何でも切れる勇者の剣を引き抜いたら右手から離れなくなりました(しかも逆手)

こへへい

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4話 鞘がいる

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「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」

 普段はカウンターの向こう側でしか見かけない受付嬢に声をかけられ、トウマは反射的に振り返った。すると、背後から鋭い視線がいくつも突き刺さる。冒険者ギルドに加入はできたものの、どのクエストを受けるべきか悩んでいた。

 ――いや、そういうわけではない。

 もっと別の、根本的というか、それ以前の問題がトウマの悩みの種となっていた。そして今日、その問題がついに芽吹いたのだ。

「あのぉ、剣の刃を収めてもらってもよろしいでしょうか? 普通に危ないので」

 艶やかなボブショートの髪が印象的な受付嬢は、その可愛らしい見た目に似合わず、上目遣いで冷静にそう言った。一見すると心躍るシチュエーションのようだが、彼女の目は笑っていない。うるうると潤んでいるわけでもなく、ただただ無表情だった。

 トウマは視線を逸らし、冷や汗を拭うことなく答える。

「いやー、分かってるんですよ。鞘、ですよね。剣の刃を覆う、あれですよね」

「はい。最近、他の冒険者から『危ない人がいる』と苦情が来ていまして……。もし収めてくださらないのでしたら、いくら才能のある貴方でも、お仕事の斡旋はできません」

「え、それは困ります!」

「であるならば、さっさと鞘を買ってください。ギルドの出口を出て右手に武器屋がありますよね?」

 まるでチュートリアルのような説明。しかし、それはもう一週間も前に聞いた話だった。鞘を使っていないのには理由がある。

 宿に戻ると、トウマはその残骸――縦に真っ二つに割れた鞘を見つめ、再びため息をついた。

「さすがに、これ以上鞘を買うのはキツいよなぁ」

「だな。俺のときは剣の刃チョン持ちだったから鞘はいらなかったけど、普通に持つとそういう問題が出るのか。ためになるぜ」

 勇者は幽霊の特性を活かし、フワフワと部屋を漂いながら感心している。その他人事な態度に苛立ちながら、トウマは呟いた。

「でもこれだと、呪いを解く手がかりを得るのにも時間がかかっちゃうよ」

「だろうな。宿で寝るのも一苦労だし」

 そこも大きな悩みの種だった。トウマは寝るとき、ベッドに横になりながら剣を持った手をベッドの外へ出していた。体に刃が当たらないようにするためだ。しかし、その剣が床やベッドを傷つけ、宿にすでに多大な被害をもたらしている。退去までには、せめて賠償金を稼ぐ目処を立てなければならない。

「ちなみに、どのくらいの硬さまでなら切れるんだ? せっかくだし、元持ち主の経験談が聞きたいね」

「魔王軍で一番硬かったのはオリハルコンだったかな。鎧の素材じゃなくて、オリハルコンそのものの魔物がいたんだけど……まあ、サクッと切れたな」

「オリハルコンが切れるなら、もう何でも切れるんじゃ……。逆に、この剣で苦戦した相手はいなかったの?」

 数秒、勇者は腕を組みながら考え、手を打った。

「そうだ! スライムは面倒くさかったな」

「なるほど、硬さじゃなくて柔らかさなら切られる心配がないってことか」

 スライムならそこまで強くないし、初心者の自分でもなんとかなるのでは? そう思いかけた瞬間、勇者が冷静に指摘する。

「でもさ、冒険者ギルドに魔物を連れてくるのは別の問題が出るんじゃないか? 余計に入れなくなるぞ」

「ああ、そうか。勇者の時代にはいなかったんだっけ、魔物テイマー」

 魔物テイマーとは、魔物を使役できる職業のこと。冒険者ギルドでは個々の適性に応じた職業が割り振られ、その情報をもとに仕事が斡旋される。最近になってようやく、魔物テイマーという職業が追加されたのだ。

「ってわけで、魔物テイマーに見えれば問題ないかなって」

「いや、お前魔物テイマーじゃないだろ。ソードマスターだろ」

 冒険者にはさまざまな職業があるが、なかでも“マスター職”は特に珍しい。通常、剣士として認められた者が、さらに卓越した才能を示すことでソードマスターとなる。他にもマジカルマスターやシールドマスターなどが存在するが、実物を目にする機会はそう多くない。

「そうだね、ソードマスターか……。嬉しいはずなんだけどなぁ」

 右手で逆手持ちした大剣を見つめ、トウマはため息をついた。この剣のせいでパラメーターが補正され、結果的に悪目立ちしてしまっている。ただでさえ剣の刃が迷惑なのに。

「まあ、そこはしゃーねぇわな。少しでも迷惑かけないように、まずはスライムをテイムしに行こうぜ!」

 勇者の掛け声とともに、トウマは重い腰を上げるのだった。

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