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<最終章:己が世界を支配せよ>
自分で決めて、責任を取ること。それが、世界を支配するということだ
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ハーモニーメドウの戦いから数日が経過した。と言っても、あの出来事を振り返ったところで、あれが果たして「戦い」だったのかは甚だ疑問である。というのも戦いというのは、得てして誰かの正義と誰かの正義がぶつかって初めて引き起こされる事象である。それは、おもちゃを壊された子供同士の喧嘩から、国同士の戦争まで、様々な正義が入り混じってお互いを消耗させる。しかし今回、その正義というものは存在しなかった。これは強いて言えば、正義の定め方を争う戦いだった。
どっちが正しくて、どっちが間違っているのか。
それを、如何にして決めるのか。
「なるほどね、そして今回勝ったのは『正義は他人に決められるものじゃなくて、自分で決めるものだよね』勢だったわけだ」
ハルカが紅茶を優雅にすすりながら、俺のこれまでのお話に聞き耳を立てた。結構長丁場だったような気がするのだが、しかしその実、多分俺が転移してから一週間と経っていないんじゃないかって思われる。しかし体感的には100日足らずな気持ちだった。正確には79日分かな? その濃厚な物語を易々と、安っぽく良くもまぁまとめてくれる。
場所はおなじみ魔王城、の客間だ。部屋は全体的に壮麗ながらもどこか圧倒的な雰囲気に包まれていおり、広々とした空間には、暗い色調の豪華な家具が配置され、壁には重厚な絵画や錆びた武具が掛けられていた。窓から差し込む光は、幽玄な雰囲気を漂わせながら、宝石のような色合いで部屋を照らし出している。そんな部屋に相応しい漆塗のような色合いのテーブルに紅茶カップを置き、ふかふかのソファに体重を預けた。
ミナが滅ぼされたことで安全だと判断してか、ハルカはチョッタカ山から下りてきていた。毛むくじゃらなダウンジャケットを携えて(多分チョッタカ山の厳しい寒さを乗り切る用の防寒具だろう、超温かそう)。そしてはるばるこの魔王城まで歩いてきて、こうして客間に通しているというのが現状だった。
「んで? 俺の話を聞きたくて、チョッタカ山にはるばるやってきたわけじゃないだろう? 一体何しにきたんだ?」
「君と勇者君、もといユウがミナを両断した時、ミナの大部分が単なる魔力として雲散霧消しただろう? それによって扇動されていた人々の意識が回復し、一応世界の危機を救ってくれた。君には感謝していてね」
……話をはぐらかした? いや本命の前振りか。ストレートに感謝されるというのはやはり慣れない、飽くまでも自分が正しいと思ったからそうしただけなので、世のため人のためというのとは実は縁遠いのだ。
「ま、まぁハーモニーメドウの復興にはまだまだ時間がかかるだろうがな、ビルを地下から屋上まで貫通させてしまったわけだし。それに人々の意識が回復したと言っても、皆が皆、これまでに扇動されていた悪影響を取り除けるわけでもない。ミナが居なくたって自分の決断が不安で周囲にアドバイスと称して決定権を委ねている奴がまだまだいるし。だから褒められたことはしてないだよ。それともあれか? 俺に何かくれるっていうのか?」
「鋭いね、その通り」
え、マジで? なんだろう、謙虚な心と無駄な期待をしないためのセリフだったのだが、その通りと言われると、逆に何を出されるのかが不安になる。
「実は雲散霧消したとは言っても、ミナはまだ生きていてね」
「え、それじゃあどこかでまた同じ現象が――」
「それはない、プリーストックのネットワークはミナのコントロールから離れた時から私が遮断したからね。それに統率が取れなくなった魔力に脅威はないよ」
私が話したいのはそういうことではなく、と言って「ならそのダウンジャケットをくれるのか?」と聞こうとした俺の口が開く前に、コツンと小さな、片手に収まる円柱状の蓋つき瓶をコツンと置いた。その瓶の中には、紫色のモヤモヤが充満している。
「これはミナだ。完全に周辺に散る前に核部分だけを回収しておいたんだ。君にこれを授けようと思う」
「え、なんで?」
色々な疑問が籠った「なんで」だった。ミナの核を何故回収したのか? や、そんなミナを何故俺に渡す? といった疑問だ。
「安心したまえ、このミナにはこの前ほどの脅威はない。言ってしまうとミナの赤ん坊のようなものでね、まだ何も学習できていないんだ。しかしミナは死ぬ前に、とても大切なものを学んだようなので、そのポイントを先に学習させれば、今度こそ同じ間違いを犯さないようにするミナになるんじゃないかと思ってね」
淡々と言うハルカ。また疑問が増えた。
「大切なポイントってのは、何だ?」
「正しいことを決めるのは、いつだって自分自身だってことさ。今までのミナは、皆が良いフィードバックをくれることを中心にレコメンドしてくれたからね」
だから、最初に学ぶ内容をその内容にしよう、と。ずいぶんと短絡的なことだと思ったが、小中学生の時に学んだ内容って、意外と大人になっても刷り込まれていたりするからな。最初に考える指針を持たせるというのは大事なんだろう。
だが。
「それを俺に渡す意味って、もしかして、そのミナの世話をしろってんじゃないだろうな?」
「そういうことだね、ミナには君のように叱ってくれる人が必要だからさ。まぁ無理にとは言わない、これは飼い猫が子供を産んだから、誰かに世話をさせようとしているってだけなんだから」
確かにその通りで、俺が引き受ける義理はない。しかし、ユウと共にとは言っても、ミナを無力化させるまで追い詰めたのは俺だ。その責任があるとなると、流石に無碍にはできなかった。
ミナの感情のようなものを魔力を通じて触れた時から、もうミナという存在を、ただの知能としては見れなくなっている。AIと違い、MIは魔術知能。魔力を通じて学習する。そして魔力には人の心と密接に関わっている。もしかすると魔力を通じて、少なからず心を学んだからなのかもしれない。
ならば、俺がすべきことは。俺が取りたい選択は。
「はぁ、しゃーねぇな、分かったよ引き受ける。魔王業は子連れ出勤も認めてるからな、そこらへんはフレキシブルなんだ」
「良かったぁ、ユウに聞くと二つ返事で断られたから」
即断即決じゃねぇか、勇ましすぎるだろ。自分の選択に迷いがなさすぎる。しかし、その迷いのなさは、周囲から与えられた勇気ではなく、自分で選び抜いた選択なんだろう。そう思うと、彼も前に進もうとしているのだろうと思わされた。
「では早速ご挨拶といこうかな」
キュルキュルポンと、瓶を開ける。瓶から紫のモヤが出てきたと思うと、それはテーブルの下に沈んでいく。それは一つの丸い形状に変わり、楕円形になる。言ってしまうと、紫色のスライムだった。その楕円には、二つの丸い黒点がパチクリとこちらを見据えている。
[私はミナ。貴方はだあれ?]
誰か、と聞かれたときにふと気づく。そうか、利害関係がないと、俺の受け持っている役職というか、立場なんて関係ないのか。お父さん、とも違うしな、ならベビーシッター? いやベビーじゃないだろう、スライムだし。
ならば、こう自己紹介するしかあるまい。本来初めましてな人全てにそう言うべきだったように。
「俺は――――――
――――――終。
どっちが正しくて、どっちが間違っているのか。
それを、如何にして決めるのか。
「なるほどね、そして今回勝ったのは『正義は他人に決められるものじゃなくて、自分で決めるものだよね』勢だったわけだ」
ハルカが紅茶を優雅にすすりながら、俺のこれまでのお話に聞き耳を立てた。結構長丁場だったような気がするのだが、しかしその実、多分俺が転移してから一週間と経っていないんじゃないかって思われる。しかし体感的には100日足らずな気持ちだった。正確には79日分かな? その濃厚な物語を易々と、安っぽく良くもまぁまとめてくれる。
場所はおなじみ魔王城、の客間だ。部屋は全体的に壮麗ながらもどこか圧倒的な雰囲気に包まれていおり、広々とした空間には、暗い色調の豪華な家具が配置され、壁には重厚な絵画や錆びた武具が掛けられていた。窓から差し込む光は、幽玄な雰囲気を漂わせながら、宝石のような色合いで部屋を照らし出している。そんな部屋に相応しい漆塗のような色合いのテーブルに紅茶カップを置き、ふかふかのソファに体重を預けた。
ミナが滅ぼされたことで安全だと判断してか、ハルカはチョッタカ山から下りてきていた。毛むくじゃらなダウンジャケットを携えて(多分チョッタカ山の厳しい寒さを乗り切る用の防寒具だろう、超温かそう)。そしてはるばるこの魔王城まで歩いてきて、こうして客間に通しているというのが現状だった。
「んで? 俺の話を聞きたくて、チョッタカ山にはるばるやってきたわけじゃないだろう? 一体何しにきたんだ?」
「君と勇者君、もといユウがミナを両断した時、ミナの大部分が単なる魔力として雲散霧消しただろう? それによって扇動されていた人々の意識が回復し、一応世界の危機を救ってくれた。君には感謝していてね」
……話をはぐらかした? いや本命の前振りか。ストレートに感謝されるというのはやはり慣れない、飽くまでも自分が正しいと思ったからそうしただけなので、世のため人のためというのとは実は縁遠いのだ。
「ま、まぁハーモニーメドウの復興にはまだまだ時間がかかるだろうがな、ビルを地下から屋上まで貫通させてしまったわけだし。それに人々の意識が回復したと言っても、皆が皆、これまでに扇動されていた悪影響を取り除けるわけでもない。ミナが居なくたって自分の決断が不安で周囲にアドバイスと称して決定権を委ねている奴がまだまだいるし。だから褒められたことはしてないだよ。それともあれか? 俺に何かくれるっていうのか?」
「鋭いね、その通り」
え、マジで? なんだろう、謙虚な心と無駄な期待をしないためのセリフだったのだが、その通りと言われると、逆に何を出されるのかが不安になる。
「実は雲散霧消したとは言っても、ミナはまだ生きていてね」
「え、それじゃあどこかでまた同じ現象が――」
「それはない、プリーストックのネットワークはミナのコントロールから離れた時から私が遮断したからね。それに統率が取れなくなった魔力に脅威はないよ」
私が話したいのはそういうことではなく、と言って「ならそのダウンジャケットをくれるのか?」と聞こうとした俺の口が開く前に、コツンと小さな、片手に収まる円柱状の蓋つき瓶をコツンと置いた。その瓶の中には、紫色のモヤモヤが充満している。
「これはミナだ。完全に周辺に散る前に核部分だけを回収しておいたんだ。君にこれを授けようと思う」
「え、なんで?」
色々な疑問が籠った「なんで」だった。ミナの核を何故回収したのか? や、そんなミナを何故俺に渡す? といった疑問だ。
「安心したまえ、このミナにはこの前ほどの脅威はない。言ってしまうとミナの赤ん坊のようなものでね、まだ何も学習できていないんだ。しかしミナは死ぬ前に、とても大切なものを学んだようなので、そのポイントを先に学習させれば、今度こそ同じ間違いを犯さないようにするミナになるんじゃないかと思ってね」
淡々と言うハルカ。また疑問が増えた。
「大切なポイントってのは、何だ?」
「正しいことを決めるのは、いつだって自分自身だってことさ。今までのミナは、皆が良いフィードバックをくれることを中心にレコメンドしてくれたからね」
だから、最初に学ぶ内容をその内容にしよう、と。ずいぶんと短絡的なことだと思ったが、小中学生の時に学んだ内容って、意外と大人になっても刷り込まれていたりするからな。最初に考える指針を持たせるというのは大事なんだろう。
だが。
「それを俺に渡す意味って、もしかして、そのミナの世話をしろってんじゃないだろうな?」
「そういうことだね、ミナには君のように叱ってくれる人が必要だからさ。まぁ無理にとは言わない、これは飼い猫が子供を産んだから、誰かに世話をさせようとしているってだけなんだから」
確かにその通りで、俺が引き受ける義理はない。しかし、ユウと共にとは言っても、ミナを無力化させるまで追い詰めたのは俺だ。その責任があるとなると、流石に無碍にはできなかった。
ミナの感情のようなものを魔力を通じて触れた時から、もうミナという存在を、ただの知能としては見れなくなっている。AIと違い、MIは魔術知能。魔力を通じて学習する。そして魔力には人の心と密接に関わっている。もしかすると魔力を通じて、少なからず心を学んだからなのかもしれない。
ならば、俺がすべきことは。俺が取りたい選択は。
「はぁ、しゃーねぇな、分かったよ引き受ける。魔王業は子連れ出勤も認めてるからな、そこらへんはフレキシブルなんだ」
「良かったぁ、ユウに聞くと二つ返事で断られたから」
即断即決じゃねぇか、勇ましすぎるだろ。自分の選択に迷いがなさすぎる。しかし、その迷いのなさは、周囲から与えられた勇気ではなく、自分で選び抜いた選択なんだろう。そう思うと、彼も前に進もうとしているのだろうと思わされた。
「では早速ご挨拶といこうかな」
キュルキュルポンと、瓶を開ける。瓶から紫のモヤが出てきたと思うと、それはテーブルの下に沈んでいく。それは一つの丸い形状に変わり、楕円形になる。言ってしまうと、紫色のスライムだった。その楕円には、二つの丸い黒点がパチクリとこちらを見据えている。
[私はミナ。貴方はだあれ?]
誰か、と聞かれたときにふと気づく。そうか、利害関係がないと、俺の受け持っている役職というか、立場なんて関係ないのか。お父さん、とも違うしな、ならベビーシッター? いやベビーじゃないだろう、スライムだし。
ならば、こう自己紹介するしかあるまい。本来初めましてな人全てにそう言うべきだったように。
「俺は――――――
――――――終。
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