

 龍之介がほくそ笑む。
 現在、2人が何をしているのかというと――

「うむ。これで準備完了だ」

 剣道の鍛錬準備である。
 時刻は夜。
 セツナ以外の剣道部部員は帰宅済みであり、桃色青春高校の剣道場には龍之介とセツナの2人しかいない。

「龍殿ぉ……某を辱めないで欲しいでござるぅ……」

 セツナは目隠しをしている。
 その状態で木刀を持ち、龍之介と対峙していた。

「心配しなくても大丈夫だ。俺に邪な気持ちはない。これはれっきとした鍛錬だからな」

「ううぅ……。某はただ、強くなる方法を相談しただけでござるのに……」

 セツナが恨めしそうに呟く。
 彼女は、龍之介にアドバイスを求めていたのだ。
 剣道の地方大会では上位常連だが、全国大会には手が届かない。
 そのため、どうすればもっと強くなれるのか……と。

「では、セツナ。剣を構えろ。俺と勝負だ」

「……視覚のハンデが大き過ぎるのではござらぬか?」

「そうでもしないと鍛錬にならないだろう?」

「むぅ……」

 セツナは渋々といった様子で木刀を構える。
 そんな彼女は、剣道着を身に纏っていた。

(ふふ……。やはりセツナは剣道着が似合うな)

 龍之介は露骨に笑みを浮かべる。
 セツナが目隠しをしている今、誰に遠慮することもない。

(とはいえ、貧乳であることに変わりはないが……)

 そう。
 セツナには大きな胸の膨らみはない。
 今までスカウトした美少女たちの中で、彼女ほど小さな胸の持ち主はいないだろう。

 アイリとノゾミは標準サイズ。
 ユイはサラシを巻いて誤魔化していた時期もあったが、その中身は巨乳である。
 強いて言えば、ミオがやや貧乳だろうか。
 しかし彼女は、身長自体が低めだ。
 一方のセツナは、なかなかの高身長。
 バスト自体の体積や重量という面では互角だったとしても、その身長との比率で言えば断然小さい。
 よって、貧乳というジャンルにおいては頂点に近いと言えるだろう。

(それにしても……)

 龍之介はセツナの胸元へと目を向ける。
 そこにあるはずの膨らみはなく、ただ平らな大地が広がっていた。

「あのぉ……龍殿? 何か侮辱されているような気がするでござるが……」

 セツナが訝しげに問いかける。
 どうやら、龍之介の考えは彼女に伝わってしまったらしい。

「そ、そんなことはない! そ、それでは……行くぞっ!!」

 龍之介は動揺しつつも、セツナに向かって駆け出す。
 そして、木刀を振り上げた。

「せぇいっ!!」

「感じるでござる……龍殿の気配を! はああぁっ!! そこぉっ!!!」

「あべしっ!?」

 龍之介の木刀が空を切る。
 それと同時に、セツナが反撃に出た。
 龍之介はダメージを受け、その場に倒れ込む。

「ま、待て! 実力が違いすぎる! ハンデが足りないって!!」

「何を言うでござるか! 某は既に目隠しという大きなハンデを背負っているのでござるよ!?」

「でもさ、セツナの心眼がここまで凄いとは思わなかったんだ! さすがは『心剣流星』と呼ばれるだけのことはある!!」

「ふへっ……。そ、そうでござるか?」

 セツナは嬉しそうに口元を緩ませる。
 彼女は、褒められることに弱かった。
 自分で付けた二つ名を認められたので、なおさらである。

(よし! この調子だ!!)

 龍之介は心の中でガッツポーズをする。
 彼はさらに言葉を続けた。

「ああ! セツナを相手にするには、目隠しだけじゃ足りない!! だから、もう一つハンデを増やそう!!」

「な、なにをするつもりなのでござるか!?」

「こうするのさ!!」

 ガバッ!
 龍之介はセツナの剣道着の胸元を掴む。
 そして、一気に左右へ引っ張った。

「ちょ……!? 龍殿!? なにをするでござるか!?」

 セツナが動揺する。
 だが、龍之介は止まらなかった。
 そのまま彼女の剣道着を左右に強く引っ張る。
 そして――ポロリ。
 セツナの胸が露出した。

「きゃああっ!?」

 セツナが悲鳴を上げる。
 彼女は胸元を隠しながら龍之介に抗議した。

「な、なな……!? 龍殿! これはいったい何事でござるか!?」

「これは鍛錬のためのハンデだ。変な意味は何もない!」

「むぅ……! そ、そうだったでござるか……」

 セツナは納得してしまった。
 初対面時なら拒絶していただろうが、この数日で彼女は龍之介に心を許している。
 そのため、彼からの提案を無下にできなかったのだ。

「それじゃあ始めるぞ! セツナ!!」

「わ、分かったでござる……」

 2人は距離を取り、木刀を構える。
 そして、同時に動き出した。

「くくっ! 動きが鈍くなっているぜ? そこだぁっ!!」

「ひゃんっ!? ど、どこを突いているで……にゃぁぁぁ!?」

 龍之介がセツナの弱点を攻める。
 こうして、2人の鍛錬は続いていくのだった。
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