何でも切れる勇者の剣を引き抜いたら右手から離れなくなりました(しかも逆手)

こへへい

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3話 何でも切れるけど、けどさぁ

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 イノシシの背中についていたイノシンキノコを大量に抱えたトウマは、なんとか帰路についた。もっとも、自力で戻れたわけではない。しばらく彷徨っていると、偶然キノコ狩りに来ていたパン屋の爺さんに発見され、なんとか村へ戻ることができたのだった。

 今、トウマはその仕事先のパン屋の裏で、爺さんに説教されていた。

「あれほど山に行くなって言ったじゃろうが! アホかお前は!」

「ごめんなさい、キノコがイノシシの背中に生えるなんて知らなかったし……それに、母ちゃん元気になるかもなってじいちゃんが言ったんじゃん」

「人のせいにするなボケ! イノシシ以前に、キノコ狩りを無知で行くのがそもそもアホじゃ。毒キノコ食わせてたかもしれんのじゃぞ!」

 それはもっともな指摘で、トウマは真剣に反省する。その結果として、イノシンキノコはすべて没収されてしまった。実は毒キノコを採らないようにと、『毒キノコ辞典』で予習していたのだが、それでもお爺さんの目には危なっかしく映ったのだろう。トウマは「毒キノコも採っておいて、まとめて没収されておけばよかった」と、妙な後悔を覚えた。

「あ、今『毒キノコも採っとけば毒キノコごと没収されて、わしが食って死ぬと思った』じゃろ。分かっとるからな、わしは!」

 白いふさっとした眉尻が吊り上がる。だが話はひと段落したと判断し、お爺さんは次の話題へと移った。

「それよりもじゃ、もっと気になることがあるんじゃが」

「何?」

「その右手の、それはなんじゃ?」

 当然聞かれると思っていたので、トウマは即答する。

「勇者の剣だよ」

「んなわけあるか! 勇者様はもう何十年も前に亡くなっておる。魔王を倒すという功績を遺したあのお方の剣が、こんな辺鄙なところにあるわけなかろうが!」

「……え、勇者って魔王倒してたの?」

「そじゃぞ? そんなことも知らんのか」

 世界の常識を知らないのかと指摘された気分になり、隣の証人(ちなみに現状トウマにしか見えていない)に小声で尋ねてみた。

「そうなの?」

「……まぁ、そういうことになってる、かなぁ」

 露骨に歯切れが悪かった。「こいつ、何か隠してやがんな?」と訝しんでいると、パン屋の奥から香ばしい煙がトウマの鼻をくすぐる。まるで肉を焼いたかのような香り。

 一度パン屋の中に戻ったお爺さんは、またトウマのいる裏手に戻ってくると、その手には皿と楊枝が添えられていた。そして優しげに言う。

「剣のことはまぁ良いわい、とりあえずそんな物騒なもん置いて、手を洗ってこい。これ食って、さっさと無事を母さんに見せてやるのじゃ」

 血の繋がっていないただのお爺さんではあるが、トウマやトウマの母とは昔ながらの客としての付き合いがある。その顔には、確かな優しさが浮かんでいた。

 その温もりに触れ、トウマは涙があふれてきた。左手で拭うと、涙で濡れた手のひらが光る。拭いきると、赤い目をしたまま顔を上げた。

「そうだね、まずは手を洗ってくる……あ、」

「どうしたんじゃ?」

「そのぉ、この剣なんですけどね」

「ふむ、その剣がどうかしたかの」

「手から離れなくてですね」

「え、マジで?」

「ま、マジっす」

「ってことはもうパン生地こねられんのか?」

「そういう、ことになりますね」

 今更ながら気づいたが、この手では麺棒を両手で握ることもできないし、片手でパンをこねるほど甘い仕事ではない。こんな状態で、どうやってパン屋として働けばいいのか。

 ぐぬぬ、とお爺さんは首をひねって考え込むこと数分。そして、トウマに衝撃の告白をする。

「トウマよ」

「は、はい」

「クビ」

――――――

「ってことでクビになっちゃった」

 家に帰ると、心配していた両親が出迎えてくれた。説教されるかと思いきや、思いっきり抱きしめてくれた。しかし、異様な剣を見てすぐさま身を引く。

 気になっている両親に、この一日の出来事を語り終えると、父が肩を落とした。

「うっそだろおい、俺もっと働かないといけないの? 母さんも体弱って辛いってのに、普通呪われるかね?」

「いや普通呪われないよ。あたかも僕に落ち度があるかのように言ってるけれど、仮に僕の落ち度がどこかで発生しても、普通は呪われるなんて馬鹿げたことは起きないよ」

 ギロッと斜めの方角を睨むトウマ。両親は少しきょとんとするが、視線の先の勇者は顔を引きつらせていた。

 しかしそんな中、一人だけ前向きな考えを提示してくれる人がいた。

「ならほら、冒険者ギルドっての? 行ってみたらどうだい?」

「冒険者ギルド?」

 そう提案したのは母だった。

「そうさ、どうせなら一発当ててきなよ。人生、冒険するのも悪くないさ」

「冒険、か」

 村でできることをやれば、それでいいと思っていたトウマは、母の提案に驚きながらも、彼女らしいと感じた。

「分かった、やってみるよ。一発当てて、すぐに母さんに元気になってもらうからね」

「はっはっは! そりゃ頼もしいね。もう立派な大人の男さ、あんたは!」

 母の言葉を受け、トウマはさらに決意を固めた。

「あのぉ、呪いを解く件を主軸に置いてもらえると助かるんだが……」

 側で勇者が背後霊のように囁くので、「はいはい、分かってるよ」と軽くあしらっておいた。

「さ、右手が不便だろうけど、ご飯の支度は私に任せな。パン屋のおじさんがイノシンキノコをおすそ分けしてくれたから、みんなでそれを食べよう!」

 母はそう言うと、そそくさとキッチンに向かった。自分はまだまだ子供で、いろんな人に支えられているんだなと、トウマは温かい気持ちになった。
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