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Episode of Dinex
魔法訓練:基礎編
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翌朝、俺はカレンと原っぱに行く予定を立てていた。ディネクスから出てしばらくしたところにあるそこは危険もなく安全。初心者が特訓するのには、まずここを通ることが定石であると言われている。
そこに至るまでの間、カレンは俺に大きな黒い板と何かしら入った袋を運ばせていた。手を後ろにやって、板を背負うように運んでいる。カレンの方はと言うと、凹みのある棒を二本ほどを、軽々と抱えていた。何だよこれ、新手の修行ですか?次は亀の甲羅背負わせて「亀」と書いた石を拾わせる気ですか?古いわ!
「なぁ、これ魔法で浮かしたりできないのか?」
露骨に嫌な顔をして言うと、
「魔法でそんなのできるわけないでしょ?何その『浮かす』って、超常現象?ちょっと意味分かんないんだけど」
「この世界の住人には言われたくねぇ!...ん?」
と文句を吐き捨てるが、そこである考えが浮かんだ。
「ってことは、魔法ってのはそういうことはできないのか?モノを浮かしたり、炎をだしたり、ある場所からある場所にワープしたりとか」
手を後ろにして、カレンは歩きながら後ろのこちらに振り向いた。
「原理的にはできなくはないけど、それを今から説明するんでしょ?」
指を立ててウインクする。所作がいちいち可愛いなこいつ、わかっててやってるだろ。
そんなやり取りを終えて、先ほど言っていた原っぱにたどり着いた。
カレンは地面か土をモリモリと発生させ(どういう原理だよ!?)、自身が運んだ棒を深く突き刺す。そして棒の先端にある凹みに、運ばせた黒い板をぐぐぐっと深く突き刺した。なるほど、この板は黒板だったのか。
カレンは袋から白い棒、すなわちチョークをとりだして、更に眼鏡をかけて魔法について説明を始める。何か塾とか学校を思わせた。俺も学ぶ姿勢にならなければと思ってしまう。
カツカツとチョークで黒板に絵を描いていく。五角形だった。その角には炎やしずくの絵が描いてある。
「魔法ってのはそもそも、周囲に漂うクリエイトエナジーっていうエネルギーを変換するのね。で、その変換先となる属性は5属性あるの。炎、水、雷、大地、風の5属性。それらを組み合わせて魔法を構築していくの」
だからさっきのモノを浮かすというのをしようとしたら、風魔法で持ち上げるしかないわね。と付け加えた。
なるほど、つまりカレンが今黒板を突き立てるために用意したこの土は、大地属性の魔法だということか。で、他にも属性があると。
長ったらしい座学を想像していたのだが、すぐにチョークを袋にしまうと、カレンは俺に指さして言った。
「サツキには、この魔法を全て覚えてもらいます」
───────────────────────
こうして魔法の修行が始まった。その時に、カレンは俺に魔法の杖を渡した。
杖って必要なのか?そういえばカレンも、俺を誘拐しようとしていた連中のに雇われていたクロウ(もとい野良魔法使い)も、杖を使っていたように思う。
「魔法ってのはなんで杖を使うんだ?自分の手や足から出せないのか?」
「出せるわよ?やってみたら?」
ケロッと、カレンは言ってのける。ならマジで杖いらないじゃん。雰囲気を出すためにってことか?そんな雰囲気なんてどうでもいいので、俺は杖を左手に持ち替えて、右手のまま炎をイメージする。
シュボッ!真っ赤な炎が聖火の如く燃え盛る。俺の手を媒介にして。
「ぬぅあっつぅぅぅ!!」
手が燃えた!いやそうイメージしたけども!自業自得って言われたら文句のつけようがないけれど!俺の手も巻き添えで普通に燃えるのかよ!
「流水!」
カレンは自分の杖を俺に向ける。すると一瞬で右手ごとびしょ濡れにした。いつかの森火事の鎮火を思い出す。
ピンと人差し指を立てて、カレンが言う。
「とまぁこのように、魔法は基本的に手から出そうとすると自分を傷つける恐れがあるので、杖などを使って直接触れないようにします」
「こうなるなら言えよ!このまま丸焦げになるかと思ったわ!」
「いやぁ、手間を省けると思って」
カレンは俺の怒りをかわいい顔の「てへ!」で誤魔化す。こいつ、だんだん腹立ってきたぞ。それにまだやけどがかなり痛い。
「いや手間を省くってのは本当よ、これで炎属性と水属性を体感できたと思うわ。そしてその怪我を直すためには、この魔法がとても大事になるの」
カレンは俺の焼けて皮膚が赤黒くなった手に杖を突き立て、言った。
「ヒール!」
一瞬で辺り一面に、自然の雄大なイメージが広がる。そしてとても良い花の香り、とてもリラックスする。気持ちいい。まるで草のベッドで寝ている気分だ。そして右手にその気持ちの良いイメージが集中されていくのを感じる。
「深呼吸して、そしてこの空間に精神を預けるの」
そういわれる頃には、俺は既にそうなっていた。そして、
「はい、おしまい」
そういうと、カレンは俺の右手を叩く。
「いっ...たくない。あれ?」
右手が元の状態に戻っていた。怪我なんてなかったような。
「これが治癒魔法のヒール。周囲にリラクゼーション空間を作り出して、そのイメージから痛みのイメージを引っぺがすことで、自分の身体の怪我を直すことができるの」
すごい。これは一番いいかもしれない。何が良いって、めっちゃ気持ちいいんだよ。好奇心でマッサージに行ったことがあるけれど、あれだ。あれなのだ。もうここで眠りたい。
だが、とカレンは続ける。
「逆にリラクゼーションではない、怪我状態を維持し続け過ぎると、その悪いイメージが定着して怪我の治りが遅くなるから注意ね。悪いイメージがエスカレートして自分の肉体に更にダメージを与えることもあるから」
なるほど。それは気を付けないといけないな。
それから俺は、一日中ぶっ通しで5つの属性を練習をすることになった。杖の先から炎を出したり、水を出したり、土を出したり、電気を発生させたり、風を起こしたり。それはもう大変だった。
何が大変って、炎を出すときは、杖にできるだけ触れないように、出すベクトルに気を付けなければならなかった。少しずれると、炎が杖先に触れて杖が燃えてしまうのだ。その度に水属性魔法で消火していた。
ならば水で杖をコーティングしつつ炎を出せば良いのでは?と考えたのだけれど、炎の噴出口はとても熱い。コーティングした水なんて一瞬で蒸発させて燃焼を始めてしまうのだ。かなりのコントロールが必要である。
逆に水、大地、風は触れることができるため、扱いやすい。実際魔法使いの中で炎属性を得意とする人は少なく、水、大地、風属性を得意とする者が多いのだとか。
雷は一番難しいらしい。何故かというと、イメージするための実物を見る機会が一番少ないのが電気だからである。雷を観測し続けることで、そのイメージを自分に定着させなければいけないからなのだとか。
そして、魔法は組み合わせることで真価を発揮する。
「あの小憎たらしい黒ローブがやってたロックショットって魔法あるでしょ?あれって複合魔法の基礎なのよ。大地属性で生成した岩を風属性で発射するの。やってみて」
カレンが大地属性で用意してくれた、円盤状の石の的に、俺は説明されたような手順で、岩を生成して発射した。
「ロックショット!」
岩は的の横を飛んでいった。的に当たるビジョンが全く浮かばない。
「ま、最初に岩を風に乗せるだけでも上出来よ、こういうのは練習が大事なの。練習を重ねれば、そのイメージは意識に根付いてくるから」
ありがたいアドバイスを頂戴したところ大変恐縮ながら、俺はこの方法に納得していなかった。
「んー、要は岩をまっすぐ飛ばすんだろ?」
「そうね、でも別に今上手くいかなくても次頑張れば──」
「いや、そうじゃないんだ、回数を重ねて練習するんじゃなく」
そう、岩をまっすぐ飛ばす魔法。これを初めに説明されたとき、これは本当に魔法なのか?と思った。そしてそれは、特段魔法である必要はない。ものをまっすぐに飛ばすだけならば、それはもう大砲じゃないか。ならば大砲を作ればいい。
カレンに見せたのは、大地属性で作り上げた石の筒と、その中に生成した岩の塊。杖ではコントロールが難しいので、筒をもう片方の手で支えて、的に向ける。
「ロックショット!」
生成した強烈な風属性は、外に力が逃げることなく、まっすぐに岩へと伝わり、筒が向いている的の方へ、岩を押し放った!
バゴン!鈍い音が響き、今度は円盤の的を撃ち砕いた。
カレンは「おおー!」と感嘆の声をあげる。
「その発想はなかったなー!流石は転移者ね!応用が上手いわ!」
「あはは、ありがとう」
そう素直に誉められると、めちゃ嬉しいな!何だこれ!承認欲求ってやつか!?やつか!?満たされるわ!
今まで褒められたことがなかったので、自分が誉められて伸びる子だと気づくことができた。と新発見に心躍らせていると、日がだんだん傾いていることに気がついた。二人の影がぐぐぐーっと長く伸びている。
「そろそろ帰りますか、まさかロックショットをあんな風に出すなんてね、明日はもっと応用編を教えても良いかもしれないわ」
カレンの言葉に俺は息をのむ。正直モチベーションが爆上がりだった。少し上手くいくと、もっとやりたくなる。人間は実はそうやって前に進んで成長するのかもしれないと思った。
そこに至るまでの間、カレンは俺に大きな黒い板と何かしら入った袋を運ばせていた。手を後ろにやって、板を背負うように運んでいる。カレンの方はと言うと、凹みのある棒を二本ほどを、軽々と抱えていた。何だよこれ、新手の修行ですか?次は亀の甲羅背負わせて「亀」と書いた石を拾わせる気ですか?古いわ!
「なぁ、これ魔法で浮かしたりできないのか?」
露骨に嫌な顔をして言うと、
「魔法でそんなのできるわけないでしょ?何その『浮かす』って、超常現象?ちょっと意味分かんないんだけど」
「この世界の住人には言われたくねぇ!...ん?」
と文句を吐き捨てるが、そこである考えが浮かんだ。
「ってことは、魔法ってのはそういうことはできないのか?モノを浮かしたり、炎をだしたり、ある場所からある場所にワープしたりとか」
手を後ろにして、カレンは歩きながら後ろのこちらに振り向いた。
「原理的にはできなくはないけど、それを今から説明するんでしょ?」
指を立ててウインクする。所作がいちいち可愛いなこいつ、わかっててやってるだろ。
そんなやり取りを終えて、先ほど言っていた原っぱにたどり着いた。
カレンは地面か土をモリモリと発生させ(どういう原理だよ!?)、自身が運んだ棒を深く突き刺す。そして棒の先端にある凹みに、運ばせた黒い板をぐぐぐっと深く突き刺した。なるほど、この板は黒板だったのか。
カレンは袋から白い棒、すなわちチョークをとりだして、更に眼鏡をかけて魔法について説明を始める。何か塾とか学校を思わせた。俺も学ぶ姿勢にならなければと思ってしまう。
カツカツとチョークで黒板に絵を描いていく。五角形だった。その角には炎やしずくの絵が描いてある。
「魔法ってのはそもそも、周囲に漂うクリエイトエナジーっていうエネルギーを変換するのね。で、その変換先となる属性は5属性あるの。炎、水、雷、大地、風の5属性。それらを組み合わせて魔法を構築していくの」
だからさっきのモノを浮かすというのをしようとしたら、風魔法で持ち上げるしかないわね。と付け加えた。
なるほど、つまりカレンが今黒板を突き立てるために用意したこの土は、大地属性の魔法だということか。で、他にも属性があると。
長ったらしい座学を想像していたのだが、すぐにチョークを袋にしまうと、カレンは俺に指さして言った。
「サツキには、この魔法を全て覚えてもらいます」
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こうして魔法の修行が始まった。その時に、カレンは俺に魔法の杖を渡した。
杖って必要なのか?そういえばカレンも、俺を誘拐しようとしていた連中のに雇われていたクロウ(もとい野良魔法使い)も、杖を使っていたように思う。
「魔法ってのはなんで杖を使うんだ?自分の手や足から出せないのか?」
「出せるわよ?やってみたら?」
ケロッと、カレンは言ってのける。ならマジで杖いらないじゃん。雰囲気を出すためにってことか?そんな雰囲気なんてどうでもいいので、俺は杖を左手に持ち替えて、右手のまま炎をイメージする。
シュボッ!真っ赤な炎が聖火の如く燃え盛る。俺の手を媒介にして。
「ぬぅあっつぅぅぅ!!」
手が燃えた!いやそうイメージしたけども!自業自得って言われたら文句のつけようがないけれど!俺の手も巻き添えで普通に燃えるのかよ!
「流水!」
カレンは自分の杖を俺に向ける。すると一瞬で右手ごとびしょ濡れにした。いつかの森火事の鎮火を思い出す。
ピンと人差し指を立てて、カレンが言う。
「とまぁこのように、魔法は基本的に手から出そうとすると自分を傷つける恐れがあるので、杖などを使って直接触れないようにします」
「こうなるなら言えよ!このまま丸焦げになるかと思ったわ!」
「いやぁ、手間を省けると思って」
カレンは俺の怒りをかわいい顔の「てへ!」で誤魔化す。こいつ、だんだん腹立ってきたぞ。それにまだやけどがかなり痛い。
「いや手間を省くってのは本当よ、これで炎属性と水属性を体感できたと思うわ。そしてその怪我を直すためには、この魔法がとても大事になるの」
カレンは俺の焼けて皮膚が赤黒くなった手に杖を突き立て、言った。
「ヒール!」
一瞬で辺り一面に、自然の雄大なイメージが広がる。そしてとても良い花の香り、とてもリラックスする。気持ちいい。まるで草のベッドで寝ている気分だ。そして右手にその気持ちの良いイメージが集中されていくのを感じる。
「深呼吸して、そしてこの空間に精神を預けるの」
そういわれる頃には、俺は既にそうなっていた。そして、
「はい、おしまい」
そういうと、カレンは俺の右手を叩く。
「いっ...たくない。あれ?」
右手が元の状態に戻っていた。怪我なんてなかったような。
「これが治癒魔法のヒール。周囲にリラクゼーション空間を作り出して、そのイメージから痛みのイメージを引っぺがすことで、自分の身体の怪我を直すことができるの」
すごい。これは一番いいかもしれない。何が良いって、めっちゃ気持ちいいんだよ。好奇心でマッサージに行ったことがあるけれど、あれだ。あれなのだ。もうここで眠りたい。
だが、とカレンは続ける。
「逆にリラクゼーションではない、怪我状態を維持し続け過ぎると、その悪いイメージが定着して怪我の治りが遅くなるから注意ね。悪いイメージがエスカレートして自分の肉体に更にダメージを与えることもあるから」
なるほど。それは気を付けないといけないな。
それから俺は、一日中ぶっ通しで5つの属性を練習をすることになった。杖の先から炎を出したり、水を出したり、土を出したり、電気を発生させたり、風を起こしたり。それはもう大変だった。
何が大変って、炎を出すときは、杖にできるだけ触れないように、出すベクトルに気を付けなければならなかった。少しずれると、炎が杖先に触れて杖が燃えてしまうのだ。その度に水属性魔法で消火していた。
ならば水で杖をコーティングしつつ炎を出せば良いのでは?と考えたのだけれど、炎の噴出口はとても熱い。コーティングした水なんて一瞬で蒸発させて燃焼を始めてしまうのだ。かなりのコントロールが必要である。
逆に水、大地、風は触れることができるため、扱いやすい。実際魔法使いの中で炎属性を得意とする人は少なく、水、大地、風属性を得意とする者が多いのだとか。
雷は一番難しいらしい。何故かというと、イメージするための実物を見る機会が一番少ないのが電気だからである。雷を観測し続けることで、そのイメージを自分に定着させなければいけないからなのだとか。
そして、魔法は組み合わせることで真価を発揮する。
「あの小憎たらしい黒ローブがやってたロックショットって魔法あるでしょ?あれって複合魔法の基礎なのよ。大地属性で生成した岩を風属性で発射するの。やってみて」
カレンが大地属性で用意してくれた、円盤状の石の的に、俺は説明されたような手順で、岩を生成して発射した。
「ロックショット!」
岩は的の横を飛んでいった。的に当たるビジョンが全く浮かばない。
「ま、最初に岩を風に乗せるだけでも上出来よ、こういうのは練習が大事なの。練習を重ねれば、そのイメージは意識に根付いてくるから」
ありがたいアドバイスを頂戴したところ大変恐縮ながら、俺はこの方法に納得していなかった。
「んー、要は岩をまっすぐ飛ばすんだろ?」
「そうね、でも別に今上手くいかなくても次頑張れば──」
「いや、そうじゃないんだ、回数を重ねて練習するんじゃなく」
そう、岩をまっすぐ飛ばす魔法。これを初めに説明されたとき、これは本当に魔法なのか?と思った。そしてそれは、特段魔法である必要はない。ものをまっすぐに飛ばすだけならば、それはもう大砲じゃないか。ならば大砲を作ればいい。
カレンに見せたのは、大地属性で作り上げた石の筒と、その中に生成した岩の塊。杖ではコントロールが難しいので、筒をもう片方の手で支えて、的に向ける。
「ロックショット!」
生成した強烈な風属性は、外に力が逃げることなく、まっすぐに岩へと伝わり、筒が向いている的の方へ、岩を押し放った!
バゴン!鈍い音が響き、今度は円盤の的を撃ち砕いた。
カレンは「おおー!」と感嘆の声をあげる。
「その発想はなかったなー!流石は転移者ね!応用が上手いわ!」
「あはは、ありがとう」
そう素直に誉められると、めちゃ嬉しいな!何だこれ!承認欲求ってやつか!?やつか!?満たされるわ!
今まで褒められたことがなかったので、自分が誉められて伸びる子だと気づくことができた。と新発見に心躍らせていると、日がだんだん傾いていることに気がついた。二人の影がぐぐぐーっと長く伸びている。
「そろそろ帰りますか、まさかロックショットをあんな風に出すなんてね、明日はもっと応用編を教えても良いかもしれないわ」
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