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<五章:信じよ>
人を操る力
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初めて目の前の男を、本当に勇者だと思った。
有象無象の人間が取り囲む中膝をつかず、前を向き、剣を振るい、心を鼓舞させる。まさに勇者だ。動じない心を持っている。
そんな勇者は、目の前の女を見ていた。「ちっ」と舌打ちをしたあと、集団に背を向けた。つまり俺に向き直った。そして剣を持っていない手で俺の胸倉をつかみ、無理やりに立たせた。そんな力に抵抗することもできないでいる。
「良い加減立て! お前にメアリーを任せるんじゃなかったぜ、あの時、無理やりにでも連れ戻すべきだったんだ。 実はこんなへっぴり腰って分かってたら!」
「ユウ! 今は後よ! 時間がない!」
「防護オーラも持たない、もう呼ぶよ!」
と、勇者パーティーの魔法使い(なんだと思うがトレードマークのとんがり帽子がないことはおろか、その服装はショートパンツとTシャツという超軽装備だった。その手には薄汚れた包帯が巻かれていたり、そもそも髪が女性とは思えないほど短かった。唯一ネックレスが女性らしい)と戦士君(なのだと思うのだが鎧は纏っておらず、最低限の動きやすい鎖帷子のような装備を纏っている。大きな籠のような者には、多くの武器や盾等を武蔵坊弁慶のように収納され、柄がいくつも飛び出ている)が勇者のことをユウと呼称して急かしていた。
そんな二人の周囲には、勇者と同じく紫色のオーラに包まれていた。
戦士君は指を二本口に入れ、甲高い笛の音を響かせる。
勇者は舌打ちしつつも、俺の胸倉を掴んだまま引きずり、先ほどの俺のように空を見た。
だが、その眼差しは世界に絶望することなく、何事にも諦めない希望に満ち溢れていた。
しかし、そんな空は闇色の雲に覆われており、そんな雲を突き抜けて。
三頭の竜が翼をはためかせ急降下してきた!
「ちょ! 来てるって何か来てるって!」
「うっせぇな! 舌噛みたくなかったら黙れ!」
それが地上で聞いた最後の言葉だった。勇者は剣を背の鞘に直し、その手で地上間近に来た竜の足を掴んだ。その瞬間、足が地から離れたと思ったら、その体が一瞬で飛ぶ。逆バンジージャンプをしたかのような気分になった。続いて二頭の竜が魔法使い、戦士君を連れて行く。
「逃がすか! 皆やれ!」
メアリーは手に持つ杖を俺達に向け、無数の杖から攻撃魔法が波のように迫って来る。その攻撃を竜は鮮やかにかわしていく。
「くそ、なかなか逃がしてはくれねぇか」
悪態を吐く勇者に、竜に乗る若い男の声が反応した。
「大丈夫です、もうすぐですから」
彼は自慢げに、マサトは自信満々に大声で言った。地面に垂直になるように三頭の竜は雲を突き抜ける。
俺たちは青い、いや少し夕暮れがかった大空の下を飛んで逃げられたのだった。
* * *
「ここまで来ればもう大丈夫でしょう、無事でないよりです」
視界に広がるのは心が穏やかになる森の中。いや湿原の中だった。懐かしのジメット湿原である。俺のピンチに駆けつけてくれて、ハーモニーメドウから助けてくれたらしい。
「ほら、これを見てみろよ」
勇者が杖によって表示した放送魔法の動画には、俺が保護石の能力を知らずに勇者が宿から出てくるのを待ちぼうけている姿だった。
「おっとこれは違うやつ」
「何で残ってるんだよ! 消しただろ!?」
「プリーストックプレミアムに登録してると動画をダウンロードできるんだぜ?」
「ダウンロードしていることに悪意しか感じねぇ、著作権と肖像権に基づいて破壊させてもらう!」
「まぁ待て、俺達が駆けつけてきたのはこれが原因でな」
と杖から映し出された映像が切り替わると、俺が大勢の人間に囲まれている風景が映し出されていた。まぁあんな大勢が配信していたんだから、誰の目にも留まるだろう。そのことに、また気分が悪くなる。
その気分が悪くなるのを紛らわせるために、苦し紛れに吐いた
「なぁ、お前らいつから仲直りしたんだ? 精神操作したりされたりの仲だっただろう?」
「あー、確かにそうなんだが、俺も勘違いしていたんだ。やっと自覚するところまで回復してからはもういいかなってな。気づけたのはこいつのお陰でもあるわけだし」
回復? 自覚? ああ。そういう。
この世界の人間を支配する、謎の洗脳魔法。それは無意識に干渉し、ただの人間を精神支配するほどまでになっていた。その洗脳から脱却するのに、マサトの勇者に対する洗脳が一役買っていたということだろうか。
「それについて、まずは代理さんにもお話しておこうかと思いまして」
「分かったのか? どんな魔法なんだ?」
嬉々として、俺は身を乗り出した。あの大勢の洗脳を解くことができれば、世界の人間は解放される。自由となる。魔王も自分が勇者に倒されるという謎の圧力に殺されなくてすむ。
いや、ただの言い訳と言うか、理由付けだ。
俺が許せないだけなんだ。
俺が認めたくないだけで。
だが、そんな俺の期待を応えてくれるような反応をマサトはしていなかった。身をすくみ、顔を背ける。
「なんだよ、はっきりしろよ、見つかっていないのか?」
「いえ、見つけました。歴代魔王がこの洗脳現象について調べていたらしく、その手記が図書館の奥に」
「何て書いてあった? 魔王なんだから、どんな魔法なのか分かったんだろう?」
「そこには、こう綴られていました」
最初はただ、面白そうな物語が噂されているだけだった。
しかしその物語はいつしか世界を共感させ、震わせ、気持ちを一つにしていった。
周囲の者が皆、一様に同じ話題を話すようになり、世界が1つの心になる。
それはまるで。
まるで魔法のようだった。
と。
それを聞いて、訳が分かった。
分かったのだ。
まるで、魔法のよう。
それはつまり、魔法ではないということ。
物語によって、ストーリーテリングによって人を共感させ、人の感情を扇動し、操る。
『ジャーナリズム』
それは、人間が人間を支配することができる、最強にして、最低最悪の力だった。
有象無象の人間が取り囲む中膝をつかず、前を向き、剣を振るい、心を鼓舞させる。まさに勇者だ。動じない心を持っている。
そんな勇者は、目の前の女を見ていた。「ちっ」と舌打ちをしたあと、集団に背を向けた。つまり俺に向き直った。そして剣を持っていない手で俺の胸倉をつかみ、無理やりに立たせた。そんな力に抵抗することもできないでいる。
「良い加減立て! お前にメアリーを任せるんじゃなかったぜ、あの時、無理やりにでも連れ戻すべきだったんだ。 実はこんなへっぴり腰って分かってたら!」
「ユウ! 今は後よ! 時間がない!」
「防護オーラも持たない、もう呼ぶよ!」
と、勇者パーティーの魔法使い(なんだと思うがトレードマークのとんがり帽子がないことはおろか、その服装はショートパンツとTシャツという超軽装備だった。その手には薄汚れた包帯が巻かれていたり、そもそも髪が女性とは思えないほど短かった。唯一ネックレスが女性らしい)と戦士君(なのだと思うのだが鎧は纏っておらず、最低限の動きやすい鎖帷子のような装備を纏っている。大きな籠のような者には、多くの武器や盾等を武蔵坊弁慶のように収納され、柄がいくつも飛び出ている)が勇者のことをユウと呼称して急かしていた。
そんな二人の周囲には、勇者と同じく紫色のオーラに包まれていた。
戦士君は指を二本口に入れ、甲高い笛の音を響かせる。
勇者は舌打ちしつつも、俺の胸倉を掴んだまま引きずり、先ほどの俺のように空を見た。
だが、その眼差しは世界に絶望することなく、何事にも諦めない希望に満ち溢れていた。
しかし、そんな空は闇色の雲に覆われており、そんな雲を突き抜けて。
三頭の竜が翼をはためかせ急降下してきた!
「ちょ! 来てるって何か来てるって!」
「うっせぇな! 舌噛みたくなかったら黙れ!」
それが地上で聞いた最後の言葉だった。勇者は剣を背の鞘に直し、その手で地上間近に来た竜の足を掴んだ。その瞬間、足が地から離れたと思ったら、その体が一瞬で飛ぶ。逆バンジージャンプをしたかのような気分になった。続いて二頭の竜が魔法使い、戦士君を連れて行く。
「逃がすか! 皆やれ!」
メアリーは手に持つ杖を俺達に向け、無数の杖から攻撃魔法が波のように迫って来る。その攻撃を竜は鮮やかにかわしていく。
「くそ、なかなか逃がしてはくれねぇか」
悪態を吐く勇者に、竜に乗る若い男の声が反応した。
「大丈夫です、もうすぐですから」
彼は自慢げに、マサトは自信満々に大声で言った。地面に垂直になるように三頭の竜は雲を突き抜ける。
俺たちは青い、いや少し夕暮れがかった大空の下を飛んで逃げられたのだった。
* * *
「ここまで来ればもう大丈夫でしょう、無事でないよりです」
視界に広がるのは心が穏やかになる森の中。いや湿原の中だった。懐かしのジメット湿原である。俺のピンチに駆けつけてくれて、ハーモニーメドウから助けてくれたらしい。
「ほら、これを見てみろよ」
勇者が杖によって表示した放送魔法の動画には、俺が保護石の能力を知らずに勇者が宿から出てくるのを待ちぼうけている姿だった。
「おっとこれは違うやつ」
「何で残ってるんだよ! 消しただろ!?」
「プリーストックプレミアムに登録してると動画をダウンロードできるんだぜ?」
「ダウンロードしていることに悪意しか感じねぇ、著作権と肖像権に基づいて破壊させてもらう!」
「まぁ待て、俺達が駆けつけてきたのはこれが原因でな」
と杖から映し出された映像が切り替わると、俺が大勢の人間に囲まれている風景が映し出されていた。まぁあんな大勢が配信していたんだから、誰の目にも留まるだろう。そのことに、また気分が悪くなる。
その気分が悪くなるのを紛らわせるために、苦し紛れに吐いた
「なぁ、お前らいつから仲直りしたんだ? 精神操作したりされたりの仲だっただろう?」
「あー、確かにそうなんだが、俺も勘違いしていたんだ。やっと自覚するところまで回復してからはもういいかなってな。気づけたのはこいつのお陰でもあるわけだし」
回復? 自覚? ああ。そういう。
この世界の人間を支配する、謎の洗脳魔法。それは無意識に干渉し、ただの人間を精神支配するほどまでになっていた。その洗脳から脱却するのに、マサトの勇者に対する洗脳が一役買っていたということだろうか。
「それについて、まずは代理さんにもお話しておこうかと思いまして」
「分かったのか? どんな魔法なんだ?」
嬉々として、俺は身を乗り出した。あの大勢の洗脳を解くことができれば、世界の人間は解放される。自由となる。魔王も自分が勇者に倒されるという謎の圧力に殺されなくてすむ。
いや、ただの言い訳と言うか、理由付けだ。
俺が許せないだけなんだ。
俺が認めたくないだけで。
だが、そんな俺の期待を応えてくれるような反応をマサトはしていなかった。身をすくみ、顔を背ける。
「なんだよ、はっきりしろよ、見つかっていないのか?」
「いえ、見つけました。歴代魔王がこの洗脳現象について調べていたらしく、その手記が図書館の奥に」
「何て書いてあった? 魔王なんだから、どんな魔法なのか分かったんだろう?」
「そこには、こう綴られていました」
最初はただ、面白そうな物語が噂されているだけだった。
しかしその物語はいつしか世界を共感させ、震わせ、気持ちを一つにしていった。
周囲の者が皆、一様に同じ話題を話すようになり、世界が1つの心になる。
それはまるで。
まるで魔法のようだった。
と。
それを聞いて、訳が分かった。
分かったのだ。
まるで、魔法のよう。
それはつまり、魔法ではないということ。
物語によって、ストーリーテリングによって人を共感させ、人の感情を扇動し、操る。
『ジャーナリズム』
それは、人間が人間を支配することができる、最強にして、最低最悪の力だった。
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