何でも切れる勇者の剣を引き抜いたら右手から離れなくなりました(しかも逆手)

こへへい

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2話 剣抜けたよ? 抜けたけどさ

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「何だよそれ! 聞いてないよ、呪いなんて!」

「だって言ったら抜いてくれないだろ?」

 地団駄を踏むトウマに、その足すらない勇者はニヤニヤと笑顔を咲かせて、トウマの周りをぐるぐる回っていた。

「これで俺もやっと成仏できるよ。ずっと剣をつまんでなきゃいけなくてさ、マジつらかったもんなぁ。死んでも魂縛り付けられて動けなかったし」

「あの剣の刀身をつまんでたそれって、ずっと続いてたの?」

「だが抜いてくれたおかげで手も離れたし? さっさと成仏してくるわ。達者でなトウマ君!」

「あ、待てこら!」

 空に浮かび、山の木々に流れるように消える勇者。トウマは剣を握る右手を空にかざしたが、勇者は無情にその場を去った。

「嘘だろ、こんな手でどうやってこれから過ごしていけば……」

 ひざをつき、悲しみにくれる。地面をたたくと、カランと剣が鳴った。立派な剣であることは確かだが、今は重しにしか思えない。

 ちらっと刀身を見やると、剣先に白い石のようなものがひっついているのに気付いた。逆手持ちで剣に接しないようにぐるっと回して刀身を臆に持ち込む。

「なんだ?これ」

「ええと、その……」

 迷いがちな声がしたので顔を上げる。そこには成仏すると言ってさっそく去ったはずの勇者がいた。勇者は指先と指先をつついて気まずそうにしている。トウマは目を細める。

「成仏するとか言ってなかった? 何しに戻ってきたんだよ」

「……成仏できないっぽい」

「は?勇者なのに?」

「いや、徳を積んでるとかどうとかじゃなくて、さっき空飛んで行こうとしたらここに引っ張り戻されたんだよね……」

 その発言を聞いて、トウマは剣先の石を見直す。そして剣を持ったまま全力で走った。ある程度走ってから振り返ると、勇者が引きずられていた。

「ちょ! 急に走んないでってば! まだ剣に骨残ってるんだから!」

 トウマは察した。剣先についていた白い石は勇者の骨で、引き抜いたとしても勇者の魂がまだ剣に縛り付けられているということに。
 同じことを察した勇者が頭を抱えた。

「うっそだろ!? いつになったら解放されんだよ俺はよぉ!」

「はっはっは! ざまぁないね勇者! 君は一生僕の話し相手になる運命なのだ!」

 高笑いもつかの間。勇者が成仏できないからと言って自分の手が離れないことに変わりはないことに気づくトウマ。大きなため息を吐いて地面に座り込んだ。

「どうすんだよこれ」

「そんなの呪い解くっきゃねぇだろ、俺もできるだけ助言してやっから」

「元はと言えば君のせいだろうが!」

 グチグチと言い合っていると、先に口を閉じたのは勇者の方だった。

「どうした?」

「後ろ見てみ」

 見てみた。 大人の背丈ほどもある大きなイノシシがすぐそこまで迫っていた。鼻からスチームのような息がふんすと吹かれ、べっちょりとした体液がトウマの背中にへばりつく。

「でか! ってか汚っ! こんなのいるなんてじいちゃんから聞いてないよ!」

「良かったじゃねぇか、探してたんだろ?」

 目を見開くトウマだったが、勇者は至って冷静にトウマを軽く祝福する。トウマはイノシシから距離を取りつつ疑問符を浮かべた。

「いや意味分かんないから、何が良いんだよべっちょりだよ」

「確か探してたんだろ? イノシンキノコ」

「そりゃそうだけど、それが今何だって……?」

 脈絡のないイノシンキノコの話題が挙がったので何故かと不思議に思っていたのだが、トウマはイノシシを見て納得する。通りでお爺さんから話を聞かなかったわけだ。 イノシンキノコがこの巨大なイノシシの背中に生えているなんて言えば、どれだけ危険でもトウマは立ち向かってしまっただろうから。 体の弱い母のために。

「でもどうやってあのキノコを採ればいいんだ……」

 とりあえず熊に出会った時は背中を見せずにゆっくり後ろ歩きをするセオリーを実践して逃げつつ(だんだん距離が詰められているが)悩ましい思いを口にすると、勇者が呆れたとばかりにトウマにアドバイスした。

「何言ってんだよ、右手のそれで切ればいいじゃねぇか」

「いやいや! 背中超高いんだよ!? 僕の背丈くらいかと思ったけれど結構でかいし!? 背中に手届かないよ!」

「じゃなくて、イノシシぶった切ればいいだろうが」

 さも当然のように勇者は言うけれど、トウマは半信半疑だった。いや、9割疑だった。

「長年地面に埋まってた剣でイノシシの身体なんて切れるわけないよ! イノシシの毛って結構固いって聞くよ?」

「まぁやってみって、騙されたと思ってさ」

「これ以上僕を騙そうっていうのか!」

「ほら、スパッとやってみ? 意外といけるからさ。でないと俺もそんな剣持とうとなんて思わなかったもん」

「それに早くしないと突っ込んでくるぜ?  あ、スピード上げてきた」

「あーもう! どんな剣だってんだよ! ええいままよだ!」

「どんな剣ってそりゃ──」

 勇者が言い終える前に、トウマは剣を振り降ろしていた。
 刃がイノシシの体毛を滑って――いや、真っ二つに切り裂いた。

 勇者は表情を変えずに言う。

「何でも切れる」
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