与えられた欠陥で、俺は神に復讐する

こへへい

文字の大きさ
31 / 40

違和感

しおりを挟む
 今思い返してみても、この世界は異世界にしては違和感が多数覚えられた。

 まず、ギルドと呼ばれている建物。B級映画で見たことがあるような、西部劇のセットでよくある酒場といった雰囲気だった。人がお酒を交わし、食を嗜み、がたいの大きいオカマに愚痴を聞いてもらう。そんな風景が伺える。

 にも関わらず、その店の裏にはギルドというシステムがあり、仕事を受けたりできるらしい(まだしたことないんだが)。この「酒場」×「ギルド」という組み合わせは、俺も見たことがある。西部劇?いや違う。これはまさしく異世界転生した主人公が行き着きそうなシチュエーションだ。

 だが、それがおかしい。何故異世界に転移なり転生なりした場所に、前情報と同じような街並みがある?それ以外の可能性の方が大きいはずだ。だが、ラノベやアニメでの予習通りの雰囲気だった。



 そして、そのギルドを経営している大柄なオカマことメイちゃんから、この国ディネクスの通貨を受け取った。なんでも、その少し前に偶然討伐した爆発するスライムっぽいモンスター「バクメーア」の討伐報酬ということだ。

 その通貨は、紙幣で、そして国王の顔が印刷されていた。
 流石に眉をひそめた。まさか異世界でも、人の顔が印刷されている紙幣を利用しているの?と。まぁ日本に限らず外国の紙幣も顔付いてるし、そんなもんかと割りきっていた。

 だが、紙幣など、技術が発達していなければ偽造され放題だ。さらに魔力という概念が存在する以上、偽造されない方法を確立する方が難しいだろう。だが紙幣という通貨制度が採用されている。



 そしてそのお金とメイちゃんがくれた福引券を携えて町に出た。ま、どうせ福引券を引いたところでろくなのだ出ないだろうが(俺の場合は運が絶望的なので特に)、あるだけましだという思いでその福引券を受け取った。

 福引きの場所に足を運ぶと、福引きのアタリ表がラインナップされていた。その福引の残念賞は綺麗な小石だとか。前世界での福引き残念賞は、ティッシュなりボールペンなり使える物を貰えるのに。これならこの回る八角形から出てくる白い玉の方が価値あるぜ。なんて思っていた。

 何で福引きが八角形を回す形式の福引きなんだ?福引きだけなら細い紙を引くだけでも成り立つだろう。魔力があるなら悪用されかねない。なのに何故前世界と同じような運ゲー手法を採用している?しかも「綺麗な小石」って、何で俺はその文字を読むことができた?日本語だったからなんだよ。



 思い返せばおかしなことばかりだ。そもそも異世界が自分の知るモノばかりだということがおかしいのだ。異世界だぞ!?宇宙よりも未知だ。何も分からない。同じなわけがないんだ。

 だってそれに、この国にくる転移者は失踪するのだから。
 ここでメイちゃんから聞いたことを思い出した。だから、この国で転移者が知識を提供して繁栄したとはならない。なら何故こんなにも前世界と似ているのか。

 何故作り置きの食材でカツ丼を作ることができてしまうのか。


「どれも...これも...全部...!『記憶を奪った』からだったのか...」


 記憶とはその人の人生だ、その人が培った時間の結晶であり、その人そのもの。それが「記憶を奪った」。その一言で、全て掠め取られてしまったなんて...。
 飄々と空っぽの丼を差し出したカナメに、俺は怒りお覚えた。

「ねぇ、これもう一杯ほしいんだけど?」

「ふざけるなよ!...って、おい、記憶を奪ったなら、その後はどうなるんだ!?」

 あっけらかんとするカナメに食らいつく最中、もっと大事なことが頭に過った。脱け殻になってしまった今までの転移者は一体どうなったのだ!?

「大丈夫大丈夫!ちゃんと生きてるよ!ってかちゃんとこの国で雇い入れてるからさ!」

「何が、ちゃんと、だよ...」

 私利私欲で記憶を奪っておいて。

「そうか、分かった。この国は転移者の記憶を奪っていたと。なるほど、そういうことか」

 ケモノがゆっくりと立ち上がった。顎をさすり何か考え事をしながら立ち上がった。

「おい、何処に...」

「僕の目的は飽くまでもその情報だ。それが聞けた以上もうここに用はないんだよね」

 そういうと、ゆっくりと窓ガラスを開ける。窓が開かれるに連れ、空気を引き裂く音が大きくなる。この音、聞き覚えがあった。
 窓の上から、急に巨大な首が現れた!この口から燃え盛る炎を吐き出しそうな顔、間違いない、この生き物はワイバーン!
 ケモノがワイバーンの顎をさすると、優しく頬を当てた。

「来てくれてありがとうイバン...ん?あぁ、そうか」

 ケモノが俺の方に向く。その表情にはわずかな笑みがあった。

「お前が遅れたのは、あいつの仕業だったんだわけだ、へぇ、」

 手慣れた所作でワイバーンの顔を伝って背中によじ登る。

「じゃあな」

「待て待て!ドライ過ぎるだろ!少しだけど色々と一緒にー」

「僕と君達とでは相容れないんだ。言っただろう、人は何処までも劣等種なんだ、だから僕は人が嫌いなんだ、だけど、」

 少しだけ躊躇いがちに、顔に影を作った。そして、呟くように

「早めにこの国を発つことをすすめるよ」

「ーーーー!!ーーー!」

 呼び止めようとしたが、声が風に押されて全く伝わらなかった。
 巨大なワイバーンは、窓の上にすうっと消えていった。それにつれ徐々に音が小さくなっていく。

「んあ、あれ?ケモノ君は?」

「...よく眠れたな、催眠魔法効きすぎちゃったか?
 帰ったよ、一番帰りたがってたからな」
  
 トウカが目覚めた。恐ろしく風の音が窓を叩いていたからとっくに起きても良いと思ったんだが、相当深い眠りについていたらしい。

「いやぁ、逃げちゃったか、」

「逃げたというか、帰ったと言うか...って今度は誰!?」

 振り向くと、食堂の入り口に一人、お兄さんが立っていた。白地に「焼売の玉将」のロゴがプリントされたTシャツを着ている彼は、ゆっくりとカナメに近づき、頭を撫でた。カナメは気持ちよさそうに受け入れている。

「カナメ、無事だったか、良かったよ」

「あ...王ちゃまぁ!」

「王ちゃま!?」

「やぁ、王だよ」

 服や言葉遣いはふざけているものの、内からは荘厳なるオーラを放っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...